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原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

第6章 再稼働に隠された裏取引 ※1回目の紹介

2015-03-19 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第6章 再稼働に隠された裏取引」を複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第6章 再稼働に隠された裏取引」の紹介

(17)

 内閣が通常国会に提出する法案は、毎年1月上旬に、内閣法制局において文書課長会議を開催し、決定される。

 文書課長とは、各省庁の官房総務課長など、それぞれの省庁における法案審査の責任課長を指す。通常、それぞれの省庁における次官候補のエース官僚が着任している。

 しかし文書課長会議といっても、各省庁の文書課長が一堂に会するわけではない。法制局の部長が省庁ごとに文書課長を呼び出し、その場で省庁提出法案の検討の熟度を一つずつ検証し、検討が熟して法案の提出準備が整った法案をA法案(提出予定法案)、さらなる検討が必要な法案をC法案(検討中の法案)と分類する打合せである。

 その結果が法制局長官以下の内閣法制局の幹部会に諮られ、了解を得て、政府としての提出予定法案のラインナップが決定される。

 ここで決まった法案のラインナップを、通常国会開催前後に与党の国会対策委員会おいて各省庁の大臣政務官から説明し、それを了承することで与党側もオーソライズした形となる。この段階ではまだ、それぞれの法案の条文の細部は固まっていないこととなっているが、法制的なコンセプトが固まり、条文も8割方はできあがっていないと、そもそもA法案にはしてもらえない。内閣法制局としても、できないことは請け負えないからだ。

 A法案になるかC法案になるかで、法制局の審査の優先順位も変わるし、国会における法案審議の優先順位も変わる。したがって、この文書課長会議で提出したい法案をA法案に位置づけることが、各省庁の文書課長の腕の見せ所である。

 内閣法制局は、長官を筆頭に、次長、それから4人の部長で構成される。内閣法制局長官は閣議のメンバーでもあるし、組閣の際の閣僚記念撮影にも入る。よって、事務の内閣官房副長官と並んで、官界の最高峰といっても過言ではない。

 長官室は、普通の省庁でいうところの大臣級に豪華であるし、次長室も次官級に豪華である。しかし部長となると、ぜんぜん違う。次長は次の法制局長官がほぼ内定しているといってもよいが、部長たちは次の次長を目指して互いに競わされている段階だ。部屋も審査を担当する参事官の大部屋と並んでいるし、部屋のつくりもとても質素だ。

 続き第6章 再稼働に隠された裏取引は、3/20(金)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※5回目の紹介

2015-03-18 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第2章 洗脳作業」を複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第2章 洗脳作業」の紹介

 前回の話:【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※4回目の紹介

「避難行動要支援者名簿は、どうやって更新したらいいですかね? もちろん、年に1回とか、定期的に自治会や町内会経由で更新しますけどね。事故はいつ起きるかわからないんだから、起きたときに把握できていない要支援者がいても、助けに行けませんよね」

 と、県庁職員が冷静に問題提起する。東田係長の両眼がキラリと光る。

「・・・なるほど。そうですね。ただ、できる範囲でやっておく、ということではないでしょうか。もちろん年に1回より、半年に1回、半年に1回より3ヶ月に1回のほうがいいに決まっている。突き詰めれば、毎日ってことにもなる。ウェブを使えば常時リバイスできるかもしれない。

 けれども、リバイスの頻度を国が一方的に決めるってことではなくって、自治会の方々の能力、意欲に応じて柔軟に対応していただく、ってことにしかならないんじゃないですかねえ」

 東田係長は有能だ。相手に真っ向から反論するのではなく、相手の言い分をまずは認めながら、いつの間にか煙に巻いている。

「それと、安定ヨウ素剤ですけどね。事前に配布するのはPAZの住民だけということになってますけど、PAZの外の住民も事前に欲しがっているんですよね。UPZくらいは事前配布したらどうでしょう?」

 県庁職員が続ける。

「それは、お任せします。県単でおやりになることはかまいません」

 そう、東田係長は切り捨てた。

「県単」というのは、自治体が独自に県の単独予算で行うということだ。国はカネは出さないけど、やりたければ勝手にどうぞ、ということになる。事実上のダメ出しである。

「UPZに配ったら、今度はその外の住民が欲しがります。次はPPAの参考値として示された50キロ圏内の住民・・・その次は、放射性プルームはどこにでも届くといって、日本国民全員が欲しがります。

 が、全員には配れないんです。国はPAZで線を引いた。ですから、それ以上は、欲しがる住民のいる自治体がどうぞ勝手に調達してください、ってことですかね」

 問答無用、取り付く島もないとは、このことだろう、しかし、こうしたやり取りを通じて自治体の3人は、地元に戻ったあと地元自治会や町内会に対して語る言い回しを教えてもらっていたわけだ。

 ーこれこそが、内閣府原子力災害対策担当室の本務であった。

(8)

 みっちり2時間の打ち合わせを終えて、県町村のデコボコトリオがビルの前の駐車場から、六本木1丁目の駅の方向に下っていく。六本木ファーストビルの原子力災害対策担当室の窓から、その3人の姿が小さく見えていた。その3人に、隣の巨大ビルや首都高速の橋架が覆いかぶさっていく。

 原子力災害の潜在的被害者の代表から、国家権力の担い手としての自覚を植えつける洗脳作業はうまくいった。心なしか3人の足取りも力強く見える。

 あとは、今日構築された国と自治体の共犯関係を、県と市町村、市町村と自治会町内会連合会、自治会町内会連合会とそれぞれの自治会や町内会に及ぼしていけばいい。水が高きから低きに流れるように、国家権力の一端を担う快感も、国から県、県から市町村、そして自治会町内会連合会、各自治会や町内会に伝播していく。

 自治会や町内会の会長さんといえば、地域の名士だ。昔の庄屋だ。保守党の伝統的な支持基盤でもある。都会ならともかく、原発があるような田舎では、自治会長さんや町内会長さんがOKということに、表立って歯向かう者はいないだろう。

 窓辺でデコボコトリオを見遣る経産省出身の東田係長の肩を、うしろから守下副室長が軽く1回ポーンと叩いた。

(よくやった、ご苦労さん)

 言葉には発しなくとも、守下副室長の慰労の気持ちは東田係長に伝わった。

 自分と副室長の2人で、なんとか避難計画の策定作業は回っている。いずれ、避難計画の策定が大詰めになった暁には、守下副室長を男にするためにも、自分が志願して、仙内の地元市町村に赴き、直接住民と対峙しよう。

 この原子力規制庁のなかでは、経産省に戻って出世する可能性があるのは守下だ。自分の頑張りを守下にアピールすることで、守下の出世を通じ、自分の将来に必ずリターンがあるだろうーこう東田係長は冷静に計算していた。

 第2章 洗脳作業の紹介は、今回で終了します。

引き続き第6章 再稼働に隠された裏取引の紹介を始めます。3/19(木)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※4回目の紹介

2015-03-17 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第2章 洗脳作業」を複数回に分け紹介します。4回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第2章 洗脳作業」の紹介

 前回の話:【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※3回目の紹介

 介護保険法に精通し、遵法意識の高い厚労省の役人ならばいえない台詞だが、国の役所は縦割りなので、まったく悪気なく、経産省出身の東田係長はこういう台詞を吐く。しかしこれでは、原発再稼働のために介護保険制度の運用を多少捻じ曲げてもいいとしか聞こえない。本当に厚労省がそれを認めてくれるかどうか、その確証はまったくないのだ。

「フクシマんときゃ、避難せなんぶんのガソリンがなかて、たいぎゃ~な騒動になったろ。ガソリンの蓄えは、どぎゃんすっと?」

 と、再び村役場の田舎者が、より一層高い声を上げる。下手をすると、この六本木ファーストビル近辺の常識では、威力業務妨害罪が成立するといわれかねないだろう。

 が、東田係長は臆することはない。

「自治体としてやりたければ、ガソリンの備蓄でも何でもやったらいいですけど・・・でも、そもそも自家用車での退避はしないのが原則なんだから、ガソリンの供給不足も起きないでしょ」

 そう冷たく答える。すると、

「そぎゃんとは、第2の安全神話になるったい。なんばいいよっとかい!」

「ちょっと、冷静に、静粛に」

 東田係長は両手を顔の前に掲げ、町役場と村役場をたしなめる。まるで突如オフィスに出没した牛を落ち着かせるような仕草だ。そして、

「もちろん、ご懸念はわかりますよ。でも、疑問点なんて考えようと思えば、いくらでも出てくるんです。私たちが、空想を逞しくして、無限に疑問点を並べ立てたって仕方がないですよ」

 といって、一息置いた。

「みなさま方には、我が国の統治機構の一員として、むしろ住民の方を治めるほうに回わっていただかないと・・・」

 そういうと、東田係長は田舎者たちの顔色を窺う。オフィスに一瞬の静粛が戻った。

 俺達は敵同士ではなくて仲間なのだー国の役人にそういわれると、満更ではない。自分たちに統治機構の一員という意識はなかったが、そういわれると少し、くすぐったい気もする。

「みなさんも、原発が再稼働しないと困るんでしょ」

 と、東田係長が追い打ちをかける。

「・・・」

 それはそうなのだ。原発がなくなれば、冬になればまた、住民は都会へ出稼ぎに出なければならない。昭和の時代の暮らしに逆戻りだ。

「だったら、これで一緒に頑張りましょうよ。国は逃げたりはしませんからっ」

 東田係長はそういって、片頬に微笑をうかべる。

 田舎者3人が顔を見合わせた。村役場の西郷どんが落ち着きなく視線を泳がせている。

「・・・そっだけん、住民説明はどぎゃんすっと?」

 町役場の赤黒い顔の小太りが、まだ納得していないようだ。

「必ず向かえのバスが来る。民間のバス会社と自治体とは協力協定を締結しているから、契約上の義務だ。義務は守られなければならない。だから、『必ずバスが来る』と言い続けることです」

 ここが最後の詰め所だ、と東田係長は思った。

「そるばってん、年間1ミリシーベルト以上のなかじゃ、民間の社長さんは、バスの運転手に迎えに行けっちゃあ~いえんばい。労働安全衛生法違反じゃなかと?」

「そこは、協力協定上のバス会社の義務と雇用契約上の安全配慮義務とが矛盾しかねない点で、説明が苦しいんです。

 だからこそ、自治体の職員のみなさんには、この苦しさを理解していただいて、住民に一緒に説明し続けるんです。いきなりは1ミリシーベルトにはならない、だから『迎えのバスは必ず来るんだ』と、『協定上の義務があるんだから大丈夫です』と言い切るんです」

 さすがは経産省出身の係長だ。避難計画は、住民の安全のためになるかどうか、というところにその本質があるのではなく、原発を再稼働させるため住民との関係でどのように納得感を醸成するのか、そこに本質があるということを見ぬいている・・・。

 そして、国と自治体とを対立構造に持っていくのではなく、いつのまにか共犯関係に持ち込んでいる・・・。

続き「第2章 洗脳作業は、3/18(水)22:00に投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※3回目の紹介

2015-03-16 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第2章 洗脳作業」を複数回に分け紹介します。3回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第2章 洗脳作業」の紹介

 前回の話:【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※2回目の紹介

「ここの村にも救急車は一台あるんですが、原子力緊急事態宣言が発出されて、住民みんなが避難するときに、避難先と病院との間をピストン輸送するなんてことをしたら、だいたい、どんだけ時間がかかるかわかりません。フクシマのときには、原発周辺で、ものすごい渋滞が起きたと言いていますし・・」

 そう県庁職員が通訳する。すると、それに応えて、

「だから、県庁さんがしっかり町や村を指導するしかないでしょ!」

 と、経産省出身の東田係長が県庁職員に言い放った。

「フクシマの交通渋滞は、みんな自家用車に乗って避難したから起きた。だから、自家用車は極力使わせない。一時避難場所に集まって、みんなしてバスで移動するんです。UPZの住民には屋内退避を徹底させて、勝手に避難はさせない。それがフクシマの教訓です」

「そんなこといったって・・・それに、要支援者用の避難車両は明らかに足りない」

 と県庁職員が抵抗する。

「それなら必要な分だけ車両を購入してください。地方交付税措置の基準財政需要額の補正係数で調整します」

 国が地元自治体に再稼働の同意を得ようとしているのに、避難計画の各論に入り込むと、省庁縦割りの壁が厳然として残っている。だから経産省出身の係長がこう断言したところで、総務省が本当にその分だけ地方公務税交付金を増やしてくれるかどうか、確たる保障はない。

 結局、地元自治体や福祉施設は、自分の力で、なんとか避難しなくてはならないのだ。

「避難先の当ては、どぎゃんすっと!」

 興奮する村役場の南方系がまた大声を上げる。六本木ファーストビル始まって以来の大声だろう。遠くの審議官室付の秘書が、立ち上がってこちらを見ている。おそらく個室のなかの審議官が大声を気にしているのだろう。

「それも、県のほうでお考え下さい。都市部に施設を、実際の介護需要より少し多めに許可しておけば、介護事業者も喜びますよ。普段は、少し軽度の方も入居させてあげれば、住民も喜ぶ。

 そして、いざ原発事故となったら、介護認定を直ちに見直して、自宅にたたき返せばいい。そうすれば、避難してくる要介護者の分のスペースなんて都合できるでしょ。もう少し知恵を使って下さい」

 そう東田係長がまくしたてる。

続き「第2章 洗脳作業は、3/17(火)22:00に投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※2回目の紹介

2015-03-13 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第2章 洗脳作業」を複数回に分け紹介します。2回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第2章 洗脳作業」の紹介

 前回の話:【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※1回目の紹介

  相手方は県庁職員と、町役場や村役場の職員だ。引率役の県庁職員は、まだ日本語が通じるが、県庁職員に連れられた町役場や村役場の職員は、方言丸出しの田舎っぺだ。対応は経産省出身の東田達也係長に任せていた。

 副室長兼課長である守下はもちろん、課長補佐だって、本来、対等に口をきくべき相手ではない。大部屋の執務室の片隅にあるスペースで打ち合わせをしてもらうことで、何がもめているのか、自治体が何にこだわっているのか、それとなく、守下の耳に入るようにしていた・・・。

「なんさま、要支援者がえらいこったい」

 と、田舎者の町役場の職員が上ずった声で叫んでいる。焼酎で酒焼けしたような赤黒い顔の、小太りの男だ。近代的な六本木ファーストビルのオフィスでは聞きなれない訛りが、大部屋のオフィスの耳目を否でも応でも集める。

「この町は全域がPAZですが、介護施設が2カ所あるんです」

 県庁職員が小声で意訳する。

 この県庁職員は、町役場の職員の言葉遣いに対し、少し恥じらいを感じているようだ。もしかすると若い時分、県庁から中央省庁に出向した経験でもあるのかもしれない。

「いざ緊急事態宣言が発令されたとしたら、全員をどうやって、どこに連れて行ったらいいか、ということなんです」

 県庁職員が町役場の職員の顔をチラッと確認する。町役場の職員は、感情が昂ぶってなかなか冷静に話ができないようだった。ただウンウンと、県庁職員に向け、赤黒い汗ばんだ顔を縦に振るばかりである。一息ついて再度、県庁職員が続けた。

「要 は、全員を連れていく搬送車もないんですよね。現在あるのは、一人一人、要介護老人を運ぶ搬送車が2台あるだけで・・・それから、搬送先もありません。県内の介護施設はどこもいっぱいですよ、まさかの事故のときには追い出せなんていえないですしね。そもそもこの高齢化の時代、稼働率に余裕のある介護施設な んてないんですよ」

 意を決したように、髭もじゃ毛むくじゃら、そして眉の濃い目がギョロリとした南方系の大男が口を開く。村役場の職員だ。たぶん西郷隆盛あたりと、どこかで血がつながっているのだろう。

「おるがとこにゃ、高齢者専用の病院があるけん。状態は同じったい。こん時代、どこん老人病棟も、ほんなこて満杯ばい」

 経産省出身の東田係長が当惑した表情を浮かべ、目で県庁職員に助けを求める。何をしゃべっているのか、よく理解できないのだ。

続き「第2章 洗脳作業は、3/16(月)22:00に投稿予定です。

「フクシマの交通渋滞は、みんな自家用車に乗って避難したから起きた。だから、自家用車は極力使わせない。一時退避場所に集まって、みんなしてバスで移動するんです。UPZの住民には屋内退避を徹底させて、勝手に避難はさせない。それがフクシマの教訓です・・・」

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第2章 洗脳作業 ※1回目の紹介

2015-03-12 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第2章 洗脳作業」を複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第2章 洗脳作業」の紹介

第2章 洗脳作業

 日本経済新聞(2014年9月2日・朝刊一面)

「国が避難計画支援川内原発 地元自治体に職員派遣」

 政府は原子力発電所の再稼働に向け地元自治体を支援する。今冬の再稼働をめざす九州電力川内原子力発電所がある鹿児島県と薩摩川内市に関係省庁の専門家を派遣し、原発事故に備える避難計画作りを助ける。国の関与を強めることで住民の安心感を高め、再稼働に関する地元同意を円滑に進める狙いだ。地元自治体の要請があれば、経済産業相など閣僚が現地を訪ね再稼働に理解を求めることも検討する。

 月内に経産省が鹿児島県や薩摩川内市に5人程度の職員を派遣するほか、消防庁なども派遣を検討する。職員は数カ月常駐して避難計画作りを支援する。政府は川内原発以外でも計画作りが進んでいない自治体への職員派遣を検討する。

 避難計画は原発事故時に住民が放射性物質の影響を避けられる場所に早く退避するためにつくる。鹿児島県は既に計画をつくったが「専門知識のない自治体だけでは十分な計画にならない」との声が上がっていた。原発事故に詳しい政府職員の助言をふまえ計画作りを急ぐ。

 政府は事故が起きたときに必要となる医薬品や燃料など、救援物資の集積拠点も鹿児島県内につくる方向だ。県には物資の備蓄があるものの、不足する恐れもある。全国から物資を運ぶルートを政府主導で整える。

*****

(7)

 筑紫電力の仙内原発の地元自治体との面会ー。

 都心にしては珍しく瑞々しい木々に囲まれた六本木ファーストビルのエントランスに、3名の田舎者が現れた。クールビズが終わりを迎える10月にもかかわらず、彼らのクールビズは、昭和の時代の村役場でよく見かけたような、開襟シャツにツータックのグレーのズボンという出で立ちで、外資系ビジネスパーソンが闊歩する六本木ファーストビルには極めて場違いな印象を与えた。

 今日は、原子力規制庁内にある内閣府原子力災害対策担当室へのお出ましだった。

 原発の立地自治体に対しては、担当者を集めて大会議室で通り一遍の避難計画づくりの説明会を行うが、それだけで避難計画を簡単につくれるわけではない。自治体の職員は、国のつくった雛形をコピー&ペーストするぐらいしかできない、低俗な連中なのだ。

 だいたい、国家公務員試験上級職に受かった連中と、地方公務員試験に受かった連中とでは、試験合格に必要な知的能力の差も、就職後の鍛えられ方も、月とスッポンほど違う。

 戦前は、国家公務員にキャリア官僚だけが天皇陛下にお仕えする「官吏」と呼ばれ、「吏員」と呼ばれる地方公務員とは、身分も待遇も明らかに異なっていた。国と地方の給与水準を示すラスパイレス指数が国と地方で逆転するなどといった噴飯ものの現象は、戦後民主主義が犯した明らかな失態である。

 国家公務員試験上級職に上位で合格するキャリア官僚は、地方公務員試験なぞ受験もしていないから、地方公務員がどのくらいバカな連中なのかも想像がつかない。東京大学法学部と地方国公立大学の入学時の偏差値は15以上は違うだろう。

 そんな奴らが、自分たちキャリア官僚のつくった法律や政省令やガイドラインを理解できないのは仕方がない。個別に呼び出して、懇切丁寧に教え諭してやらなければならないのだ。

 部外者はセキュリティチェックなしに入ることができない3階の原子力災害対策担当室のオフィスではあるが、今日は特別に入れてやることにした。

続き「第2章 洗脳作業は、3/13(金)22:00に投稿予定です。

「フクシマの交通渋滞は、みんな自家用車に乗って避難したから起きた。だから、自家用車は極力使わせない。一時退避場所に集まって、みんなしてバスで移動するんです。UPZの住民には屋内退避を徹底させて、勝手に避難はさせない。それがフクシマの教訓です・・・」

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※19回目の紹介

2015-03-11 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。19回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※18回目の紹介

「当然、原子力発電所の事故そのものは最悪のケースを想定いただくのは結構です。しかし、私どもの避難計画には、その原発事故という最悪のケースに対して、どうやったらベストの行動ができるか、そのベストシナリオ、すなわち住民がその実現に向けて努力しようとする理想のシナリオを示していただくべき、と考えております」

 資源エネルギー庁の畑山原子力政策課長は、一層自信を深めるような口調で続けた。

「事務局案では、いたずらに避難に時間がかかることを強調するあまり、結局、再稼働反対派を勢いづかせることになるのではないですか?我が国の電力の低廉かつ安定的な供給を使命とする立場からは、事務局案には賛成できません」

 上からのトップダウンではなく、下からのボトムアップを通例とする日本の官僚制での意思決定では、コンセンサスがとれたもののみが成案となる。結局、恥を知らず、最後まで寝転がった者が勝ちなのだ。

 賛成できないと経産省資源エネルギー庁の原子力政策課長に明言されてしまっている以上、今日コンセンサスを得るのであれば、事務局案を撤回し、修正せざるを得ない。

 撤回しなければ、また改めて案を作成し、次回の日程調整から始めなければならない。せっかく押さえていた閣僚級の原子力防災会議の日程も再調整となる。「内閣府原子力災害対策担当室がモタモタしている」と再稼働推進派にいわれるのは、火を見るよりも明らかであった。

「・・・わかりました。それでは必要な修文を事務局で施しまして、後刻、メールにて各省にご確認いただければと存じます。その修文が終わりましたら、避難計画のガイドラインを含む原子力災害対策マニュアルを、原子力防災対策マニュアルを、原子力防災会議に報告いたします。

 そう守下副室長は切り上げた。黒城室長のいう通りの案を示したが、その通りにはならなかったと、あとで室長に報告すればいいだろう。

「余計な手間を取らせやがって」と守下は思ったが、と同時に、「自分の存在を経産省に高く売れた」とも思い直した。

 経産省に高く評価されて、次の人事異動では経産省の要職に戻してもらう。それが彼にとっての、一番の仕事のインセンティブであった。


 数週間後、官邸で閣議の直後に開催された原子力防災会議にて、環境大臣から原子力災害対策マニュアルが報告された。そこには次のように記載されていた。

「内閣総理大臣は、原子力緊急事態宣言と同時に、原災法第十五条三項に基づき、PAZ内の道府県知事及び市町村町に対して避難及び安定ヨウ素剤の服用の指示を行う。また、UPZ内の道府県知事及び市町村長に対して、屋内退避の実施及び避難等の防護措置の準備を指示する」

 原子力防災会議は淡々と予定のシナリオ通り30分で終了し、異論はまったく差し挟まれなかった。公開の場では、実質的な議論はなされないのである。

第1章 避難計画の罠プロローグ含む)の紹介は、今回で終了です。

ひきつづき、「第2章 洗脳作業3/12(木)22:00に投稿予定です。

「フクシマの交通渋滞は、みんな自家用車に乗って避難したから起きた。だから、自家用車は極力使わせない。一時退避場所に集まって、みんなしてバスで移動するんです。UPZの住民には屋内退避を徹底させて、勝手に避難はさせない。それがフクシマの教訓です・・・」

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※18回目の紹介

2015-03-10 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。18回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※17回目の紹介

 ー中央合同庁舎第4号館12階・特別会議室。

 中央合同庁舎第4号館は、霞が関のなかでも随分と古い12階建ての鉄筋コンクリート製の建物である。内閣法制局や内閣府といった官庁が入居し、権力の中枢である財務省と渡り廊下でつながれているという事実が、この建物が重要な位置づけにあることを示している。

 この建物の12階には、かつて財務省から分離独立された金融庁が入居していたが、旧文科省の跡地にできた新しいビルに金融庁が移ったあとは、各省庁が集まり重要な会議を行うための、共同特別会議室が設けられている。

 今日はここで、避難計画のガイドラインを議論する原子力防災会議連絡会議のコアメンバー会議が開かれている。事務局は内閣府原子力災害対策担当室だ。閣僚級が参加する原子力防災会議は公開されるが、その下の局長級の幹事会も、課長級の連絡会議も、その一部のコアメンバー会議も、議事は公開されないし議事録が出回ることもない、水面下の会議である。

 その特別会議室から、資源エネルギー庁原子力政策課長、畑山陽一郎の声が聞こえてきた。事務局案に異議を唱えているのだ。

 「経済産業省も電力会社も、万一のシビアアクシデントの際には、いきなり大量の放射性物質が大気中に拡散するという前提には立っておりません。

 もちろん、メルトダウンが発生すれば、まずはベントを行うわけですので、その場合には、空間線量が上がる原発周辺のPAZの住民には避難いただく必要があるわけです。しかし、UPZの住民は、屋外に避難して風向き次第で汚染されるリスクを冒すよりも、屋内にとどまっていただくことのほうが、放射性物質により直接汚染される可能性が低いわけですから、合理的なわけでございます。

 こうした合理的な行動を冷静に住民にとっていただく、ということを、自治体の避難計画の前提にしていただきたいわけであります」

 畑山原子力政策課長は自信満々であった。

「事務局案では、むしろ、特別な立法もなしに住民の方々の避難を制限するわけにはいかない、とう前提に立って、PAZもUPZも住民が一斉に逃げ出すという最悪のケースを想定しておこう、ということで策定いたしております」

 事務局である内閣府原子力災害対策担当室の副室長(兼原子力規制庁原子力防災課長)の守下靖は、そう答える。

 毎日夜中に連絡を取り合って談合している二人だが、それはもちろん周りには知られていない。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/11(水)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※17回目の紹介

2015-03-09 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。17回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※16回目の紹介

(6)

「オッケー、今日のところはこのくらいにしよう」

 そう、黒城室長が締め括った。

 今日といっても、時計の針は午前零時を過ぎたところだった。連日の終電直前までのミーティグが今日も終わった。

 フクシマの事故前であれば、電力会社から差し入れられたタクシー券を使って堂々と帰るのが原子力安全・保安院の日常だったが、いまの原子力規制庁は違う。みな終電に間に合うように、日比谷線神谷町駅、南北線六本木1丁目駅のいずれかに、三々五々向かっていく。電力会社の連中は未だ湯水のようにタクシー券を使っているにもかかわらず・・・。

 そうして、みなが終電で帰宅の途に就くなか、神谷町駅でも六本木1丁目駅でもない方向へ、足音を目立たせずに歩いて行く一人の男がいた。男は仙石山から霞が関の方向に歩き、右手にあるホテルオークラのエントランスに入っていった。

 ベルキャプテンも、その男のことを既に見覚えているようで、手を上げて、でんでん虫と呼ばれる個人タクシーを呼ぶ。男がエントランスのタクシーの乗車位置につくタイミングで、個人タクシーがちょうどその場に滑り込んだ。

 男は、副室長の守下靖だった。

 ベルキャプテンがタクシーのドアを押さえ、守下が乗り込んでいく。タクシーが発進すると、守下は運転手に白地のタクシー券を渡した・・・「日本電力連盟総務部」の印が押されている。運転手は、行き先をベルキャプテンから既に聞かされているようだった。

 車内の守下副室長は、すぐにスマホを取り出した。

「あっ、遅い時間にすみません」

 電話の相手方もまだ仕事中のようだった。

「今日の報告です」と、守下副室長は続ける。

「まぁ、だいたい避難計画のガイドラインは固まってきたんですけどね。あの、例の警察の黒城室長がですね、妙にPAZとUPZにこだわってんですよね。メルトダウンになったら、UPZの住民も逃げ始める、ってね」

 電話の相手方の甲高い声がスマホの躯体を振動させている。

 守下副室長は続けた。

「すいませんけど、その部分は、事務局案は直っていませんから、思いっきり連絡会議の場でぶっ叩いてやってください。明日ウェブメールで、いまの事務局案をお送りしておきます。まだ各省協議前ですから、規制庁に逆流して私からの横流しがバレないように、取扱い厳重注意でお願いしますよ」

 原子力規制庁に出向していても、本籍から経産省であれば、原子力規制庁のパソコンで、インターネットのウェブメールを通じ、経産省のメールを自由に閲覧・送信できる。すなわち、原子力規制庁に出向中の経産省の職員は、職場のパソコンで、規制庁のアドレスと経産省のアドレスとを自由に使い分けて利用できるのだ。

 そして、経産省のメールのやり取りの内容は、原子力規制庁の当局には把握されない。連絡会議の前に経産省のウェブメールで事務局案を渡しておけば、黒城室長に気取られることなく、経産省側は反対のロジックを周到に準備することができる。

「連絡会議当日の発言メモも前日にはお届けしますから・・・はい、それでは、お疲れ様、おやすみなさい」

 守下はスマホの通信回線を切った。画面には「資源エネルギー庁畑山原子力規制庁政策課長」との宛先が表示されている。毎晩行われる、原子力規制庁から経産省資源エネルギー庁への水面下の定時報告、しかしこれが守下の、本来の任務であった。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/10(火)22:00に投稿予定です。

 

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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※16回目の紹介

2015-03-06 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。16回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※15回目の紹介

「自家用車なんか使わしたら、UPZの住民が大人しく自宅待機をしてくれたって、道路はやっぱり大渋滞だよな」

 それを受けて守下副室長が、全体の雰囲気が固まる前に機先を制して発言する。

「自家用車での避難なんて絶対させるわけにはいかん!」

 その場が重苦しい空気に包まれた・・。

「じゃ、住民は一時避難場所に集合して、民間でチャーターしたバスが向かえに来るまで待つ、ってことですか?」

 と、旧自治省出身の総務省から出向した課長補佐が尋ねる。

「それに、自家用車での退避を禁じる法律的な根拠もない」

 黒城室長も、ようやく口を開いた。

 旧自治省が続ける。

「民間バスはどう調達するんですか?」

 この人物が属する現総務省は、省庁再編後も唯一、採用を一元化していない役所だ。戦前の内務省の流れを汲む旧自治省が、旧郵政省や旧総務庁との採用の一元化を拒否している。自分たちこそが旧内務省であり官界の本流という、プライドで生きている人種である。

「メルトダウンが起きかかっていて、いつ被曝するかもしれないPAZなんかに、どうやって民間のバスの運転手が来てくれるんですか?」

 こう、警察庁出身の係長が続いた。警察庁出身の室長が自制しつつも懸念を示している以上、自分が経産省出身の副室長に噛み付く役割だと自覚しているようだ。

 ・・・気まずい時間が流れる。5秒か10秒か経った所で、守下副室長が口を開いた。

「自治体と民間バス会社との間で災害時の協力協定でも結ばせとけ!民間事業者も自治体も何かいいことをした気になって、ホイホイ締結するぞ。いざとなったときはそのときだ。実際に事故が起これば、それどころじゃないんだから」

 みなが助けを求めるように、警察庁出身の黒城室長のほうに顔を向ける。

「自治体と民間バス会社との間で協定が締結されている以上は、災害時にはきちんと協定の内容が履行される、ということを前提にするんだな・・・」

 そう黒城室長が、ポツリとつぶやく。

 いちいち角を突き合わせていたら、この部屋のなかで、いつまで経っても避難計画のガイドライン案がまとまらない。そうなると自治体の避難計画の策定が進まず、再稼働に必要な自治体の同意も得られない。

 再稼働が進まないと、必ず誰がボトルネックなのかという犯人探しが始まる。原子力規制庁の審査部の連中が、世間の逆風に晒されながら、規制基準へ適合性をようやく認めている。なのに警察から来た室長がもたもたしていると、原子力規制庁長官や放射線防護対策部長といった要職のポストを警察出身者が占めていることを快く思わない連中から、「やっぱり原子力に素人の警察官僚には無理だ」と、ネガティブ・キャンペーンを張られ、警察のポストが奪われかねない。

 そこまで頑張る必要はないというのが井桁原子力規制庁長官のご意思だろうと、黒城室長は忖度した。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/9(月)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※15回目の紹介

2015-03-05 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。15回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※14回目の紹介

 あのときに東京に雨が降っていたならば、東京も飯舘村と同じように帰還困難区域となり、住民が退避せざるを得なくなっていたはずだ。なんという幸運だろうか・・・。

 「PPAなんていったって、日本国中がPPAとなる可能性だってありますよね。朝鮮半島やロシア、アラスカ、アメリカ西海岸、そして東海岸だって、安全とは言い切れない」

  と、文科省から出向している技術系の課長補佐が続けた。技術系官僚にありがちな落としどころを見ない直線的な議論だ。自分の発言が科学的に正しければ溜飲が下がるタイプ。役人としては使えない。

「フクシマの事故で放出された放射性物質は、事故直後の4月の土壌検査のサンプルで、アメリカのシアトルやボストンにも降り注いだと見られているんですよ」

 そう、文科省から出向している課長補佐は、これみよがしに続ける。

「PPAは概ね50キロと大きく目立つように書いて、その下に、嘘にならんように、参考値と、米粒くらい小っちゃく注記しとけ」

 と、守下副室長は吐き捨てるようにいう。

「50キロで収まる保障はないんじゃないですか?フクシマの沖合160キロ先でデッキに出ていた米空母の乗組員は、一ヶ月分の上限とされている線量を、1時間で浴びたんですよ」

 文科省出身の課長補佐は噛みつく。まるでわかっていない奴だ。こんな技官は出世できない。

「だから、『参考値』なんだろ。放射性プルームは風向きによって日本国中どこでも襲います、世界中に届きます、ってんじゃ、いたずらに日本国民のみならず、全世界の人々を不安に陥れるだけだ」

「でも、現実はそうじゃないですか」

「バカヤロー!それをどううまく見せるかが、俺達の仕事じゃないかっ」

 議論を経産省出身の守下副室長がリードする。今回は警察庁出身の黒城室長は黙っていた。

「参考値」とはよく考えたものだ。あくまで参考なのだから、嘘ではない。誤解を招きやすい表現かもしれないが、それは誤解したほうにも責任がある。

 それに、原子力災害対策担当室の室長と副室長がつねに角を突き合わせていたのでは、室長としての鼎の軽重を問われることになりかねない。本当に譲れないところ以外は、鷹揚に構えるのも組織の幹部として必要なことと、組織管理が要諦の警察庁では、あるべき組織文化として受け継がれている。

 経産省出身の守下副室長がここまで頑張るというのには、彼には彼の置かれた立場の事情というものがあるのだろう。それは、電力業界の利益に逆らうと自らの立身出世に響く、ということなのかもしれないが、立身出世の欲望は仕事へのモチベーションと表裏でもある。それはそれで問い詰めないことが大人のマナーだろう。

「次に、避難方法ですが、どうでしょう」と、環境省出身の課長補佐が切り出した。この人間はいつも自分の意見をいわない。司会進行役に徹する腹積もりのようだ。

「自家用車での避難をどうしますかね、みんな自家用車で逃げると思うのですが」

 警察庁出身の係長が恐る恐る尋ねた。交通は警察の所掌である以上、物をいわないわけにはいかない。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/6(金)22:00に投稿予定です。

 

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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※14回目の紹介

2015-03-04 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。14回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
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過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※13回目の紹介

   「いいですか。総選挙と、それに続く参院選で、保守党が勝ったんですよ。民意は出たんです。いまの官邸は、多少の支持率を犠牲にしても再稼働させるってことで腹をくくっているんです。原子力規制庁は、原発は安全だとは口が避けてもいわないにせよ、既存の原発は規制基準には適合した、っていうんですよ。

 それなのに、避難計画を策定する責任を負わされた内閣府原子力災害対策担当室がまともな避難計画を策定できなかった、なんてことになったら、室長も私も首が飛びますよ」

 役人がもっとも忌み嫌うのは、自分に責任が被せられることだ。重苦しい沈黙が押し寄せた。

「・・・とはいったって、自治体の首長だって内心は動かしたいにしても、『報道ステーション』を見た連中が、非現実的な避難計画だって地方議会で騒いだら、ウンとはいえないだろう」

 話し合いは膠着していた。

 「黒城室長がそこまでおっしゃるなら、事務局の原案は、室長のおっしゃるとおりにしておきましょうか。それでも私は、関係省庁の同意を取り付ける自身はありませんよ。ひっくり返されたって、それは室長の責任ですからね!」

 こう、守下副室長が言い放つ。

 自分は同意していないが室長には従う。でも、まとまらなかったら、それは室長の責任だ。そういうことだ。

「次に、PPAについては、どう書いたらいいでしょうか」

 と、環境省から出向している課長補佐がおそるおそる尋ねる。残された論点は山ほどあるのだ。

 環境省出身の課長補佐も、直属の上司たる黒城室長と守下副室長の意見が対立しているので、できるだけ中立的な言葉づかいをする。どちらかに与すれば、どちらかの恨みを買う。この霞が関では、他人の意見に同意して相手に好感を持たれるよりも、相手の意見に反対して恨みを買うことのマイナスの影響のほうが大きい。人を褒めて引っ張り上げるよりも、悪口をいって足を引っ張るほうが、はるかに楽だからである。

 PPAとは、プルーム通過時の被曝を避けるための防護措置を実施する地域のことで、ヨウ素剤を服用しなければならなくなる可能性のある地域のことだ。放射性プルーム、別名「黒い雲」が襲ってくれば、ヨウ素剤を服用しないと健康を害することになる。

 論理的には放射性プルームが届く距離には制約がない。チェルノブイリ原発のときには、遠く北米大陸まで放射性プルームは届いたのだ。

また60年前のビキニ環礁水爆実験では、第五福竜丸はもちろんのこと、日本の国土に被曝をもたらした死の灰の5倍の量が、何千キロも先のハワイや西海岸などアメリカ本土のまで降り注いでいたのである。

 フクシマ事故のときだって、飯舘村が汚染される前、3月15日時点で、関東平野に高濃度の放射性プルームが到達している。

 葛飾区金町の浄水場が汚染され、一時的に東京の上水道の使用に制限がかけられたことを覚えているだろうか。あれは、東京に放射性プルームが到達したことを物語っている。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/5(木)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※13回目の紹介

2015-03-03 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※12回目の紹介

(5)

 ー六本木ファーストビル・内閣府原子力災害対策担当室。

 六本木ファーストビルの原子力規制庁3階の緊急時対応センター(ERC)の並びの一室に、内閣府原子力災害対策担当の看板が掲げられた。看板といっても、ラミネート加工された薄っぺらい紙片といったほうが正しい。原子力規制庁原子力防災課の看板の上に、もう一枚看板が付け足されただけだ。

 国の官庁の意思決定は、普通は下位の職制から上位の職制へとボトムアップで行われる。関係省庁間の事務方で十分に調整がなされた内容が、課長、局長、大臣と上がっていく。こうして事前に充分な調整がなされる結果、最終的な責任の所在は、つねに曖昧である。この無責任体制は、戦時中から変わらない日本の官僚制の特色だ。

 大臣レベルの会議の下には局長級の会議が置かれ、さらにその下には課長級の会議が置かれる。その課長級の会議ですら、実質的な議論が行われることはまれだ。課長級の会議、局長級の会議、大臣級の会議は、すべてシナリオのあるセレモニーに過ぎない。

 では、どこで実質的な調整がおこなわれるのかというと、課長級の会議の前に、幹事役の省庁から、「合議」と呼ばれる電子メールの会議文書での協議によって、メールベースの調整が行われる。どうしてもメールベースでの調整がまとまらないときには電話、そして極めて例外的に対面での折衝が行われるが、ほとんどの場合には、課長補佐クラスの調整で終わってしまう。

 しかし、避難計画の策定については例外だった。官房長官の仕切りによって、事務局は内閣府原子力災害対策担当室に決まったが、その担当室のなかで、各省協議にかける原案が、なかなかまとまらないのだ。

 警察庁から出向している内閣府原子力災害対策担当室長(兼)原子力規制庁放射線防護対策部長の黒城 実が、経産省から出向している副室長(兼)原子力規制庁原子力防災課長の守下靖に、教え諭すように話しかける。

「PAZとかUPZとかいったって、ひとたびメルトダウンがアナウンスされたら、PAZにいる住民だけが避難を開始して、UPZに住んでいる人はじっと自宅で待機しているなんて、そんなことは想像できんだろ?」

 PAZとは予防的防護措置を準備する区域をいい、原発から概ね5キロ圏内を指し、UPZとは緊急時防護措置準備区域をいい、原発から概ね30キロの圏内を指す、避難計画上の用語である。

「PAZの住民も、UPZの住民も、みんな事故が起きたら一目散に逃げるに決まっているじゃないか。もっと現実的な想定にしないと、避難計画をつくったって、『報道ステーション』の餌食になるだけだぞ」

 自然と大きくなる黒城室長の声に、もっと大きな声で守下副室長が対抗する。

「そんなこといったって、どうすんですか?満足な道もない、乗っていくバスも集まらない、そんななかで、みんなが同時に自家用車で避難を始めたら、PAZから避難するだけで30時間以上かかる・・・こんな想定だったら、それこそ住民が納得しないし、自治体だって再稼働に首を縦に振ってくれませんぜ」

 守下副室長は口をとんがらせて続ける。

「とにかく、そんなの実際に事故が起こってみないと、どうなるかなんてわかんないんですから、ありあわせの条件のなかで、強引でもなんでも、一定の仮定を置いて、辻褄の合った絵を描いちまえばいいんですよ」

 守下副室長は、さらにたたみかける。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/4(水)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※12回目の紹介

2015-03-02 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。12回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※11回目の紹介

 とんでもない話といわれるまでもなく、総務課長の顔付き、語り口、部屋に入ってくる足取りのスピードが、その話の特異さを物語っていた。

「で、何だ?」 と、井桁が促す。

「内閣府に原子力災害対策担当室を置く、とのことなんですが、うちの職員に併任をかけるといってきているんですよ。内閣府の室長には、規制庁の放射線防護対策部長、副室長は同じく原子力防災課長が併任、室員の人数は規制庁で決めてくれて結構、ただし原則、規制庁の職員の併任で賄ってくれ、とのことです・・・」

「なにっ?」

「もう官房長官が、井桁長官から了解をもらっている、とのことで・・・執務場所も、規制庁のなかのどこかに、内閣府原子力災害対策担当室の看板を掲げてくれればいい、と」

 たしかに、こういう仕切りであれば、組織としての原子力規制庁が形式的には避難計画の策定の責任は追わない、ということになる。しかし、実質は内閣府が看板を貸すだけで、原子力規制庁の職員がまるまる仕事をさせられることになる。

「長官、昨日の官房長官のところでは、どんな話になっておったんですか?」

 と、総務課長が尋ねる。

 井桁規制庁長官とは上司と部下の関係にあるのだから、考えようによっては不躾な物言いである。しかし、失敗の際に、つねに自分ではなく周りに非の理由を求めるのが役人の本来的な性だ。特にこの総務課長は、総務課長補佐の西岡とともに、経産省からの出向である。もともと旧原子力安全・保安院の院長ポストを素人の警察官僚に譲り渡したという経緯ゆえか、何かと井桁の言動に対して、経産省の利害の観点から差し出がましく口を出してくる傾向にある。

「いやー、たしかに、人とスペースで協力しろと官房長官はいっておったがね・・・」

 絞り出すような声で井桁が答える。

 「それにしても、ここまでとはなあ・・・・これじゃ、うちが内閣府に協力するというより、完全に丸投げされてるなあ」

 後の祭りである。官房長官は、まず相手を精神的に追い詰め、嘘ではない範囲ギリギリの表現で追い詰められた相手の希望的観測を誘い、その相手の誤解と、この嘘ではないギリギリの表現との差異のあいだを泳いで渡る天才であった。

 ー政治レベルで争うとすると、原子力規制委員会の所管大臣である環境大臣に蒸し返してもらうしかない。しかもその場合は、辞表を胸に総理に直談判してもらうことになる。環境大臣は、親の七光りと知名度だけしか優れたところのない、実に凡庸な二世議員であった。度重なる失言で総理の信頼を損ねることも多い。

 そして井桁規制庁長官も、環境大臣とのあいだで、それだけの無理を頼めるほどの信頼関係を構築しているとは、とてもいえなかった。

 総務課長は、井桁長官と環境大臣とがそういう間合いであることをよく承知していた。

「これで進めるしか、ありませんな・・・」

 と、総務課長は独り言のようにつぶやく。

 これから、規制の審査という「矛」と、避難計画の充実という「盾」とを、この同じ六本木ファーストビルのなかで相闘わせなければならない。その矛盾した仕事を規制庁職員に命じることの辛さを前に、二人はしばし、言葉を失った。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/3(火)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※11回目の紹介

2015-02-27 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。11回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※10回目の紹介

 垂れた頭の上から、官房長官がさらに言葉を投げかけた。

 「原子力規制庁さんにはね、あとは人とスペースの協力をお願いします」

 内閣府に出向で人を出すとか、六本木ファーストビルの原子力規制庁のスペースを使わせるとか、さしずめ、そういう事務的なことであろう。

 原子力規制庁はただでも人員不足だとか、スペース的にも余裕がないとか、いろいろいいたいことはあるが、これ以上そうした事務的な事項を官房長官に談判するべきではない。この程度で済むのであれば、御の字である。

 こういう予想外の有利な顛末となったのであるから、風向きが変わらないうちに、一刻も早く官邸から退散したほうがいい。

「ハッ、ハァー」

 井桁は再度、頭を垂れる。

「わかりました、ありがとうございますー。人とスペースの件、承知いたしましたっ」

 こういって井桁は、足早に官房長官執務室から立ち去った。

 どうしてこういう仕切りになったのか、井桁自身、まだ釈然としていなかった。しかし政治との関係では、時折こういうことも起きるものだ。所詮、役人の井桁には、政治家の判断材料や行動様式は、完全にはわからないのだ。


 官房長官執務室の扉が閉まるのを確認して、官房長官は、事務の官房副長官に電話を入れた。

 「ああ、いま規制庁長官、帰ったから。井桁長官、承知しました、といってたよ」

 受話器の向こう側で、何か早口で事務的にまくしたてる、事務の官房副長官の声がしていた。

「そうそう、承知しました、ってたから。だから、内閣府の担当室員には規制庁の幹部を併任させて。場所も規制庁で・・・規制庁に内閣府の看板だけ貸してやるってことで。まぁ、名前だけだからね。」

 と、サバサバしとした満足げな表情で答える。

 役人の行動原理と人事の要諦を知り尽くした男の貫禄勝ちであった。


(4)

 ー六本木ファーストビル・原子力規制庁。

 霞が関から歩いていくには少し距離がある仙石山の小高い丘の上に、六本木ファーストビルは聳えている。もともと江戸時代には仙石讃岐守の屋敷があり、戦前には永井荷風が居を構えたところでもある。

 この霞が関からの距離の遠さ、そして、官庁には似つかわしくない近代的なビルの風貌が、原子力規制庁の「霞が関クラブ」での位置付けを示しているといってもいいだろう。フクシマの原発事故という想定外の出来事が生み出した、時代の仇花であった。

 その六本木ファーストビルの4階の原子力規制庁長官室に、総務課長が飛び込んできた。その後ろには、総務課長補佐の西岡進が続いている。

「長官、内閣官房から、とんでもない話がっ!」

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、3/2(月)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)