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米通信大手AT&T、TモバイルUSA買収を発表 通信品質挽回へ大きな賭け

2011-03-25 | 携帯事業者/世界



 米通信大手AT&Tが大きな賭けに出た。20日、欧州大手ドイツテレコムの米携帯電話部門を約390億ドル(約3兆1500億円)で買収すると発表。

 実現すれば米国の携帯電話加入件数で首位に躍り出るだけでなく、業界最下位に甘んじているサービス品質の改善に向けた大きな一歩となる。

 ただ、大手による市場支配力が一段と強まる買収に米国内では早くも反対論や慎重論が浮上。規制当局の出方次第では、もくろみが狂う可能性もある。


●通信インフラの増強

 「顧客や株主、社会に対してこれだけのメリットを提供できるのは、この2社の組み合わせ以外にない」。

 AT&Tのランドール・スティーブンソン会長兼最高経営責任者(CEO)は、21日の記者会見で米携帯4位TモバイルUSA買収の理由をこう述べた。

 昨年12月末時点のAT&Tの携帯加入件数は9550万件で、TモバイルUSAは3370万件。合計1億2920万件で、現在首位のベライゾン・ワイヤレス(1億220万件)を上回る。

 AT&Tは390億ドルのうち250億ドルを現金で、残りをAT&T株で払う。ドイツテレコムはAT&T株の約8%を保有、取締役1人を派遣する予定。

 巨額買収でAT&Tが得られる最大のメリットは、通信インフラの増強。

 AT&Tのデータ通信量は、アップルのスマートフォン「iPhone」の独占販売を始めた2007年から10年までの4年間で80倍に増加。11年からの5年間でさらに8-10倍に増えると見込む。


●相乗効果に期待

 今年2月にベライゾンが参入するまで続いたiPhoneの独占販売は、AT&Tの加入者拡大の原動力となった。だが、一方で利用者の多い大都市を中心に通信網の混雑が深刻化。

 米消費者専門誌「コンシューマー・リポート」は昨年12月、AT&Tの携帯電話サービスの顧客満足度が全携帯事業者の中で最低との調査結果を発表した。

 TモバイルUSAはAT&Tと同じ通信方式を採用しており、周波数の有効利用やネットワークの統合、端末調達などで相乗効果が得やすい。

 特に、用地確保が難しい都市部で基地局を短期間で増やせるのは魅力。AT&Tは、「人口密度が高い都市の一部では、新設せずに基地局の密度が約30%高まる」と期待する。

 AT&Tが今年半ばから商用サービスを予定する次世代の高速無線通信サービス「LTE」にも追い風となりそう。

 AT&Tは、TモバイルUSAが持つ周波数の一部をLTEに振り向け、これまで対象外だった地方の小都市などにカバーエリアを広げる考え。

 従来計画より4650万人多い人がAT&TのLTEサービスを利用でき、「全米に高速無線通信網を整備するというオバマ政権の政策とも合致する」(スティーブンソンCEO)。


●懸念の声

 だが、消費者団体や議会の一部からは早くも懸念の声が上がる。

 消費者団体のパブリック・ナレッジは20日、「業界2位と4位の携帯会社の統合は料金の高騰や選択肢の減少、技術革新の停滞につながる」と反対の声明を発表。

 上院の反トラスト小委員会のコール委員長も、「競争の減少が消費者にどのような影響を及ぼすかを注視する」とコメントしている。

 AT&Tは買収が実現しなかった場合、30億ドルの違約金を支払うことをドイツテレコムに約束。

 「当局の承認獲得に自信を持っている」(ステイーブンソンCEO)と楽観的な見通しを示すが、米司法省と米連邦通信委員会がすんなりゴーサインを出すと見る向きは少ない。

 承認の条件として一部資産の売却、事業の分離などを求められる可能性もある。

 21日のニューヨーク株式市場で、AT&Tの株価は1%強上昇。「対抗策を打ち出すのでは」との思惑からベライソンも株価を上げた。

 一方、上位2社に加入件数で2倍以上の差を付けられることになる3位のスプリント・ネクステルは14%近く急落した。

 スマートフォンやタブレット端末の普及に加え、様々な製品が無線でネットにつながり始めている今日、増え続けるデータ通信量をどうさばくかは世界の通信事業者に共通の課題。

 米国での久しぶりの大型再編は、日本の通信各社の戦略にも少なからぬ影響を与えそう。




【記事引用】 「日経産業新聞/2011年3月23日(水)/8面」


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