鳥!連続写真!掲載中!

近くの多摩川に飛来する野鳥の連続写真を中心に、日頃感じた出来事を気ままな随想でご紹介し、読者双方との情報を共有したい。

空蝉

2014年08月02日 00時00分01秒 | 紹介

 夏の夕方から真夜中に掛けて繰り広げられるファンタジー、それは神秘的な世界で、蝉の脱皮行動である。蝉は夏から秋にかけて誕生し、夏の風物詩の主役でもある。芭蕉の一句で、日光東照宮参拝時に詠まれた「閑かさや岩にしみいる蝉の声」は有名である。蝉は若干誕生時期に差があるため、季節の移ろいを感じさせる。始めは小形のニイニイ蝉、油ゼミ、ミンミンゼミ、日暮、ツクツクボウシ、クマゼミと続く。

 約7年間の地中暮らしの後地上に出て、成虫となる。地中からはい出るときは幼虫であるが、まるで戦車のようである。鋭い鎌の形をした前足は極めて頑丈で、固い地面を掘り上げるのに適している。地上では適当な高さの草木に昇り背中が割れて脱皮を行う。脱皮後は足ではい回ることは出来るので、空気に触れて、羽を固化させるために幹や枝にぶら下がる。羽を固化させる時間は1~2時間であるが、この間が蝉にとって最も危険な時間であり、柔らかな身体は、野鳥の格好の餌となる。従って野鳥に補食されないように夜間を選ぶのであろう。

 油ゼミの場合は、脱皮後の色は白色に近く、緑かかっている。時間が経つと茶色に変わる。神秘的な光景は脱皮後から枝にぶら下がるまでの間で、光を照らしてみると緑白色の美しい姿を見ることが出来る。徐々に変化する色と、伸びて固まる羽も不思議な現象である。まるで、7年の地中の時間を一瞬で成虫に変わる独特の習性を身につけ、地上で生きる短期間を惜しむようでもある。

 さて、空蝉をご存じであろうか、蝉の抜け殻のことである。何という意味深い表現であろうか、「ウツセミ」という語感も良い。源氏物語第3巻の巻名でもある。光源氏が空蝉の寝所へ忍び込むが空蝉から拒まれる云々という物語である。蝉の抜け殻の意味から「むなし」、「わびし」にかかる枕詞でもある。現身(うつしおみ)→うつそみ→うつせみと変化したといわれる。この世に生きている身、虚身などの意味がある。歌謡曲の歌詞にも登場しているが、人生のはかなさを物語っているのであろうか?抜け殻がむなしいと感じるのは判るような気がする。定かではないが、推測するに、自らの生身の精神が飛んでしまった状態を蝉の抜け殻にだぶらせる心模様とでも言おうか。