鏡海亭 Kagami-Tei  ネット小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

・画像生成AIのHolara、DALL-E3と合作しています。

・第58話「千古の商都とレマリアの道」(その5・完)更新! 2024/06/24

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第58)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

「剣と銃と魔法」の西洋近世風ファンタジーと「ロボット」戦記物の融合!

早いもので、7月も残りわずかとなりました。
酷暑の中、読者様方はいかがお過ごしでしょうか。

連載小説『アルフェリオン』、昨日に引き続き、作品PR用の新たなスライドを公開です!


おぉ、人口密度が高いですが(笑)、御子とパラディーヴァ勢揃いの画像ですね。
作者としては、胸が熱くなる画像です。
去年の今頃には想像もしていなかったです。生成AI……私のような特別な画才の無い一市民の趣味であっても、ここまでのことが可能になるのですね。色々と社会的課題は山積であれ、AIやるなぁ。Holaraさん、流石です。

密かに、今回も主人公ルキアンの画像に手を入れました。
色々と試していますが、今回はちょっとシリアスな感じのルキアン君です。

かなり盛った感じですが、なんせ「闇の御子」ですから、少し冷血そうな部分も含めて、「おにいさん、格好いいです!」とエレオノーアさんが喜びそうです(笑)。


その「本当の本当のヒロイン」ことエレオノーアに関し、先日に続いて、Holaraさんに生成してもらった「蝶々」版の顔画像の試作品を紹介です。


あはは、エレオノーアが悪い子になってしまった!(笑)
ダークサイドに目覚めた感じですね。
もっとも、彼女も「闇」属性の御子ですから、本来はこんな感じでも良いのでしょうが。
実際の彼女は、とにかく、いい子過ぎますよね。もちろん誉め言葉です。

どうしよう。エレオノーアさんが、性格キツい子になってしまった!(苦笑)
実際の彼女は芯は強いですが、優しくて、懐の広い子ですものね(ただし、対ルキアン限定ですが)。

 

貫禄ありますね。「おにいさん」を顎で使ってそうです(苦笑)。
あと何年か経ったら、エレオノーアさんもこんな感じになるのでしょうか。
人の世は、はかないな……(何が? 笑)。

何だかよく分からない副産物も含めて、本日も鏡海亭、楽しんでいただけましたでしょうか。
『アルフェリオン』第54話(その5)の更新に向け、鋭意執筆中です。
読者様方からの応援が、励みになっています。感謝です!!

ではまた。

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宿命を超えて、そして猛暑をも超えてゆけ――激熱な第55話!

今日も大変暑い日でしたね。読者様方、お変わりはありませんか。
下手すると体温より高いような気温は勘弁なのですが、暑いといえば、いや、最近熱いといえば、連載小説『アルフェリオン』です!
 
本日も熱く(時には暑苦しく?)参ります。
今回は、第55話「五柱星輪陣」の予告&PR用のスライドを初公開です。
 
 
なんとな〜くではありますが、ネタバレっぽい部分も含まれているかもしれません。いや、この程度なら、次回予告で出てくるくらいの範囲内であり、ネタバレではないですよね。
あ、タイトル自体がネタバレでしょうか?
 
そういえば、むかし、Gガンダムの最終回のタイトルの中に、たしか「Gガンダム大勝利!」という言葉が入っていました(笑)。これこそネタバレですが、昔はおおらかでしたね。いや、昔じゃなくて、Gガンダムだからか。。。
 
話を戻して、第55話のタイトルにもなっている「五柱星輪陣」、必殺技(?)の名前が題名とは、何だか往年の少年コミックのようです。しかも名称からして、五人の御子が合わせ技で何かを放つような、激熱の展開を予想させます。でも、何と戦うのでしょう??
 
少しだけばらしておきますと、五柱星輪陣の「輪」という文字にも表れているように、この技は、御子たちが次々と呪文を放っていくものです。今回は「闇」属性のルキアンを五芒星の頂点として、闇の炎、闇の水、闇の風、闇の地……と、各属性の御子がルキアンとそれぞれ合わせ技を撃って、最後にルキアン(とエレオノーア)が闇の闇、それから……(その続きは内緒)という感じです。
これはもう、少年コミックのド定番?の「これは誰々の分、そしてこれは俺の分だ!」という燃え燃えな連撃の応酬になるわけでしょうか。「これはエレオノーアの分!!」も含めて。
 
いや、作者自身が一番楽しみ過ぎます(笑)。早く書きたいな。
 
ちなみに「五柱星輪陣(ごちゅう・せいりんじん)」と書いて「ペンタグランマ・アポストロールム(pentagramma apostolorum)」とフリガナを振ります。最強必殺技なので、少し重いめに、ラテン語にしてみました。何だか無駄に重厚というのか、「大人の中二病」(苦笑)感があって、よいですね。直訳すると「使徒たちの五芒星」です。使徒とは、この場合、「御子」のことです。
 
しかし、以前も書いたのですが、「御子」という言葉を欧米の言語に直した時の訳語に、いまいち適切なものがありません。仕方がないので、英語でいうと「apostle」と訳していますが、これは「使徒」です。御子は「エインザールの使徒」とも呼ばれていますので、それで間違いではないのですが、キリスト教的な世界観に合わせていうならば、「御子」は本来は「使徒」ではなくて、「救いの御子」すなわちイエスの方ですね。しかし、それだと何か文脈が大きく違うような……。
 
まぁ、細かいことはともかくです。
物語としていえば、これまで、同じ世界の同じ時代に御子が五人集まったことは一度もなかったのですね。過去、特にルカ・イーヴィックのときには、かなり良いところまでいったのですが(あと一人、というところくらいまでは集まったかも)。結局、数が揃わないということが、これまでいかなる世界でも御子が自分たちの世界を守ることができなかった最も大きい原因なのでした。それが今回は五人が結集して、何かが変わりそうです。
 
本当は、御子というのは、今の五名の他に「光」属性の御子を合わせて、全六名です(ただし、人造の闇の御子(ルキアン+α)は執行体とアーカイブの二人合わせて一名相当のため、現在の御子も、数自体は合計六名ですが)。しかし現在の世界では、「光」の御子は存在しているはずなのですが、色々と理由があって仲間に加わるのは難しそうです。小説本編にもあったように、光のパラディーヴァが徹底して拒否していますからね。
 
それからオマケです。
今回、星輪陣の画像を作るために、地の御子であるアマリアさんの画像を改訂しました。他の御子とは違い、立っている画像がなかったもので。こちらです。
 
それからアマリアさんの顔アップの画像の新ヴァージョンも。
 
 
神秘的な雰囲気の旧画像の味わいもできるだけ活かしたかったのですが、ちょっと、旧画像は他のキャラの画像とタッチが違い過ぎるので……。絵柄が安定せず申し訳ありません。最近のファンタジー小説にありがちな「美少女」(苦笑)だけでなく、こういう、大人の女性キャラが頑張って素敵に活躍しているのも、『アルフェリオン』の魅力です。若さ溢れる(古語?)エレオノーアもたしかに可愛いですが、男女問わずそういう世代のキャラだけが突出すると、何だか話が嘘くさいというのか、薄っぺらくなりますよね(汗)。
画像生成AIのHolaraさんも、よく頑張って(頑張るというより、粛々と、でしょうか)支えてくれています。
 
本日も鏡海亭を訪問いただき、ありがとうございます!
暑い暑い毎日ですが、『アルフェリオン』が読者様方にとって、わずかにでも清涼剤のひとつとなれば嬉しいです。
引き続き、応援よろしくお願いいたします。
 
ではまた!
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前世紀末のウェブ小説の空気感を、再び

連載小説『アルフェリオン』、先日公開の第54話(その4)は、この小説ならではの「超展開」だったかもしれません(!)。
まさかのまさかの流れになりました……詳しくは本編でお楽しみください。「超展開」で、次は「超覚醒」が来ますかね。


そして本日は、小説『アルフェリオン』PR用の新スライドを発表です!!

全身フル画像のパラディーヴァたちが勢揃い。
作者としては、いつかこれをやってみたかったのでした。
小さな小さな夢が、ひとつかなった(笑)。

さらに、次回の第54話(その5)に向けて、今回の第54話(その4)のまとめ(?)スライドも続けて公開!!

エレオノーアさん、何やってはるんですか?(笑)
いや、ヒロイン、仕事しますね……。
というのは冗談で、なぜ彼女が蝶のコスプレ(違います)をしているのか、その理由は第54話(その4)をご覧ください。アマリアさんも格好いいセリフですね。ついにルキアンと接触か!?

生成AIのHolaraさんのファッションセンス(?)に賭けてみた。どうでしょう。
ちょっと露出の過ぎた部分が若干あったので、仕立て屋さんの鏡海が検閲(苦笑)、もとい、修正しました。
例によって「手」も修正です。難しいなぁ……。

貴重な蝶々版のエレオノーアです(笑)。

表情もこれまでとちょっと違います。
元になる画像の顔つきを手直ししたせいもありますが、やはり、生成時に「蝶」という要素に影響されているのかと思います。

昔、「僕は死にません」という有名なセリフがありましたが、さしずめエレオノーアさんは「私は消えません!」といったところでしょうか。いや、しかし簡単には復活できないかも。ルキアンが驚愕の裏技(!?)を使って、ぎりぎりのところで何とか耐えていますが……。

本当に暑い暑い日が続く中、今日も鏡海亭にお越しいただきありがとうございます。
いつもご覧くださり、応援いただき、感謝です!
第54話(その5)では、いよいよ「ディセマの海」にルキアンとエレオノーア(?)が入っていきます。
その内容、SFファンタジーの面目躍如!というところでしょうか。
ロボットに乗らずに冒険する、普通のファンタジーRPGっぽいこんな展開も、時には良いですよね。
(ただ、ここ最近、ロボットに乗らないロボット物……の様相を呈していますが)。
お楽しみに。


ではまた。

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第54話(その4) 紅の魔女

目次これまでのあらすじ | 登場人物 鏡海亭について
物語の前史プロローグ

  --- 第54話に関する画像と特集記事 ---

第54話PR第54話PR第二弾 |

 


第54話 その4
 
 エレオノーアは無数の微細な光の粒に姿を変え、あたかも風化し砂塵となって舞い上げられていくかのように、この世からあっけなく消え去った。
 失うものを持たなかった者が、戸惑いつつも大切な人と出会ったばかりのときに、それを失った。その喪失感の重さは想像を絶する。ルキアンは、泣くことや悲しみを表に出すことすら忘れ、ただ力なく座り込み、途切れ途切れ、震える声でエレオノーアの名を繰り返すだけだった。
 失意のあまり、ルキアンは、彼の周りで起きた驚くべき変化にもしばらく気づくことができなかった。そしてようやく異変を理解する。どの方向に目を向けても、見通しがまったく効かない。暗黒の世界だ。音もせず、ましてや動くものなど感じられない。ここは、どこなのだろうか。
 だが、そんな空っぽの暗闇の中に、ただひとつ、奇跡のような声が浮かんだ。
 
 ――お……おにい……さん? おにいさんなのですね?
 
 とはいえそれは、現実の音の響きを伴った声ではなく、ルキアンの心に直接語りかけてきている。ちょうどパラディーヴァと話しているときと同様に。
 ルキアンは反射的に叫んだ。
「エレオノーア!? エレオノーア、どこにいるの?」
 彼の声に応えようとしているのか、漆黒の世界にひとつの灯りがともった。仄かな青白い光に包まれ、小さな何かが宙を舞っている。
「蝶? どうしてこんなところに」
 ルキアンがそっと手を伸ばすと、蝶はひらひらと近寄り、彼の手にとまった。真っ黒な羽根に、幾筋かの銀色の模様の入った美しい蝶だ。
 ――おにいさん!
 またルキアンに呼び掛けるものがある。しかし、その話し手の姿は見当たらなかった。
 ――おにいさん。エレオノーアです、私はここです。
 ルキアンは、何も見えないのを理解しつつも、改めて周囲の闇をのぞき、手で探ってみた。唯一、この空間に存在する者。それは、やはり……。
 手の上の蝶を見つめ、しばらく黙った後、意を決して話しかけるルキアン。
「まさか、エレオノーアなんだね?」
 ――よかった! 気づいてくれましたね、わたしのおにいさん!!
 蝶は羽根を何度もはばたかせ、円を2,3回描いて飛んで、再びルキアンの指先にとまった。その様子は、喜びを体全体で表現しているようにみえた。
「こ、これは一体……」
 安堵の涙を目に浮かべながらも、蝶になったエレオノーアを心配して複雑な気持ちになるルキアンに対し、彼女の方は意外に平然と話している。
 ――おにいさん、《支配結界》を展開しましたね。闇の御子の支配結界は《無限闇》。御子が想像したことを創造する、果てしなき闇の世界。
「え、それって……どういう……?」
 ――もう、仕方がないな。おにいさんは、御子のこと、本っ当に……何も知らないんですね。
 エレオノーアが可愛らしく嫌味を言った。
 ――多分、おにいさんは何とかしたくて、無意識のうちに支配結界を発動させたのだと思います。私の体が消え去り、ぎりぎりのところで、最後に残った私の心を《無限闇》の力で実体化し、結界内の世界に留めた。
 ルキアンは、《楯なるソルミナ》の化身と戦った時のことを思い出す。ソルミナの夢幻の世界の中で、ルキアンは闇の支配結界を知らず知らずのうちに展開し、黒光りする鋼の荊を創造して、ソルミナの操る魔人形たちを引き裂いたのだった。
「あれが、想像を創造に変える結界の力? 無限、闇……」
 ――ありがとう、おにいさん。さっきはいきなり消えてしまったので、心の準備が、何もできていなかったです。今なら、もう少し落ち着いて話せます。だけど……。
 エレオノーアが言葉を詰まらせると、羽根を閉じた蝶が妙にしょんぼりとしてみえた。
 ――今も私、徐々に消えていっているのです。おにいさんの《無限闇》のおかげで仮の存在を保っていますが、因果の鎖からは逃げられません。この支配結界もいつまでも続くものではありません。おにいさん、本当は、力がもう足りなくなってきているのでしょう?
 敢えて黙っていたことをエレオノーアに指摘され、ルキアンには返す言葉がなかった。支配結界を展開してから、ルキアンは一瞬ごとに体力や気力が恐ろしい勢いで削られていくのを感じていた。それを無理に隠していたのである。
 ――私をこの世につなぎとめるために、一緒に、あんなものまで実体化してしまったのです。それを維持するのは、いくら御子の力でも難しいことです、おにいさん。
 彼女の言葉に、ルキアンはふと足元を見た。彼は慌てて大声を上げそうになったが、必死に落ち着きを取り戻した。そこに、落ちないように。
 水が――ひたひたと、あくまでも静かに、暗闇の中をつま先まで迫ってきている。そこから何の間合いもなく、その水面は果てしなく深海底にまで、ほぼ垂直に、地獄の底までも落ち込んでいる。目には見えないが分かる。莫大な量の水、底無しの深みに対する、人間のもつ根源的な恐怖感が警告しているのだ。
 ルキアンの恐れが《無限闇》に影響を与えたのか、先ほどまでの完全なる闇が、今度は永遠に明けない薄明の世界に変わった。そしてルキアンと一匹の蝶の前には、彼らの足元から水平線の彼方まで、死に絶え、黒々とした海が、茫漠として際限なく広がっている。たとえば一方で、極点を遥か沖合に臨む、世界の果てを感じさせる寒々とした北の海原と、他方で、夜の工業都市に口を開けた真っ黒な運河の淀みと、いずれも見る者を飲み込みそうな無言の威圧感を漲らせた海のありようが、ひとつに交じり合っている。静けさの中に突き刺すような拒否感を露わにした水面(みなも)が、不気味にこちらを見つめている。
 ルキアンの背筋に冷たいものが走った。彼は思わず後ずさりする。
 これに対して、蝶になってからのエレオノーアは、奇妙に淡々としていた。
 ――これは《ディセマの海》、あるいは《虚海(きょかい)ディセマ》といいます。過去の《アーカイブ》たちの蓄えてきた膨大な情報が思念データとなって保管されている、虚と実の狭間にある情報空間。いま私たちが見ているのは、その一部が《無限闇》によって具現化されたものです。《アーカイブ》の命が尽きると、あの《ディセマの海》に還って、暗い海底に降り積もるのです。
「今なら、そこから、無くなったエレオノーアの体を取り戻すことはできないの?」 
 そう尋ねてみたルキアンだったが、こうしている間にも、《ディセマの海》との対峙の中で秒刻みに力が激減している。
 ――できるかも、しれません。でも、その前におにいさんの力がもうすぐ尽きる……。無理をすれば、おにいさんまで消えてしまいます。
 ルキアンは即座に答えた。自身でも、なぜそう判断したのかいまひとつ分からないままに。
「構わないよ。エレオノーアとなら、一緒に消えてもいい」
 ――おにいさん、嬉しい……。ありがとう。でも、おにいさんは生きて、私の分まで生きてください。
 蝶がルキアンの指から離れ、顔の前を何度も行き交う。 
 ――私がいたこと。私が確かに生きていたこと。おにいさんが覚えてさえいてくれれば、ずっと、私も失われずにそこにいます。
 ルキアンの目の前で、今度は黒い蝶の輪郭がぼんやりと薄れ始めた。エレオノーア自身が消えたのと同じように、この蝶もじきに光の粒となって散ってしまうかもしれない。
 彼女に何か言おうとしたが、突然、ルキアンは胸を押さえ、吐血した。
 ーーおにいさん! もう十分なのです。これ以上続けたら、おにいさんまで本当に死んでしまう。
 泣き出しそうな声でエレオノーアが止めた。死に直面するような凄まじい負担が、ルキアンの心身にかかっている。こうしている間にも体中の力が結界に吸い上げられていく。
「駄目だ。僕は、エレオノーアと必ず一緒に帰るんだ!」
 ルキアンは口から一筋の血を流しながら、目を見開く。右目に闇の紋章の魔法円が浮かび、輝きを増した。だがそれとは裏腹に、ルキアン自身の体力は極度に低下し、文字通り、命を削っている状態である。
「消したくない! 僕の大事なエレオノーアを」
 めまいがして、ルキアンの上体が大きく揺れ、彼はがっくりと片膝をついた。
「もう、力が……。でも、助けたい」
 ルキアンの視界が闇に落ちた。周囲の暗さのためではなく、彼自身がもう目を開けていられなくなったのだ。気を抜くと一瞬で意識を失いそうな中、ルキアンはうわ言のようにつぶやいた。
「誰か、力を、貸して、ください……。助けて……」
 死にゆく二人に、天からの迎えの光か。にわかに暖かく眩い光にすべてが包まれる。
 だが、それと同時に、光の向こうで力強い声が聞こえた。
 
 ――そうだ、諦めるな。君が最後まで諦めなかったから、私が間に合った。
 
 ルキアンの背後で光が門のようなかたちを取り、その中から、白い衣の上に真っ赤なケープをまとった女性が、ふわりと舞い降りた。
「《通廊》を開いてきた。もっとも、いまの私も実体ではなく、急ごしらえの思念体に過ぎないが」
 後ろで一本に編み上げられた金色の髪を揺らしながら、彼女は、相手の心の奥底まで見通すような闇色の瞳でルキアンを一瞥した。夢うつつで、ルキアンを見ながらももっと遠いどこかに焦点が合っているような眼差しだ。それでいて視線が少し重なっただけで、ルキアンは石に変えられたのかと見まがうほど、身動きが一切取れなくなった。
 ――な、何なんだ、この人は……。いや、本当に人間なのか。
 半ば眠るような彼女の瞳の奥に、身震いするほどの魔力をルキアンは感じ、魔道士としてのあまりの「格」の違いに気圧され、硬直してしまったのだ。
 ――あのクレヴィスさんからも、これほどの魔力のうねりは感じなかった。
 何か神的な存在と相対しているような感覚に陥ったルキアンが、ようやく指先程度は自らの意思で動かせるようになったとき、彼女が不意に目を細めた。笑顔は、普通に人間のそれであり、思いのほか優しくみえた。
「遅れてすまない。独りで、よく頑張ったな。この状況でも、そして今までも……。たった一人になっても戦い続けることができる者は、真の勇者だ。誰にでもできることではない」
 そう言いながら彼女は姿勢を低くして、水晶柱の付いた杖を左手で高く掲げ、右の掌を開いて地面に着けた。彼女の言葉が、シェフィーアがルキアンに告げたそれとよく似ていることが、ルキアンには何故か嬉しかった。
「私はアマリア・ラ・セレスティル。《地の御子》、つまり君の友となる者だ。人は《紅の魔女》と呼ぶ。私が来た限り、もう君たちに、これ以上の悲しい涙は一滴たりとも流させはしない……。闇の御子よ、結界を上書きする。魔力を開放するから、気を付けて伏せていろ。大切なその子を吹き飛ばされないように」
 その言葉の通り、爆風がルキアンを襲った。彼は体を丸めてしゃがみ込み、蝶のエレオノーアが飛ばされないよう、手の中で大事に守っている。アマリアが言ったように、彼女は単に魔法力を開放しただけ、いわばそれは、体を動かす前に深呼吸をする程度のことだ。だが凄まじい魔力の奔流がルキアンを飲み込む。
「君の結界の特性を残したまま、私の結界で上書きした。この支配結界《地母神の宴の園》は、大地から魔力の源をいつまでも吸収し続け、私に与える。実体化された《ディセマの海》は、私とフォリオムで支える。その間に、君は彼女を海の底から取り戻して来い」
 心配そうな顔になったルキアンに、彼女は頷いた。
「そう。もし《地母神の宴の園》を本気で使えば、その土地の魔力を宿した霊脈は、向こう何十年かは霊的加護を一切失うほど、空っぽに枯れ果てるのだが。だが、心配しなくてもそんな使い方はしない」
 日頃は感情を露わにすることの無いアマリアが、さも楽し気に口元を緩ませた。
「闇の御子を助ける。人類が初めて報いる第一矢だ。さぁ、フォリオム」
 
「《宿命》とやら、曲げてやろうか」
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さよなら、真のヒロイン?

連載小説『アルフェリオン』、先日更新の第54話(その3)では、エレオノーアがまさかの……!!

消滅……。そんなのないですよね。
幸せに包まれた場面から、突然に終わりが来るとは。
本当に消えてしまいました。
「消える消える詐欺」(?)などと言われていたエレオノーアですが、ルキアンの腕の中で実際に消滅して……。
でも最後には「わたしは、あなただけのために咲く花です」と言い残し。もう、堂々のヒロインではないですか!(涙)

以前に出てきたヴァイゼスティアーの花の伝説が、エレオノーアの想いとあんなふうにかかわっていて、そして最後の「あなただけのために咲く花」につながっていたとは。

まるで、Holaraさんにも感情があるのではないか(ないです!)と思い込みそうなほどの、エレオノーアの最期に対する生成AI渾身の一枚です。

ちなみに、これは採用画像です。
以下、例によって、惜しくも採用されなかった生成画像をご紹介です。

まず1枚目。

これだと、ちょっと、気持ちが真っすぐすぎる感じなのですね。
エレオノーアは純粋そうでいて、いや、実際とてもピュアで、しかし、それでいてあれでもかなり屈折している女の子ですから。

2枚目。これは、ちょっと気持ちの強さが足りない気がします。難しいです……。

そして、最後まで迷った1枚。でもこれは、色々と作為的すぎるんですね。

しかし、いずれの絵についても、Holaraさんありがとう、です!

それから、第54話(その3)では、エレオノーアの影に隠れて、ヌーラス・ゼロツーの心情の描写が従来から大きく踏み込んだ感じですね。一気に人間臭くなったというのか……。これまでは「ゼロツー」という記号同然の名前で呼ばれていた、しかも性別不明だったキャラが、ここにきて「エリス」という本来の名前まで明かされる点も、なんともです。

今回、エリスとエレオノーアが、とても対照的に描かれていました。エレオノーアが可哀そうであるのは勿論なのですが、しかし「ゼロツー = エリス」だってよく考えてみれば悲劇的だという。むしろ皮肉にもエリスの惨めさが際立って……。まわりの人たちの想い、優しさに包まれていたエレオノーアとは違って、エリスの場合、誰も助けてもくれなければ、大切に想ってもくれないのですよね。それなのに強がって、悪女ぶって、「愛をちょうだいよ」と師のネリウスを面白半分に誘惑するエリスの姿は、痛々しく、哀しかった。ヒロインの一世一代の場面に、あれをぶつけてくるとは、作者もなかなか悪いですね(苦笑)。

いずれにしましても、本日も鏡海亭にお越しいただき、感謝申し上げます。
次の第54話(その4)が大変気になりますが、引き続き、お楽しみに。

ではまた!

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第54話(その3) 尽きる命

目次これまでのあらすじ | 登場人物 鏡海亭について
物語の前史プロローグ

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第54話PR第54話PR第二弾 |

 


第54話 その3
 
 何らかの神を祭った聖堂、それとも、ある種の聖域を思わせるような、よく磨かれた白い石造りの廊下のあちこちに、壁や柱の隅から次第に這い出してきた夕刻の影は、近づく落日に応じてその懐を広げている。静寂を揺るがせ、足早に駆け寄る音。これに対してもうひとつの足音が止まり、そして、荒い息遣いとともに、ひとりの《女》の甲高い声が、高い天井とそれを支える柱列の間に響いた。
「ねぇ、待ってよマスター! どうして、いつまでも……」
 言葉の調子はさらにヒステリックになり、声の高さも一段上がる。
「いつまでも、いつまでも、なぜ、あんな《廃棄物》を処分しないのさ!?」
 ふんわりとした水色の簡素な上着を羽織った銀髪の若者、いや、よく見ると銀髪の娘が、自身よりも遥かに長身かつ頑健な僧衣の男を見上げ、青い瞳で睨み据えている。
「何とか言って、マスター! マスター・ネリウス」
 ネリウス・スヴァンは振り返りもせず、その体躯に似合わぬ小さな声で答える。
「ゼロツー、あれのことは捨て置け……」
 不満そうに何か言おうとしたヌーラス・ゼロツーに対し、ネリウスは繰り返す。今度はもう少し大きく、低めの声で。
「捨て置けといったのだ。《片割れのアーカイブ》など、放っておけば、じきに消える。わざわざ追うだけ時間の無駄だ」
「そんなこと言っても、あの女はもう何年も生き延びているじゃないか。それで、普通の人間のように安逸をむさぼって……」
「それでも長くはもつまい。完全でない限り、《アーカイブ》は《執行体》よりも不安定な存在。もともと単独では現世に定着し難い。それに……」
「それに?」
 なおも不満に満ち溢れたゼロツーに対し、ネリウスは一息おくと、諭すように言う。
「かげろうのような儚い命のあれに、せめて一瞬の悦びくらい、許してやっても悪くはなかろう」
「……はぁ? あはは、おかしいね。それ、本気で言ってる?」
 挑発するような物言いの後、ゼロツーは首を傾げるそぶりをした。
「本当にマスターは甘いよ。これまでに数え切れないほどの人間を泣かせ、それどころか虐殺してさえいるのに、まだ甘さが抜けない。一体、どうしてなのかな」
 彼女がそう言い終わる前に、無視して離れようとしたネリウス。
「でも、マスターのそんな強そうで脆そうなところも、大好きなんだけど」
 憎悪の眼差しから瞬時に一転、青い目は妖艶な光を帯びる。ゼロツーはネリウスの腕を取ると、絡みつくように胸を押し付け、甘えた声でささやいた。
「ねぇ……。あんな《廃棄物》にまで慈悲をかけるなら、僕にも、少しぐらいは愛をちょうだいよ」
「やめろ、エリス。いや……ゼロツー」
 ネリウスは、無表情に自身からゼロツーを引きはがすと、言葉もなく立ち去った。
 
「……ったく。これだから聖職者(坊さん)は。僕だって、いつ死んじゃうか分からないのに」
 
 夕闇がまた近づいた。
 薄暗がりの中にひとり取り残されたゼロツーは、声を喉の奥に詰まらせたかのように、引きつり狂気じみた笑いを漏らすのだった。
 
 ◇
 
「遅いなぁ。せっかくのスープが冷めちまう」
「そうですね」
 ブレンネルとルキアンは、顔を見合わせて誰かを待っていた。彼らはこれから夕食のようだ。白いテーブルクロスの掛けられた、折り畳み式の木製の食卓には、大皿に乗った鳥の燻し肉を中心に、豊かな森の恵みを生かしたキノコや山菜の煮物、同じく近隣の谷川で獲れたであろう魚、玉ねぎを思わせる根菜の入ったスープ、チーズにソーセージなど、素朴ながらも多様な料理が並んでいる。
 それらを目の前にして「おあずけ」の状態となり、ブレンネルは今か今かと体を揺すっていた。対して食べ物にはあまり思い入れがないのか、ルキアンはおとなしく椅子に座っている。
「まぁ、仕方がないか。あの年頃の子の着替えには、何かと時間がかかるんだろう。特にお洒落したいときには。《おにいさん》に見せたいだろうしな」
 ブレンネルは顔を上げた。その先に天井のかわりに広がっているのは、料理に負けず劣らず素晴らしい星空だ。日中は快晴であった今日、晩の澄んだ夜空には無数の星々が、それこそばら撒いたかのように散らばっている。なおかつ、即席の野外食堂は渓流沿いの河原に設けられており、流れる水の音も心地よい。
 
「ごめんなさい。慣れない服だったので、遅くなりました」
 燭台の明かりに照らされ、そう言ったのはエレオノーアである。隣には追加で料理を運んできたリオーネが立っている。
 声の方に目を向けたルキアンは、どういうわけか、そのままの姿勢で動かなくなってしまった。何か信じられないものに遭遇したときのように。ブレンネルは、これは参ったという顔で賞賛の口笛を吹いた。
「あの、それで」
 ルキアンと目が合ったエレオノーアは、頬を薄紅に染め、うつむき加減で尋ねる。
「この服、似合ってますか? おにいさん」
「も、もちろん……」
 当然に肯定しようにも、ルキアンは息を呑み、返答のための言葉を失っている。先ほどまでのエレオンの姿とはうって変わって、白いワンピースに身を包み、髪の流れを櫛でよく整え、衣装と同じく純白のリボンを添えた彼女は、ルキアンのいまだ知らなかったエレオノーアである。その変わり様には、好感を通り越して恐ろしいところすら感じられる。輝く銀の髪、神秘的な青い光を帯びた瞳も、その魔性の力をいっそう増したように艶めいた。
 ――どうしよう。今のエレオノーア、真っすぐ見られないよ……。
「ほら、もう格好いいところをルキアンに見せたんだから、食べ物の汁で大事な一張羅を汚さないよう、これでも付けておきなさい」
 そう言ってリオーネは、質素な木綿のエプロンを手渡した。
「先生、何ですか、これ。ご飯前の子供みたいに」
 文句を言いながらもエプロンを身につけ、エレオノーアはルキアンの隣の席に座った。腰を下ろしてから、遠慮がちに、ひそかに体を寄せる。
「やった、おにいさんの隣です!」
「ど、どうぞ……」
 背筋を伸ばし、ルキアンがわずかに身震いした。ただ、その表情はエレオノーアへの温かな想いに満ちていた。
 そんな二人の様子を見守るリオーネの眼差しも、いつもより優しく、また嬉しそうでもあった。
「さぁ、みんな。用意はいいかい」
 彼女に促され、ブレンネルがグラスを手に取り、軽く持ち上げた。続いてルキアンとエレオノーア、そして最後にリオーネが祝杯の用意を終えた。彼女は目でルキアンに合図をする。彼は不慣れな調子で音頭を取った。
「あ。は、はい。それでは皆さん。今日の日に……」
 リオーネがしきりに黙って口を動かし、ルキアンに何か言えと伝えている。それに気づいて苦笑いしたルキアンは、隣のエレオノーアに微笑みかけ、二人の目が合ったところで穏やかにつぶやいた。
「エレオノーアの未来に」
 四人の声が見事に合わさった。
「乾杯!!」
 まずリオーネが豪快に飲み干す。彼女のこだわりで、最初の酒は、薄桃色に澄んだ泡の立つワインになったようだ。話によれば、タロス共和国の某修道院で作られた貴重なものらしい。
「あぁ、生き返るね。これぞ生命の水だよ。近々こんなこともあろうかと、わざわざ街の市場で買っといてよかった」
 騎士は引退しても、酒豪としてはまだまだ現役のようである。続いてブレンネルも一気に杯を空にし、皆が気勢を揚げた。
「いやぁ、旨い! 昨日今日は大変だったから、一通り終わった後の酒は格別だな」
 ちなみにイリュシオーネでは、地域や身分によって多少の差はあれ、15、16歳程度になれば基本的には成人である。18歳のルキアンはもちろん、エレオノーアも多少童顔だが歳自体はルキアンとあまり変わらないだろうから、普通に飲酒をしていておかしくない年頃である。だが不慣れな二人は、薬でも舐めるように神妙な顔をしてグラスを傾ける。お互いのそんな格好が何だかおかしくて、二人は無邪気に笑い合っている。
 彼らを母親のような眼差しで見守りながら、リオーネは大きめのナイフを手に、自慢げに言った。
「今日は魚は釣れなかったみたいだけど、先日たまたま手に入った上等の燻製がある。ほら、ごらんよ」
 鴨か雉のような野鳥を燻したものだろう。表面に飴色のつやを浮かべ、鼻の奥をくすぐる香りを漂わせた丸ごと鳥一匹のスモークが、テーブル中央の皿に載っている。今宵の食の主役を果たそうとしているかのようだ。
 リオーネが慣れた手つきで切り分けるのを、ブレンネルが待ち構える。その表情が思いのほか真剣で、第三者が見たら噴き出してしまいそうだった。
「パウリさん。お魚でよければ、こっちにも燻製ありますよ」
 小山のごとき燻製鳥に遠慮したのか、机のもう少し端の方に置かれた皿には、スモークサーモンに似た魚肉の薄切りが、野菜と一緒に何切れも盛り付けられている。それを指さし、エレオノーアが小声で告げた。
「お、おぉ、これはこれでなかなか。渓谷の地ならではの逸品だな」
 すぐさま味見を始めたブレンネルを尻目に、エレオノーアも燻製一切れをフォークで取ると、そのまま手を伸ばし、ルキアンに差し出した。
「実はですね。これ、私が釣って、私が燻したお手製なんです。おにいさん、どうぞ!」
 フォークを口元に突き付けられるかたちとなり、ルキアンは餌を待つひな鳥のように、エレオノーアから直接、手作りの燻製スライスを口に運んでもらうこととなった。そんな彼らのやり取りを眩しそうに眺めながら、ブレンネルが笑って冷やかす。
「おうおう。見せつけてくれるねぇ」
「本当だよ。何か、いい感じの二人じゃないか……」
 便乗したリオーネの言葉に、エレオノーアは、してやったりという顔で何度も頷き、逆にルキアンは顔を赤くして固まっている。
 
 昨日のルキアンたちの状況では想像もされていなかった、思いがけぬ愉しげな晩餐はさらに続いた。こうした集いにおいて、よく分からないタイミングで、宴席がなぜか偶然に静まり返る瞬間が時々ある。そういうとき、神や精霊が通ったのだと、昔の詩人は描写したものである。そして、今ここでも、不意に皆が静まり返った。にぎやかに飲み食いする彼らをのぞけば、深い谷間のこの場所では、今日のような静かな夜に音を立てるものは、すぐ側にある渓流のせせらぎくらいであろう。
 冷涼な谷間の流れが奏でる、さらさらとした響きを背景に、エレオノーアの声だけがぽつんと響いた。
「わたし、幸せです」
 残りの三人は食事を続けながら、彼女の言葉に頷いている。
「はい。とても幸せです」
 先程と同様に、三名は黙って頷いている。
「わたし、こんなに幸せです」
 なおも……。
 だが次の場面で、エレオノーアは突然大声で泣き出した。
「私、わ、わたし、こんなに幸せで、こ、こ、こんなに幸せで……いいのかな!?」
 不意に号泣し、周囲も気にせずとめどなく涙を流して、天を仰ぎ見るエレオノーア。
 ルキアンは慌てて胸元からチーフを取り出し、彼女の涙を拭おうとする。だがエレオノーアは首を振って断ると、三人の目をはばからず泣き続けた。
「おにぃ、さん……」
 嗚咽が止まらず、エレオノーアは、倒れ込むようにルキアンの胸元に顔を埋めた。そして彼にしか聞こえないようなささやき声で、ある物語を伝える。
「あの白い花、ヴァイゼスティアーの話。続きがあるんですよ。花になった最後の一粒の涙のこと。魔界の側に堕ち、人間の世に背を向けて闇の英雄となった黒騎士、フィンスタルという人の残した言葉。《次の世では、きっと》。どういう意味だと思いますか、おにいさん」
 エレオノーアは不意に顔を上げた。涙を目に溜めながらも、真剣なまなざしで。
「人は言います。フィンスタルは、次の世では、今度こそ聖女と結ばれると……。彼自身も死の間際にそう願ったのだと。でも私は、そうは思いません」
 強い意志の力を宿した瞳だ。エレオノーアの真摯な語りにルキアンは気後れしそうになるほどだった。
「私は勝手に信じているのです、おにいさん。フィンスタルには、聖女様よりも、もっと彼にふさわしい人がいたかもしれないのです。いや、いたと思います。でも出会えなかった。彼の生きた世では二人の道が交わることはなかった。だから次の世では必ず、もう迷わずにその人と巡り合えるようにって、私はそういう意味だと思ってきたのです。ううん。もっといえばですね、フィンスタルはきっと生まれ変わって、今度は、彼と同じような黒い瞳の、似たようなちょっと物悲し気な顔をした闇の一族の娘と、静かに微笑みながらいつまでも幸せに暮らしたのです。はい、そうに違いありません」
 色々と思い込みの強い彼女の言葉に、ルキアンは、つい自分自身の妄想癖を重ねていた。沈黙したままのそんなルキアンの気持ちが、エレオノーアには自然と想像できたようだ。彼女は涙を拭いて、いくらか無理のある感じで作り笑いを浮かべてみせた。
「私はそういう都合の良い物語を作って、独りで満足していたのです。私はずっと、おにいさんのことを想って……でも、たまには絶望し、あきらめそうにもなりました。そんなとき、私は、逃げ道を作るような気持ちで、無理に自分に言い聞かせようとしました。たとえおにいさんと会えないまま死んでしまっても、今度生まれた時には必ず出会える、と。私のお話の中の、フィンスタルのように」
 ヴァイゼスティアーの白い花に、エレオノーアがそのような想いを込めていたと分かって、ルキアンは、あのとき彼女の振る舞いに戸惑って真剣に話を聞いていなかったことを、申し訳なく思うのだった。エレオノーアが差し出した花の姿を、彼は再び思い出そうとする。
 ふと、そこで我に返ったルキアンは、いつの間にかリオーネとブレンネルが川の方に降りて立ち話をしているのに気付いた。グラスを手に、とりとめのない思い出話をしているようだが、多分、ルキアンたちに気を使って席を外してくれたのだろう。まだ肌寒くもあるが、夜の清流沿いはとても心地よさそうだった。
「エレオノーア、僕らも、川の方に行ってみようか」
 ルキアンはそう言って立ち上がり、エレオノーアに手を差し出した。
「はい、おにいさん」
 エレオノーアも嬉しそうに手を取り、立ち上がろうとするが。
 
「あ、あれ?」
 突然、エレオノーアの声が震えた。
「あれ? おかしいな。何、これ……」
 戸惑いを口にする余裕もほとんどなく、彼女は椅子から崩れ落ちそうになる。ルキアンと手をつないでいたおかげで、何とか転げ落ちずには済んだ。
「おにい、さん?」
 エレオノーアは、ふらふらと椅子に座り直そうとするも、腰を下ろすことさえできず、気を失ったようにルキアンに抱き留められた。
「エレオノーア! どうしたの!?」
「え、え、え? おにいさん、私、私、これ、どうなって……」
 暗がりの中、エレオノーアの身体が青白い光を放ち始めた。気が動転して、彼女の気持ちは、まともに言葉にさえならない。ルキアンの視界の中で、エレオノーアの身体が揺らぎ、輪郭がぼんやりと薄れていく。ルキアンは思わず目を擦ったが、まぎれもなく、いま実際に起こっていることだ。
「え、やだ、ちょっと、待って! わたし……わたし、消えちゃう? い、いや、いやです!!」 
 エレオノーアがなりふり構わず叫び始めたので、リオーネとブレンネルも、ただ事ではない様子に気づいた。二人が駆け寄る中、ルキアンはどうしてよいのか分からず、ただただ、エレオノーアを抱きしめた。だが、腕の中にある大切なエレオノーアの感覚が、次第に虚ろなものに変わっていく。そしてリオーネたちが隣まで来たときには、ルキアンの胸には、もうエレオノーアの体のぬくもりも、確かな存在感も、ほとんど残っていなかった。
「エレオノーア! 何があったんだい!?」
 事情はともかく、エレオノーアの命にかかわる事態であることは、リオーネにも分かる。ブレンネルはルキアンを心配し、彼の背中を支えるように後ろに寄り添った。
 すると、今まで慌てふためいていたエレオノーアが急に落ち着き、風の音のような、しかし人の声で、静かに伝え始めた。
「私、消えちゃうみたいです……。いつか、こんな日が来ると覚悟はしていました。《片割れのアーカイブ》は、《聖体》の定着が不安定なため、独りでは長く存在できないのです」
「だめだ、消えないで、エレオノーア!!」
 しかしエレオノーアは、ルキアンの言葉に対して悲しげに首を振ると、もはや悟ったような口ぶりで答える。
「私だって、消えたくないです。生きたいよ……。だけど、私を作り出すために生贄にされた人たちは、同じように、生きたいと願いながら、命を奪われていったのですよね。そのこと、ずっと考えないようにしていました。怖かったから。それでも、本当は生きたいです。自分だけ助かりたいという私は、地獄に落ちますか?」
「そんな…そんなこと……。エレオノーアに罪はないじゃないか!」
「ありがとう。だけど、もうお別れのようです、おにいさん。会えて、一日だけど一緒に居られてよかった。それだけで、私は世界で一番幸せでした。でも、もしもひとつだけ願いが叶うなら」
 彼女は、静けさの中に寂しさがあふれ出しそうな、微かな笑みを浮かべた。
「おにいさんのアーカイブになりたかったな……。だって、私は」
 もう生身の体すらなく、影のように揺らめくだけのエレオノーアが、ルキアンに口づけをした。
 最後の言葉を残して。
 
「わたしは、あなただけのために咲く花です」
 
 ひとしずく、実体をもって最後に落ちる涙。
 
 何度も彼女の名を呼び、絶叫し、錯乱状態で首を振るルキアン。彼の腕の中で、エレオノーアが見る見るうちになくなっていく。霧散するエレオノーアをかき集めようとするように、必死に両手で空をつかんだ。だが、彼の抗いは無力だった。
 
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あの頃のアマチュア・ウェブ小説の未来形が、ここにある。

連載小説『アルフェリオン』、昨日までのところで御子たちの画像(全身ヴァージョン)がすべて完成しました。
これを受けて本日は、御子たちの勢揃い画像を初公開です!

できました!
内容の方も、最新第54話のPRにとどまらず、『アルフェリオン』という小説全体のPRになっています。
特に「その作品は、深海に生きる名もなき魚のような」~「あの頃のアマチュア・ウェブ小説の未来形が、ここにある」という言葉には、とても気合が入っています!!(笑)。いま言いたいことについて、大方のところはその部分に込めてあります。

よく見ると、御子が一人増えているような気がします。いや、エレオン(エレオノーア)が、しれっと混じっていますね(笑)。「ロード」で人工的に作られた闇の御子は他の御子と違って「執行体」と「アーカイブ」の二人で一組なので、これでよいのです。第54話で退場するという話もあるエレオノーアさんについては、やはり「消える消える詐欺」なのでしょうか。その件については、現在連載中の第54話で今後確認ください。ちなみにいま、第54話(その3)を執筆中です。

本日も鏡海亭をご訪問いただきありがとうございました。
小説本編の方も近々更新して参りますので、お楽しみに。

ではまた!

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「闇」属性チームPR画像――ルキアン、エレオン新画像も!

連載小説『アルフェリオン』、各属性の御子とパラディーヴァたちの新PR画像を、この間、連日で公開して参りました。本日は最後の組、主人公ルキアンたちの「闇」属性チームです。

あれ? 誰!? ルキアンの顔が変わっている!(笑)
何か違和感もありますが、なるべく設定に近づけた表現だと、こうなるのかと。
特に髪型については、本当はこんな感じですね。この髪形、どうしてもプロンプトではAIさんにうまく反映してもらえなかったので、鏡海が描き直しました。
それから、鏡海亭では、これまで主としてややアニメ調(?)の画像を使ってきましたが、最近のところで画風の選択をちょっと変えています。この変化にルキアンも合わせて、上記の新ヴァージョン登場です(この間、新しいモデルが追加されたりして、Holaraさんの絵柄自体が変わってきている)。

服装についても、細部までHolaraさんに合わせてもらうのは厳しいので、元画像に鏡海も色々と手を加えました。ルキアン、元々、設定上は女性っぽい顔なのです。小説本編でも、ルキアンがクレドールに初めて乗り込んだとき、そんなことを言われていましたね。

それから「闇」チームで、ルキアン、リューヌ、エレオノーアの三人が集まった画像は今回が初めてです。以前はエレオノーアがいませんでしたし、今はリューヌがいません。
え? エレオノーア消えるのでは…という声もありますが?(苦笑) どうなんでしょうね。

今回は、エレオン(エレオノーアの男装時)の新画像も登場です。


エレオノーアの雰囲気は残しつつ、うまく違いが表現されていると思います。
Holaraさん、さすがです。
おにいさんのために戦う!という覚悟のみえる顔が、凛々しいですよね。
ちなみに冒頭のPRスライドにも出てきましたが、エレオノーア(女の子版)の画像は下記の通りです。こちらは柔らかい雰囲気です。

実は、エレオノーアの画像を確定するに当たっては、最終選考まで残りながらも採用されなかった画像がいくつかありました。それを特別にご紹介です。

まず、下の左側の画像です。比較のため、右側に採用になった方の画像も載せています。

まずこれです。左の方がかわいい!という声もあるかもしれません。
実際、私もそう思うのですが……ただ、雰囲気の点で、ちょっと純粋無垢すぎる気がします。
これに対して右の採用版の方は、清楚な感じは残しつつ、目つきとか口元とか、何か良くないものも知っちゃった顔(笑)、秘密を共有している顔ですよね。
エレオノーアが壮絶なものを背負っていることを考えれば、右を選びます。
なお、被っている帽子について、顔主体の画像だと、左側のようにどうしても一部が切れて生成されてくることも多めです。そこで右側のように、切れている部分が入るよう、帽子を一部自分で描き直さないといけません。
いや、いずれにしても、Holaraさん天才!(笑)……いや、天才というより、AIですから。

次は二枚。

こっちの系統の顔立ちの方が、エレオノーア本来のイメージに合っている気もします。
今後、もしかしたら使うかもしれません。何気ない日常的な場面等を描いた画像なら、合っていそうです。
ただ、これらは、リオーネさんの言葉ではないですが、ルキアンに出会う前のエレオノーアの顔ですね(笑)。
あるいは、むしろエレオンがこんな感じでしょうか。左側の画像、たとえばルキアンと淵に魚を釣りに行く道中の場面ですとか、「ちょっと変わった、(ルキアン限定での)かまってちゃんの少年」というエレオンの雰囲気にちょうどよいです。
ちなみに右側の画像は、実際、先ほどのエレオン画像のベースにもなっています。
これですね。比べてみてください。

これも、ルキアンに出会って心が決まったエレオン(エレオノーア)の変化が表れているような、そんな表情です。

最後に、エレオンの全身画像も、今回追加しました。
上の顔画像を全身画像に組み込んでいます。
以前も書きましたが、現時点でHolaraさんを使う場合、顔と全身は別々に生成して後から合成するのがよいです(小説やコミックの登場キャラのように、設定に細かく合わせた姿にする必要がある場合)。ただ、顔画像とは別個に全身画像を生成する場合でも、たとえ後で削除するにせよ「顔」の部分についてもそれはそれできちんとプロンプトを伝えておかないといけません。なぜなら、表情とか目や髪の特徴が、服装や体つき等々の部分に影響するからです。ほぼ同じプロンプトで指定されているキャラでも、目の色や髪の色が違うと(逆にいえば目や髪の「色」以外は同じはずであっても)、Holaraさんは、雰囲気やファッションをかなり変えて絵を生成することがあります。

本当は上着がもっと長い、ぶかっとしたローブみたいな衣装なのですが、これは軽快な夏ヴァージョン?でしょうか。
一見して少女っぽいですし、実際そうなのですけれど、このキャラは少年だといわれても、まぁ、そうなのかなと思える程度に中性的な感じで、いいですね。このあたりの意図をくんで画像を導着可能なHolaraさん、本当にすごいです。ただ、それでも細部については、生成されてきた「生」の絵を結構直さないといけません。これまではAIに対してプロンプターという立場の鏡海でしたが、最近は監修者・添削者(笑)みたいにもなりつつあります。
それでもまだ、直しきれていない部分が少なからずあるはずです。こういう点をふまえると、私とは違ってちゃんとした絵師である方の中に、一から自分で描いた方がむしろ(気分的に)面倒くさくないや、という人がいるのも分かるところがあります。

本日も鏡海亭にお越しいただき、ありがとうございました。
今後とも鏡海亭、『アルフェリオン』を応援よろしくお願いいたします。

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「風」の御子―ギルド最強の「緑翠の孤剣」カリオス!

ファンタジー小説『アルフェリオン』、先日の三連休から今週にかけ、御子とパラディーヴァのPR画像を、各属性ごとに続々公開中です!

本日は「風」チーム、カリオスとテュフォン。

あらら、カリオスが超格好よくなってしまいました(笑)。
この人、見た目的にはどこをとっても恐ろしく「普通」で、その外見なのに実は最強というギャップ萌え&燃えというキャラであるはずなのですが・・・。
言動や性格が平凡というのは、まだ多少は描きようがあるのでしょうが、「外見が平凡」って表現しにくいのですよね。これといって極端な特徴はないという各パーツを組み合わせていくと、結局、「そこそこの男前」(苦笑)という結果になってしまうかと思います。その手のキャラは、「印象に残りにくい」という意味ではたしかに「平凡」「普通」ではあるのでしょうが。

これは、Holaraさんが悪いのではなくて、「平凡」な外見というものを実質的に構成する諸要素(なんだそれは?)を、鏡海がプロンプトでうまく伝えきれていないからです。あるいは、カリオスの内面というか性格を率直にプロンプトにしたら、こんな感じになったということです。実際、先ほどの画像と私の中のカリオスのイメージは、大差ありません(笑)。改めて自覚させられました。カリオスの「普通」は、見た目ではなく普段の言動が普通、という意味だったのでしょう。

テュフォンは、私の中のイメージそのまんまです。
ただし、以前に公開済みの顔画像と比べ、今回は体全体も入るので、「風の精霊」感を出すのがなかなか難しい。そこはHolaraさんがうまくやってくれました。

これまで作品本編にて、テュフォンとカリオスに関しては、御子とパラディーヴァの間の交流があまり描けていません。まぁ、他の組に比べて、パラディーヴァのテュフォンがマスターのカリオスと離れて個別行動しているという点によるところが大きいのですが・・・。

二人の共闘に期待したいですね!

これで、炎・水・地・風の御子の組の新PR画像が出ましたので、あとはいよいよ「闇」のルキアンたちを残すのみです。
・・・いや、それ出してしまうと、エレオノーアの生存確定!(笑)ということになってしまいそうですが。いや、まぁ、エレオノーア、ここで退場するはずがないですよね。「消える消える詐欺」でしょうか!?
まぁ、彼女の行く末とは関係なく、闇チームのPRスライドも作成しています。現在消滅中のリューヌも入っていますので、まぁ、キャラの生存云々とは関係ないものとしてご覧ください。

本日も鏡海亭をご覧いただき、ご声援いただきましてありがとうございます。
引き続き、鏡海亭と『アルフェリオン』をお楽しみください!!

ではまた。

 

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紅の魔女・アマリア―見るがいい、御子の力を!

連載小説『アルフェリオン』、第54話(その3)の公開に向けて執筆を進めております。同時に、この間、御子とパラディーヴァの新PR画像も発信強化キャンペーン中(?)です。

本日は・・・。

《地》の御子アマリアと同パラディーヴァのフォリオムです。

何だか第54話の今後に関するネタバレ的なPRスライドです。ただ、『アルフェリオン』という作品の場合、最新分の公開前に、「実は次回、もしかしたらこういう流れにしようかと迷ってます」、「こんな新キャラを出そうかと思っているんです」、「こういう場面も入れられたらいいな」といった執筆中の作者の試行錯誤や個人的盛り上がり(笑)もあわせて記事として公開し、その延長線上に作品本編があるというスタンスで基本的にやってきています。

公式のネタバレや舞台裏の先行公開(笑)、その他、いわゆる「チラシの裏」的な情報も込みで、作品をお楽しみいただきたいという、まさにこれがアマチュア・ウェブ小説の醍醐味かと。

むかし、個人サイトでの公開がウェブ小説の主流だった頃には、そういう鏡海亭と似たようなスタイルの書き手さんが比較的多かったような印象があります。個々のサイトのデザインや雰囲気も、それぞれ、書き手さんや作品の個性が反映されていましたし、だから当該小説をそれが発表されているサイトまるごと含めて体感できたというのか、そんな感じです。そこがアマチュア・ウェブ小説の真髄、だったはずなんですよね。個人的な想いとしては。

私は、ネット小説黎明期のそんな雰囲気を大事にしたいと思いますし、当時のそういった雰囲気をご存じない読者様がいれば、そんな独特の面白さを持った世界もある(あった)ということもお伝えしたいです。なんというか、古き良き商店街・個人商店の世界の復権計画(?)みたいな様相を呈して参りましたが・・・。

まぁ、そのために、今は生成AIの力を借りることもできます。
「もう大丈夫、Holaraが来た!」(笑)

いや、それはともかく、今回は御子の大黒柱ともいうべき、《地》のペアのPRスライド公開の記事でした。アマリアさん、いよいよルキアンに直接、接触をはかってくるのか? これまでは「実況のおねえさんと解説のおじいさん」として知られていた二人が、ついに・・・。

物語の中の話でいえば、「楯なるソルミナ」やカセリナとの戦いを経て、ルキアンは(本人は自覚がないにせよ)「紋章回路(クライス)」を起動させており、これによってアマリアはルキアンとの間に「通廊」を開くことが可能だということになっています。

ただ、第54話(その2)のラストシーンから、今回のPRスライドで表現されているような状況に、どうやったら急になるのかと、首を傾げた方もいらっしゃるかもしれません。エレオノーアの命が消えてしまう話ではなかったか?と。いや、そこは、超展開と超覚醒で脳みそを揺さぶってくれる『アルフェリオン』ですから、ご期待ください。

最後に、アマリアさんの個別画像と

フォリオムの個別画像です。

フォリオム、伝説の大魔法使いか何かみたいじゃないですか!(笑)。

本日も鏡海亭をご訪問いただき、応援いただき感謝です。
また明日もお待ちしています。

ではまた!

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目覚めよイアラ――「予め歪められた生」の呪いを超えてゆけ!

連載小説『アルフェリオン』、現在、最新の第54話「御子の力」の更新中です。
悪夢のような、それでいて、ちょっと切ないワールトーア編を経て、一気に盛り上がってきました。
本日も、第54話に関連して御子のPR画像を公開です!

いや、実は、気持ちの悪い画像も含まれているかもしれません。
水の御子イアラの心の中を描写するためには、このぐらい、闇に落ち込んだ表現をしないと足りないです。
不気味で夢に出そうな部分を含む画像ですが・・・それでも多分、このスライドは、鏡海がいま趣味関係の画像でできる、全力に近いところにあります(苦笑)。Holaraさんも絶妙のサポートをしてくれました。

『アルフェリオン』は、本質的には、このくらいダークな側に振り切ったファンタジーなのです。
変に「ダークファンタジーです」(苦笑)などと喧伝したりせず、何食わぬ顔をしていますけれど。
ただ、鏡海の「全力」って……これが、2時間もあれば余裕で完成できてしまうのですよね。AIの力を借りると。怖いです。まぁ、2時間といっても、アマチュアが本業をしながらそのくらいの時間を趣味に捻出することの大変さには、それなりのものがありますが。好きでやっていることですから。

昨日公開した《炎》チームのPR画像は、能天気で笑えるところもありましたが、今回の《水》チームの画像は、何かと重すぎます。

それでも、イアラとアムニスの新画像は紹介しておきたいと思います。

イアラ、こうしてみるとヒロインの座も狙える逸材です。顔のアップ画像も本日作り直しました。
泣いていますね。「御子」の一人ですから、立ち位置的にも、ヒロインは十分あり得るのです。
エレオノーアも大変ですね。せっかくヒロインになれるかと思いきや、次から次へとライバル(?)が……。

さらに、全身画像です。
一応、イアラは富豪のお嬢さんですからね。そんな感じの?シンプルな黒ではあれ安っぽくないような衣装です。

なんだか、この画像を見ていると……アムニスではなくて、イアラの方が水のパラディーヴァみたいですね。
感情の通った人の感じが薄いです。

座り込んでいるイアラさん。

鬱屈したイアラを見守る、水のパラディーヴァ、アムニスです。

本作きってのイケメン(!)という設定です。設定上は。

全身画像。いかにもなファンタジー風美形キャラではありますが(汗)。

先日以来、御子の《炎》チーム、《水》チームと来て、次回はもしかすると《大地》チームか、《風》チームでしょうか。なかなか楽しみです。いや、ルキアンとエレオノーア、リューヌの三人勢揃いの《闇》チームの画像かもしれませんね。

いや、そのためには、死亡フラグ立ちまくりのエレオノーアが第54話を生き延びねばなりませんし、何より、消えてしまったリューヌが復活しないといけません(するのか?)。

本日は、最近の猛暑な日々にも増して、過ごしにくかったですね。
そんな厳しい天候の折にも、大切なお時間をいただき、鏡海庵に足をお運びいただきましたこと、感謝です!

ではまた。

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《炎》チーム、参戦?―グレイルとフラメアPR画像

連載小説『アルフェリオン』、今回は久々にルキアン以外の御子のPR画像を公開です。
 
 
フラメア、ガラ悪い(笑)。エレオノーアが怖がっています。
いつか小説本編でも、二人が出会って、こういうシーンが実際に出てくるんですかね。
 
「暴れたい、暴れたい」が口癖な、フラメアの狂暴な一面も真ん中の画像によく出ています。
フラメア、乱暴で横暴だけど、良いところもある子なんですよね。あれで結構、グレイルに気を使っていて、優しいところもあります。以前に小説本編にてグレイルが覚醒(?)したときには、マスターの彼を大切に想うフラメアの名セリフがいくつも出てきていました。
 
また、全身画像にすると、グレイルが思ったよりかっこよくて想定外です。
もう少し無精というのか、もっさりした雰囲気のキャラのはずなので。
(顔だけの画像だと、そういう雰囲気も出ているのですが)

 
グレイルとフラメアの全身画像を以前から作ってみたかったのです。フラメアの画像、ほぼ私の脳内イメージ通りにできました。Holaraさん、私の頭のなかが見えるのか?という感じですね。いや、何度でも細部の修正を依頼でき、制作時間的にも(=生成は一瞬)何度も何度も繰り返しが可能なので、とことんイメージに近づけられるんですね。もし人間の絵師さんにお願いして、こんなに何十回もダメ出ししたら、怒られますよね(苦笑)。。。
 
ともあれ、すでに公開しているフラメアの顔画像から、その特徴や雰囲気は残しつつ、絵のタッチを少し変えた画像を作りました。また、髪型については、鏡海がそこそこ描き足しています。元々の絵よりもボリュームアップしました。髪の毛が、途中から先の方に向けて炎っぽい感じにもなっているところも、表現できていれば良いのですが。
 

意外とかわいい?(笑)。目つき、口元、ちょっと小悪魔的な雰囲気が、なんとも。
 
キレた顔!(笑) パラディーヴァなのに感情表現が豊かなんですよね。
 
いつも、空にふわふわ浮いているイメージです。
 
こういうファッションも。
ちなみにパラディーヴァの外見は、中身とはあまり関係ありません。たとえば老人の姿のフォリオムも、ロリータな感じの(笑)フラメアも、年齢は同じです。精神年齢も変わらない……はずなのですが、どうみてもフラメアは子供っぽいんですよね。そのくせ、ときどき大人びたことを言うので、どきっとさせられますが。
 
実は、現在更新中の第54話では、今後、ルキアン以外の御子も何らかのかたちで登場する可能性があります。なんせ、第54話のタイトルが「御子の力」ですから。詳しくは言えませんが、これから起こる出来事に対し、御子たちがかかわることで少年コミック的な激熱の展開(?)になりそう……です。ご期待ください。

ひょっとすると「御子の力」は、前・後編の二部構成になるかもしれません。つまり、現在の第54話を「御子の力(前編)」に変更して、次回の第55話を「御子の力(後編)」に、というふうにです。なるべく第54話1回ですべてまとめたいのですが、収まるのかなぁ。。。
 
本日も鏡海亭にお越しいただき、応援いただきありがとうございました。
引き続き、『アルフェリオン』頑張って参ります。
 
ではまた!
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本日はPR画像特盛! 因果の鎖を断ち切り、宿命を、超えてゆけ!!

連載小説『アルフェリオン』――第53話でワールトーア編が終了し、現在更新中の第54話からの新編が、じわじわと盛り上がってきております。昨日も第54話(その2)をアップしました。

その第54話(その2)の内容を特に意識した、新たなPR画像を公開です!

あまり気持ちの良い画像ではないかもしれませんが、「聖体降喚(ロード)」のイメージを効果的に画像化できたかと思います。今回も画像生成AIのHolaraさんが大活躍です。実は、真ん中の絵は、Holaraさんに生成してもらった5種類の元画像から良いところを切り貼りして、ひとつに組み合わせたものです。
鏡海も頑張ってAIさんをお手伝いです(笑)。

あるいはエレオノーアの驚愕の表情、本当はもっと狂気感あふれる顔にしたかったのですが、これはこれでかわいいので採用です(!)。
ちなみに下記の画像、左側の画像を元絵にして、そこからHolaraさんに右側の画像を導着してもらいました。
元の画像に細部がなるべく似るよう、鏡海も多少手を入れています。
襟に刺繍みたいな派手な模様が入ってしまったので、消したりですとか(笑)。
顔の陰影が変だったので直したりだとか。

次回の第54話(その3)では、またまた大ピンチになる見込みのエレオノーアさんです。
この前は、エレオノーアの純潔の危機!でしたが、今度は、生命の危機!!です。
作者、いろいろ酷いですね。

ちなみに第54話(その2)のルキアンとエレオノーアのやり取り、笑ってしまいますが、甘酸っぱい青春的な感じで、青春時代がもうジュラ紀のように遠くなりにけりな鏡海(笑)からすると、何だか胸が締め付けられます。リオーネとブレンネルも、二人をそっと見守る良い大人(?)なところが微笑ましいですね。

 ◇

さて、今回は「特盛」だということで、エレオノーア祭りに引き続いて、先日の「灰の旅団 八騎天」の画像公開の続きです!

何でまたシェフィアーナ(元)姫がいるのかは謎ですが、そこは無視するとして、新たに第五席、第六席、第八席の画像を初公開です。ダークエルフと乙女な聖騎士とサムライ、いい感じです。
今回は、キャラごとのもう少し詳しいPRスライドも用意しています。

では席次の順に。まず第五・六席のセットで。

第五席、そのへんに普通に居そうな人ですが、一応、サムライ・ロード(?)です。
彼の部下としても、サムライやニンジャの名有りキャラが何人か出てきますので、お楽しみに。
こんな飄々とした雰囲気でも、カゲマサさん結構強いです。剣での勝負なら、シャレにならんくらい強いです。しかし、いくら強くてもミルファーン人でなければ第四席以上には上がれないという暗黙のルールがありまして、それでも、第四席より下の中では最上位の第五席なのです。

物語の設定上、「灰の旅団」の属するミルファーン王国には、彼のようなナパーニア人が比較的多いということになっています。たとえば、ナッソス家との戦いからクレドールに助っ人として乗り込んだ、サモン・シドーはナパーニア人です。が、ミルファーン暮らしが長かった、という描写が前に出てきていました。本編でもすでに言われているように、ナパーニアは、旧世界の時代に繁栄の後、滅んでしまったのです。だから現世界ではナパーニア人は国を持たず、世界中に散らばっています。「日本、このままで大丈夫か!?」というキツめの皮肉ですね。現実としては、全然、大丈夫ではないですよね。。。それはさておき、ナパーニアというのは、ドイツ語の「日本」つまり「Japan(ヤーパン)」から→「ヤパーニア」→「ナパーニア」と変換したものです。いくらなんでも「ジャパーニア」だったら、そのまんますぎですね。
カゲマサ・デン・ノルスリヒト=ムラクモさんって、中二病的な響きがあってよいです(笑)。
和風に直すと、村雲景正さん、ですか(?)。

続く第六席の奇妙な名前の人、ダークエルフ・・・。人間とは明らかに違う名前というところを強調したかったので。実は『アルフェリオン』に出てくる「エルフ」って、設定的には宇宙人の子孫(!)なんですよね。まったく、とんでもないファンタジー小説です(笑)。旧世界の人類が初めて遭遇した人類以外の知的生命体、イルファーです。このイルファーが「永遠の青い夜」以降、地球、もとい(知らんふり)、惑星「エルトランド」から去って、地上に残された子孫がエルフです。エルフとイルファーって、似てますよね(笑)。ちょっとした伏線でした。

ちなみに現世界でもエルフ、あるいはイルファーの血を濃く引くキャラもいて、たとえばリーン、すなわちリーン・ルー・エルウェンは、何だかエルフっぽい風貌だという描写(耳が尖っている等々)が前に出てきました。そういえば、リーンもあれからどうなったのでしょう。ヨシュアン殺害の濡れ衣を着せられて、ファルマス様達に連行されたんですが・・・。

あ、エルドリンドさん自身の紹介はほとんど忘れてしまいました(笑)。悪そうですが、実は意外に良識的な人、という感じです。クラスは、ファンタジー世界的にはアサシンですね。裏の世界で名を知られた暗殺者、「灰の旅団」は隠密部隊のような存在で、密かに汚れ仕事もしますから、こういう通常の騎士団には迎えづらいキャラも混じっています。

 ◇

続いては「八騎天」の第八席……一応、八席ということは最下位なのですが、それは彼女が弱いということではなくて、入団したばかりだからなのですね。それでもいきなり八騎天の一人ですから、期待大の新人です。

「憧れのシェフィーア様のために」って、彼女がどんな人か本当に知ったうえで、言っているのでしょうか(笑)。一応、シェフィーアさん、最強の機装騎士であり、しかも元・お姫様ではありますが、かなり危ない人です。

それはともかく、フェロンヌ嬢、正統派美少女ではないですか(笑)。いや、ほんとに、『アルフェリオン』史上稀にみる……。もしかして、エレオノーアが余裕のヒロイン独占ということにならないよう、対抗馬の一人として投入されたのでしょうか?

一応、第三席のユーディティアも聖職者系戦士、いや、戦える神官なのですが、しかし彼女は暗黒神を信奉している人です。これに対してフェロンヌ嬢は、真っ当な白い神官の魔法を使うので、クラスも暗黒騎士(ダークナイト)とかではなく聖騎士(パラディン)です。こちらは騎士がメインで、神官魔法も使えるというキャラになります。

パラディンの天才少女、何だか素敵です。ただ、彼女は「灰の旅団」への入団をめぐってややこしい事情を抱えていて、その際に(運悪く?)シェフィーアさんに助けてもらったのです。そこで、巧みに篭絡され、シェフィーア信者になってしまった模様です。もう、血くらいは吸われてしまってるかもしれませんね(苦笑)。

ちなみに主人公ルキアンからみると、自国を代表する聖騎士団であるはずのパラス・テンプルナイツが、助けになってくれるどころかむしろ「悪役」的な立ち位置であるのに対し、ミルファーンの「灰の旅団」は、今後、心強い味方になってくれそうなのです。何だか奇妙です。

 ◇

本日も鏡海亭にお越しいただき、応援いただき、ありがとうございました。
ここ最近、創作の神が降りてきている(笑)ような感じですので、頑張って参ります。
どうぞお楽しみに。

ではまた!

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第54話(その2) 「予め歪められた生」と「永劫の円環」

目次これまでのあらすじ | 登場人物 鏡海亭について
物語の前史プロローグ

  --- 第54話に関する画像と特集記事 ---

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第54話 その2
 
 ◆ ◆

 今から約20年前――新陽暦283年、オーリウム王国の都・エルハインにて。

 その夏、王国は近年稀な猛暑に見舞われ、この時間、日暮れも近くなってから、夕涼みがてら、人々の姿が街にようやく増え始めるのであった。そして、真夏の長い陽がラプルス山脈を遠く望む方角へと、満足げに沈んでゆく頃、王国あるいは世界中から俊才の集まる王都の神学校でも、学生たちがこれから三々五々、お気に入りのカフェや酒場へと繰り出そうとしていた。
 そんな中、平然としつつも、どことなく周囲の様子を気にするような態度で、一人の神学生が校地の奥まった方へと歩いていく。彼が向かっているのは、王立神学校の広大な敷地の中でも普段はあまり使われていない、古い建物のひとつ、《メラクの青の礼拝堂》であった。現在では、図書館や研究棟に入りきらなくなった蔵書を仮に収めている場所であり、いつもなら、特にこのような夕方遅くになると、周辺では人の姿はあまり目につかない。
 神学生は、念押しといわんばかりに、振り返って周囲を見た。向こうから別の学生がやってくる。そして別の方向からも、また一人。大扉のある礼拝堂のファサードは、古いなりにも、いや、むしろ古びた石彫がかえって重厚さを醸し出す様相だが、その脇を通り過ぎ、建物側面の小さな庭園に隣り合う通用口のようなところから、神学生たちは礼拝堂に入ってゆく。
 《青の礼拝堂》という通称の起源になった、深みのある藍色を中心とする壮麗な天井画は、現在の世界の神々を題材としつつ、どことなく《前新陽暦時代》のレマリア帝国の壁画様式をも想起させるタッチで描かれていた。けれども残念なことに、今では天井画の変色が激しく、かなり剥げ落ちてもいる。その様子を頭上に仰ぎみながら、一見すると地下墓地への入口にも思われる階段を降りていく学生たち。その先にある小部屋に集まると、彼らは、猛暑の中で敢えて二重にまとっていた法衣を払いのけ、皆が同じように黒衣の姿となった。
 この黒ずくめのいでたちは、異端として弾圧されるほどではないにせよ、イリュシオーネの神殿における正統派教義からは外れており、多くの神殿関係者から批判の目を向けられる教派、《連続派》のものである。この場合の《連続》というのは、ひとことでいえば、世界観・歴史観において現世界と旧世界との連続性を敢えて強調しつつ、信仰も含め物事の理解を図ろうという意味である。魔道士たちからみれば、現世界の文明は旧世界と切っても切り離せない一方で、この世界の正統教義に立つ神官たちからすれば、いわゆる《イノツェントゥスの誓い》以前のこと、つまりは《新陽暦》が始まる前のことは、ほとんど省みる価値のない《暗黒時代》や《突飛な言い伝え》にすぎない。いや、正統派としては、そういうことにしたいのである。《新陽暦》以前の伝説の蓋を不用意に開けることは、時にはむしろ危険思想ですらあった(なお、旧世界滅亡の真実につながる《沈黙の詩》を研究していることを、以前にシャリオが隠していたのは、この種の研究が神殿関係者の間ではタブー視されているからに他ならない)。

「諸君。我々の有志による調査団が、イゼール樹海の遺跡にて《石板》第7編を発見したことは、周知の通りだ。そこに書かれていたことも事実だと考えている」
 おそらく定期的に開催されている教派の会合、先ほどのような事情のため、一種の秘密結社のような集まりなのであろう。学生のリーダー役と目される一人が口火を切った。
 それに耳を傾ける者たちの中には、学生だけでなく、近隣の神殿の神官や神学校の教授とみられる者も何人か混じっている。教授の一人が、静かな物言いの裏にも興味を押さえられないような様子で尋ねる。
「第7編の位置づけは、よくてもせいぜい外典、いや、別の時代に後付けされた偽書ともいわれてきたが……。その実際の姿、早く聞きたいものだ、コズマス君。これまで推測されていたように、第7編には《御子》に関する重要なことが書かれていたのかい?」
「はい、先生。しかし、我々にとっては認めたくない内容も含まれています」
 神学校きっての傑物と呼ばれるコズマス・バルトロメアが答えた。彼は、離れて座っている者には聞き取り難いような、微かで長い溜息をついた後、皆の顔を見渡した。
「これでは、たとえ何回、いや、何千、何万回……人の子が《あれ》のことに気づき、《御子》とともに抗ったところで、結局は毎回、世界はただ《あれ》の導く歴史をなぞり、いつかそこから外れたときには《再起動(リセット)》されて無に帰すだけだ。過去にも無数の世界がそのような結末を迎えてきたと、石板には記されている。永遠に同じことの繰り返しだ……」
 コズマスが話し終わるのを待てず、一人の学生が激高し、立ち上がって叫ぶ。
「それでは、我々の世界とは、歴史とは、いったい何の意味がある!?」
 対するコズマスはあくまで冷静だった。もっともそれは、他に先んじて石板第7編の真実に接し、それを受け止めるための時間が今日に至るまでに幾らかあったからだろう。
「我々の生(なま)の存在や、この世界で生起する生(なま)の事実に意味などない。その意味というのは、我々が自ら与えることにより初めて生じるものだ。破滅に向かうまでの生きざま、日々の道のり、そして滅びの日を迎えたという結果に、人として生きた《意味という爪痕》を刻み込むのだ。たとえ、来るべき世界ではすべて忘れ去られようとも」
 いささか抽象的な言い方で言葉を濁したコズマスに対し、次の一瞬は沈黙が広がる。彼は続けた。
「そう、単に、この世界の本質をなす《絶対的機能の自己展開》をなぞり、因果の鎖が日々現実化していくための無数の作用点として生きること、そうすることが、《人の子》に与えられた存在理由、すなわち、《あれ》の自己展開を賛美し、《あれ》の生み出した世界を予定通りに、できる限り忠実に描き出していくこと。それだけが人間の役割なのだと」
 その言葉を受け、先ほど激高しながら尋ねた学生が言う。
「信じられない。《人の子》は《あれ》の一人遊びの駒でしかないと? しかも、遊戯が間違った局面を迎えれば世界もろとも捨てられるだけの……。あぁ、ならば人は、何のために生まれ、死んでいくのだ? 少なくとも、いま実際に我々の生きているこの世界、我々にとっての唯一本物の、この世界にすら、いったい何の意味があるというのだ」
 別の学生からも発言が次々と飛び交う。
「仮にそうなら、正直なところ、人や世界に意味など求めても空しいだけなのでは? 少なくとも普通の人々にとっては。否、むしろ何も知らない方がよいだろう。それにコズマス、《あれ》の駒として自ら演じさせられてきた現実に、いくら懸命に主観的な《意味》を付与しようとしたところで、それは我々が単に《解釈》を施したということにしかならないのではないか。そんなことは、ただの自己満足だ。《あれ》への抵抗にすらならない」
 だが、喧噪のもと、一人の学生が立ち上がり言葉を発すると、彼のもつ不思議な落ち着きや説得力によって皆が再び静まり返る。コズマスの盟友にして、噂では錬金術にも手を染めているといわれる男、カルバ・ディ・ラシィエンだ。見事に手入れされた現在の彼の口髭とは異なり、無精な状態であった若き頃の髭を撫でながら、彼は告げる。
「だが、どうせよと? 《御子》には二つの呪いが掛けられている。《予め歪められた生》の呪いと《永劫の円環》の呪いだ。たとえ御子が生まれても、御子は《予め歪められた生》の呪いに押しつぶされ、大抵は、自らの使命を知ることもなく惨めな生を終える。そして《御子》が己の使命を自覚しても……」
 彼の言葉に頷きつつも、狭い地下室に溢れた熱気を避けるかのごとく、敢えて奥で腕組みしている学生がいた。まだ当時は不完全な闇の紋章も刻まれていない、その思慮深い瞳で、ネリウス・スヴァンはカルバを黙って見つめている。
 手を打ち合わせ、コズマスの声が響いた。
「諸君、静粛に!」
 それまでよりも低く、重々しい声で彼は皆に伝える。
「そう、第7編の石板は伝える。《永劫の円環》の呪いの詳細を。これでは、あるひとつの時代にすべての御子が揃うことは、《絶対に》あり得ない。絶対にだ。人の子が《あれ》に立ち向かうことなど《最初から》不可能だったことになる」
 常に論理的なコズマスが《絶対に》などという表現を使ったのは、もちろん浅慮や高揚からではない。

 続く言葉が、地獄への戻れぬ道の始まりだった。

「だがそれは、人の子の営みを自然の摂理に任せている場合のこと、つまりは《あれ》の仕掛けた《いかさま》のルールに従っている限りでのこと。諸君、敢えて言おう。《永劫の円環》に背いた存在を《人の子》が作り出す秘術は、同じく第7編の石板に示されている。だからこそ、第7編は禁断の石板と呼ばれ、秘匿され続けてきたのだろう」

「それが、《聖体降喚(ロード)》だ」

 コズマスがそう告げ、一連の説明を続けた後――静寂を突き崩し、地下室から無数の怒号や絶叫、机や壁を叩く音が、すなわち集まった者たちの非難や絶望の表明が、空しく響きわたるのだった。

 ◆ ◆

「おやまぁ、あんたたち……」
 あたかも子守りをする老婦人が、幼子の思わぬ反応に呆れながらも目を細めたときのように、リオーネ・デン・ヘルマレイアは、予定より遅く帰宅した二人の姿をみた。
 扉を開けてルキアンが中に入ってくると、後から続くエレオノーアが――いや、今は少年の装いと振舞いに戻ったエレオンが――遠慮がちに、慌ててルキアンと変な距離を取る。そうかと思えば、リオーネとブレンネルの顔つきを横目でちらちらとうかがい、エレオンはまたルキアンににじり寄る。今度は、二人の間は妙に近い。ルキアンの背中で、エレオンの指がルキアンの指に触れ、また離れた。
 ――なんだい、これ。何があったんだろうね。
 リオーネがエレオンを手招きすると、《彼》(彼女)は熱に浮かされたような足取りで、しかし心地よさげな顔をしてそれに応じた。ルキアンの横を通り過ぎるときにも、《彼》の目が意味深にルキアンに向けられ、二人とも一瞬固まったような動きをして、うっすらと頬を染める。
 明らかにおかしく、だが初々しくもある二人の様子をみると、座って地図をみていたブレンネルは口元を緩めた。
 ――あはは。いいね。これが、いわゆるひとつの……青春って、やつか。
 ルキアンたちのいる居間を離れ、リオーネはエレオンを台所に連れて行く。そして急に、頬が擦り合うくらいのところまで顔を近づけると、リオーネは声を潜め、鋭くささやいた。

「ねぇ、あんた……。もしかして、人を斬っただろ? 初めての匂いがするよ」

 経験を積み重ねた戦士の直感、その前ではごまかしはきかない。エレオンが上着の袖をあたふたと触り、どこかに血でも付いていないか探そうとすると、リオーネは仕方なさげに苦笑した。
「馬鹿だねぇ。そういう匂いのことじゃないよ。あんたの感じ、雰囲気のことだよ」
「そ、それは……。はい」
「何か大変なことがあって、あんた自身やルキアン君を守るために、仕方なくやったんだろうけど、人を傷つけた、いや、まだうまく加減できないあんたなら、たぶん何人かは《殺した》ということは事実だろうからね。たとえ相手が悪党でも、あるいは戦場であったとしても」
「は、はい。先生がいつもおっしゃっていたこと……。剣の重さ。それを咄嗟によく考えられず、必死で戦ってしまいました。ご、ごめんなさい」
 エレオンが言葉に迷って頭を下げると、リオーネは《彼》を正面から見据え、首を傾げた。その静かな気迫にエレオンが少し慄いている。
「おや。なんで謝るんだい? そこで謝られたら、あたしの仕事は騎士だった……いくらきれいごとを言っても戦いで人を殺すことが生業だったんだよ。なら、あたしなんか、これまで生きてきてごめんなさい、なんてことになるだろ」
 エレオンの柔らかな銀の髪を撫でながら、リオーネは小声で付け加える。
「手首と足首。その跡、ひどいね。何があったの?」
 赤く腫れ、擦り傷もできている。山賊たちに縛り上げられていたときのことを思い出し、エレオンは誰に弁解するともなく慌てて答えた。
「ち、違います! その、ちょっと跡がついただけで、それ以上、変なことは……されていません!」
「そうかい。無理に、根掘り葉掘り聞かないことにするよ。分かった。いずれにしても、あんたの誇りを汚されるようなことは、されていないんだね。私のかわいいエレオノーア」
「あ、あ、当たり前です! 先生の意地悪……」
 勿論、ルキアンがエレオンにそのような酷い振る舞いをすることなど考えられなかったので、別の事件に巻き込まれたのだろうとリオーネは思った。何があったのか心配だが、彼女は敢えて異なることを言った。
「それに、あんた……。顔が、女になったね。もうエレオンは廃業かもね」
「あ、その、はい?」
 出し抜けに指摘され、驚いて、頭から抜けるような甲高い声で返事をしたエレオン。
「その見た目、いつまでも子どもっぽさが抜けきらないし、いつになったら大人になり始めるのかと思っていたけど……。なんか親離れっていうのか、寂しい気もするよ。変わったのかね」

「人とは違った重荷を抱え、苦しみ抜いて生きてきて、やっと初めての恋をして」

 リオーネが率直な物言いばかりするため、エレオン、いや、エレオノーアは恥ずかしくて卒倒しそうな心持ちになった。《彼女》は必死に首を振る。なぜ否定しようとしているのか、自身でも呆れつつ。
「あ、いえ、そのですね! おにいさんは、私の、大事なおにいさん、であって……。そんな、恋しているとか……いえ、その……つまり……」
 何か言葉を発するたびに、エレオノーアはむしろ深みにはまりつつ、顔もますます赤らめていく。そんな様子をみて、リオーネは、もうお手上げだというふうに肩をすぼめ、両掌を返した。そして居間に戻っていくとき、去り際にひとこと。
「ふぅん。恋かどうかはともかく、でも、一番大事な人なんだろ、ルキアン君」
「はい、それは! もう、もちろん。世界で一番大切な、私のおにいさんです!!」
 結局、エレオノーアは全力で認めている。気持ちを押さえておけないのだろう。

 淡く、可愛らしいエレオノーアのそんな想いとは裏腹に、造られた不完全な御子としての宿命は、まもなく彼女を残酷極まりない結末に向き合わせようとしていた。

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第54話PR画像、第二弾です!

連載小説『アルフェリオン』、最新・第54話「御子の力」のPR画像第二弾を公開です!
 
 
あれ? この人、誰でしょう。
『アルフェリオン』に、こんな美少女って出てきましたか?(笑)
はい、いつもの男子スタイルではなく、女子スタイルになったエレオノーアです。ただ、かなり、盛りすぎた感もあります。元々、なんとなく垢抜けないところもそれはそれでエレオノーアの魅力的な点でしたし、先ほどの画像はあくまで広報用ということで。
 
初登場の第53話開始の時点では、ちょっと痛い子だとか、意味不明ちゃんだとか、そんな評価もあったであろうエレオノーアでした。しかし、「不完全なアーカイブ」という彼女の存在のあり方を考えれば、ルキアンに対する彼女の一連の言動には理解できるところも少なくありません。
 
エレオノーアは、ふわふわしているようで、達観しているような部分やとても意志の強い部分ももっています。もっとも、頭のネジが何本か飛んでいるような一面と、断固たる鉄の意志という一面とを併せ持っていなければ、彼女は生きていられなかったかもしれません。何しろ、自分がまともな人間ではなく、いや、もはや人ですらないような存在であり(という言葉で言い表せないほど酷い存在なのですが、詳しくは小説本編で)、かつ、不安定でいつ消えるかも分からない状態にある中、それでも笑って暮らしているエレオノーアは強いです。
 
特に、唯一本当の自分自身だと信じていた、その強固な意志さえも、もしもその身体に「ロード」された別の何かの精神活動にすぎないのだとしたら……。「我思う、故に我有り」ではなく、「我思えど、それは虚ろな我」だったら、悲惨過ぎます。そこまでして闇の御子を人工的に生み出さなければならない理由って、何なのでしょうね。
 
 
もう一方のルキアンからみると……最初は、変な少年(?)が一方的になついてきて、それが実は少女だと分かって想定外のドキドキになったり、彼女の壮絶な身の上に同情したり、そして一緒に大ピンチを乗り越えたりして、あれだけの短い間に、エレオノーアとはもう元の他人同士の二人には戻れないような関係になってしまったかもしれません。彼女のことをどう思っているのか、ゆっくり自覚、自問する余裕すらなく。何なのでしょうね、これは(笑)。いわゆる「吊り橋効果」の極端なやつ、超々吊り橋効果、とかそんなところでしょうか(違います)。
 
それにしても、ルキアン。あの山賊との戦いでは、ヒロインに守られて、それにもかかわらず敵に捕まって、ヒロインを窮地に追い込んでしまう主人公って、いったい……。そこがルキアンらしいといえばらしいのですが、おかげで一時は、エレオノーアが絶体絶命の危機に瀕しました。
それでも、主人公ルキアンに幻滅したり見限ったりせず、真っ先に「私のおにいさん!」と飛び込んだエレオノーアは、何とよくできた子なのでしょう。
 
これで、長らくヒロインのいなかった(いなかったというより「確定していなかった」という方が正しいかも)『アルフェリオン』にも、ついにヒロイン誕生でしょうか。いや、第54話で退場しなければ……の話ですが。第54話の今後に、ますます目が離せません。
 
本日も鏡海亭にお越しいただき、応援いただき、ありがとうございました。
大変に暑い日が続いておりますが、そんな日には冷たい飲み物など片手に、鏡海庵をお楽しみいただけましたら幸いです。
 
ではまた!
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