行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【2019古都取材ツアー⑧】金継ぎの体験で学んだこと

2019-05-09 10:59:12 | 日記
昨日、私が担当している「日中文化コミュニケーション」で日本取材チームのメンバー、ジャーナリズム専攻四年の付玉梅が取材の成果の一部を報告した。













京都の「漆芸舎・平安堂」で取材した「金継ぎ」の紹介である。大徳寺の門前にある京町家風の店舗だ。







中国では「金繕jinshan」と翻訳されるが、もともとは中国にも、ホッチキスのように金属で裂け目を固定する「锯瓷(=鎹継ぎ)」と呼ばれる修繕方法があった。国立東京博物館所蔵の重要文化財、青磁茶碗「馬蝗絆(ばこうはん)」がその代表例である。金継ぎは漆の接着力を利用し、見た目もより精巧に修理する工芸だ。

一つの器が背負ってきた歴史や持ち主の思い出、気持ちを大切にし、壊れても捨てるのではなく、直して手元にとどめる。あらゆるものに魂があると感じる日本人の信仰、ものを「もったいない」と慈しむ心、自然への尊重と畏敬、不完全なものに価値を見出す侘び寂びの境地、さまざまな文化を背負った伝統工芸であり、不完全な作品に新たな生命を吹き込む芸術と言ってよい。

漆の木を育てるのには10年かかるが、実際に漆を取れるのは半年の間だけで、役割を終えた木は伐採される。自然の恵みに感謝し、ありがたく使わせてもらうという姿勢が、金継ぎをはじめとする漆工芸の精神に含まれている。焼き物もまた土から作られる。自然との対話をしながら、紙や麻布で下地を作り、上塗りと乾燥を繰り返し、三か月から一年の工程をかけて修理する。

高度成長期の大量生産、大量消費社会を迎えている中国社会にあって、学生たちは全く異なる文化体験ができた。付玉梅の報告に対し、教室の学生からは、「もっといいものを新たに買った方が安上がりではないのか」「壊れたものを使うのは気持ち悪くないか」などと、現代っ子的な発言もあったが、最後には金継ぎの価値を理解したようだった。





取材の対応をしていただいたのは平安堂の漆芸修復師、清川廣樹さんと弟子の藤田直子さん。清川さんは、ますます多くの人が金継ぎの技術に注目し、子々孫々に伝承されることを望んでいる、と学生に伝えた。技術は人が伝えるものであり、その人がいなくなれば技術も途絶える。学生たちは、それは藤田さんに対する期待なのだと受け止めた。

(続)





【2019古都取材ツアー⑦】京都を走り回った令和の初日

2019-05-09 10:56:17 | 日記
日本滞在日程を4月22日から5月2日に決めるにあたっては、取材対象の都合を考えGWに入る前の時間を十分確保することと、令和の初日を古都で経験することの二つが念頭にあった。新元号のニュースは、典拠をめぐる論争を含め、中国でも大きな話題になった。令和初日の風景は貴重なニュースであり、いくつかの中国メディアから原稿や映像の発注が来ていた。

歴史的な令和元年初日の現場に居合わせることは貴重な体験であるが、加えて、重要な報道の任務が加わった。学生8人を総動員して4グループに分け、それぞれに通訳を配置し、私を含め計13人が京都市内を駆け回った。十分な事前調査をし、学生が自分たちで詳細な計画を練った。



河原町・ゼスト御池での記念コンサートや京都御苑内を練り歩く御霊神社の神輿、祇園での特別セール、京都駅での階段イルミネーションや京都タワーのライトアップなどのほか、全国に唯一という漢字博物館での「令和」関連イベントも取材した。中国人観光客へのインタビューも集中して行った。ゼスト御池では京都ミスきものの荻野まどかさんと記念写真まで撮影した。

















和服姿の通行人にまじり、特別に中国伝統の漢服を来て記念する中国人観光客もいた。歴史的な1日に、中国と深い縁のある日本の古都で、日中の文化が行き交う光景は、学生たちにとって忘れ難いものになった。



この日の取材では、大きな問題にぶつかった。映像のボリュームが大きすぎ、通常のネットワーク環境では素材の送信に膨大な時間のかかることがわかった。ネットカフェで試してもダメで、最後は通訳をしていた同志社の中国人留学生が大学の研究室で使用している高速LANを提供してくれて、難を逃れた。ありがたい後方支援だった。

最終的に、メディア側で規制がかかり、配信までには至らなかった。天皇即位に関する報道なので、過剰になったのだろう。よくあることなので、学生たちもしぶしぶながら受け入れた。個人が抵抗しても変わるものではない。だが、一日をかけて京都の町を走り回った経験は無駄にならない。

「よくやった。ご苦労さん。じゃあ、京都最後の夕食を楽しもう」

と声をかけると、ちょっとしょげていたみんなの顔がいきなり元気になり、「行きましょう!」と声が上がった。かわいい学生たちだ。

(続)