携帯電話世界首位のノキアがトップ刷新に動いた。
世界最大の携帯電話メーカーに育てたヨルマ・オリラ会長とオリペッカ・カラスブオ最高経営責任者(CEO)が業績不振の責任を取り退任する。
スマートフォンで米アップルなどに出遅れたことに株主が不信任を突きつけた形だ。新CEOは米マイクロソフトから招くが、再生の道のりは険しい。
●リニューアルを加速
「リニューアルを加速する必要がある」。オリラ会長は10日の会見で、20日付でカラスブオCEOが退任し、後任にスティーブン・エロップ氏を招く人事を発表。
自身も「新CEOへの引き継ぎが終わり次第、早期に身を引く」と表明した。
実は、同会長が人事で「リニューアル」という言葉を使うのは、これが2度日。前回はちょうど5年前、CEO職を副社長だったカラスブオ氏に譲る発表をしたとき。
同会長は1992年にCEOに就任。紙・パルプからタイヤ、テレビ、重電まで手掛けていたノキアを携帯事業に集中させ、現在の基盤をつくり上げた。
しかし04年、折り畳み式など人気モデルの開発に出遅れシェアが急落。カラスブオ氏にリニューアルを託したが、そのカラスブオCEOの経営は誤算続きだった。
「市場シェア信者」を自認する同氏。世界首位にこだわるあまり、従来型携帯電話から、ネットサービスを融合したスマートフォンへの移行が遅れた。
この間、米アップルは音楽ソフト配信サービス「iTunes」で音楽ファンを囲い込み、07年に「iPhone」を発売。
ノキアによる音楽配信サービスの開始は07年、タッチパネルの音楽再生機能付き携帯電話の発売は08年。いずれも後手に回った印象はぬぐえない。
主力の従来携帯電話では新興国で巻き返しに出たが、逆に価格競争に拍車をかける結果となった。ノキアの09年12月通期の純利益は前年同期比約8割減という惨敗ぶり。
●2度のノキア・ショック
そして、現体制にとどめを刺したのが2度の「ノキア・ショック」だ。
1度目は4月下旬の1-3月期決算発表。新型スマートフォンの発売が、当初より遅れると発表し、同社の株価は一気に15%も下落した。
6月中旬にはユーロ安という追い風を生かせず4-6月期の業績見通しを引き下げ、再び売り込まれた。このころ、オリラ会長はトップ交代の検討に入ったようだ。
カラスブオCEOは、オリラ会長の右腕として25年間一緒に働いてきた仲間だが、かばう余地はなかった。
10日の会見で記者からカラスブオ経営の功罪を問われたオリラ会長は、「過去のことは振り返りたくない」と力なく答えるしかなかった。
ノキアを携帯電話で世界トップに育てた2人は、リニューアルをなし遂げることなく去る。
CEOに就任するエロップ氏はカナダ人。マイクロソフトで「オフィス」などを手掛ける部門を率いる。オリラ会長は、「ソフトに対する深い知識と文化的感度が優れている」と、初めて迎える外国人トップを評する。
だが、エロップ新CEOにもノキア再建の妙手はまだ見えていないようで、会見では「変革を語るのは時期尚早」と答えただけだった。
●早急な巻き返し策
ノキアに余裕は無い。
米調査会社ガートナーによると、ノキア主導の携帯電話向けOS「シンビアン」の世界シェアは、09年の47%から14年には30%まで減少。
代わりにグーグルのOS「アンドロイド」がほぼ肩を並べる存在になると予測する。早急に巻き返し策を打ち出さなければ、大規模なリストラを迫られることになりかねない。
【記事引用】 「日経産業新聞/2010年9月14日(火)/22面」