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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

第三者の主張適格!(2)

2011-12-15 17:20:31 | 憲法学 憲法判断の方法
翌日の14時。やはり、我々は学食にいた。
時は3限。

学生は講義にいそしみ、事務方は休憩後の仕事にエンジンをかけ、
講義担当者はクライマックスな中、
講義のない我々は、ぼけーっと学食である。

今日の私のメニューは、さんま塩焼き定食。
ツツミ先生は、大根おろしと大葉の和風ハンバーグ
+サラダバー(果物を含め、盛り放題)である。

ツ「ずいぶんとまあ、コメントがきたな。ありがたいかぎりだ。」

私「まったくだ。さっそく処理していこう。」

 ツツミ先生は、もりすぎもいいところのサラダからワカメを発掘した。
 ごまドレッシングで食べるようである。

私「まず、第一論点だな。

 <その1>規制されてもやむを得ない行為をした奴が、
 法文の過度広範性ゆえに無効を主張し、
 法文違憲よって無罪という主張をできるか?」


ツ「これはしがない大学生さんの言うとおりだね。
  過度広範ってのは、結局、
  規制すると違憲な部分と
  規制しても合憲な部分が不可分に結びついた結果、
  後者も違憲になるってことだから、これは、
  第三者の権利を主張できるかどうかにかかわらず、可が正解ってことだろ。」

私「まさしく、これまでも記事にしてきたところだね。
  ややこしいのは、次の<その2>だね。」

 ツツミ先生は、ここまでで、サラダの10%を制覇した。先は長い。
 そして、私は、さんまの骨を外す。


<その2>
 国に対し、(自分ではなく)第三者に対するある種の取り扱い
 を要求できる憲法上の権利があるか?


ツ「うーむむ。これは、私人間効力の事例か?って言っている人がいるね。
  よしのさんとララオさんがそういっとる。」

私「ちょっと説問の設定の仕方が悪かったな。
  この論点はさ、Aが<Bさんに……してあげてくれ>って請求できる
  権利があるか?っていう問題でさ。
  私人間効力ってのは、Aが<Bさんによる権利侵害から守ってくれ>って
  そういう問題だろ。」

ツ「そうか。確かに違う。
  うーん、親Aが子供Bに十分な教育を施してくれ、って請求する権利なんかは
  ある気がするな。
  子供Bの生存権を親Aが主張するってこともできないとダメだろう。」

私「うん。ある気がするな。で、親ってのは、子供の代理人だと言えるから、
  親が子供Bの憲法上の権利を代理行使できる、って考える方法(代理行使説)と、
  親A自身の子供を生存させ教育を受けさせる権利って考える方法(第三者のための本人の権利説)の
  二つがあるだろうな。
  ただ、個人的には、代理行使説が素直な気がするな。親、もう少し言うと
  親権者・監護権者には、民事上のみならず、公法上の法定代理権もあるってことにすべきだ。」

ツ「そうか。じゃあ、国民の知る権利とマスメディアの報道の自由の関係だと、どうだろう?」

私「うーん、メディアは国民の代理人だっていうのは、
  メディア倫理としてはともかく、法的議論では一般的じゃないだろうね。
  だから、その分野では、メディア自身の権利説が通説で、
  国民の知る権利への奉仕は、保障の根拠ってことになろうね。」

 私は、さんまの骨を片づけながら、今年の司法試験の問題を思い出した。
 出題趣旨先生は、あの問題で「なに、第三者の権利なんか主張しとんじゃ。ボケ。」と言っていて
 あまりの口の悪さに、多くの受験生が傷ついたわけだが、言っていること自体はもっともである。
 メディアが、国民の知る権利を代理主張することは、多分できない。

ツ「じゃあ、第三者所有物没収のケースはどうなの?」

私「ああ、あれね。あれも難しいけど、つぎのような感じだね。
  まず、Aさんが乗ってたB所有の船を没収したとするね。
  で、仮に、この没収を、AさんにもBさんにも、手続保障なしにやったとする。
  この場合、Aさんの適正手続への権利の侵害があったことになるかな?」

ツ「うーん。第三者の所有物だからな。Aさんとの関係では権利侵害にならないんじゃない。」

私「そりゃ河童の川流れだな。Aさんはその船に何の権利ももっていないか?」

 もちろんツツミ先生は、河童ではなく、民法学者である。

ツ「ばか言うな。占有権をもって……あ、そうか。」

私「そういうことだよ。全く手続保障のない第三者所有物の没収は、
  Aさん自身の占有権侵害になるから、Aさんは、適正手続を要求できる。」

ツ「そうかそうか。そうなると、問題は、『適正手続』の内容だな。」

私「その通り。論点は、この場合、
  Aさんにのみ告知聴聞弁明防御の手続を与え、
  Bさんには与えない、って処理をしたときに、
  Aに対し『適正手続』をしたってことになるか?という論点だ。」

ツ「うむむむ。所有者Bさんの権利侵害があるのは明らかだが、
  Aさんとの関係ではどうだ。判例はなんていっているの?」

 話の盛り上がりと反比例するように、ツツミ先生のサラダはモリモリ減っていく。
 いよいよデザートのグレープフルーツだ。

私「なんと、Aさんとの関係でも違憲だといっている。
  判例は、Bさんに手続保障なしに没収した場合、
  Aは、Bから損害賠償等が請求されうる地位に立たされる。
  そういう立場に立たされないようにするためには、
  Aに<Bに対しても手続保障しろ>っていう権利が与えられるべきだし、
  所有者Bへの手続保障なしの没収は、
  Aに対して『適正手続』をしたことにならない、っていっているね。」

ツ「そうだったのか。じゃあ、あの判例は、
  第三者の権利侵害ゆえに、当人との関係でも違法っていった判例じゃない、と。」

私「そういうことだね。あの判例は第三者の権利を行使することを認めた判例じゃなくて、
  <第三者Bにも手続保障をしろ>と請求するAの権利が、
  憲法31条により保障される権利の中に含まれるっていった判例なんだな。」
  
ツ「ということで、<その2>は、そういう権利の例があるからイエスってことになるのか。
  平等権の例を挙げた人が多かったけど。」

私「平等権ってのは、あいつと比べて、俺を不利に扱うなっていう権利で、
  あの方にも私と同じ取扱をしてあげてくださいませ、っていう権利ではないから、
  ちょっと違うだろうね。」

<その3>
 規制されてもやむを得ない行為をした奴Aがいて、
 かつ、
 その規制が第三者Bの憲法上の権利を侵害するものである場合、
 Aとの関係でもその規制は違憲になるのか?


ツ「昨日、これはノーだって確認したよね。ここは、よしのさんも
  平民Aさんも、ララオさんも、まあ素直に納得しているところだ。」

私「ほいほい。それでだね、今見たように、過度広範とか第三者所有物没収とかは、
  実体法上、A自身に権利があるって言える事案だから、
  こういう事案で、Aに第三者の権利を主張する資格があるって主張する必要はないんだよ。
  親と子供の生存権・教育を受ける権利の事案も、子供っていうのは『第三者』じゃなくて
  代理人に対する本人みたいな関係だから、これを第三者の主張適格っていうのは
  ミスリーディングな言い方だね。
  マスメディアの報道の自由も、第三者国民の権利を代わって主張しているのではなく、
  メディア自身の権利だね。」