米通信大手AT&Tは19日、米携帯電話業界4位のTモバイルUSAの買収を断念すると発表した。
390億ドル(約3兆円)という今年最大規模のM&A(合併・買収)は失敗した。ただ、スマートフォンの普及を受け通信網の増強は経営課題であり続ける。
●手痛い誤算
「Tモバイルとの組み合わせは周波数不足に対する当面の解決策になるはずだった。利用者は損害を被り、必要な投資も止る」。AT&Tは声明で、米司法省と米連邦通信委員会(FCC)を名指しで批判した。
一方、買収を阻むため反トラスト法(独占禁止法)に基づく訴訟を起こした司法省は、「携帯電話を利用する何百万人もの米国民の勝利だ」とのコメントを発表した。
司法省などは、業者が少なくなれば料金面などの競争が起きにくくなると懸念していた。
AT&TはTモバイルの親会社で欧州通信大手ドイツテレコム(DT)に違約金などを支払うため、2011年10-12月期に40億ドル(約3100億円)の税込み費用を計上する。
高額の違約金は07年にAT&Tの最高経営責任者(CEO)に就いたランドール・スティーブンソン氏の自信の表れとみられていたが、手痛い誤算となった。
DTは業界下位に甘んじている米携帯市場からの撤退をほのめかし、AT&Tの提案は「渡りに船」だった。Tモバイル単独での生き残りか、新たな売却先を探す見通しだが、難航は必至。
●周波数獲得進めるライバル
ライバルは、周波数の獲得を着々と進める。
業界首位のベライゾン・ワイヤレスは今月2日、CATV大手3社が保有する周波数を36億ドルで取得すると発表。16日にも別のCATV大手から周波数を3億1500万ドルで獲得すると発表した。
AT&Tは19日、昨年12月に米クアルコムと合意した未使用の周波数の取得を迅速に認めるよう米政府に求めた。だが、ベライゾンとの差が開く高速携帯サービス「LTE」には、さらなる周波数の確保が不可欠。
【記事引用】 「日本経済新聞/2011年12月21日(水)/6面」