中村稔詩集「月の雫」を読んで
照る日曇る日 第2081回
97才の高齢者の詩人による最新詩集20篇を拝読しました。
「月の雫」て小田原のお菓子の名前か、それとも竹取物語かと思ったが、そうではなくて、この詩句、この光景が20の情景をつないでいくブリッジの役割を果たしているのですね。
若い時に浴びた月の光、そして100才近い老人を物憂く照らす蒼の光線、といった「具合に。
大器晩成、功成り名を遂げた老人が、長かった生涯を感慨深げに振り返っている趣きもあるけれど、突然
「ウクライナの兵士も市民も、ロシアの兵士も/ みんなあわれだな。」
と憐れみ、なんでかというと、みんな軍需産業の仕掛けた罠にはまり、
「ますます軍需産業は儲け、その株価は上昇し、/ロシア、ウクライナは疲弊するのだな」
などという戦争論の現状分析が飛び出してくるのだから、詩人より若いくせに五里霧中のバイデン爺なんかと違って一瞬も油断できません。
知り合いの実例を引き合いに出したと思しき「月の雫10」はとても美しい。
「また、二十年ほど、二人の幸せな暮らしの日々が流れた。
突然、彼女の物忘れがひどくなった。年々、認知症が「つよくなった。
彼女は入浴もできなくなった。彼が彼女を抱いて入浴させた。
月の雫を浴びた無垢な彼女は浴槽で聖女のように微笑んでいた。」
そこばくの貯え俄かに尽き始め死に急く理由の一つに数う 蝶人