ウィルコムは２４日、事業再生ＡＤＲ（裁判外紛争解決）手続きに入り、取引金融機関に対し、約１０００億円の債務の返済期限延長などを要請すると発表した。
財務体質を抜本的に改善し、高速無線「ＸＧＰ（次世代ＰＨＳ）」を柱に早期の経営再建を目指す。
ただ、主戦場の無線データ通信市場の競争は、激しさを増すばかり。思い切った賭けに出たウィルコムのシナリオ通りに進むのか。
●壁につきあたる資金調達
「できることの中では最善の選択だったと信じている」。
２４日、ウイルコムの幹部は疲れた声でこう話した。この日、ウィルコムは事業再生実務家協会（ＪＡＴＰ）に事業再生ＡＤＲ手続きの利用を正式申請し、受理された。
事業再生ＡＤＲは、私的整理の一種で、第３者機関が仲介する。
シルバーウィークの最中も、ウイルコムの幹部らは休日返上で手続きの準備を進めて、ようやく申請にこぎ着けた。今後は、ＪＡＴＰが仲介役となり、金融機関と協議しながら再生計画作りを進める。
ウィルコムが今回、私的整理に踏み切ったのは、次世代ＰＨＳ「ウィルコムコア ＸＧＰ」の事業展開に必要な資金調達が壁に突き当たっているため。
新たな基地局整備や端末の開発などに今後５年間で約１４００億円を投じる計画。それには約１０００億円ある債務を借り換える必要があるが、銀行団との交渉が難航していた。
そこで、第３者の仲介に望みを託すことにした。
●サービスの提供に遅れ
「ウィルコムコア ＸＧＰ」は、最大通信速度が毎秒２０Ｍビットと現行の２０倍以上の高速データ通信サービス。
携帯電話会社との競争激化で、現行のＰＨＳサービスの加入者減少が続くウィルコムにとって、まさに社運を賭けた事業。だが、資金調達に手間取っている影響で、肝心のサービスの提供に遅れが出ている。
「これじゃ、４月に始めた試験サービスと変わらないじゃないか」。
２４日午前、ウイルコムは１０月１日に始める本サービス概要を発表したが、それを見たライバルの携帯電話会社幹部は、冷ややかにこう言い放った。
東名阪で同時に始める当初計画は、設備投資の遅れからＪＲ山手線内の一部地区に縮小し、提供する専用のデータ通信端末も、東京都２３区内在住の一般・法人ユーザーを対象に４００台を無償で貸与するだけ。
ウイルコム幹部は、「計画の遅れは今年度末までに挽回できる」と主張するが、いまのデータ通信市場の競争環境で半年の遅れの影響は小さくない。
「１０月から新サービスが使えると思って期待して待っていましたが、当分使えなさそうなので、イー・モバイルかＮＴＴドコモに乗り換えます」。
実際、ウィルコムの加入者が集まるネット掲示板には２４日、こんな書き込みが相次いだ。
●顧客獲得にしのぎ
しかも、市場に飽和感が強まるなか、携帯電話各社はデータ通信サービスを「最後の成長分野」と位置づけ顧客獲得にしのぎを削る。
データ通信端末と低価格ノートパソコン「ネットブック」のセット販売戦略で攻勢をかけるイー・モバイルは７月下旬、最大通信速度が毎秒２１Ｍビットの新サービスを開始。
０７年６月の有料サービス開始から２年弱で、１５０万件の契約を獲得した勢いの持続を狙う。
最大手のＮＴＴドコモも攻勢をかける。７月１日から全国の「ドコモショップ」でデータ通信端末とノートパソコンのセット販売を開始。イー・モバイルの得意分野で真っ向から勝負を挑む。
ドコモは、７月に新規契約から解約を差し引いた純増数で３年ぶりに首位に返り咲いたが、その原動力がこのセット販売によるデータ通信の契約増だった。
７月１日から高速無線「ＷｉＭＡＸ（ワイマックス）」の本サービスを開始したＫＤＤＩ系のＵＱコミユーケーションズも、サービス拡充を急ぐ。
１０月１日からは、従来提供してきた月単位での定額プランに加え、１日単位で２４時間使い放題になる「１日利用プラン」の提供を開始する。
１０月下旬には、米マイクロソフトが新ＯＳ「ウインドウズ７」を発売する。これを機に同ＯＳを搭載した「ネットブック」の販売が増えれば、データ通信サービスの需要増にもつながる。
そのタイミングを見越して、携帯各社は一斉にサービスを増強。データ通信サービスでの生き残りに向けた最終決戦に入ろうとしている。
●膨大な投資が重荷に
そのなかで、私的整理という荒療治に打って出たウィルコム。
ただ、次世代ＰＨＳは一歩間運えると膨大な投資が重荷となってウイルコムを押しつぶしかねないのも事実。ウィルコムの再生に向けた賭けは結実するか。
結果が分かるまでに、長い時間はかからない。
【記事引用】 「日経産業新聞／２００９年９月２５日（金）／２２面」
