*『死の淵を見た男』著者 門田隆将 を複数回に分け紹介します。32回目の紹介
『死の淵を見た男』著者 門田隆将
「その時、もう完全にダメだと思ったんですよ。椅子に座っていられなくてね。椅子をどけて、机の下で、座禅じゃないけど、胡坐をかいて机に背を向けて座ったんです。終わりだっていうか、あとはもう、それこそ神様、仏さまに任せるしかねぇっていうのがあってね」
それは、吉田にとって極限の場面だった。こいつならいっしょに死んでくれる、こいつも死んでくれるだろう、とそれぞれの顔を吉田は思い浮かべていた。「死」という言葉が何度も吉田の口から出た。それは、「日本」を守るために戦う男のぎりぎりの姿だった。(本文より)
吉田昌郎、菅直人、斑目春樹・・・当事者たちが赤裸々に語った「原子力事故」驚愕の真実。
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**『死の淵を見た男』著書の紹介
第13章 1号機、爆発
衝撃と共に・・・ P210~
その瞬間、伊沢たちの身体は、凄まじい衝撃音と共に浮き上がった。
それは、何度も襲っていた余震とはまったく異なる突然の”激震”だった。椅子から転げ落ちる者、床に座ったまま中に浮き、そのままズシンと落ちる者・・・天井に取り付けてある蛍光灯や通風口のルーバー(羽板)も音を立てて落ちてきた。
「マスク! マスクをつけろ!」
埃が舞い、中操全体が白っぽくなる中で、伊沢が叫んでいた。
昨夜来、持ち込まれていた小型の発電機が辛うじて灯していた何本かの机の上の蛍光灯も、この瞬間にかき消えた。
「何もないところで、いきなりドシャーンときましたから、なにが起こったのか、わかりませんでした。一瞬、圧力容器の中で水蒸気爆発を起こして、ガーンと容器自体が突き上がったんじゃないかという思いがしました」
伊沢がそう言えば、主任の本馬は、
「地震は、まず地鳴りがしてそれから揺れるという”プロセス”があるんですけど、この時は、いきなり押しつぶされるような、ものすごいドーンっていう音と揺れでした。思ず床にへばりつきました」
3月12日午後3時36分、それは、1号機の原子炉建屋が爆発を起こした瞬間だった。
(しまった!)
その時、伊沢の頭に、ついさっき免震重要棟に向かって出発した3人のことが思い浮かんだ。
「緊対に着いたら、すぐに連絡をよこせ」
伊沢は、運転員たちに単独の行動は絶対にさせないようにしている。研修生を送ったあと、帰りが1人にならないように、運転員を2人つけ、計3人で免震重要棟に向かわせていたのである。
その3人から「到着」の連絡が来ないうちに爆発が起こったのだ。
「あいつらが(緊対に)ついているかどうか、確認しろ」
伊沢はただちに緊対室にホットラインで連絡を入れさせた。
「着いてます!」
サーベイを受け、3人が緊対室に上がって、まさに連絡を入れようとした時に、爆発が起こったのだった。
爆発が何だったか、それは、なかなかわからなかった。
「最初、われわれも、何が起こっているのかわかりません。緊対にも聞いてみましたが、わかりませんでした。緊対から逆に、こちらの発電機が爆発したんじゃないかとか、問い合わせがあったんですけど、われわれは、とにかく目を失ってるんで、緊対でわからないものは、こっちもわからなかったですね。原子炉がどうにかなったかもしれない、とにかく何かものすごいことが起こったんだということしか考えられなかった。みんなでなんだろう、なんだろうって、言い合っていました」
常時マスク着用となった伊沢たちは、お互いが話し合うのも、以後、不自由になった。やがて、緊対室から電話が来た。
「おい、リアクタービルの5階がないぞ!」
えっ、5階がない? まさかー。
(「衝撃と共に・・・」は、次回に続く)
※続き『死の淵を見た男』~吉田昌郎と福島第一原発の500日~は、
2016/3/28(月)22:00に投稿予定です。