鏡海亭 Kagami-Tei  ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。

第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第59)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

北の大国の隠された牙、灰の旅団

連載小説『アルフェリオン』――第54話までヒロイン不明であったこの物語に、ようやく真のヒロインが爆誕しそうな今日この頃です。この間、関連画像も増発されてエレオノーア祭り(?)になってきていますが、実はその裏で密かに進んでいたのが、続くミルファーン編に向けての「灰の旅団」キャラたちの画像化です。
本日は、その一部を初公開!

今回も、まず生成AIのHolaraさんに原画を出してもらい、その画像に鏡海がクリスタで手を入れ、パワーポイントで統合して1枚のスライドへと編集しています。

おお、ルキアンたちが青春(?)したりピンチを乗り越えたりしている間に、こんなシリアスな印象の画像が……。いや、シリアスなはずが、真ん中に鎮座している人のせいでちょっと笑ってしまうのは、何ともかんともです。

シェフィーアさんの所属する「灰の旅団」ですね。ミルファーン王国の誇る特務機装騎士団。
誰が団長だか分からないくらいシェフィーアさん、元・不良王女シェフィアーナ姫(笑)が威張っていますが、団長はヨヒア・デン・フレデリキアです。

頼りがいのありそうな、渋いおじさまではないですか!
でも灰の旅団はシェフィーアさんをはじめ濃い人揃いなので、ヨヒア団長は苦労しそうですな。
すでに小説本編でも明らかな通り、数々の常軌を逸した性癖(笑)のため元王女さんが王家から絶縁されて、その身元引受人的な立場にされたのがヨヒアです。苗字がシェフィーアさんと同じ「デン・フレデリキア」というのはそういうことです。シェフィーアさんが以前に小説本編で「伯父上」と呼んでいたのは、この人のこと。一応、形の上では彼女の義理の父ということになるのでしょうが、敢えて「父」ではなく「伯父」と呼ぶのですね。

灰の旅団の中でも、その最高峰に当たるのが「八騎天」と呼ばれる8人の機装騎士です。旅団をいくつかの隊に分けるときに、それぞれの隊長に当たるような立場です。ありがちな設定ですが、8人の中でも序列が決まっていて、そのトップである第一席がシェフィーアさん(笑)です。笑ってはいけないのですが……ブログ記事ではネタキャラ化しつつある彼女も、一応、小説本編では最強の機装騎士ですからね。別に元王女だから忖度して第一席に、ということではありません。

続く第二席は、エルトリアス・デン・スカーリック。

これまた男前、凛々しいではないですか。何となくですが、ダーク・ファンタジー系のシミュレーションRPGの主人公になれそうだと、私の中では勝手に思ってしまいました。シェフィーアさんの機装騎士としての強さは異常というのかもはや「人外」(笑)、別枠にした方がよいので……八騎天の人間の中で実質一番は、この人ですね。

見た目には、八騎天の中でも一番まともそうです。実際は、どうなのでしょう……。
クラスの点では、普通に騎士ですね。ただ真っ当に強い騎士。
灰の旅団は一般的な機装騎士団とは違い、特殊部隊とか隠密部隊のような存在なので、彼のような典型的な騎士は他の八騎天の中にはむしろ少ないかもしれません。

 

今回は第三席までですが……。

来た来た来た。次は、濃い濃い感じの人が来ましたね!!(笑)
ユーディティア・デン・セプテムハート。
たぶんマトモな人ではなさそう?なので、団長の苦労が増えそうです。

いかにも、この手の「四天王」とか「十二神将」とか(違うって)、特に悪役のそれに居そうな女性キャラですね。でもルキアンたちにとっては味方なので、安心してください。
もし、目隠しを取ったら実は超美女……だったら、ありがちですね(笑)。
なお設定としては、ユーディティアは魔法戦士っぽいキャラです。魔法といっても神官(僧侶)系の魔法を使う戦士、いや、戦士がメインというよりは、厳密にいえば、戦士系のスキルも高い暗黒系の神官です。


ちなみに単純な強さだけなら、機装騎士(アルマ・ヴィオ乗り)としても生身で戦うにしても、ユーディティアの方が第二席のエルトリアスより上という話もあります。しかし、(別枠のシェフィーア以外で)実質的に八騎天の最上位に当たる第二席には、いくら特殊な騎士団とはいっても一応は王国最強の騎士団の頂点なので、強さに加えて品格や経歴、人柄や家柄等もおそらく必要なため、総合的にみてエルトリアスなのでしょう。

 

八騎天の残りのメンバーが楽しみですね。それはまた後日。

なお、レイシアは八騎天ではないのかと疑問に思った方もおられるかもしれません。これについては、八騎天の誰かの配下である者は八騎天のメンバーになれないという掟があるため、シェフィーアの配下であるレイシアはもともと論外なのです。

ただ、レイシアの実力自体は八騎天の上位クラスに匹敵します。特に、八騎天は基本的に「機装騎士」としての能力、つまりアルマ・ヴィオを操る能力の高さを中心に選ばれるため、生身での剣による立ち合いならレイシアにかなう者は八騎天の中にもそうそういないかもしれません。

ちなみにシェフィーアは、アルマ・ヴィオの乗り手としては怪物級でも、生身の戦士としては八騎天の中でもそれほどではないため(普通に強い騎士ではあれ、剣豪や英雄等々と呼ばれるような相手には到底及ばないレベル)、レイシアを側に置いているのは万一の時のボディガードという意味もあるのかもしれません。まぁ、レイシアはシェフィーアにとって、そういう次元を超えたパートナーなのですが。たとえ形の上では主従関係であっても。

 ◇

本日も鏡海亭にお越しいただき、ありがとうございました!
読者様からの応援を励みに、『アルフェリオン』の更新もこの調子で進めてまいります。
引き続き、お楽しみください。

ではまた。

 

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第54話(その1) エレオノーアの危機と遠き世のネクロマンサー

目次これまでのあらすじ | 登場人物 鏡海亭について
物語の前史プロローグ

  --- 第54話に関する画像と特集記事 ---

第54話PR |


消えたくないです。生きたいよ。
だけど、私を作り出すために生贄にされた人たちは、
同じように、生きたいと願いながら、命を奪われていったのですよね。
それでも自分だけ助かりたいという私は、地獄に落ちますか?

(エレオノーア・デン・ヘルマレイア)


第54話 その1
 
「私は絶対に負けません。だって、おにいさんと会えたから。何があってもおにいさんと一緒に行くって、決めたから」
 エレオノーアは、戦いのさなか、ルキアンへの想いを率直に口にする。否、その強すぎる気持ちが、自覚も曖昧なまま、自然に言葉となって流れ出たのだろう。大勢で詰め寄る山賊たちに囲まれないよう、彼女は渓谷の岩や木を巧みに利用する。そして油断した相手を確実に潰していく。また一人、剣を抜いて襲いかかるも、その足を払ったエレオノーアは逆に剣を奪い取り、直ちに構えるのだった。
 
 ――灰式・隠密武闘術、一群。剣舞風波(けんぶかざなみ)
 
 大気に遊ぶ風の精(シルフ)のごとく、エレオノーアは、次の流れを予想し難い動きで敵を翻弄する。そこから瞬時の隙をついて繰り出される彼女の一撃は、真空の刃のようだ。剣を手にしたエレオノーアは、素手で戦っていたときよりも遥かに手強い。
「こ、こんなの聞いてないぞ。少しは使えるどころか、強すぎる!」
 相手は小柄な娘一人、本気で戦う必要もないだろうと高を括っていたならず者たちが、明らかに動揺し始めた。身体の動きが悪くなり、太刀筋にも怯えがみえる。その変化をエレオノーアは見逃さなかった。
「に、に、逃げようぜ、殺される!」
 浮足立って統率が取れず、もはや数の多さを活かせない山賊たちは、エレオノーアに一人ずつ次々と狙いうちにされていく。最初、賊たちは30名ほど居たはずだが、まともに動ける者の数はもはや半分近くに減っていた。
 
 ――これで勝てる。おにいさん。
 
 だが、エレオノーアがそう思ったとき、しゃがれ声で山賊の頭が迫った。
「お嬢ちゃん、見ろよ。少しでも動いたら、大事な《おにいさん》の頭が吹き飛ぶぞ」
 咄嗟に振り向いたエレオノーアの目に映ったのは、両手を縛られ、無念そうにうなだれるルキアンの姿だった。彼の頬骨近くに銃を突き付け、したり顔の頭目がエレオノーアをからかうように言う。
「王子様をお姫様が守り、しかも王子様が捕まってお姫様の足を引っ張るなんて、こんなふざけた話は聞いたことがないな。おっと、動くなというのが聞こえなかったのか」
 エレオノーアの顔が怒りに満ちたのを恐れ、頭目はルキアンに銃を強く押しつけた。
「エレオノーア……。すまない。僕はいいから、君は逃げて……」
 泣き出しそうな表情でエレオノーアを見つめたルキアン。本気で決意したはずなのに、今回も大切な人を守れなかった、この惨めさ。悔恨にまみれたルキアンの顔つきは、目を反らしたくなるほど悲痛なものだった。
 エレオノーアは周囲の敵を威嚇するように剣を鋭くひと振りし、断固とした口調で言った。
「人質なんて卑怯です。おにいさんを放してください」
 一瞬、沈黙が支配した後、山賊たちは下卑た笑いを爆発させ、エレオノーアに罵声を浴びせた。その響きがルキアンをますます辛い気持ちにさせる。
 山賊の頭も、黒い眼帯をこすりながら大笑いした。
「卑怯ねぇ。ちょっと頭を使って勝つことの、どこがいけないんだ。世間知らずのお嬢さん。それで、お嬢さんよ」
 頭目がエレオノーアの方を顎でしゃくって、何か指示をする。口元を緩ませながら、数名の手下がエレオノーアの方に近づいていく。
「まずは剣を捨てろ。今すぐ下に置かないと、こいつに一発ぶっ放すぞ」
 勢いに乗った頭目が引き金をひくような素振りを見せたため、エレオノーアは、黙って剣を手放した。石の多い地面に鋼がぶつかり、転がる音。剣は横たわり、日光を反射して眩しく光った。
「捨てました。おにいさんを今すぐ返して」
「駄目だ。お嬢ちゃんは素手でも怖いからな。おい、お前ら」
 手下が二人、両側からエレオノーアの腕をがっちりと掴む。
「何をするんですか! 触らないで!!」
 彼らはエレオノーアを向こうに連れて行こうとする。そこには、真っすぐに伸びる2本の太い木が立っており、別の男たちが縄を何本も手にして待ち構えている。その意図に気づいたエレオノーアの横顔から、一瞬で血の気が引いた。かぶりを振る彼女の姿をにやにやと見て、山賊たちは一緒に来るよう促す。何度もためらいながら、エレオノーアは青い顔をして無抵抗のまま従った。
「やめろ、エレオノーアに手を出すな!」
 ルキアンは必死に叫び、身を乗り出したが、周りの山賊に取り押さえられてしまう。何もできなかった彼は、血が滲み出しそうなほど唇を噛みしめた。自分が不甲斐ないせいで、今度こそ守りたかったエレオノーアを犠牲にしてしまうのだから。しかも、普段は少年エレオンとして振る舞うエレオノーアが、その仮の姿に隠して大切に守ってきた、花開いたばかりの女としての秘めやかな本性を、今から悪党たちの手で無理やり暴き出され、弄ばれることになるのかと思うと、ルキアンは正気を保てなくなりそうだった。それでもなお凛として悲壮な覚悟で臨むエレオノーアを、ルキアンは直視できなかった。
 
そのとき……。
 
 ――やれやれ。いくら御子だといっても、大切な一人さえ守れないような軟弱者に、この世界の命運を託してよいはずがなかろうよ。
 この声に、それ以前に声の主の気配に、ルキアンにははっきりと覚えがあった。目の前が暗転し、果ての無い灰色の世界に飲まれ、時間が凍り付くような感覚に落ちていく。その異様な場で、ルキアンは、ひとつの影と向き合っていた。
 影が次第にはっきりとした輪郭をとる。縮れた黒髪をなびかせ、飾り気のない法衣をまとい、羊飼いのような素朴な木の杖を手にした姿。広い額、彫りの深い顔に、奥まった黒い目で悠然と睨むような中年の男。彼は小さな苦笑いを浮かべる。
 ――俺を知っているな。そう、ルカだ。正しくは、かつて生きたルカ・イーヴィックという闇の御子の、残された思念のなれの果てかもしれない。あの可愛らしい娘、俺たちの大事な血族を、野盗ごときにいいようにされるのは気に入らないから、わざわざ出てきてやったぞ。
 唖然とするルキアン。返事を待たずにルカは続けた。会話になっているように思われて、それでいて実はただ一方的に語っているだけにもみえる、いかにも残留思念にありがちな振る舞いであろう。いや、ルカは曲がりなりにも聖職者だったはずなのだが、そのわりには口調が少々野卑だ。
 ――最初に言っておく。俺は、困っている者を放っておかないが、そのためには手段を選ばない。必要なら、どんな汚い手でも平気で使う。何故だか分かるか?
 空間に深々と音を刻み込むように、ルカは静かに、かつ重々しく告げた。
 
 ――なぜなら俺は、僧侶(プリースト)で……しかし、死霊術師(ネクロマンサー)だ。
 
 彼がそう言い終わる前に、ルキアンは急に目眩がして意識が遠のくのを感じた。
 ――あの娘を助けたいのだろ。お前の体を少し貸せ、新しい御子よ。
 そう言ったルカは、いくらか上機嫌そうですらあった。
 
 静まりかえった渓谷に、山賊たちの密やかな笑い声が漂う。ようやく捕らえたエレオノーアを彼らは取り囲んでいた。
 エレオノーアは、僧衣のような濃紺のローブを脱がされ、白いブラウスとキュロットという格好で、2本の木の間に立たされていた。その姿は、これまでの印象よりもずっと華奢で繊細だった。すらりとした腕は、万歳をするように、左右それぞれの木から縄で吊るし上げられている。ほっそりと白い脚も、同じく縄で左右の木につながれ、開かれたまま閉じることができない。蜘蛛の巣に掛かった惨めな蝶のように、四肢を大きく開いた屈辱的な姿を晒されているエレオノーアは、恥じらいに頬を染め、目を閉じて深々とうつむく。悔し涙で睫毛も濡れていた。
「戦っていたときのあの強気は、どこに行ったのかな、お嬢ちゃん。だが、お楽しみはここからだ」
 山賊の頭目は、すっかり勝ち誇った顔つきになり、エレオノーアの耳元でささやく。不意に、その汚らわしい手がエレオノーアの腰を撫でる。避けるすべのない彼女は、引きつったように震え、声にならない悲鳴を上げた。この反応に嗜虐心をかき立てられた頭目は、血走った目でナイフを手にすると、刃を入れて切り裂こうとエレオノーアのキュロットをつまんだ。
 もはや風前の灯火だ。
 ――おにいさん、見ないで。こんなの嫌です!
 エレオノーアの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
 
 だがそのとき、頭目は不自然に息を呑んだ。
 彼に銃口を向けられていたルキアンが、ゆっくりと目を見開き、一転、今までとはまったく違う口調で話し始める。
「まず教えよう。後悔したくなければ聞くがいい」
 彼がそう言うが早いか、その場をすべて飲み込み、凍てつかせるような、吐き気を催すほどの威圧感がルキアンを中心に広がった。
 ――おにいさん? 違う。これは、違う人……。でも、遠い昔、この人とどこかで会ったことがあるような、懐かしいような。
 自分の知るルキアンではない姿に違和感を覚えつつも、エレオノーアは彼を凝視する。たとえ不完全でも闇の御子であるエレオノーアが、ルカ・イーヴィックに関する遠い記憶を引き継いでいるのは当然のことだ。
 一方、ルキアンは、いや、ルキアンの姿を借りた者は、人差し指を立てて目を細めたかと思うと、腐っても僧侶、落ち着いた説教を連想させる物言いになった。
「では、一つ目。ネクロマンサーと対峙したとき、決して彼らに触れられてはいけない。なぜなら高位のネクロマンサーは、自らも《不死者(アンデッド)》と同じ。その指先は生ける者を麻痺させ、毒で侵し、体力や魔力を吸い取り、時には触っただけで命をも奪う」
 ――か、身体が、動かねぇ……。
 山賊の頭は、いつの間にか体中が完全に痺れていることに気づいた。ルキアンは頭目の握りしめている拳銃を悠々と奪い、背後に無造作に投げ捨てた。そして右手を前方に突き出すと、指で何かを招く仕草をする。
「二つ目。ネクロマンサーの呼び出す不死者はたしかに恐ろしい。だが、ネクロマンサーはそれ以上に強い。気を付けろ。そうでなければ、死霊たちを従わせることなどできはしないからだ。遊んでやれ、《惨禍の騎士》よ」
 その言葉に応じて、手前の地面が揺れ、地表を押しのけて灰白色の何かが盛り上がってくる。まず頭部を見せ、するすると這い出し、地の底から全身を現したそれは、穴だらけの黒い衣に身を包み、赤い楯と青白く不気味な輝きを宿す長剣とを持った、骸骨の騎士だ。同じように次から、また次へと、地面から白骨の騎士たちが姿を現す。
「だから、この呪われた骸骨たちがいくら恐ろしいからといっても、間違っても俺と戦う方がましだとは考えないことだ」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、人の限界を遥かに超える強さの不死の剣豪たちは、容赦なく山賊たちを切り刻んでいた。頭目以下、一人残らず殺戮の嵐に巻き込まれ、屍の山が築かれた。穏やかな谷の風景も血だまりの海に変わった。
「最後に三つ目。大抵の不死者には心がない。だから彼らには、恐怖も躊躇も、憐憫も損得勘定もない。今ので実際に分かっただろう? いや、そうだったな、お前たち……俺の助言を活かす機会を永遠に失ったな。何なら、お前たちも不死者にしてやろうか。いや、やめておこう。素材の質が低すぎる」
 淡々と語ったルカの心にも、また、一切の乱れがなかった。あたかも彼自身、もはや人間ではなく不死者であるかのように。
 
 ――返すぞ、ルキアン。お前の体。
 ルカの心の声が響き、ルキアンは意識を取り戻す。
 その体が自分自身のものだと、再び感触が戻ってくるのを確かめる間もなく、ルキアンは飛び出していた。
「エレオノーア!」
「お、おにい、さん……」
 エレオノーアも落ち着きを少し取り戻したようだ。安堵の空気に包まれた二人だが、やがて遠慮がちにエレオノーアは首を振った。
「あ、あの、ですね……おにいさん。こんな格好……すごく、恥ずかしいです。早く、縄をほどいて、ほしい……です」
「そ、そ、そうだね。ごめんね」
 彼女の言葉にルキアンも頬を染め、申し訳なさそうに、なんとも言えない表情でエレオノーアの戒めを解いた。その途端、今までおずおずと喋っていたエレオノーアが、ルキアンの胸に思い切り飛び込んできた。そのまま二人とも後ろに倒れてしまいそうなほどに。
「おにいさん、私のおにいさん!」
 言葉にすることで彼の存在を確かめるかのように、エレオノーアは繰り返し呼ぶのだった。
 ぐしゃぐしゃに泣き 、それでいて、泣き腫らした顔に心からの微笑みも浮かべながら。
 
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第54話「御子の力」PR画像、そして例の二人による……。

連載小説『アルフェリオン』、突然、第53話でヒロインの座に躍り出たエレオノーア。
「そんなのありかのアルフェリオン」(笑)の面目躍如たるところですね。思えばナッソス城での戦いが始まって以来、ジェットコースター的な展開が止まらない『アルフェリオン』です。
 
そして先日終了した第53話に続き、第54話が近々始まります。
その第54話のPR画像、初公開です!
 
 
え、エレオノーアちゃん消えてしまうのか!?と衝撃の内容です。
PR画像に続いては、この間の物語に関し、例によってあの二人に語ってもらいましょう。
 
こんにちは、「道を踏み外した」人です(笑)。
いや、私が「お姫様」だ。
(詳しくは連載小説『アルフェリオン』第53話参照)
 
シェフィーア様、それをいうなら、「元」お姫様でしょう。
変態・吸血・動物虐待姫。それは国王陛下も縁を切りたくなりますね。
 
レイシアは相変わらず手厳しいな。。。
ところで、最近の連載小説『アルフェリオン』、ものすごい展開になってきたようだな。
実は私が姫であったとか。
 
元・姫の件はもう結構ですから。
 
あぁ、また別の機会に。
それで、あのエレオノーアというのは一体何なんだ。
第50話過ぎてから突然出てきて、たった1話でヒロインの座を鷲づかみ。
いや、けしからんことに、ルキアンの心まで鷲づかみに!?
 
そういえば、同世代のキャラとルキアンがいい感じになったのは、珍しいですよね。だいたい、子供やおば。。。いや、お姉さんの登場キャラには変に人気がありますが、同年代からはあまり相手にされていなかったですからね。
 
しかも、第53話、何気にものすごい事実がいくつも出てきてるんだが。
個人的に最も気になったのは、真の闇の御子は二人でひとりということだ。
しかも、ルキアンと対になる御子はもう存在していて、それはエレオノーアではないというではないか。
 
そこですか。。。(頭を抱える)
 
あぁ、そうだ。もし私がルキアンと対になる御子だったらどうしようかと。ワクワクして夜も眠れん。
 
その心配はまったく御無用です、シェフィーア様。
ルキアンの対になる御子は、血のつながった姉、普通の人間だった頃の名はエメレーアですよね。
しかも、シェフィーア様とは歳が全然合わないです。
 
うぅ。。。そこを言われると。
ただ、そうすると、エレオノーアがどんなに頑張っても、ルキアンのアーカイブにはなれないということか。
 
はい、ここで緊急速報です。
次回からの第54話では、エレオノーアの命が終わりを迎える、そうですよ。
さっき、鏡海さんがtwitterで宣伝していました。
 
何? いや、実は、第53話の最後のエレオノーアの言葉が、よくあるフラグ、いや、特大級の死亡フラグだと思ったんだが。決めました、宿命を越えておにいさんに着いてゆきます、一緒に行きます!と。大体、ああいうのは、結局一緒には行けない話になる。旅立ちの日に待ち合わせをしていても、いつまでも来ないパターンとか……。
 
シェフィーア様、嬉しそうな顔で言わないでください。それはさすがに鏡海さんに怒られますよ。
 
構わんよ。私に人徳を期待する方がおかしいぞ。
 
人には言えない過去を小説本編でバラされたので、開き直りましたね。。。
いつもいつも仕方のない人ですね、シェフィーア様は。
 
いや、どうも変だとは思っていたんだ。
物語の途中で、いきなり目立つ美少女キャラが出てきて、主要キャラと急激に親密になり、これからというときに退場していくというのは、よくある話だろう? その主要キャラが普段は非モテっぽい場合は、特にだ。
まぁ、ワールトーア編での流れから考えると、エレオノーアの登場と退場は、「聖体降喚(ロード)」の非道さをいっそう強く読者に印象づけつつ、主人公ルキアンに新たな決意をさせるエピソードとして、ありがちといえばありがちだ。
さようなら、エレオノーア、君の活躍は忘れない……。
 
勝手に殺さないでください。ひどいですね、新手のいじめですか?
 
しかし、エレオノーアの背負っている宿命、「ロード」で生み出された不完全な御子の身の上には、言葉を失った。だが、ロードを行っている張本人たちが、悪の組織ではなくて、この世界を守るために敢えて心を鬼に、ではなく、心を悪魔にして行っているという点は、救い難いな。
 
そうですね。ただ、ロードを行っている「僧院」について、たとえばマスター・ネリウスの場合には、本当は優しい性格の彼が敢えて残虐非道なことを行わなければならず葛藤を抱えているのが分かりますが、人の苦しむのを単純に楽しんでいるキャラもいますからね。
 
あはは。僕のことかな?
 
こやつのことだ。ヌーラス・ゼロツー。なんだかんだ言っても比較的善人の多い『アルフェリオン』の登場人物の中で、ファルマスと並んで飛びぬけて性格の悪いキャラとして一、二を争う(苦笑)。第53話でも、エレオノーアをルキアンの目の前でレイプさせようとして、山賊をけしかけたというとんでもない奴だ。
それなのに、今回は貴重な全身画像まで用意してもらっているとは、けしからんにもほどがある。
 
いや、僕だって犠牲者なんだよ。不完全な執行体だから、いつ死ぬかわからないんだよ?
 
これまで性別不明キャラだったのに、今回の全身画像で地味にばらしてますよね。女性だったと。
 
嫌われ役だったのに、どこかで急にキャラ変して、ヒロインの座を狙いだしたら困るな。
 
鏡海さん、そういうの大好きですからね(苦笑)。
 
 ◇
 
本日も鏡海亭にお越しいただき、ありがとうございました。
 
「コスパ」ならぬ「タイパ」(タイム・パフォーマンス)がしばしば言われている昨今、それとは真逆の位置にある『アルフェリオン』をいつも応援いただき、率直に感謝です。冗長なストーリー展開と、必要以上に多い登場人物、どうでもいいところに関しても無駄に細かい描写など、でもそれが「贅沢」です。
 
創る側にとっても読む側にとっても、何かの投下に見合う効果を度外視したところに、創作のもつ「贅沢」さがあります。しかも、プロ以上にアマチュアにとって、そのパフォーマンス度外視はなおさらのことです。
ただ自らの満足と、それを一定理解してくださる読者様方のために、思うがままに描く。
人の生き死にや社会の行く末に直接は関係ないことに敢えて全力をつぎ込む。趣味だからこそ全力でいかせてもらう(笑)というところです。しかし、その一見無意味に見える行為のもつ何らかの豊かさが、人がより愉しく生きる、より自分の思うように生きることを、回りまわって支えることもあるかもしれません。
 
長くなりましたが、今後とも『アルフェリオン』をお楽しみいただけましたら幸いです!
 
ではまた。
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第53話(その6・完) 聖体降喚の真実とエレオノーアの願い

目次これまでのあらすじ | 登場人物 鏡海亭について
物語の前史プロローグ

  --- 第53話に関する画像と特集記事 ---

第53話PR登場キャラ緊急座談会? | 中盤のカギを握る美少女?

 


第53話 その6(完)


 
 ルキアンとエレオノーア――共に銀色の髪と青く澄んだ瞳、穏やかさの中に翳りのある雰囲気をもつ、同じ血族を思わせる二人は、再び川縁まで降り、仲良く並んで釣り糸を垂れている。
 黙って水面を凝視するエレオノーア。その横顔を、今までとは違った想いを込めて見やりながら、ルキアンは呟いた。
「レオーネさんの家では驚いたよ。いきなり、《御子》なんて言うから」
「はい、ごめんなさい……。だって嬉しかったんです。おにいさんに、やっと会えたから。だから、つい」
 相変わらず、エレオノーアへの返答の言葉にいちいち悩んでいるルキアンに対し、今の一言をきっかけに、エレオノーアの口数が堰を切ったように増えていく。
「私のこと、その……変な子だと、思っていますよね。初めて出会ったばかりなのに、いきなり、おにいさん、おにいさんって……強引に踏み込んできて、ちょっとおかしいと思っていませんか」
 すかさず首を振って否定するルキアンに、エレオノーアは身を乗り出して言った。
「私、誰にでも尻尾を振って着いていくわけではないです。おにいさんは特別なのです」
 実際、ルキアンは、エレオノーアのことを不快に思ったり、軽蔑したりはしていないだろう。むしろ強く好感を抱いている。だが彼は言葉を上手く選べず、困惑したままだ。それでも懸命に取り繕おうとする彼の態度を、エレオノーアもまた好意的にみているのだろうが、遂には彼女も自分自身の想いを穏当に表現できなくなった。彼女は大きく深呼吸すると、半泣きになってルキアンに向き合った。
「ずるいです! おにいさんは、ずるいです……。おにいさんは、真の闇の御子なのに、《聖体降喚(ロード)》のことも《御子》のことも、何も知らないんですから!!」
「《ロード》? その言葉、《ロード》……って、どこかで、聞いたような。どこかで、とても大事なことのような……」
 ワールトーアでのネリウスやカルバとの会話も、もはやルキアンの記憶から抜け落ちているのだろうか。しかし、たとえ思い出せなくても、あのときのことは記憶の域を超えたところに深々と刻まれているに違いない。苦悩の表情で頭を抱えるルキアンの様子をみれば、《ロード》という言葉に、何かただ事ではない反応を示していることが分かる。
「おにいさん。《ロード》の素体になる者は必ず二人。たぶん、人間一人分の魂の大きさでは、《聖体》を受け入れることに耐えられないんです。だから二人に分けて降ろすのだと。その二人は、たとえば家族とか、親友とか、恋人とか、普通の意味で特別な関係でなければならないのはもちろん、霊的にも深い宿縁で魂を結ばれた者同士でないといけません。それでも、《ロード》はいつも失敗する……。二人ともほぼ間違いなく、死にます。でも稀に、失敗しても一方だけ生き残ることがあります。それが不完全な闇の御子と呼ばれる、《片割れ》の者」
 聖なるものを、真の闇を司る御子をこの世に招くと言いつつも、その実態は非道でおぞましい《聖体降喚(ロード)》の真実を、唐突に、明け透けに伝え始めた少女。
「私たち不完全な闇の御子は、だから……きっと生まれてきたときから、魂が半分しか無いんです」
 そう言い終わらないうちに、涙目になったエレオノーアが、覆い被さるようにルキアンの顔を覗き込む。彼女は自分の左胸に掌を当てると、その手の上に、ルキアンの手を取って乗せた。
「おにいさんと一緒だから、心臓、どきどきしています。私は《生きて》いるようです。でも《ロード》より前の記憶は、私には無いんです。思い出せないだけなのかもしれませんが、もし思い出しても、それって《私》の記憶と言えるのでしょうか。そんなこと考えると……考え始めると怖いんです……記憶や、この体、この思い、どこまでが《私》なのでしょうか。《私》って、本当に存在しているのでしょうか?」
 ルキアンの手が震えた。その手をそっと押さえているエレオノーアの指に、力が加わる。あまりのことに、彼女が何を言っているのか、直ちには現実味を感じられなかったルキアン。しかし心の中でエレオノーアの言葉を反芻してみて、その恐るべき内容に、ルキアンは、ただ言葉を失うことしかできなかった。
 ワールトーアで一度は知った《ロード》のことを、その記憶を《絶界のエテアーニア》によっておそらく奪われたために、今のルキアンは、《ロード》というものについて、自分自身も含めてのことではなくエレオノーアの方だけが辿った悲劇として受け止めてしまっている。その姿は、真実を知る者からみれば、皮肉と無残の極みだった。だが、本当のことをここでルキアンには伝えず、気持ちの奥に押し込めながら、エレオノーアは話を戻した。
「だから、私と対の《執行体》になるはずだった人が、誰で、どんな人間だったのかも、覚えていません。だけど、とても大切な人だったんだなって、分かるんです。私にとって……あ、違うのかな、《この人》にとって。でも私自身も、心にぽっかりと穴が開いたような、何かが絶対的に抜け落ちたような。ずっとそんな苦しい気持ちでした」
 彼女の真剣な表情に押され、ただ無言で頷くルキアンに、エレオノーアは独白を続ける。
「しかも私は《不完全なアーカイブ》なのです。《アーカイブの御子》は、闇の御子の本来扱う様々な御業や智慧を収めておく書庫のようなもの。対になる《執行体の御子》を助け、支えるためだけに生まれてきた存在。たとえ不完全でも《執行体》であれば、普通の人間を遥かに超える特別な力をもつ者として、価値があります。でも、対になる《執行体》を初めから失っている不完全な《アーカイブ》は、《御子》としての莫大な力をただ《保管》しているだけで、それを自分自身ではほとんど使うことができず、他に特別な能力も持っていません。多くの人の命を食い尽くしたくせに、ただ生まれてきただけの、役立たずなのです」
 言葉を選ばず、信じ難い話を突き付けるエレオノーアに、それでもルキアンは共感することができた。多少なりとも《御子》としての自覚がなければ、到底受け入れられない内容であったろうが。そういえば、話に熱が入り出すと止まらなくなり、普段とは打って変わって饒舌になることは、この二人に共通する点である。
 エレオノーアは、心の深いところで何か鍵のようなものが外れたと感じた。ルキアンにここまで話すつもりは無かったうえに、しばらくは彼とのかかわりは無邪気なふれ合いの範囲に留めようと思っていたはずであり、その淡くて不安定な心地良さに、できる限り長く立ち止まっていたかった、はずである。
「《片割れのアーカイブ》。たとえもう、私の《執行者》の代わりは存在しないとしても……それでも空になった己の半分を埋めようとする本能のようなものが、ひたすらに強くなって。そんなとき、私は知りました。その、いいえ、自身で感じ取ったのです。実は《ロード》が成功していて、《真の闇の御子》がこの世に降り立っていることを。この人なら、本当の闇の御子の力をもってすれば、《アーカイブ》としての私を受け止めることができる。魂のもう半分を埋めてくれる、きっと私を導いてくれると、なぜかそのように確信したのです。おにいさんからみたら、一方的すぎますよね。迷惑ですよね。たとえ御子としての宿命があったにしても」
 《不完全な御子》としての秘密と、一人の女性としての胸の内とを、ひとときに伝えようとしているエレオノーア。その目は、いま、正面からルキアンを見つめていて、限りなく透徹していて、噓が無く、しかし微かに哀しそうな光も宿している。
「ただ、あなたに、おにいさんに会いたい。そう思って私は《僧院(あそこ)》から逃げ出しました。たとえ殺されてもよかった。おにいさんに一目会えるのなら。幸い、レオーネ先生に助けられて……。あの人のもとにいれば、簡単には手出しできません。それに何故か、逃げた私に対し、《僧院》からの動きが何もありません。もう長い間、時々忘れそうになるくらいに」
 つい先ほどまで鮮明に聞こえていた、谷川に水の流れる響きや、風の音、揺れ動く草や木々の葉のざわめきや、すべてがもはや二人には聞こえていない。しかしエレオノーアの声だけが、ルキアンをとらえて離さなかった。
「おにいさんのこと、ずっと想ってたんです。おかしいですよね。どんな人かも分からなかったはずなのに。だけど、なんとなく分かるんですよ。分かっていたのです。朝起きて、まず思うのはあなたのこと。それで気が付けば、お昼になっていて、今日みたいにお魚を獲りに行っても、ずっとあなたのことばかり。夕方になっても。そうやって毎日。日が暮れると、もっと寂しくなってきて。おにいさんのことが、どうしようもなく気になって、静かに本を読んでも落ち着かなくて、すぐに夜が更けて、仕方なくベッドに入っても眠れなくて、とてもとても切なくなって、おにいさんのことを想うと体が熱くなって、そして……そして私は……」
 思わず喋り過ぎたと気づき、エレオノーアは顔中から首まで真っ赤に染めて、慌てて視線をルキアンから背けた。
 
「せつないです。おにいさん……」
 
 ルキアン自身もエレオノーアの語りに気持ちが入り込み過ぎて、己の奥底から湧き出る耐え難い力に動かされ、彼女を安心させたい、やみくもながらも抱きしめたいと思わずにいられなかったのだが――彼の身体はそのようには動かず、何度も腕や指先を震わせ、仕方なくエレオノーアの頭を優しく撫でようと、手を伸ばした。
 
 
 ――はぁい。そこまで。
 
 そのとき、ヌーラス・ゼロツーは心の中で嘲笑した。ゼロツーの操るアルマ・ヴィオが再び上空からルキアンたちを監視している。
 ――そうだ、僕も《おにいちゃん》って呼んじゃおうかな。だって僕は、そんな《廃棄物ちゃん》よりもずっとずっと前から、あんたのことを見張り続けて、いや、見つめているんだよ……おにいちゃん。
 そのうえで、ルキアンとエレオノーアが気づいていなかった周囲の変化に対し、ゼロツーが意地悪く語る。勿論、それは独り言でしかないのだが。
 ――あれれ、どうしよう、おにいちゃん。二人で楽しくやってるところ申し訳ないんだけど、悪いおじさんたちが来たみたいだよ。
 
「釣れましたか。貴族のお坊ちゃん方。いや、そちらは、お嬢様でございますか……。ははははは!!」
 頬に傷、髪をすべて剃り上げた頭、片目に黒い眼帯をした、絵に描いたようなならず者の頭目が、似合わない丁重な表現でぎこちなく喋った後、大声で笑った。
 その声に合わせ、自分たちも下卑た笑いを垂れ流しながら、背後の森の中から男たちが次々現れる。皆、手に剣や斧、ナイフなどを持ち、茶色や緑色の薄汚れたマントを羽織っている。その風体からして山賊や追剥ぎのようだ。
「《せつないです、おにいさん》? そんなに人肌恋しいのだったら、俺たちが温めてやるよ」
 頭目が、これまた似合わない紳士然とした口調で、しかし品の無い言葉を投げかけた。取り巻く手下たちはわざとらしく失笑している。
 口角が下がり、淡い紅色の唇を震わせたエレオノーアに、怒りの表情が浮かんだのをルキアンは初めて見た。彼女は悪漢たちを恐れるのではなく、激しい憎悪に満ちた目で、しかし冷静に周囲を確認している。ずっと心の内に、悶えながらも大切に秘めていた想いを、意を決してルキアンに打ち明けたとき、その尊い瞬間を下世話な山賊たちに覗かれていたのかと思うと、温厚なエレオノーアも、怒りと恥ずかしさとで体中の血が沸騰しそうなのだろう。
 
 ――あの山賊たち、ちょうどよいところに居たからね。でも、本気で相手にしてくれないし、身の程をわきまえず僕に手を出そうとしたから……10人くらいまとめて殺っちゃったら、素直に言うことを聞くようになったよ。馬鹿だね、自分たちにとっても、御褒美にしかならない美味しい話なのに。
 エレオノーアに焦点を合わせ、機体の魔法眼に映る眺めを拡大すると、ゼロツーは徹底して冷淡な口調で告げる。
 ――気に入らないその女を、やっと会えた愛しい《おにいさん》の目の前で、ぼろ雑巾のようになるまで辱めてやってよ。
 容赦のない酷薄さを溢れ返らせ、《美しき悪意の子》は唇を歪める。
 ――おにいちゃん、怒るかな。だったら、大事な大事なエレオノーアちゃんの純潔を守りたいなら、山賊の虫けらどもなんて、いっそ消しちゃったらどう? 実は、おにいちゃんも、血を見るのが楽しいんでしょ、その力を存分に使って。僕、じっくり観察してたんだよ。アルフェリオンが逆同調して、敵も味方も見境なくブレスで焼き尽くしたときのことを。ナッソスの戦姫の機体を、鋼の剣の山で容赦なく刺し貫き、牙で食いちぎったときのことを……。あんた、最高だよ! 本物の闇の御子、僕のおにいちゃんは。だから、認めたらどうだい。
 ヌーラス・ゼロツーは、自らも悦び極まった寒気を感じながら、小悪魔のように誘うのだった。
 
 ――本当は好きなくせに。気持ちいいよね、闇は。
 
「おにいさんは逃げてください。私が道を切り開きます。そして、早く助けを呼んできて」
「でも、そんなことをしたら君が……」
 エレオノーアが告げた決死の提案に、かつ、それが混乱や無謀によるものではなく、彼女自身が一定の勝算を信じた表情をしていることに、ルキアンは驚きを隠せない。それ以前に、彼女だけを置いて逃げることなどできるはずがなかった。
 ――それでも僕は、まだ同じことを繰り返すのか。
 あのとき、内戦で無法地帯となったナッソス領において、ならず者たちに凌辱されたシャノンの姿が、ルキアンの脳裏に何度も浮かび上がって消えようとしない。もし同じように、エレオノーアが山賊たちの手で嬲り者にされたとしたら。そう思っただけで、ルキアンは身も心も余すところなく絶望に囚われた。
「駄目だよ。ぼ、僕が守るから。エレオノーアが逃げて」
 そう言いながらも、ルキアンは剣すら抜いていない。抜いたところで、それを生身の人間に突き立てることなど、彼にできるのだろうか。
「ありがとう、おにいさん。守ろうとしてくれて、本当に嬉しい」
 前に出ようとするルキアンを押しとどめ、エレオノーアは目に涙を溜めながら、精一杯のきれいな笑顔を作った。
「でも、もし、おにいさんに何かあったら、私は生きていられません……。それに、言ったばかりじゃないですか。私は、これでも結構強いんですよ」
 エレオノーアが、考えてもみなかったほど強気の姿勢を見せたため、山賊たちは呆気に取られた。その場の空気を変えようと、彼らの頭はできるだけ尊大な態度を装う。
「ほぉ、勇敢なことだな。だが、そういう強い女は大好きだ」
 それと同時に、おそらく目や表情で合図があったのか、近くの茂みから数人の男が剣を振りかざし、前触れもなくエレオノーアに襲いかかった。
「傷つけるんじゃないぞ、絶対に殺すな!」
 油断してそう言った山賊の頭は、次の瞬間、眼前で何が起こったのか分からなかった。小柄な銀髪の少女に飛び掛かったはずの、彼女より遥かに大柄で屈強な男たちが、うめき声を上げてばたばたと地に伏していったのだ。
 エレオノーアの呼吸が一変し、足の運びも獣のように隙の無いものとなった。
 いま起こったことは何かの間違いにすぎないと、別の一団が、今度は本気で害意を込めてエレオノーアに斬りかかる。
 だが彼女は、緩急自在に円を描くような動きで山賊たちの攻撃をかわし、敢えて敵の懐に入ると、密接して武器を振りにくい間合いから急所に一撃を叩き込んだかと思えば、相手の脚を乱して動きを崩し、敵同士がぶつかり、危うく同士討ちになりそうな動きを誘っている。
 
 ――灰式・隠密武闘術、弐群。
 
 エレオノーアの青い瞳が、その師・レオーネを受け継いだような、《灰の旅団》の戦人(いくさびと)の眼差しへと変わった。
 
 ――邪魔をしないで。私は、もう決めたんです。この美しい谷に、光翠の川面に別れを告げて、私自身のもって生まれてきた宿命も越えて、一緒について行きます、おにいさん!
 
【第54話に続く】
 
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第53話(その5) ふたりの想い

目次これまでのあらすじ | 登場人物 鏡海亭について
物語の前史プロローグ

  --- 第53話に関する画像と特集記事 ---

第53話PR登場キャラ緊急座談会? | 中盤のカギを握る美少女?

 


第53話 その5


 気ままな軌跡で花の周囲を飛び回る蝶のように、エレオンは、ルキアンの隣に立ったかと思えば今度は後ろ、そして前に飛び出して先へと誘い、にこやかに弾けている。無邪気な妖精を思わせる魅力を振りまきながら、道すがらの草花や、鳥の鳴き声について、虫や岩石について、ひとつひとつエレオンが雑多な知識を披露する。海沿いの大都市、コルダーユで暮らしていたルキアンにとって、この山峡は目新しいものばかりだ。
「おにいさん。この花、知っていますか?」
 道端の少し奥まった茂みに手を伸ばしたエレオンが、はかなげながらも凛とした、小さな白い花をルキアンに差し出した。人との関わり合いがあまり得意ではない、どちらかといえば他者との親密な接触は避けがちなルキアンにとって、距離感を飛び越して懐に入り込んでくるエレオンの振る舞いは、いちいち気持ちを揺さぶられるものであった。それに対する受け止めに戸惑って、もはや反応すること自体をあきらめたようなルキアンに、エレオンが真面目な顔つきになって言った。
「僕の好きな花、おにいさんにあげます。花言葉は《あなたに、すべてを捧げます》」
「はい?」
 困惑するルキアンが、半ば裏返った声でエレオンの意図を問うと、彼は一転して沈黙し、ルキアンに背を向けて歩き出した。
「あ、あの、エレオン? いま、僕、何か気に入らないこと言ったかな。そうだったら、ごめん……」
 意味も分からず謝るルキアンに、なおも返事をしないエレオン。だが数歩進んだところで、エレオンは大きく振り返った。計画通りに、意味ありげな笑みを浮かべて。
「それは嘘、うっそでーす! びっくりしましたか?」
 心配して損をしたと、迷惑そうな顔つきになったルキアン。そんな彼の顔を見上げる目線で、エレオンは、喉で空気を擦るような、かすれた声でつぶやいた。
「本当は、この花はヴァイゼスティアーといいます。いにしえの勇者の時代、聖女を愛し、想いが届かずに魔界側の英雄へと堕ちた人の、最後の一粒の涙の生まれ変わりと言われています。そこが好きなんです。僕は、魔界に堕ちていった人の側の人間でしょうから」
 そのとき、ルキアンの瞳に漂う光に微かな変化が生まれたことを、エレオンは十分に理解していた。
「あ、おにいさん。今の言い伝えを聞いて、一瞬、何か共感するところがありましたね……」
 エレオンは一方的にルキアンの手を握ると、そのまま引っ張って小走りに駆け出した。
「闇、深いですね」
 だが、それは、この二人の宿命を考えれば、ひとつの歪んだ誉め言葉だ。

――何なんだ。あんたたちは。
 そうしたルキアンとエレオンのやり取りを、気取られぬよう天空高くから見張る者がいた。オパールの遊色よろしく七色に輝きを随時変化させながらも、人の子の瞳には決して映らない、おそらく旧世界の高度な光学迷彩あるいは精霊迷彩を、いや多分、それ以上の特殊な能力を備えた未確認のアルマ・ヴィオ、その乗り手の《美しき悪意の子》ことヌーラス・ゼロツーである。ルキアンやエレオンと同じく銀の髪と青い目をもち、《月闇の僧院》の執行部隊として先頭に立つ、人由来の、人の姿をした、しかし本質的には人からはもはや遠くなった存在だ。御子と同じく。
 ゼロツー、彼あるいは彼女は、子犬のようにルキアンにじゃれつくエレオンを機体の魔法眼で拡大してとらえながら、憎々しげに追う。一見して性別の境界を越えたような互いの姿がどこか似ていることに、さらには互いの境遇に、一種の同族嫌悪を感じてでもいるのだろうか、かなり感情を高ぶらせている。
 ――失敗作、何の役にも立たないゴミ以下の《不完全な片割れのアーカイブ》が、心底幸せそうに笑っちゃって。あんたなんか、あの婆さんが面倒な相手だから、ネリウス師父(マスター・ネリウス)がお情けで放任しているだけだろ。
 ――それに、ルキアン・ディ・シーマー。真の闇の御子のくせに、何を無駄な時間つぶしてるのさ。
 ゼロツーは声を震わせた。いや、アルマ・ヴィオと融合し《ケーラ》に横たわる今のゼロツーにしてみれば、音や響きを伴った現実のものにはならない、心の声であったが。
 ――僕らヌーラス、《不完全な片割れの執行体》は、死や暴走の恐怖におびえながら、こうして活動してるのに。あんたには力があって、やるべきことがあるのに……呑気に未来に迷って、こんな山奥でイチャイチャしてるのか。
 ――そもそも、あんたは、初めて成功した《ロード》によって生まれた、完全な《執行体》。だから、もともと対になる本来の《アーカイブ》が別に居るだろ。《ロード》に失敗して、魂の半分の相手を失い、自分ひとりだけ無駄に生まれ落ちてきた《不完全なアーカイブ》なんか、他の執行体と一緒にいたところで役に立たないのに。
 ゼロツーは冷え切った笑みを胸の奥にたたえて、二人の姿を見据えた。
 ――気に入らないな。ぶち壊したい。でも本当に壊すとマスターに怒られるから、ちょっと、いじめてやるよ。
 「お目付け役」のヌーラス・ゼロワンや、マスターのヌーラス・ゼロ、すなわちネリウス・スヴァンが同行していなかったことから、ゼロツーの悪意がルキアンとエレオンに、いや、エレオノーアに、ここで降りかかることになる。

 ◇

「おにいさん、着きました」
 ルキアンよりも数メートルほど先行したエレオンが振り返り、手に持った2本の釣り竿を掲げている。所々、道にまで張り出して邪魔する木々の枝を払いながら、ここまでやってきた二人だったが、突然、視界が開けた。ルキアンたちの辿ってきた川だけではなく、近隣の支流からも集まってきた幾つもの細く急な瀬が、集まって大きな淵を形作っている。
 道から岩を伝い、おっかなびっくりに淵に近づくも、吸い込まれるような、薄暗い壺の奥を思わせる水を蓄えた川面を目の当たりにして、ルキアンは身を震わせた。
「すごく、深いね……」
 落ちたらさぞ冷たいのだろうと、彼は一歩後ずさる。心地良く頬を撫でる風の暖かさからは考えられないほど、晩春の渓谷を流れる水は冷たい。当分はまだ人を拒否するつもりなのか、触れると凍てつくような、肌を切る感覚を残す。風に舞った水しぶきが、霧のように細かく散らばっていく。それらが溶け込んだ、ひんやりとした空気感。
「ここ、他の場所より、とっても大きな魚が釣れるんです。この前なんか、相手が大きすぎて竿が折れそうだったんですよ」
 エレオンはそう言って、釣り上げたのであろう魚の大きさを両手で表した。淵の周囲を睥睨する主さながらに、そびえ立つ大岩が一つ。それにエレオンは駆け寄り、軽々とよじ登って、ルキアンに手招きしている。
「おにいさん、こっちこっち。よく見えます」
 普段はおっとりとした動作であっても、こういうとき、エレオンは意外なほど俊敏な動きを見せる。それに対してルキアンは、恐々、腰の引けた様子で岩に手を掛ける。だが、少し上ったところで身動きがとれなくなり、カエルのように岩に張り付いて困っている。
「お、落ちる!」
「おにいさん。落ち着いて。僕が引っ張ってあげます」
 エレオンが手を差し出した。小柄で細い彼がルキアンを無理に引っ張りあげようとすれば、二人一緒に落ちてしまいそうな気もしたのだが、彼はエレオンの手を掴んだ。それを握り返した、細くて柔らかい指。
「離したら駄目ですよ! 僕の手を」
 そのままエレオンは、うつむき加減になると、風にかき消されそうなささやき声で言い足した。

「お願い、離さないで、ずっと。私の手を……」

 よじ登るのに必死で、エレオンのそんな言葉を聞き取る余裕もなかったルキアンだが、彼はふと見上げた。次の瞬間、何故か彼は足元を滑らせ、急に落ちそうになる。
「おにいさん! 危ないよ。僕まで落ちちゃう、暴れないで!」
 岩にしゃがみ込んだエレオンも、必死にルキアンを引っ張った。
 ルキアンは自らの愚かさ加減に呆れながら、とにかく落ち着いてエレオンのところまで登ろうと、自分に言い聞かせる。しかし……。
 ――ちょ、ちょっと。エレオンって。
 先ほどエレオンが岩の上から手を差し伸べたとき、下から見たルキアンの目には、考えてもいなかったものが映ったのだ。
 ――男の子、じゃなくて……女の、子?
 羽織った濃紺のローブの下、白いシャツの胸元から、弾けそうに押し込まれた膨らみが見えたのだ。ルキアンは目を疑ったけれど、エレオンは間違いなく女性である。
 男であると思い込んでいた相手が女であったからなのか、それとも岩から落ちそうになったせいなのか、いや、おそらく両方ゆえに、ルキアンの鼓動はむやみに高まり、気持ちも平静を失った。
 そんなルキアンの気持ちなど知ることもなく、エレオンは手に力を込めた。
「おにいさん、もう少しです。頑張って!」
 自分よりもずっと重いルキアンを健気に引っ張り上げようとするエレオンに対し、よこしまな気持ちを起こして申し訳ないと思ったものの、ルキアンはエレオンのことが急に気になって仕方がなかった。意識し始めると止まらなくて、悪いと思いつつ、そっと上目遣いをすると、エレオンの白い胸元に視線が吸い込まれた。
「ご、ごめん!」
 何に対して謝っているのか、よく分からないままに、ルキアンは懸命になって這い上がることができた。平らな大岩の上に座り込んで、荒い息をしている。
「おにいさん、大変だったね」
 巨岩とはいえ二人が座るには決して広くはない場所がら、エレオンが窮屈そうにルキアンに隣り合った。
「エ、エレオン!? そ、その……」
 彼くらいの年頃の少年に、同年代の少女のことを意識するなと言っても難しいだろう。少なくともルキアンには。先ほどまでと様子の違う彼に、エレオンは首を傾げ、特に意識せず膝を寄せた。
「え、何ですか? おにいさん」
「あ、あ、あの、エレオン!」
 今度は、白いキュロットから伸びるエレオンの脚のことが、ルキアンはついつい気になった。考えてみれば、すらっとして、細く滑らかな、それでいて一定の肉付きのある脚は、自然にみて男性ではなく女性のそれである。
 ルキアンは無理に横を向いて、エレオンに尋ねた。
「エ、エ、エレオンって……女の子、なの?」
 事情も分からず、不躾だと思ったものの、ルキアンは率直に口にした。エレオンの答えが気になったが、彼、いや、彼女はこれまで同様に微笑んで、いや、これまで以上に満面の笑みを浮かべ、落ち着いた口調で答えた。
「はい。そうですよ」
「そ、そうなんだ、ね……」
「はい! 実は私、女の人だったのです」
 エレオンは改まった調子で頭を下げ、少し舌を出して苦笑いした。
「おにいさんを騙すつもりは決してなかったです。本当はエレオノーアと言います……。そう呼んでください。でも、よその人がいるときには、エレオンでお願いします」
 黙ってうなずいたルキアンに対し、エレオノーアは慌てて首を振った。
「あ、おにいさんが気にする必要はないです。別に私は、何か秘密があって、その、たとえば……お話にあるじゃないですか、王子のふりをして剣を帯び、戦わなければならなかったお姫様のように……そういうのとは違うんです」
 エレオノーアは大岩の上から、下界を見渡すといわんばかりの素振りで、四方を眺めた。
「レオーネ先生が、敢えてそうしなさいと。このあたりはまだ本当の山奥なので、めったに誰も来ないし、大丈夫なのですが……隣の村まで行くと、もう、そうではなくて、一見すると自然が豊かで平和な山里に見えますが……実際には、田舎は、都会とはまた違った意味で治安が行き届かず、警備兵も居なくて、山賊や人さらいのようなならず者たちが好き勝手に暴れています」
 彼女は溜息をついた。
「少し前にも、近くの村の娘さんが誰かにさらわれて、後になって遠い遠い街の……あんなところで、その、知ってますよね、何ていうのかな、娼館? で、見つかったですとか」
 頬を微かに赤らめたエレオノーア。さらに彼女は東の方を指さして続ける。
「怖いです。あっちの村の方では、女の人が山賊に襲われて、その、ひどいことされて……最後には命まで……。だから気を付けないと、って。独りで出歩いているときに、一目ですぐ女だと分かる姿を決して見せるなと、先生が。いや、こんなの、見たらすぐ女だって分かってしまうけど……だとしても、です」
 不安そうな表情をしていたエレオノーアが、それを気にしたルキアンを慮ってか、可愛らしく首を傾けて笑った。
「大丈夫です。私、こう見えて結構強いんですよ! レオーネ先生は、むかしミルファーンで一番優れた機装騎士だったので、私も武術を習っています。おにいさんも守ってあげますからね!!」
「あ、ありが、とう……」
 ルキアンは無意識にそう答えた。だが直後に、本当は、僕が護ると告げるべきだったろうと彼は思った。それは、自身が男であるからだとか、一応の戦士としてのエクターであるからだとか、そのような理由からではない。

 ――僕は、二度と繰り返さないって覚悟したじゃないか。人を傷つけたくないから迷って、そのせいで大事な人を失ってしまうのは、もう嫌だから……決めたじゃないか。僕は《いばら》になると、泣きながらでも戦うと。弱い僕をかばって消滅してしまったリューヌや、僕が戦えなかったせいで犯されたシャノン、殺されたシャノンのお母さんのようなことは、もう絶対にさせないと。

 ルキアンはエレオノーアを見つめた。瞳と瞳で。同じ光を宿した目で。
 その眼差しに込められた想いを、エレオノーアも、他人事ではなく己自身のこととして、真の意味において理解していた。

「おにい、さん……」

 

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