*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第7章 メルトダウン再び」を複数回に分け紹介します。6回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介
前回の話:第8章 50人の決死隊 ※5回目の紹介
昨夜は、2時間だけ総理公邸に戻って仮眠をとった。そのときに、どこかで見覚えのあるやんごとなき高貴な方が枕元に立つ気配がしたのである。
「八百万の神が与えしこの清らかなりし我が国土を汚したもうたのは誰ぞ」という御声が聞こえたのだ・・・。
よく総理公邸に幽霊が出るというときに引き合いに出される、ザック、ザック、という軍靴の音ではない。どこかで聞き覚えのある、やんごとなき御貴な見声なのだ。
そうして目を覚まし、電気をつけると、そこには誰もいない・・・。
咲恵夫人からは、「疲れているからよ」と慰められた。しかし、前回の政権末期のように、ノイローゼになりつつあるのかもしれない。
このように満身創痍の総理であった。それでも、「国家の総力を挙げて」という所長代理の言葉が総理の琴線に触れた。
政治家4世の血筋で、父や祖父に比べて勉強の出来が悪く、その劣等感の裏返しとして、周辺諸国に必要以上に虚勢を張る夜郎自大的な総理にとっては、人生最大の踏ん張りどころであったかも知れない。
・・・こうして躁状態へのスウィッチが入った。平常時には紳士的な総理が、椅子を蹴って立ち上がった。そして、ドーンと机を叩いて、髪を振り乱しながら絶叫した。
「所長代理、あとはお任せ下さい!原子力災害対策本部長として、そして、日本国の最高司令官として、我が国を威信にかけて、6号機、7号機を鎮圧します!」
そして、防衛大臣を指で差した。
「・・・江藤防衛大臣、ただちに、自衛隊の総力を挙げて、新崎原発の鎮圧に向かって下さい。自衛官の犠牲はやむを得ません」
総理の目は、かっと見開かれたままだ。
「・・・それから山屋国家公安委員長、警察も、NBCテロ対応専門部隊や機動隊高圧放水車を派遣して、鎮圧に当たって下さい」
総理は何かに取り憑かれたようだ。
「高い総務大臣、消防庁長官に命じて全国の市町村消防から優秀な部隊を選抜して、放水車を現地に!」
「多田国土交通大臣、海上保安庁から特殊警備隊を派遣してください。それから、大手ゼネコンにスラリーの製造装置と生コンの圧送機を現地に運ばせてください。スラリーの材料も忘れないように!」
スラリーとは、砂と水を混ぜた泥である。これをむき出しになった炉心やプールに流し込むのだ。チェルノブイリ原発では、石棺をつくって事故を収束させたがそれと同じことである。
日村がしたためたメモを、横から総理秘書官が加部総理に手渡した。加部総理は一瞬戸惑い、そしてそのまま力強く読み上げた。事前には聞かされていないようだった。
「・・・それから、汐垣厚生労働大臣、被曝限度の引上げを本日、直ちに実施してください。差し当たり、住民の被爆限度を年20ミリシーベルトに、作業員の被曝限度を年50ミリシーベルトから年500ミリシーベルトに変更してください。さらに、必要に応じ限度を上げていってください!」
これから反転攻勢だ。加部は生涯最高の興奮を味わっていた。最高司令官として我が国を守っている自らの全身に、電流とアドレナリンが同時に駆け巡っていた。
※続き「第8章 50人の決死隊」の紹介は、今回で終了します。
引き続き「第9章 黒い雪」の紹介を始めます。5/17(月)22:00から投稿予定です。
====「第9章 黒い雪」から一部紹介====
・・・東京駅には、妊婦や乳幼児を抱える女性が殺到していた。しかし指定席券は、とうに売り切れている。
「自由席でも、立ち席でも、何でもいいんですっ、通路に座ってるだけでいいんですっ」
涙ながらに駅員に陳情している抱っこ紐をした母親・・・
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