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酵素や微生物の有機合成への応用 昔ばなしその3

2022-12-04 10:34:56 | その他
前回酵素は立体選択的に反応し、光学活性体を作る能力があることを書きました。

そこでこれを私がやっている有機化学反応に利用できないかと考えたわけです。当時は酵素がかなり注目されており、一部は洗剤中に混入するというような研究も進んでいました。

また酵素は水に溶けますが、これをセライトなどの珪藻土に吸着し、水から回収するという固定化酵素ような試みもされ始めていました。こういった酵素を扱う企業も増えており、かなり高価なのですがこういったところから色々な酵素を入手し準備しました。

酵素反応は水溶液中で行いますが、問題点としては医薬品に用いる化合物はほとんどすべてが水にほとんど溶けないことです。そのためいかに原料化合物(酵素反応では基質といいます)を水に懸濁するかなどの検討から始めました。

もうひとつの問題は、立体選択的に反応が進んだかを検出する方法です。前回書きましたようにL型化合物とD型化合物はほとんどすべての性質が同じで、唯一旋光度が異なっています。ところが従来の旋光度計はかなり複雑な手間が必要で、しかも純度が高くないと信頼がおけないという問題がありました。

そこでこの旋光度計を手直しし、簡単に測定できるようにしたりと予想外のところに時間がかかってしまいました。ただしこの問題は、私がこの研究を始めてから2年後ぐらいに、高速液体クロマト(HPLC)という分析機器に光学活性体分離カラムという機器が開発されました。

このカラムはグルコース誘導体などの光学活性体を利用することで、L体とD体を分離することが可能になったのです。これで反応物を精製して旋光度を測るという面倒なことをせず、反応液をHPLC分析するだけで立体選択性が検出でき研究も楽に進めることができるようになりました。

さて実際の反応としては、DL体のエステルをある種のリパーゼ(脂肪分解酵素)で反応させると、L型のみが加水分解されL型カルボン酸が生成することが確認されました。つまり有機化学に酵素が利用できることが確認されたのです。

私がこの研究を始めてから1年後ぐらいに、衝撃的な論文が当時ソ連のK教授から発表されました。この論文はある酵素反応を水を使わず有機溶媒の一種であるヘキサン中で行っても同様に反応が進行するというものでした。

これはすぐ私も同様な酵素反応をヘキサン中で行い、水溶液よりやや遅くなるものの問題なく反応が進行することを確認しました。これが何故画期的なものなのかなど、その後の展開を含めてもう少し続けます。


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