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ノキア、迎える正念場 マイクロソフト頼みで再建策、再生は時間との戦いに

2012-05-17 |  ノキア



 「誰もが自分の後任には好調な企業を渡したいものだ。私もそうしたかった」。5月3日、ノキアがフィンランドの首都ヘルシンキで開いた株主総会で、退任するヨルマ・オリラ会長は悔しさをにじませた。

 オリラ氏は経営難に陥った1992年にノキアの最高経営責任者(CEO)に就任。紙や電線など周辺事業を整理し、世界最大の携帯メーカーに変身させた。

 そのノキアは今、再び危機的な状況に逆戻りしている。


●スマホで出遅れ

 苦戦の主因は、スマートフォンでの出遅れ。

 オリラ会長は現地メディアに対し、「10年前に気付いていた弱点があった」と振り返った。2000年頃、携帯向けソフト開発基盤の弱さが将来の経営課題になりかねないと感じていたという。

 その懸念は当たる。ノキアは携帯向け基本ソフト(OS)開発の英シンビアンなどを買収、米インテルとも提携し強化に取り組んだが、米グーグルのOS「アンドロイド」を搭載し、ソフトが充実した他社製スマートフォンに対抗できなかった。

 中国など新興国での販売不振もたたり、業績は12年1-3月期まで4期連続の最終赤字。ピーク時にフィンランド1国の法人税収の2割を占めるほどの利益を計上したのに比べると不振が際立つ。

 株価も15年ぶりの安値水準。「国の誇りだから保有していたのに」。総会では株主が憤った。

 もちろん、手をこまねいているわけではない。追い詰められたオリラ氏は昨年、米マイクロソフト出身のスティーブン・エロップ氏をCEOに招き、マイクロソフトとも提携した。

 昨年後半には、マイクロソフトのOS「ウィンドウズフォン」を採用したスマートフォン「ルミア」の販売にこぎ着け、1-3月期に世界で約200万台を販売。4月には高性能スマホの「ルミア900」を米国市場に投入した。

 さらに、ノキアが追い風と期待するのがマイクロソフトが年内に発売するOS「ウィンドウズ8」。パソコンに加え、タブレットにも対応。画面の表示形式や入力方法も、ウィンドウズフォンが先行導入した「メトロデザイン」に刷新される。

 メトロは画面にタイル状のアイコンが複数表示され、利用したい機能やソフトを立ち上げやすい。メトロが幅広く消費者に浸透すれば、開発されるアプリも増え、ウィンドウズOSの携帯機器の売れ行きが高まるというわけだ。


●時間との戦い

 フィーチャーフォンとよばれる従来型携帯の改良版も6月に投入する。価格は非公表だが、業界では100ユーロ(約1万200円)以下とされる。スマートフォンのような操作性や機能を持つ製品にし、新興国での中国勢の安価なスマートフォンに対抗する。

 株主総会でエロップCEOは、同国の英雄で陸上競技の長距離選手だったラッセ・ビレン氏に言及した。72年のミュンヘン五輪の1万mで、転倒しながらも当時の世界記録を樹立し金メダリストとなった。

 エロップCEOは、他社への「遅れを取り戻せる」と訴えた。とはいえ、巻き返しは容易ではない。スマートフォン市場で存在感を高めるアップルとグーグルに共通するのは、世界中からソフトを集め、利用者に向けて配信する基盤を持つこと。

 マイクロソフトも配信基盤「ウインドウズ・マーケットプレイス」を持つが、ソフトの数で圧倒されている。マイクロソフトが今後どれだけソフトの数と質を上げられるかにノキアの浮沈もかかっている。

 格付け会社の米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)などはノキアの信用格付けを「投機的(ジャンク)」とされる水準まで引き下げた。販売が持ち直さなければ、さらに格下げすると警告する。

 資金の調達能力まで低下すれば、投資も先細りせざるを得ない。再生は時間との戦いになってきた。




【記事引用】 「日経産業新聞/2012年5月17日(木)/20面」


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