断腸亭日乗 (永井荷風 岩波版)を読む①
はじめは、昭和21年にあった預金封鎖をけちん坊で有名な永井荷風がどう感じたかに興味があって読み始めた。摘録岩波文庫版を読んだんですが、あまりにあっさりしすぎていて絶対これはしつこくなんだかんだと書いてあるところを採用しなかったに相違ないと考え、全7巻を古書店で買い求めまず昭和21年から読み始めました。
この本昭和56年発行ですからもう約40年前ですが読まれた形跡がないのです。ただ前の所有者さんも預金封鎖に興味があったと見えてこのページだけにしわが入っていました。だれでも同じところに興味を持つものと見えます。この人ここだけのために全7巻1万数千円(当時)をお払いになった。
荷風のことです、さぞや口を極めて悪口を並べ立ててあるに違いないと期待したのですが全集版でもあっさり事実だけを書いてあって残念な思いをしました。これでは全7巻4500円(令和2年)を支払った意味が無いと考え、日記のことですからどこから読んでもいいので行きつ戻りつ少しずつとうとう全部読んでしまった。そこで感想を書きたい。
この本には荷風の写真が添えられており、若いころちょうど「フランス物語」に記載されている時代の写真もある。これが、私たちがふつう知っている70歳ころの写真と全く違ってさっそうとした美男子なのです。まあこのころでもこの人とはちょっとお友達にはなりたくないような、またはとてもなれないような人を寄せ付けない風貌ではありますが。
お話変わって フランス物語も少し読んでみたのですが、これはいかに自分がもてるのかの自慢につぐ自慢ではないのかと思って途中から放り出しました。こんなことをぬけぬけ書くほうにも呆れるがこんなことを本にして売るのも呆れるし、これを買って読むというのも呆れる。しかし新聞以外に読むもの聞くものがなかった時代には、こんな自慢本が売れるのかもしれない。昔の首相とかがどう思ったかとかは記録にあって多少の推察ができるけど、この時代の庶民がどんな気分で過ごしていたかはほとんど推察できない。こういう自慢本を喜ぶ気分があったのであろう。
もしや、今の週刊誌にあるゴシップ記事を読むような気分で読んでいたのではないか。それなら売れるだろう。この人ゴシップを作る芸能人と、それを調べる係の人と、さらにそれを書くライターを兼ねていたのではないか。作っているほうが書くのだから探索する手間が無くて大変効率がよろしい。これは儲かるはずである。しかも、お客の顔を見ながら書き方を変えていける。それどころか作り出すゴシップの内容までお客の要求に応じて変えていける。
それでは時代が変わった今読んでも面白くないはずである。