鏡海亭 Kagami-Tei ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石? | ||||
孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン) |
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生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。
第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29
拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、 ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら! |
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小説目次 | 最新(第59)話| あらすじ | 登場人物 | 15分で分かるアルフェリオン | ||||
北の大国の隠された牙、灰の旅団
連載小説『アルフェリオン』――第54話までヒロイン不明であったこの物語に、ようやく真のヒロインが爆誕しそうな今日この頃です。この間、関連画像も増発されてエレオノーア祭り(?)になってきていますが、実はその裏で密かに進んでいたのが、続くミルファーン編に向けての「灰の旅団」キャラたちの画像化です。
本日は、その一部を初公開!
今回も、まず生成AIのHolaraさんに原画を出してもらい、その画像に鏡海がクリスタで手を入れ、パワーポイントで統合して1枚のスライドへと編集しています。
おお、ルキアンたちが青春(?)したりピンチを乗り越えたりしている間に、こんなシリアスな印象の画像が……。いや、シリアスなはずが、真ん中に鎮座している人のせいでちょっと笑ってしまうのは、何ともかんともです。
シェフィーアさんの所属する「灰の旅団」ですね。ミルファーン王国の誇る特務機装騎士団。
誰が団長だか分からないくらいシェフィーアさん、元・不良王女シェフィアーナ姫(笑)が威張っていますが、団長はヨヒア・デン・フレデリキアです。
頼りがいのありそうな、渋いおじさまではないですか!
でも灰の旅団はシェフィーアさんをはじめ濃い人揃いなので、ヨヒア団長は苦労しそうですな。
すでに小説本編でも明らかな通り、数々の常軌を逸した性癖(笑)のため元王女さんが王家から絶縁されて、その身元引受人的な立場にされたのがヨヒアです。苗字がシェフィーアさんと同じ「デン・フレデリキア」というのはそういうことです。シェフィーアさんが以前に小説本編で「伯父上」と呼んでいたのは、この人のこと。一応、形の上では彼女の義理の父ということになるのでしょうが、敢えて「父」ではなく「伯父」と呼ぶのですね。
灰の旅団の中でも、その最高峰に当たるのが「八騎天」と呼ばれる8人の機装騎士です。旅団をいくつかの隊に分けるときに、それぞれの隊長に当たるような立場です。ありがちな設定ですが、8人の中でも序列が決まっていて、そのトップである第一席がシェフィーアさん(笑)です。笑ってはいけないのですが……ブログ記事ではネタキャラ化しつつある彼女も、一応、小説本編では最強の機装騎士ですからね。別に元王女だから忖度して第一席に、ということではありません。
続く第二席は、エルトリアス・デン・スカーリック。
これまた男前、凛々しいではないですか。何となくですが、ダーク・ファンタジー系のシミュレーションRPGの主人公になれそうだと、私の中では勝手に思ってしまいました。シェフィーアさんの機装騎士としての強さは異常というのかもはや「人外」(笑)、別枠にした方がよいので……八騎天の人間の中で実質一番は、この人ですね。
見た目には、八騎天の中でも一番まともそうです。実際は、どうなのでしょう……。
クラスの点では、普通に騎士ですね。ただ真っ当に強い騎士。
灰の旅団は一般的な機装騎士団とは違い、特殊部隊とか隠密部隊のような存在なので、彼のような典型的な騎士は他の八騎天の中にはむしろ少ないかもしれません。
今回は第三席までですが……。
来た来た来た。次は、濃い濃い感じの人が来ましたね!!(笑)
ユーディティア・デン・セプテムハート。
たぶんマトモな人ではなさそう?なので、団長の苦労が増えそうです。
いかにも、この手の「四天王」とか「十二神将」とか(違うって)、特に悪役のそれに居そうな女性キャラですね。でもルキアンたちにとっては味方なので、安心してください。
もし、目隠しを取ったら実は超美女……だったら、ありがちですね(笑)。
なお設定としては、ユーディティアは魔法戦士っぽいキャラです。魔法といっても神官(僧侶)系の魔法を使う戦士、いや、戦士がメインというよりは、厳密にいえば、戦士系のスキルも高い暗黒系の神官です。
ちなみに単純な強さだけなら、機装騎士(アルマ・ヴィオ乗り)としても生身で戦うにしても、ユーディティアの方が第二席のエルトリアスより上という話もあります。しかし、(別枠のシェフィーア以外で)実質的に八騎天の最上位に当たる第二席には、いくら特殊な騎士団とはいっても一応は王国最強の騎士団の頂点なので、強さに加えて品格や経歴、人柄や家柄等もおそらく必要なため、総合的にみてエルトリアスなのでしょう。
八騎天の残りのメンバーが楽しみですね。それはまた後日。
なお、レイシアは八騎天ではないのかと疑問に思った方もおられるかもしれません。これについては、八騎天の誰かの配下である者は八騎天のメンバーになれないという掟があるため、シェフィーアの配下であるレイシアはもともと論外なのです。
ただ、レイシアの実力自体は八騎天の上位クラスに匹敵します。特に、八騎天は基本的に「機装騎士」としての能力、つまりアルマ・ヴィオを操る能力の高さを中心に選ばれるため、生身での剣による立ち合いならレイシアにかなう者は八騎天の中にもそうそういないかもしれません。
ちなみにシェフィーアは、アルマ・ヴィオの乗り手としては怪物級でも、生身の戦士としては八騎天の中でもそれほどではないため(普通に強い騎士ではあれ、剣豪や英雄等々と呼ばれるような相手には到底及ばないレベル)、レイシアを側に置いているのは万一の時のボディガードという意味もあるのかもしれません。まぁ、レイシアはシェフィーアにとって、そういう次元を超えたパートナーなのですが。たとえ形の上では主従関係であっても。
◇
本日も鏡海亭にお越しいただき、ありがとうございました!
読者様からの応援を励みに、『アルフェリオン』の更新もこの調子で進めてまいります。
引き続き、お楽しみください。
ではまた。
第54話(その1) エレオノーアの危機と遠き世のネクロマンサー
| 目次 | これまでのあらすじ | 登場人物 | 鏡海亭について |
|物語の前史 | プロローグ |
--- 第54話に関する画像と特集記事 ---
| 第54話PR |
(エレオノーア・デン・ヘルマレイア)
第54話「御子の力」PR画像、そして例の二人による……。
PR画像に続いては、この間の物語に関し、例によってあの二人に語ってもらいましょう。
変態・吸血・動物虐待姫。それは国王陛下も縁を切りたくなりますね。
実は私が姫であったとか。
第50話過ぎてから突然出てきて、たった1話でヒロインの座を鷲づかみ。
いや、けしからんことに、ルキアンの心まで鷲づかみに!?
個人的に最も気になったのは、真の闇の御子は二人でひとりということだ。
しかも、ルキアンと対になる御子はもう存在していて、それはエレオノーアではないというではないか。
しかも、シェフィーア様とは歳が全然合わないです。
さっき、鏡海さんがtwitterで宣伝していました。
第53話(その6・完) 聖体降喚の真実とエレオノーアの願い
| 目次 | これまでのあらすじ | 登場人物 | 鏡海亭について |
|物語の前史 | プロローグ |
--- 第53話に関する画像と特集記事 ---
| 第53話PR | 登場キャラ緊急座談会? | 中盤のカギを握る美少女? |
第53話 その6(完)
第53話(その5) ふたりの想い
| 目次 | これまでのあらすじ | 登場人物 | 鏡海亭について |
|物語の前史 | プロローグ |
--- 第53話に関する画像と特集記事 ---
| 第53話PR | 登場キャラ緊急座談会? | 中盤のカギを握る美少女? |
第53話 その5
気ままな軌跡で花の周囲を飛び回る蝶のように、エレオンは、ルキアンの隣に立ったかと思えば今度は後ろ、そして前に飛び出して先へと誘い、にこやかに弾けている。無邪気な妖精を思わせる魅力を振りまきながら、道すがらの草花や、鳥の鳴き声について、虫や岩石について、ひとつひとつエレオンが雑多な知識を披露する。海沿いの大都市、コルダーユで暮らしていたルキアンにとって、この山峡は目新しいものばかりだ。
「おにいさん。この花、知っていますか?」
道端の少し奥まった茂みに手を伸ばしたエレオンが、はかなげながらも凛とした、小さな白い花をルキアンに差し出した。人との関わり合いがあまり得意ではない、どちらかといえば他者との親密な接触は避けがちなルキアンにとって、距離感を飛び越して懐に入り込んでくるエレオンの振る舞いは、いちいち気持ちを揺さぶられるものであった。それに対する受け止めに戸惑って、もはや反応すること自体をあきらめたようなルキアンに、エレオンが真面目な顔つきになって言った。
「僕の好きな花、おにいさんにあげます。花言葉は《あなたに、すべてを捧げます》」
「はい?」
困惑するルキアンが、半ば裏返った声でエレオンの意図を問うと、彼は一転して沈黙し、ルキアンに背を向けて歩き出した。
「あ、あの、エレオン? いま、僕、何か気に入らないこと言ったかな。そうだったら、ごめん……」
意味も分からず謝るルキアンに、なおも返事をしないエレオン。だが数歩進んだところで、エレオンは大きく振り返った。計画通りに、意味ありげな笑みを浮かべて。
「それは嘘、うっそでーす! びっくりしましたか?」
心配して損をしたと、迷惑そうな顔つきになったルキアン。そんな彼の顔を見上げる目線で、エレオンは、喉で空気を擦るような、かすれた声でつぶやいた。
「本当は、この花はヴァイゼスティアーといいます。いにしえの勇者の時代、聖女を愛し、想いが届かずに魔界側の英雄へと堕ちた人の、最後の一粒の涙の生まれ変わりと言われています。そこが好きなんです。僕は、魔界に堕ちていった人の側の人間でしょうから」
そのとき、ルキアンの瞳に漂う光に微かな変化が生まれたことを、エレオンは十分に理解していた。
「あ、おにいさん。今の言い伝えを聞いて、一瞬、何か共感するところがありましたね……」
エレオンは一方的にルキアンの手を握ると、そのまま引っ張って小走りに駆け出した。
「闇、深いですね」
だが、それは、この二人の宿命を考えれば、ひとつの歪んだ誉め言葉だ。
――何なんだ。あんたたちは。
そうしたルキアンとエレオンのやり取りを、気取られぬよう天空高くから見張る者がいた。オパールの遊色よろしく七色に輝きを随時変化させながらも、人の子の瞳には決して映らない、おそらく旧世界の高度な光学迷彩あるいは精霊迷彩を、いや多分、それ以上の特殊な能力を備えた未確認のアルマ・ヴィオ、その乗り手の《美しき悪意の子》ことヌーラス・ゼロツーである。ルキアンやエレオンと同じく銀の髪と青い目をもち、《月闇の僧院》の執行部隊として先頭に立つ、人由来の、人の姿をした、しかし本質的には人からはもはや遠くなった存在だ。御子と同じく。
ゼロツー、彼あるいは彼女は、子犬のようにルキアンにじゃれつくエレオンを機体の魔法眼で拡大してとらえながら、憎々しげに追う。一見して性別の境界を越えたような互いの姿がどこか似ていることに、さらには互いの境遇に、一種の同族嫌悪を感じてでもいるのだろうか、かなり感情を高ぶらせている。
――失敗作、何の役にも立たないゴミ以下の《不完全な片割れのアーカイブ》が、心底幸せそうに笑っちゃって。あんたなんか、あの婆さんが面倒な相手だから、ネリウス師父(マスター・ネリウス)がお情けで放任しているだけだろ。
――それに、ルキアン・ディ・シーマー。真の闇の御子のくせに、何を無駄な時間つぶしてるのさ。
ゼロツーは声を震わせた。いや、アルマ・ヴィオと融合し《ケーラ》に横たわる今のゼロツーにしてみれば、音や響きを伴った現実のものにはならない、心の声であったが。
――僕らヌーラス、《不完全な片割れの執行体》は、死や暴走の恐怖におびえながら、こうして活動してるのに。あんたには力があって、やるべきことがあるのに……呑気に未来に迷って、こんな山奥でイチャイチャしてるのか。
――そもそも、あんたは、初めて成功した《ロード》によって生まれた、完全な《執行体》。だから、もともと対になる本来の《アーカイブ》が別に居るだろ。《ロード》に失敗して、魂の半分の相手を失い、自分ひとりだけ無駄に生まれ落ちてきた《不完全なアーカイブ》なんか、他の執行体と一緒にいたところで役に立たないのに。
ゼロツーは冷え切った笑みを胸の奥にたたえて、二人の姿を見据えた。
――気に入らないな。ぶち壊したい。でも本当に壊すとマスターに怒られるから、ちょっと、いじめてやるよ。
「お目付け役」のヌーラス・ゼロワンや、マスターのヌーラス・ゼロ、すなわちネリウス・スヴァンが同行していなかったことから、ゼロツーの悪意がルキアンとエレオンに、いや、エレオノーアに、ここで降りかかることになる。
◇
「おにいさん、着きました」
ルキアンよりも数メートルほど先行したエレオンが振り返り、手に持った2本の釣り竿を掲げている。所々、道にまで張り出して邪魔する木々の枝を払いながら、ここまでやってきた二人だったが、突然、視界が開けた。ルキアンたちの辿ってきた川だけではなく、近隣の支流からも集まってきた幾つもの細く急な瀬が、集まって大きな淵を形作っている。
道から岩を伝い、おっかなびっくりに淵に近づくも、吸い込まれるような、薄暗い壺の奥を思わせる水を蓄えた川面を目の当たりにして、ルキアンは身を震わせた。
「すごく、深いね……」
落ちたらさぞ冷たいのだろうと、彼は一歩後ずさる。心地良く頬を撫でる風の暖かさからは考えられないほど、晩春の渓谷を流れる水は冷たい。当分はまだ人を拒否するつもりなのか、触れると凍てつくような、肌を切る感覚を残す。風に舞った水しぶきが、霧のように細かく散らばっていく。それらが溶け込んだ、ひんやりとした空気感。
「ここ、他の場所より、とっても大きな魚が釣れるんです。この前なんか、相手が大きすぎて竿が折れそうだったんですよ」
エレオンはそう言って、釣り上げたのであろう魚の大きさを両手で表した。淵の周囲を睥睨する主さながらに、そびえ立つ大岩が一つ。それにエレオンは駆け寄り、軽々とよじ登って、ルキアンに手招きしている。
「おにいさん、こっちこっち。よく見えます」
普段はおっとりとした動作であっても、こういうとき、エレオンは意外なほど俊敏な動きを見せる。それに対してルキアンは、恐々、腰の引けた様子で岩に手を掛ける。だが、少し上ったところで身動きがとれなくなり、カエルのように岩に張り付いて困っている。
「お、落ちる!」
「おにいさん。落ち着いて。僕が引っ張ってあげます」
エレオンが手を差し出した。小柄で細い彼がルキアンを無理に引っ張りあげようとすれば、二人一緒に落ちてしまいそうな気もしたのだが、彼はエレオンの手を掴んだ。それを握り返した、細くて柔らかい指。
「離したら駄目ですよ! 僕の手を」
そのままエレオンは、うつむき加減になると、風にかき消されそうなささやき声で言い足した。
「お願い、離さないで、ずっと。私の手を……」
よじ登るのに必死で、エレオンのそんな言葉を聞き取る余裕もなかったルキアンだが、彼はふと見上げた。次の瞬間、何故か彼は足元を滑らせ、急に落ちそうになる。
「おにいさん! 危ないよ。僕まで落ちちゃう、暴れないで!」
岩にしゃがみ込んだエレオンも、必死にルキアンを引っ張った。
ルキアンは自らの愚かさ加減に呆れながら、とにかく落ち着いてエレオンのところまで登ろうと、自分に言い聞かせる。しかし……。
――ちょ、ちょっと。エレオンって。
先ほどエレオンが岩の上から手を差し伸べたとき、下から見たルキアンの目には、考えてもいなかったものが映ったのだ。
――男の子、じゃなくて……女の、子?
羽織った濃紺のローブの下、白いシャツの胸元から、弾けそうに押し込まれた膨らみが見えたのだ。ルキアンは目を疑ったけれど、エレオンは間違いなく女性である。
男であると思い込んでいた相手が女であったからなのか、それとも岩から落ちそうになったせいなのか、いや、おそらく両方ゆえに、ルキアンの鼓動はむやみに高まり、気持ちも平静を失った。
そんなルキアンの気持ちなど知ることもなく、エレオンは手に力を込めた。
「おにいさん、もう少しです。頑張って!」
自分よりもずっと重いルキアンを健気に引っ張り上げようとするエレオンに対し、よこしまな気持ちを起こして申し訳ないと思ったものの、ルキアンはエレオンのことが急に気になって仕方がなかった。意識し始めると止まらなくて、悪いと思いつつ、そっと上目遣いをすると、エレオンの白い胸元に視線が吸い込まれた。
「ご、ごめん!」
何に対して謝っているのか、よく分からないままに、ルキアンは懸命になって這い上がることができた。平らな大岩の上に座り込んで、荒い息をしている。
「おにいさん、大変だったね」
巨岩とはいえ二人が座るには決して広くはない場所がら、エレオンが窮屈そうにルキアンに隣り合った。
「エ、エレオン!? そ、その……」
彼くらいの年頃の少年に、同年代の少女のことを意識するなと言っても難しいだろう。少なくともルキアンには。先ほどまでと様子の違う彼に、エレオンは首を傾げ、特に意識せず膝を寄せた。
「え、何ですか? おにいさん」
「あ、あ、あの、エレオン!」
今度は、白いキュロットから伸びるエレオンの脚のことが、ルキアンはついつい気になった。考えてみれば、すらっとして、細く滑らかな、それでいて一定の肉付きのある脚は、自然にみて男性ではなく女性のそれである。
ルキアンは無理に横を向いて、エレオンに尋ねた。
「エ、エ、エレオンって……女の子、なの?」
事情も分からず、不躾だと思ったものの、ルキアンは率直に口にした。エレオンの答えが気になったが、彼、いや、彼女はこれまで同様に微笑んで、いや、これまで以上に満面の笑みを浮かべ、落ち着いた口調で答えた。
「はい。そうですよ」
「そ、そうなんだ、ね……」
「はい! 実は私、女の人だったのです」
エレオンは改まった調子で頭を下げ、少し舌を出して苦笑いした。
「おにいさんを騙すつもりは決してなかったです。本当はエレオノーアと言います……。そう呼んでください。でも、よその人がいるときには、エレオンでお願いします」
黙ってうなずいたルキアンに対し、エレオノーアは慌てて首を振った。
「あ、おにいさんが気にする必要はないです。別に私は、何か秘密があって、その、たとえば……お話にあるじゃないですか、王子のふりをして剣を帯び、戦わなければならなかったお姫様のように……そういうのとは違うんです」
エレオノーアは大岩の上から、下界を見渡すといわんばかりの素振りで、四方を眺めた。
「レオーネ先生が、敢えてそうしなさいと。このあたりはまだ本当の山奥なので、めったに誰も来ないし、大丈夫なのですが……隣の村まで行くと、もう、そうではなくて、一見すると自然が豊かで平和な山里に見えますが……実際には、田舎は、都会とはまた違った意味で治安が行き届かず、警備兵も居なくて、山賊や人さらいのようなならず者たちが好き勝手に暴れています」
彼女は溜息をついた。
「少し前にも、近くの村の娘さんが誰かにさらわれて、後になって遠い遠い街の……あんなところで、その、知ってますよね、何ていうのかな、娼館? で、見つかったですとか」
頬を微かに赤らめたエレオノーア。さらに彼女は東の方を指さして続ける。
「怖いです。あっちの村の方では、女の人が山賊に襲われて、その、ひどいことされて……最後には命まで……。だから気を付けないと、って。独りで出歩いているときに、一目ですぐ女だと分かる姿を決して見せるなと、先生が。いや、こんなの、見たらすぐ女だって分かってしまうけど……だとしても、です」
不安そうな表情をしていたエレオノーアが、それを気にしたルキアンを慮ってか、可愛らしく首を傾けて笑った。
「大丈夫です。私、こう見えて結構強いんですよ! レオーネ先生は、むかしミルファーンで一番優れた機装騎士だったので、私も武術を習っています。おにいさんも守ってあげますからね!!」
「あ、ありが、とう……」
ルキアンは無意識にそう答えた。だが直後に、本当は、僕が護ると告げるべきだったろうと彼は思った。それは、自身が男であるからだとか、一応の戦士としてのエクターであるからだとか、そのような理由からではない。
――僕は、二度と繰り返さないって覚悟したじゃないか。人を傷つけたくないから迷って、そのせいで大事な人を失ってしまうのは、もう嫌だから……決めたじゃないか。僕は《いばら》になると、泣きながらでも戦うと。弱い僕をかばって消滅してしまったリューヌや、僕が戦えなかったせいで犯されたシャノン、殺されたシャノンのお母さんのようなことは、もう絶対にさせないと。
ルキアンはエレオノーアを見つめた。瞳と瞳で。同じ光を宿した目で。
その眼差しに込められた想いを、エレオノーアも、他人事ではなく己自身のこととして、真の意味において理解していた。
「おにい、さん……」
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