地球環境問題は、今や国際関係や外交政策の最も重要な争点といえます。当然、国際関係論やそれに付随する科目でも、地球環境問題を取り上げるようになりました。もちろん、私も授業では、地球環境問題とりわけ「気候変動」や「地球温暖化」に言及することがあります。
とはいえ、「環境科学」の知識については、不安がありました。何しろ、こうした自然科学の分野は、高等学校卒業以降は、ほとんど本格的に勉強したことがないのですから。ですので、「環境科学」は、早いうちにキチンと勉強しなければいけないと、ここ数年間、ずーっと思っていました。もちろん、これまで環境問題を扱った国際関係の文献は、いくつも読みました。しかし、これで「環境科学」の基礎を体系的に理解できたわけではありません。
何とかしなければ…。そう切実に思っていたところ、環境科学の素晴らしい入門書に出会いました。藤倉良・藤倉まなみ編『文系のための環境科学入門(新版)』有斐閣、2016年です。
本書は、まさしく「タイトルに偽りなし」の内容です!第1に、説明が分かりやすい。ジャーゴン(難解な専門用語)や数式などを使わずに、地球温暖化などの環境問題を丁寧かつコンパクトに解説しています。第2に、データの使い方がうまいと思いました。本書では、データが多すぎず少なすぎず、読者の理解を促すのに効果がありそうな要所要所に、必要なものが提示されています。
たとえば、温室効果は、このように説明されています。
「地球にまったく大気がなく温室効果が存在しない場合を想定し…地表面の温度を計算すると、平均温度は-18℃にしかならない。実際には15℃なので、計算値より33℃高い。この差が温室効果の『総量』である」(182ページ)。
地球温暖化対策が進まないことの説明も秀逸です。
「科学的に不確実であり、理解しにくく、被害の実感がなく、対策の決定打がないということで、市民は何となく不安になるかもしれないが、生活に痛みを伴う施策を指示しようという気持ちにも至らない。不安感が高まらないので、政治家も自分の人気を下げることになりかねない対策をあえて実行しようとはしない」(190-191ページ)。
われわれが普通に会話で使う日常言語で、地球温暖化対策の難しさを見事に言い当てています。
地球温暖化の将来シナリオについては、不確実性から逃れられないとしながらも、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のシナリオを通して、われわれが実感しやすい未来予想の1つを示しています。
「IPCCの悲観的なシナリオが現実のものとなると、今世紀末…東京では…1年の3分の1近くの最高気温が30℃を超えることになる」(194ページ)。
そうなるとスキーシーズンは、ほんのわずかな期間になってしまいそうです…。