携帯電話機最大手、ノキアの業績に急ブレーキがかかった。
08年4-6月期の純利益は、前年同期比61%減と大幅に低下。一時的なリストラ費用を計上した影響が大きいとはいえ、利益水準が低下傾向にあることは間違いない。
成長市場である新興国での価格競争激化などが背景にあり、モトローラやソニー・エリクソンなどライバルも業績悪化に苦しんでおり、業界全体が下り坂に入った可能性もある。
●単価下落続く
ノキアの世界の携帯電話機の販売台数は同21%増の1億2200万台に達し、4-6月期の世界市場シェアは40%と1年前より2ポイント上昇した。
それでも不安が消えない理由は、販売台数が増えても単価が下げ止まらないことにある。
ノキアの販売単価は今年4-6月期に、前の期に比べ5ユーロ、前年同期に比べて16ユーロも落ちている。ユーロ高の影響もあるが、景気後退懸念が深刻な先進国で、利益率の高い高機能機の販売が鈍ってきている。
高級機不振の影響を最も受けたのが、この分野で強かったソニー・エリクソン。
値引きと販売台数の伸び悩みで、08年1ー3月期は純利益が前年同期比で半減の1億3300万ユーロ、4ー6月期も同様に悪化すると発表している。
これに対し、ノキアはインドなどに早くから進出してブランドを確立し、着実に販売台数を伸ばしている。単価は下がっても、量の拡大とそれに伴う調達コストの削減で、増益を確保してきた。
だが、前年同期比での純利益の増益率は、07年4-6月期の148%をピークに7-9月期は85%、10-12月期は44%、今年1-3月期は25%と、目に見えて減少している。
●新興国で競争激化
新興国でのノキアの成功を見たサムスン電子などが、こぞって新興国向け端末の開発と販売を強化。中国などからノンブランドの廉価品なども流入した。
そのため、市場の伸び程度の販売増は達成できるが、昨年前半までのように、市場シェアを急拡大することは難しくなった。価格競争も激化し、販売単価下落に拍車をかけている。
ノキアは量の拡大を調達の効率化につなげて、コストを抑制。また、多くの機種のプラットフォームを共通化するなどで、開発費も抑制した結果、単価の低下を上回るコスト削減を実現して利益を拡大してきた。
しかし、ここへ来て、競争がいよいよ激化し、コスト削減が追いつかなくなっている。
●長期低迷傾向を示唆
「販売台数は増えるが、単価が落ち、利益が減るのは業界全体の傾向」とあるアナリストは指摘する。
ノキアは08年の世界市場が前年比で10%か、それ以上の伸びを示すとの予想を発表した。従来は約10%の伸びと予想していたから、わずかに上方修正したことになる。
市場が拡大すれば、最大手ノキアの売り上げも増える。だが一方で、単価下落が加速すれば、利益はさらに落ち込むことになりかねない。
これまで長く成長を続けてきた携帯電話機業界だが、主力メーカーの相次ぐ業績悪化は、業界全体の減速、さらには長期低迷傾向を示している可能性がある。
音楽配信や地図情報などコンテンツの強化で巻き返しを図るが、まだ成果は出ておらず、業界の低迷傾向に、最大手のノキアものみ込まれたとしたら、業績回復にも時間がかかるかもしれない。
【記事引用】 「日経産業新聞/2008年7月22日(火)/3面」