カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第十九話  青い光の中へ

2008-11-27 22:26:45 | Weblog
三津林と茂助、そして松吉、亀作が、美有や侍女達、門番の宗太、屋敷の警護に残った友太郎らに見送られて屋敷を出て行った。
城中で榊原隊や、石川隊らの鷹天神城攻略軍と合流し、東へ向かった。まず攻略軍は、天稜川を渡り、鷹天神城攻略のために造った横洲架城に入った。
攻略軍は、二日かけて攻略の作戦を練り、出陣の準備をした。その間三津林は、預けられた五百の兵を集めて、出来る限り一人一人に判るように自分の意思を伝えた。
「決して死に急がずに、この戦でも生き残り、次の戦いでまた役に立てるようにして下さい。それが私のためであり、御殿様のためであります。その気持ちが強ければ、あの城も落とせます。・・・そして勝ちます。」
三津林は、自分以外の死を望まなかった。
そして翌夕、鷹天神城攻略軍は、横洲架城を出て鷹天神城へ向け進軍した。
途中、軍は二手に別れ、それぞれ南の大手門側、そして北の搦手門側に陣をとった。三津林達は、搦手側から別れ、鷹天神山の西に陣をとり、道の無い所から攻め込む役目を担った。



「お屋形様、あの崖を登れるでしょうか?」
茂助の指す先には、月明かりに見える山の木々の間から岩が剥き出す崖がある。
「たぶんあの木の生えている所を縫って進めば、西側の曲輪の下には辿り着けるでしょう。」
鷹天神山は、山頂の東側に本丸、二の丸があり、そして西へやや下った先に三の丸、そこからまた上がった所に、本丸の方へ攻め込む敵を攻撃出来る曲輪が存在していた。その曲輪を攻撃して本丸へ攻め込む攻略隊を助ける役目を三津林達が担っているのだ。
「しかし辿り着くまでに気付かれたら、かなりの痛手を受けるでしょう。」
三津林は、腕を組み、木の葉が月明かりを浴びて、光り輝きながら風に揺れる木々を眺めた。
「茂助さん、つるを用意して下さい。・・・長くて切れ難いのを。それと松吉と亀作を呼んで来て下さい。」
「はっ!」
程なく茂助が二人を連れてやって来た。
「お屋形様、つるですが、どうなさるんですか?」
「あの曲輪は、木の柵ですよね。」
「はい、杭を縄で繋いで横木を渡したものだと思いますが。」
「そうですよね。松吉と亀作は、つるを持ってついて来て下さい。」
三津林もつるを抱えて歩き出した。
「お屋形様、何処へ?」
「朝までには戻りますから、もし決行の使者が来たら、茂助さんが部隊を動かして下さい。」
そう言って三津林は、松吉と亀作と共に山へ入って行った。


翌朝早く、搦手側の攻略隊からの使者が来て、三津林達への作戦決行を依頼してきた。
三津林達は、陽が昇る前に陣へ戻っていた。
「よし、行こう!」
三津林は、兵五百に対して出撃の命を出した。
今回は、三津林も鎧兜を見に付け、部隊の将らしい姿をしていた。
「お屋形様、お似合いです。」
「茂助さんもその兜似合ってますよ。それより必ず生き残って下さい。勝とうが負けようが死んではいけません。これは命令ですよ。」
「お屋形様・・・。」
三津林と茂助は、それぞれ兵を引き連れ、別々の所から山へ入った。



鷹天神山に強い風が吹き荒れた。三津林達は、西側の曲輪の柵の下まで辿り着いた。風のせいで五百の兵の足音も消され、気付かれずに上り詰めたのだ。
三津林は、搦手からの合図となる進撃を待った。そこへ見張りの足軽からの知らせが来た。
「三津林様、攻撃が始まりました。」
確かに、攻め入る兵の声が聞こえ、上の曲輪の敵兵達もざわついている。
三津林は、右手を振り上げた。そして四方に分かれたそれぞれの隊に合図となって伝わった。
「よし、行け!」
柵の下で待機していた何人かの兵が、柵に縛ってあるつるを思いっきり引いた。すると柵が倒れ、人が通れるだけの隙間が四ヵ所出来た。そこから三津林隊の兵が曲輪へとなだれ込んだ。
敵兵も応戦してきたが、不意をつかれた者も多く、曲輪内の応戦は、三津林隊の優勢で進んだ。しかし三の丸からの応援や、物見櫓からの弓隊の攻撃で討たれる兵も続出した。
「お屋形様!」
「茂助さん、あの櫓の兵を何とかしないと!」
「はい!」
茂助は、すぐに弓隊を数名連れて来て、櫓の敵兵を狙わせた。
「私は下から行きます!」
茂助は、敵味方が争う間を割って物見櫓へ向かった。三津林もすぐに後を追った。
茂助が櫓の下へ辿り着いた時には、見方の兵が梯子を上ろうとしていたが、上から敵兵が刀で応戦してくるために上れずにいた。茂助は上を見て、敵兵が弓を射るために身体を乗り出していない側面から櫓を上り始めた。
「茂助さん。」
三津林もそれを見て、横からよじ登った。
茂助が櫓の手摺りに手を掛けて身を乗り出すと、敵兵もそれに気付いて攻撃して来た。茂助は、片手で身体を支えて刀を振り応戦した。その隙に横から三津林が上りきり、櫓の中へ入り茂助の相手を討った。他の弓兵も刀で攻撃して来たが、梯子から上がって来た見方の兵も加わって、敵兵をすべて討ち取った。
三津林が櫓の上から搦手側を見ると攻略隊の兵がかなり攻め込んでいた。
「茂助さん、攻略出来そうですね。」
「もう一息です。」
その時だった。
「うっ!」
三津林の胸に矢が刺さった。
「お屋形様!」
茂助が三津林を抱えた。
「大丈夫です。ここへ弓隊を上げて下さい。」
「は、はい!」
三津林は、立ったまま柱にもたれ掛かった。茂助は、心配だったが命令通りに弓隊を櫓に上げるために下へ降りた。
「三津林様、本丸から火の手が上がってます。」
「そうか・・・。」
三津林は目を閉じ、自分の役目は終わったと思った。



「先生、こっちへ来ちゃだめ!」
愛美が川の向こうで叫んでいる。
「俺は、愛美の所へ行きたいんだ!」
三津林は、対岸の愛美の所へ行くために川の中へ入った。
「来ちゃだめ!先生は生きて!」
それでも三津林は、川の中を進んだ。しかし川の流れが速く、なかなか前へ進めない。しかも鎧が水で重くなっていく。
「愛美!愛美!」
手を伸ばしてもまったく近づかない。水は胸の所までになっていた。
「先生戻って、溺れちゃう!」
「愛美!愛美!」
その時、足元が急流にすくわれ、三津林は流された。
「先生!」
愛美は、流される三津林を追った。しかし三津林を流す川の流れは、愛美よりはるかに速く、離れて行くばかりだった。
「愛美!」
三津林の身体は、鎧兜の重さもあり、水に呑まれて見えなくなってしまった。
「先生!」

三津林がハッと気が付くと、櫓の周りは見方の兵達が敵方の兵を押し込んで、曲輪を占領しそうになっていた。
「お屋形様!」
茂助が櫓の梯子を上って来る。弓隊も続いていた。
胸の矢の根元から血が溢れている。しだいに意識が朦朧としてきた。
「茂助さん・・・。」
三津林の手は、手摺りを持って身体を支える力が無かった。
「お屋形様!」
「三津林様!」
茂助達の叫びも空しく、三津林の身体は、手摺りを乗り越えて櫓から落ちて行った。
茂助は、急いで梯子を上がりきり、三津林が落ちた手摺りの所へ行き下を見た。
「お屋形様!」
物見櫓は、柵のすぐ近くに建っていたので、三津林の身体は、柵に当たった後、弾みで柵の外側に落ちてしまい、崖になっている所を転がるように落ちて行っている。
「お屋形様!」
茂助は、また叫んだ。

三津林が落ちるその先に、眩しい青い光が現れた。やがて三津林の身体は、その青い光の中へ消えて行った。

         
                つづく

          ※ この物語は、すべてフィクションです。

          ・・・次回は、最終話です。
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