スマートフォン市場への参入で出遅れたフィンランドのノキアが今年4-6月期、主に新興国向けに戦略商品を発売する。
最大の売り物は189ユーロ(約2万1千円)という安さ。「多くの端末メーカーは1台100(約8400円)-150ドルのスマートフォンを開発している。最終的には70ドルまで下がるだろう」。
スペインのバルセロナで開かれた携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」。講演で、米グーグルのエリック・シュミット会長は、そんな見立てを語った。
●新たな事業モデル構築
低価格化に備えるのは端末メーカーばかりではない。米インテルは、1台150ドル以下のスマートフォンヘの搭載を想定したMPU(超小型演算処理装置)を発表した。
高性能を追求しても、消耗戦に巻き込まれるのは必至。利益を確保するため、各社はスマートフォンを活用した新たな事業モデル構築に経営のかじを切り始めた。
ソニーは「4スクリーン戦略」を掲げる。4スクリーンとはスマートフォン、タブレット、パソコン、テレビの4つの画面のこと。
自社が持つ映画や音楽ソフトなどをインターネットを通じて端末に配信。これをスマートフォンとテレビで共有したり、ゲームソフトをスマートフォンでも家庭用ゲーム機「プレイステーション」でも遊べるようにしたりする。
2月、ソニーはスウェーデンの通信機器メーカー、エリクソンと折半出資する携帯電話端末の合弁会社、ソニー・エリクソンを100%子会社化した。
10億5千万ユーロという巨費を投じたのは、「1つのソニー」(平井一夫次期社長)になることで、4つの情報・映像端末とソフト販売の相乗効果を高めるため。
●注目集める電子マネー
その直前、KDDIはインターネット関連の有力ベンチャー企業に投資するファンドを設立すると発表した。ファンドの規模は50億円。10年にわたって1社あたり最大5億円、約20社に投資する。
NTTドコモはスマートフォンを活用したサービスを中心に新規事業の売上高を2015年度には1兆円に拡大したい考え。その一環で、農産物販売のらでいっしゅぼーやを買収した。
米アップルが端末とスマートフォン向けサービスの両方を提供する仕組みを整えたことで、通信会社の存在感は薄れた。
「このままでは、回線だけを提供するインフラ会社になってしまう」(ドコモの山田隆持社長)。そんな危機感がKDDIやドコモをスマートフォン向けアプリやサービスを開発するベンチャー、新たな事業モデル構築を可能にする異業種への投資に駆り立てる。
スマートフォンを使った新しいサービスとして注目を集めるのは電子マネー。ドコモが国内で普及させた「おサイフケータイ」のようなサービスを世界で展開しようというもので、米グーグルは「グーグルウォレット」を開始。
MWCにはオンライン決済サービスの米ペイパルやクレジットカード大手のビザなど、通信業界とは縁遠いと見られていた企業も参加し、同分野での事業展開に意欲を見せた。
●自動車で活用策を模索
自動車でもスマートフォン活用策を模索する動きがある。、米フォード・モーターはスマートフォンとカーオーディオが連携する技術を公表。トヨタ自動車と韓国サムスン電子はカーナビとスマートフォンの接続サービスを始めると発表した。
スマートフォンを舞台に、産業のコンバージェンス(融合)が始まった。その中で、消費者の生活を劇的に変えるサービスを世界で提供するものが新段階に入ったスマートフォン競争の勝者になる。
【記事引用】 「日本経済新聞/2012年3月21日(水)/9面」