行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【2019古都取材ツアー⑥】唐招提寺で触れた職人気質

2019-05-08 21:50:30 | 日記
2月末、面接でメンバー8人を確定させ、すぐに取材の準備を始めた。最初は基礎的な準備として、京都奈良の歴史や産業、人口、寺社、中国との関係など8テーマを定めてそれぞれが研究成果を持ち寄り、知識を共有した。それを土台に各自が自分の興味に応じ、具体的な取材テーマの選定に入った。

学生の一人が、2000年から10年をかけて行われた唐招提寺の「平成の大修理」について取材したいと申し出た。中国中央テレビが2017年に放映したドキュメンタリー番組「鑑真千年の縁」で大修理が紹介されたのを見て、強い印象を持ったのだという。

鑑真和上言うまでもなく日中仏教交流の基礎を作った最重要人物である。中国の学生が鑑真にかかわる唐招提寺に興味を持ち、取材をするのは大きな意義がある。だが、なにしろ多数の国宝や重要文化財を抱え、世界遺産にも登録されている名刹だ。大学生の取材がそう簡単に受け入れられるとは思えない。

そんな難局を救ってくれたのは、北京大使館での勤務経験がある奈良県職員の財賀憲司さんだった。

知人の紹介で財賀さんに連絡を取ったのは3月の半ば。後でわかったことだが、ちょうど東京への異動を控えた超多忙期で、全く畑違いの仕事だったにもかかわらず、私の学生のために骨を折ってくださった。官僚主義、事なかれ主義が蔓延し、忖度することしか知らない役人が増えている中で、地方にこうした熱い心を持った人物がいるのはうれしい。日本人として誇りに思う。

事前視察で一時帰国し、賛助をいただいた笹川平和財団に立ち寄った際、すでに東京に転勤していた財賀さんも来られた。同財団の早乙女尚さんとは北京の大使館勤務で重なっていたそうで、奇縁を感じざるを得なかった。学生からの感謝状やささやかなプレゼントを贈り、気持ちを伝えた。


財賀さん(右)と早乙女さん

財賀さんの異動後、引き継いでくださったのは奈良県文化財保存課建造物係長の田中泉さんだ。平成の大修理に最初から最後までかかわった数少ない当事者の一人で、文化財保護に関して貴重な体験談や考え方をおうかがいすることができた。あるものにできるだけ手を加えず、時間の経緯による変化も含めてありのままに残すこと。現場で情熱を傾ける職人気質を、学生たちは感じ取ることができた。



唐招提寺では石田太一副執事長からもお話をおうかがいすることができた。鑑真が1000年以上を経た日本でなお尊敬され、信仰の基礎としてあがめられていることをじかに聞くことができたことは、学生たちにとって得難い経験だったに違いない。

大修理における難題の一つは瓦屋根の修理だった。これについては同寺の「平成の鴟尾(しび)」を仕上げ、「日本一の瓦葺工」としても知られた山本瓦工業会長の山本清一さんがいたが、昨年、86歳で亡くなられたばかりだった。最適な取材対象となるはずだったが、田中さんのご紹介により、山本さんの弟子で同社工場長の山本正道さんが丁寧に対応してくださった。



山本正道さんからは、文書に残っていない古代の瓦造りについて、学術研究の成果をくみ取りながら、手探りをしながら探求をした師匠の作業場を案内していただいた。師を慕う職人の気持ちがひしひしと伝わり、あたかも山本清一さんがいまでもそこにいるような気さえした。

学生が奮闘している記事がもうすぐ仕上がる。大いに楽しみだ。

(続)