原発問題

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『除染が続く福島での悲劇』<リンゴが腐るまで> ※56回目の紹介

2016-09-26 22:01:01 | 【除染が続く福島での悲劇】

*『リンゴが腐るまで著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。56回目の紹介

『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-

著者 笹子美奈子

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**『リンゴが腐るまで』著書の紹介

 あとがき

(前回からの続き)

 米を作らなくても賠償金がもらえます。むしろ、米を作ったら賠償金がもらえず、収入は賠償金より少なくなる見込みのため、米を作らなかった場合より損をすることになります。それだったら、作らない方がいい。当然の理屈だと思っていました。

「米を作らないでもお金がもらえる。こんな都合のいい話はない」。そう思いました。

 米所の新潟県で5年間取材してきた経験から、農業者が必ずしもやりたくて農業をやっているわけではないと思っていたからです。だいたいの農業者が兼業農家でゴールデンウィークはどこにも出かけられず、一家総出で田植え。早起きして田んぼ作業をこなしてから会社や役場に出勤し、秋の収穫の時期も連休をつぶして働きます。先祖から受け継がれた田んぼだから、自分の代でつぶすわけにはいきません。でも、何かやめるきっかけがあれば。そんな節があるように感じていました。

「原発事故は、そのきっかけとして最たるものだ」。そんな風に思っていました。でも、違う理由もあるのです。

「作っても孫が食べないから」。全く思ってもみない答えでした。

 孫の笑顔が見たい。孫の成長を何よりも楽しみにしている。多くの人にとって、それは疑いのない真実だと思います。自分の作った米を食べて孫が笑顔を見せ、成長していく喜びは、きっとかけがえのないものでしょう。「田んぼ仕事は少々骨が折れるけど、頑張って孫が大きくなるまで自分が作った米を食べさせるんだ」。そんな思いで米を作り続けている人もきっといるでしょう。私はそうした人の存在に気づいていませんでした。

 原発事故で、そのささやかな生きがいがついえました。
 

 ※「あとがき」は次回に続く

2016/9/27(火)22:00に投稿予定です。 

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)


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