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原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※10回目の紹介

2015-02-26 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。10回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※9回目の紹介

 役人のあいだの揉め事は、役人出身の、事務の官房副長官が仕切る。政治家である政務の官房副長官、官房長官、総理には、口を出させない。そんな不文律が、かつて官僚の世界にはあった。

 しかし、先の保守党政権の末期に、旧内務官僚ではない財務官僚OBの政治任用が行われたり、民自党政権の際に政務の官房副長官による仕切りが多用されたりして、「次官のなかの次官」といわれた事務の官房副長官の威厳は、官界のなかでも著しく低下していた。

 代わりに実権を握ったのは、政務の官房副長官、そして保守党政権に復帰してからは、官僚の操縦術に長けた官房長官であった。

 「有無をいわさず、一発で決める」

 そういう官邸の気合が、呼び出し先から伝わってくる。

 事務の官房副長官が相手であれば、井桁としても、形式的には官邸の調整結果を持ち帰って、さらに大臣に上げて、政治レベルで抵抗を試みることは可能である。しかし官房長官の決定であれば、もはや大臣が辞表を胸に総理に直談判するしか抵抗の術は残っていない。

 原子力規制庁長官の井桁は、自分一人が呼び出されたことから、ここで言い渡されるであろう結論を既に悟っていた。まず間違いなく、避難計画策定の仕事が、原子力規制庁に押し付けられるのだろう。

 さはさりながら、「安全を司る規制庁が、再稼働の片棒を担いでいる」と世の中から批判されることに対して、政府がどのように説明するのか、彼自身が得心する台詞を官房長官からもらいたかった。


 官房長官執務室に入った。

 明るいベージュ色の絨毯、その先のソファの奥に、眼光鋭い官房長官が立って、手でソファを示していた。

 「どうぞ、井桁さん」

 と勧められるがままに、井桁規制庁長官はソファに腰を下ろした。

 「あの避難計画の仕事ですがね・・・」

 実務家肌の官房長官は、早速、口を開く。

 柔和な口調だし、目も垂れ下がったままだ。が、その三白眼の奥底には、不知火のような光がちらついている。

 中学卒業後、東北から集団就職で上京し、夜学で高校と大学を卒業した。政治家の私設秘書から地方議会議員を経て、国会議員に当選した。この世が理性や綺麗事だけではなく、暴力やカネ、恐怖や不条理、差別や嫉妬といった原理で動いていることを、誰よりも知っている男だ。

 国家議員に初当選してから20年。派閥を渡り歩き、辛酸を嘗め尽くして、総理に次ぐ実質的な権力者の座に上り詰めたという経歴が、オウム真理教、革マル派、中核派、指定暴力団など、数々のアウトローと業務上付き合ってきた井桁をしても、異次元の恐怖に包み込ませた。

「内閣府にやらせますよ」

 と、官房長官は口元に微笑を浮かべた。

 その微笑が、井桁規制庁長官の全身の筋肉を瞬時に硬直させた。予想外の発言だったからだ。

「内閣府に、原子力災害対策担当室を置くことにします」

 と、官房長官は続ける。

(一体何が起こったのか?)

 井桁はなるべく無表情を装い、必死に頭を巡らせる。

 呼び出しを受けた昨夜からこの部屋に入るまで、ああいわれたらこういおうと、頭のなかで何度もシュミレーションを繰り返していた。しかし、こういうシナリオは、まさに「想定外」だった。本当に内閣府にやらせるならば、なぜ原子力規制庁長官を呼び出しているのだろうか・・・。

(その代わりに、何を求めているのか?)

 何の見返りもなく、内閣府に困難な仕事をやらせるなどという、原子力規制庁にとって100%、ハッピーな結末になるはずがない。

「ハッ、ハァー」

 しかし時代劇の侍のように、井桁は神戸を垂れた。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/27(金)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※9回目の紹介

2015-02-25 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。9回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※8回目の紹介

(3)

 ー総理官邸5階官房長官室。

 総理官邸5階には、回廊に取り囲まれる形で、中央部に石庭がある。晴れていれば、上から磨りガラスを通じて柔らかい日光が差し込む。京都・龍安寺を彷彿とさせる、美しく落ち着いた庭だ。

 しかし、ここを訪れる者はみな、これから始まる権力者との面会に気を馳せ、ほどよい採光の石庭に気が付く者はいない。来客者のためというよりは、この建物に居慣れた権力者のための石庭といえた。

 ここを訪れた原子力規制庁長官の井桁勝彦も、例外ではなかった。石庭に目をやる間もなく、頭のなかで、これから権力者の部屋で繰り広げられるであろう会話をシュミレーションしていた。

 警察庁の警備局長、そして警視総監を歴任した、大柄で太めの体躯のこの男は、本来であれば、外交に無能でも務まる中進国の大使か、全国26万人の警察官の共済組合の理事長か、いずれにせよ名誉職ではあるが頭も労力も使わないポストに収まるはずであった。

 ところがフクシマの事故により、急遽、原子力規制庁が発足することになった。原子力規制庁の前進の原子力安全・保安院の院長ポストは経産省キャリアの指定席だったが、さすがに、事故を引き起こした原発推進省庁の経産省出身者が座るわけにはいかない。とはいえ、官僚の行動原理がわからない民間人にポストを渡すと、先々どんな混乱が起こるか知れない。

 そうしたなか、棚からボタ餅のように、原子力規制庁長官のポストが警察庁に転がり込んできた。渡りに船だった。

 この警察庁OBにしても、本当は、名誉はあるが頭も労力も使わないポストに甘んじていたいわけではなかった。ただ警察庁は、財務省や経産省といった経済官庁に比べて天下り先に恵まれていないだけ・・・本音では、まだまだ世の中のスポットライトを浴びていたいのだ。

 経産省が原子力規制庁長官のポストを警察庁OBである井桁に渡したのは、フクシマ原発事故の収束に警察が汗をかいたからだ。

 もちろん、警察と並んで自衛隊も汗をかいた。しかし、だからといって霞ヶ関の序列からして、三流官庁の防衛官僚なんかに長官のポストを渡すのは、経産官僚としてはどうしても納得がいかない。

 仮に防衛省にポストを渡すとすれば、実際に汗をかいた制服組ということだろうが、まさか行政実務の経験に欠ける制服組に渡すわけにもいかない。とはいえ、背広組が何か汗をかいたわけでもないので、背広組に渡すのは癪である。

 防衛省では、長年、背広組と制服組がいがみ合ってきた。背広組は、国家公務員上級職試験を突破してはいるが、国家公務員上級職試験の成績は下から数えたほうが早い奴らだ。大学受験で失敗した私大出身の連中か、東大法学部卒だとしても大学の成績は下のクラス。そんな奴らには間違っても、原子力規制庁長官という事務次官級の処遇が約束されたポストは渡せない。

 真のエリート官僚が行くのは、大蔵省、通産省、警察庁、自治省・・・この人気4省庁に受からなかった受験生が行く二流官庁が、建設省、運輸省、厚生省、農林水産省。その他の役所なら、民間に言ったほうがまし、という時代が長く続いた。

 防衛省は長年、優秀な学生には見向きもされない三流官庁であり、一流民間企業に内定すらとれない奴らがいく役所なのだ。

 原子力規制庁ができるにあたって、経産省としても事故対応での詫びを警察庁に入れ、ポストの提供という形で警察に逆に貸しをつくっておいたーこれが警察庁出身の規制庁長官が誕生した所以であった。そうすると、経産省からの県警本部長の出向ポストもひとつぐらい増えるかもしれない、という期待もあった。

 フクシマ原発の事故に際し、原子力安全・保安院長の寺坂信昭が原子力技術を知らない事務官であったため、菅直人総理の質問に何も答えられず、信用を失墜したのは有名な話である。にもかかわらず、新設された原子力規制庁の長官にも、霞が関のパワーバランスで、原子力技術が何もわからない警察官僚を当ててしまうというのは、皮肉な結果だった。

 井桁規制庁長官は、権力者から万が一にも原子力技術に関する質問が出たら恥をかくということで、前日、想定問答の束を事務方に準備させ、夜通し勉強していた。豪快な見た目とは裏腹に、繊細で傷つきやすい神経は、他の多くの標準的な官僚と変わるところがなかった。


「お待たせしました、どうぞ」
 と官房長官秘書官が、待合室のソファにいた井桁規制庁長官に声をかけた。
 今回、井桁規制庁長官を呼び出したのは、官房長官であった。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/26(木)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※8回目の紹介

2015-02-24 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。8回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※7回目の紹介

 畑山は、守下から見たら、経産省で2年上の事務官の先輩に当たる。原子力政策課長は原子力利権を守ることが仕事の、いわば汚れ役であるが、この汚れ役を務めきった者には、次官コースの切符が渡される。汚れ役をしっかり勤め上げれば、出世という褒美が与えられるのだ。

 もともとは経産省という名の同じトカゲ・・・尻尾として切り捨てられた規制庁が、トカゲの胴体に勝てるはずはないのである、トカゲの意思として切り捨てたのだからー畑山経産省原子力政策課長と守下原子力規制庁原子力防災課長は、そういう関係であった。

「しかし規制庁が、所詮、完璧にはなり得ない避難計画にOKとお墨付きを与えるってのは、何を根拠に判断するんですか?規制庁が原発再稼働の片棒を担いでる、って批判を、それはそれで受けますよ」

 そう守下は反発する。

 この時点で、もう畑山に対してというよりも、内政総括の内閣参事官、森美里を始めとするその場の全員に対する、やり場のない憤りであった。

「お墨付きを与えるわけではありません。地元自治体の方々が、いざというときの避難にも納得して再稼働に同意ができるように、自治体の避難計画づくりのお手伝いをする、ってことなんですよ。法律に基づく審査業務というわけではなく、事実上の行政指導・・・規制庁さんが法律に基づかない事実上の行政指導ができないという理由もないでしょう」

 こう、やんわり、畑山が追い詰める。

 ーこうした議論はこれまでも場を変えて続けられてきた。しかし、いつも今回と同じように堂々巡りであった。

 ただでさえも冷気が途絶えた内閣府本府ビルの蒸し暑さに、議論の熱気が加わって、議論に熱中していない者には居た堪れないほどであった。気が付くと、守下の白いシャツにはじっとりと汗が張り付き、額に汗が浮き上がる。

「どこの役所にも落とせない政策課題は、本当は内閣官房の仕事なんですよね?」

 と守下が虚ろな表情で、森内閣参事官の顔色を窺う。

「たしか、中国に遺棄した化学兵器の処理の事務は、内閣官房でされていましたよね。遺棄化学兵器処理担当室で・・・」

 遺棄化学兵器処理対策とは、第二次世界大戦の際に、旧大日本帝国陸軍関東軍化学部が中国大陸に遺棄した化学兵器を、日中国交回復後に、日本政府の責任で処理することとした案件である。

 遺棄化学兵器の処理能力はあるが、戦前の陸軍との連続性を否定する防衛庁(当時)、外交問題とはいえ実務は担当できないと言い張る外務省、旧日本軍の人事関係資料を保管整理してはいるが処理責任まで負うことはできないとする厚生省(当時)・・・最後まで省庁間の押し付け合いの調整がつかずに、内閣官房が直接抱えた仕事の例である。

「あれは、戦前の旧日本陸軍の後始末の話ですからね」

 と、森内閣参事官はあっさりと否定した。

「内閣官房は無理でも、内閣府で引き取っていただく、というのはないんでしょうか。内閣府は、原子力委員会も所管されているわけですから、原子力の推進に関わることは内閣府で・・・」

 守下は執拗に食い下がる。

「内閣府は、雑多な案件のおもちゃ箱とでもいいたいんですか?なんでもかんでも内閣府にやってくださいと、そんな無責任なことはいえませんよ」

 森内閣参事官は上手にかわす。内閣府出身の森が、この仕事を無条件で内閣府に落とすことは考えられない。

「いずれにせよ、各省庁のお考えはよくわかりました」

 森は一同の顔を見回し、一息置いた。

 内閣府本府ビルの外での抗議デモの喚声がより大きくなったように感じられた。参集者全員にとって、これ以上この蒸し暑い建物に居続けることは、物理的にも精神的にも厳しかった。

「上と相談して、内閣官房としての調整案を来週前半にはお示ししたいと思います」

 森もその色白な頬を上気させて、額には小さな汗を浮かべていた。その頬の上で漆黒の光をたたえる二重まぶたに縁取られた瞳を、守下は無遠慮に見つめ続けていた。仕事抜きで話ができたらな、そんな台詞が聞こえそうだった。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/25(水)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※7回目の紹介

2015-02-23 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。7回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※6回目の紹介

 官房副長官補室に各省庁から出向している内閣参事官たちの席の前には、両肘掛の布張りのソファがいくつも相対して並んでいる。そこに原発の避難計画に関係する省庁の課長が呼び集められていた。

 仕切り役は、内政総括の内閣参事官、森美里だ。弱小官庁の内閣府出身であるが、内閣府の女性官僚のエースであり、女性活躍推進を謳う可部政権の下では、間違いなく将来の政権の幹部候補である。

 「規制庁さんのおっしゃることはわかっていますよ。でも、規制庁さんが原子炉等規制法の審査をされる。その審査の内容について地元自治体でも説明される。事業者とも、地元自治体とも、ずっと意思疎通をはかられるわけですよね。すると、その一環で避難計画の策定の指導を行うのが最も合理的ですよね?」

 そう、内閣官房副長官補室の内政総括、森参事官が声を上げる。

「自治体の面倒は、旧自治省が見るんじゃないんですか、総務省はダメなんですか?」

 と守下は抵抗する。

「総務省には、放射線のことはわかりませんから、地元自治体の相談にはのれませんよ。地方交付税交付金など自治体との総合窓口はうちの仕事ですが、個別の事案は、個別の担当省庁が直接コンタクトすることに決まっているじゃないですか。いままでもそうだったでしょ?」

 と、総務省の担当課長が反論する。すると、警察庁の担当課長が予防線を張った。

「警察も同じです。交通規制など、精一杯、地元警察はやらせていただきますが、全体の避難計画については、どのような放射線被害が起きて、どのような避難が適切なのかを、政府部内の放射線被害について知見がある役所が立案して初めて、私たちがその計画に基づいた対策を講じさせていただく、ということになろうかと・・・」

 次に火の粉が降ってくるのは確実と思ったからだろう。

 守下は、警察庁の担当課長に物はいわず、経産省の原子力政策課長、畑山陽一郎のほうを向いていった。

「いいですか、規制庁には、原発を再稼働させたい、そんなモチベーションはまったくないんですよ。再稼働させたいのは経産省じゃないですか。再稼働させたい役所が汗をかくのが当たり前じゃないですかっ?」

 つい数年前までは、経済産業省資源エネルギー庁の特別機関だったのが原子力安全・保安院・・・フクシマの事故が起きて、原子力の推進を司る省庁と安全規制を司る省庁が同一なのはおかしいとして、原子力安全・保安院は経産省から分離された。そして、原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁に機構改編され、環境省のもとに独立しておかれることになったのだ。

 しかし、同じ釜の飯を食っていたとはいえ、ひとたび別の組織になると、それぞれの組織の利害を追求することになる。役人の生存本能のなせる業だ。

 そして、もともと同じ組織の仲間であるがゆえに、お互いの事情をわかっている。だからこそ、痛いところが突けるのだ。それは裏を返せば、より深く傷つけあう関係であるがゆえに、それによって痛みや苦しみが増幅し、近親憎悪的な感情が高まることにもなる。

「バカをいわんでください!原発推進の経産相が避難計画の音頭をとるなんて、世間からどういう風にみられるか、わかってるんですか?

 どうせ避難計画なんて、完璧なものはできるわけがないんです。完璧じゃないものをどうにか住民との関係で、これでOKと取り繕う仕事なんです。それを経産省がやったら、安全神話の二の舞っていわれて、テレビの報道番組で報道され、ネットはすぐ炎上ですよ。

 でも、原発は再稼働させなくちゃいけない。国家としてそういう判断をしている以上は、一番もっともらしい、推進から離れた部局が担当しなくちゃいかんでしょう」

 と、畑山が開き直る。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/24(火)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※6回目の紹介

2015-02-20 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。6回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※5回目の紹介

 ところで、工学部の先輩で国家公務員上級職試験に合格する者の多くは、建設省に進んでいた。しかし守下にとって、建設省で道路やダムの工事を発注するのは、ゼネコンに行ってそれを受注し下請けに再発注することと同じくらい退屈そうなことだった。

 人間と社会にメカニズムに感心のある守下にしてみれば、

「俺たちと一緒に日本を変えよう。通産省に入れば、何でもできる。松田聖子にも会える。可能性は無限大だ!」

と、軽妙なノリで調子よくリクルートする通産省の採用担当者に心が惹かれたのも無理はない。

 加えて、公務員になるなら大蔵省か通産省という西岡のアドバイスも心に残っていた。その結果、西岡が司法浪人を決める一方、守下は、通産省技官の内定をもらうことができた。

 しかし、通産省に入ってすぐ気が付いたのは、事務官と技官の採用区分の格差であったー。

 事務官は、トップの事務次官のポストはもちろん、局長級のポストもほぼ独占しており、技官に割り当てられる幹部のポストは、わずかだった。だから目端の利く理系学生は、国家公務員上級職試験を経済職で合格し、事務官として通産省に採用されていたのだ。

 一方の技官は、同じ上級職採用ということで、若いうちはじ事務官と同等にこき使われるが、その労働の果実は事務官に搾取される・・・。

 守下は、経済職という事務官の試験区分で受験しなかったことを激しく後悔したが、後の祭りだった。西岡が事務官と技官の差を教えてくれなかったことに、消極的な悪意を感じさえしていたのだ。

 そんな守下に残されている選択肢は、とにかく前を向いて走る事・・・・守下は同期の誰よりもがむしゃらに働いた。みなが嫌がる労多くして成果が挙がるかどうかわからない仕事も引き受けた。大学の専門ではない原子力の仕事も喜んでやった。守下の母親はナガサキの被爆2世であり、原子力の仕事に気は進まなかったが、好き嫌いで仕事を選べる立場にはなかった。

 職場での人間関係にも気を遣った。上司に嫌われないように努力することはもちろん、部下も大切にした。持ち前の優秀さと入省後の努力が実り、いつしか守下は、「技官にしておくには惜しい逸材」と周りにいわれるようになっていた。

 そして、この夏、原子力規制庁に出向を命じられた。相変わらず、誰もがやりたくない困難な激務をあてがわれたのだが、原子力防災課長という課長ポストだった。

 この夏に同期で課長の発令を受けたのは、自分と事務官のエース1名の合計2名だけ。素直にうれしかった。間違いなく同期の技官では出世頭、事務官とあわせても先頭集団を走っていることは確実であった。

 その出向先の原子力規制庁には、総務課の筆頭課長補佐に西岡進が配属されていた。西岡は司法試験受験のために2年間留年し、結局、司法試験には合格せず、守下よりも2年遅れて通産省に入省していた、事務官として・・・。

 ただ、原子力規制庁の筆頭課長補佐であれば、同期のなかでも第3集団くらいだろう。いくら西岡が事務官といえども、少なくとも、西岡のことはもう気にしなくてもいい。

「730円になります」

 運転手の声で守下は我に返った。

 守下を乗せたタクシーが到着した内閣府本府ビルは、官邸の目の前にある古びた5階建ての建物。この建物には、内閣官房と内閣府が入居している。

 霞が関広しといえども、内閣官房と内閣府の関係を正確に言い当てられる役人は少ない。

 まず内閣官房は、総理官邸直轄であり、国家権力の中枢の中枢である。一方の内閣府は、名称こそ内閣官房と似て立派であるが、中央省庁再編の際に、持って行き場のなかった弱小官庁の総理府や経済企画庁を寄せ集めた組織で、最弱の組織といってもいい。

 ゆえに内閣官房の役人は、内閣官房が内閣府と間違われることを極端に嫌い、内閣府の役人は、あたかも権力の中枢に近いと世間に誤解されることによって自己満足に浸る・・・ともに官邸の真正面で、議員会館にも歩いて行けるという絶好の立地にありながらも、最も熱気あふれる内閣官房と権力に無縁の弱小官庁の内閣府とは、対照的なのである。

 いつものように内閣府本府ビルの冷房は、午後6時には切れていた。暑い日中、冷房の設定温度は28度・・・しかし、室内温度が実際に28度まで下がることはまずない。日中、冷房が動いているときですら28度を下回らないままなのに、午後6時に冷房が切れると、そのままグングン、熱帯夜の外気の温度にまで、室内も近づいていく。

 フクシマの事故前、世の中がまだ地球温暖化だとかクールビズだとかいっている時代はのどかだった。余裕のある範囲で、人々は省エネを語っていたものだ。そう、ファッションとしての地球温暖化対策だったのである。

 しかしフクシマで事故が起きてからは、状況が一変した。原子力発電所が一基も動かない状態で、一年を経過しようとしていた。人々は真剣に省エネを始めたのだ。

 すると電力会社は慌てた。当初は計画停電を実施し、「原発が動かないと電気が止まる」といって国民を脅したが、国民が真剣に省エネに取り組み電力需要が減少すると、その脅しはすぐに使えなくなった。原発が動かなくても電気が足りてしまったからだ。

 次に、「原発が止まると電気代が高くなる」「日本経済にとって深刻なマイナスだ」といって国民を脅した。しかし、保守党政権に交替し、異次元の金融緩和と財政出動により、日本経済は好転していた。原発の稼働停止は、日本経済にとってマイナスなのではなく、電力会社の経営にとってマイナスなだけであることは明白だった。

 国民は、足元の電気代よりも、フクシマの事故の原因を徹底的に究明し、二度と事故が起こらないようにする対策を求めていた。そして、万一事故が起きた時にも、避難が確実になされ、事故を収束させることができる体制が整備されることを望んでいた・・・。


(2)

 ー内閣府本府ビル5階・内閣官房副長官補室。

「ですから、避難計画整備の仕事は、一体全体、設置法のどこを読んで決めるんですか?原子力規制委員会設置法の、どこにもそんなことは書いていませんからっ」

 フクシマの事故後に経済産業省から原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁に出向となった守下原子力防災課長が、そう叫んだ。もう何回目だろうか。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/23(月)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※5回目の紹介

2015-02-19 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※4回目の紹介

 もうフクシマの事故から3年以上も経っている。しかし、沿道の両脇には、脱原発デモの面々が埋め尽くしていた。

「原、発、ヤメ、ロー」

「仙、内、止め、ろー」

「再、稼働、ハン、タイ」

「子ど、もを、守、れ!!」

「イノ、チを、守、れ」

 笛、太鼓、銅鑼のリズムに合わせて、四節に区切られた台詞がスピーカーを通じて次々と夕方の空にこだまする。

 デモの参加者は、守下の両親と同じか少し若いくらいの現役の一線を退いたシニア世代と、おそらくうまく社会で組織の一員になれなかった20代や30代のニートの若者で構成されている。

 所詮、自分とは違う属性の人種なのだ。日本社会で、所属する居場所がない面々が、日頃の憂さをはらす格好の場所を脱原発デモは提供している。こういうデモを許容することも、これはこれで不満分子のガス抜きとなり、社会政策としての意義がある。守下はそう現実を正当化する。

 脱原発デモは、今日の関係省庁打合わせを招集した内閣官房の副長官補室の面々にとって、もう当たり前すぎる毎週金曜日の定例行事になってしまっているのだろう。

 そもそも、官邸前に位置する内閣府本府ビル前の歩道では、ほぼ毎晩といってもいいほど、デモが行われる。特定秘密保護法反対、オスプレイ反対、TPP反対、脱貧困、集団的自衛権反対など、毎晩テーマは異なれども、騒音の程度は同じだ。いちいちその中身に耳を傾けて真面目に考えていたら、体がもたない。不感症になるのもやむを得ない。

 しかし、経産省から原子力規制庁原子力防災課に出向している守下の耳には、否が応でもその声が飛び込んでくる。守下がやらざるを得ない仕事の方向と180度反対の方向から、胸に突き刺さってくる台詞だから・・・。


 守下は、地元でトップの名門公立高校の理数科コースに在籍中に生徒会長を務め、現役で東京大学理科一類に進んだ。父親は地元の国立大学卒の県庁職員、母親は専業主婦という典型的な田舎のエリート家庭に育った。

 出身の県立高校では、勉強ができる生徒は全員理数科コースに自動的に入れられ、数Ⅲや物理・科学が必修とされた。限られた優秀な教員はみな理系科目にシフトし、勉強ができる生徒は事実上、理系しか選択肢が与えられなかった。

 理数科コースでは、地元国立大学の医学部への進学がお約束のパターンだったが、守下は東京での生活と松田聖子に憧れていた。

「卒業して東京に出れば、松田聖子に会える」ーそう信じていた純朴な高校生が、守下だった。

 しかし、地元を離れ上京することを両親に納得させるためには、天下の東京大学に現役で合格することしか選択技はない。ただ、その欲望に引きずられた努力のおかげで、無事、守下は東京大学理科一類に現役で合格した。

 東京大学に入学して、森下はすぐ最初の間違いに気が付いた。東京は守下の田舎とは異なり、広大な都市・・・そこで生活しても、松田聖子と顔を合わせるチャンスはない、ということがわかったのだ。

 次に守下が間違いに気付いたのは、自分の適性と進路との不一致だった。田舎では、勉強のできる学生はほぼ必ず自動的に理系に進学する。しかし、東京大学では、理系には科学技術や数学に感心のある学生が進み、文系には人間や社会のメカニズムに関心のある学生が進んでいるのだった。

 高校で生徒会長を務め、松田聖子に憧れた守下の適性は、どう考えても文系だった。1~2年の教養学部から3~4年の工学部に移るころ、東大の学生も漠然と就職先のことを考え始める。守下にとっては、大学院に進学し、理系の研究室で実験データとにらめっこしながら底意地の悪い大学教員の僕となって何日も徹夜するとか、大企業の研究所に就職し地味に研究開発に勤しむ、そんな自分の姿は想像できなかった。

 そういうなかで、国家公務員上級職採用試験という道があると、英会話サークル「ESS」の同級生、西岡進から終えてもらった。

 西岡は、筑紫大学付属駒場高校という名門出身の東京っ子だ。法学部から、司法試験と公務員試験の両方を目指していた。公務員になるなら力のある大蔵省(当時)か通産省(当時)がいいと熱心に守下に語っていた。

 父親の様子から、公務員は陰鬱でつまらない仕事というイメージを持っていた守下ではあったが、西岡の話を聞いて、国家公務員上級職というのは別格だと父親が語っていたのを思い出した。

「今度ワシよりも10歳以上若い奴が国から副知事に来たわ。さすが国家公務員上級のエリートは出世が早い。そりゃ仕事はできるわ・・・けど、人間性はどうかな」

 と、自治省から40代前半の若さで出向してきた副知事を、家族で夕飯の食卓を囲んでいるときに評していたのである。

 人間と社会のメカニズムに関心のある守下にすれば、国家公務員上級職試験を受けることは、退屈な理系のレールから軌道修正する絶好のチャンスだった。そこで国家公務員上級職試験を工学の区分で受験し、見事合格したのだ。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/20(金)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※4回目の紹介

2015-02-18 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。4回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※3回目の紹介

第1章 避難計画の罠

 毎日新聞(2014年5月31日・西部朝刊)

「現場発:鹿児島県避難試算 川内原発事故、バスで10時間移動 高齢者、不安の声『耐えられるか疑問』」


 鹿児島県が29日に公表した九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の避難シミュレーションは、複合災害による避難ルートの途絶や支援が必要な高齢者らへの対応などがほとんど考慮されておらず、識者からも「楽観的なシナリオ」と指摘された。川内原発を巡っては再稼働に向けた原子力規制委員会の優先審査が進んでいる。一方で周辺には過疎と高齢化が進む集落も多く、住民からは不安の声が上がっている。

 川内原発から5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)内にある薩摩川内市寄田地区は、海に面した山間部に集落が点在する過疎地域だ。地区の住民登録数は4月1日現在、205世帯329で、65歳以上の高齢化率が約58%。市の避難計画では、住民たちは直線で約40キロ離れた鹿児島市内の公共施設に避難することになっている。

 シミュレーションは自家用車での避難が前提だが、長距離の運転が難しい高齢者にとっては非現実的だ。市の調査では地区の約100人がバスでの避難を希望している。だが山間部の道路は狭く、大型バスが通行するのは難しい。バスに乗るにはいったん集会施設に集まる必要もある。他方で地区内にある自治会の一つは昨年春、高齢化で役員になる住民がおらず解散した。避難の際に、避難者の確認などをする世話人すらいない状態だ。

 シミュレーションは、避難指示から2時間で全員が避難を開始すると想定した。県原子力安全対策課は「要援護者やPAZ内の住民は優先的に避難させるので、スムーズにいく」と主張するが、住民組織「寄田地区コミュニティ協議会」会長の川端文男さん(69)は「高齢者が多いのに集落は広範囲に離れている。避難開始までの準備に相当時間がかかるのでは」と危惧する。

 風向きなど状況によって2ルート設けられている避難経路上にも不安要素が多い。地区から約12キロ離れたいちき串木野市中心部までは、県道43号を南下して山間部や沿岸部を通るルートだが、土砂災害計画区域がいたるところにある。しかもルート周辺には政府の地震調査研究推進本部がマグニチュード7・2程度の地震発生の可能性を指摘する断層帯もあり、避難どころか孤立する恐れさえある。

 この区間を抜けたとしても、いちき串木野市の人口密集地が待っている。シミュレーションは、基本的に5キロ圏の住民が避難した後に5~30キロの住民に避難指示が出されると想定し、「最も標準的なパターン」で、5キロ圏内の住民が30キロ圏外に出るまで10時間15分かかると試算した。だが、川畑さんは「事故のニュースがあれば、みんな一斉に逃げるのではないか」と話し、渋滞でさらに時間が延びることを懸念する。

 支援が必要な高齢者らを抱える施設にとって問題はより深刻だ。寄田地区の隣接地区にある高齢者福祉施設「わかまつ園」のグループホームには83~97歳の認知症高齢者が9人いる。管理者の折田貴美子さんは「仮にシミュレーション通りにいっても、長時間の移動を耐えられるだろうか。認知症の人たちはバスに長時間いると脅迫観念にとらわれることもある」と言う。

 今回のシミュレーションについて、薩摩川内市の川内原発建設反対連絡協議会長、鳥原良子さん(65)は「避難先までどれだけかかるかもわからない。県は市民を安全に避難させるという意識に欠けている」と批判した。


■ことば

 ◆川内原発の避難シミュレーション

 ◇完了まで最長28時間
 自家用車で逃げるのを前提に、原発から30キロ圏内の住民の90%が30キロ圏外に出た時点で「避難完了」と定義した。一台あたりの乗車人数を変えるなどして13パターンの避難時間を試算。最短で9時間15分、最長28時間45分という結果になった。

*****

(1)

 暑い夏だった。

 とりわけ金曜の夕方は、脱原発をアピールするデモ隊の騒音が、蝉のあらんかぎりの鳴き声と競うほどに騒々しく、蒸し暑さをさらに掻き立てる。

「よりによって、なんでこんなタイミングで打合せなんだよ! ぺッ」

 仙石坂を下り、JTビルの脇から内閣府本府ビルに向かう上り坂の途中のタクシーの車内から、原子力規制庁原子力防災課長の守下靖は唾を外に吐いた。

「・・・金曜日の午後6時といえば、脱原発の御一行様のお出ましだぜ。内閣官房も何を考えてんだかよう」

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/19(木)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※3回目の紹介

2015-02-05 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。3回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※2回目の紹介

 「玲子! いますぐ芳樹を叩き起こして、着の身着のままでいいから、車で羽田か成田に向かえっ」

「・・・新崎原発の事故のせい?」

 玲子にはフクシマの悪夢が頭をよぎった。そして実際、フクシマ原発事故に際しては、多くの経産官僚はもちろん、実は当時の経済産業大臣たる江田川も、家族をシンガポールに逃していた。このとき即座にチケットをおさえて江田川家に届けたのは、税金で給料がまかなわれている、江田川の公設秘書であった。

 あのときも玲子は、小学生の芳樹とともに、いち早く岡山の実家に避難していた。

「どこでもいい、国内はみな危なくなるかもしれない。外国行きの航空券を、空港カウンターで正価でもいいから、すぐ買うんだ、必要なものは外国でもカードで買える。ロサンゼルスでもケアンズでもいい、急げ!」

 ー官房長官記者会見が30分後の午前9時に開かれる。そうしたら、羽田も成田も大混乱になるだろう。少しでも早く動いたほうがいい。

「・・・でも、東京から200キロ以上離れた場所じゃない。なんで、そんなに急ぐ必要があるの? あなたも知っているとおり、明日は芳樹の、新年ピアノ発表会なのよ・・・芳樹が、あんなに頑張って練習したのに・・・」

 玲子はどこか他人事だ。口調も至って冷静である。それで日村は激情に駆られた。

「バ、バカ野郎! おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!

 覚えているか、3・11の夜を? 俺達の目白の家の近くでも大渋滞が起こっただろう? 深夜1時にお前と一緒に見て回ったら、目白通りでも新目白通りでも、そして早稲田通りでも、ピクリとも車が動いていなかった・・・300キロ以上も離れた場所で起こった震災で、東京の交通は完全に麻痺したんだぞっ。しかも今度は放射性物質が飛んでくる!

 このあと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・いや、土下座して頼むっ、おまえと芳樹だけは、何とか生き残ってほしいんだ。原発再稼働が殺すのは、実は大都市の住民なんだ!」

 玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。

「・・・わ、わかったわ。私のお友だちの旦那さんがJALの常務さんだから、すぐに相談して、たぶんアメリカ西海岸へのチケットをおさえるわ・・・でも、あなたも必ずそこに来てね、芳樹と私だけにしないで!」

 最後は玲子も声を張り上げていた。涙声だった。しかし日村は、その涙で自分の意図が完全に伝わったことを悟り、ほっとする自分に気づいていた。

 ・・・これで日村には心の余裕が生まれた。続いて前経済産業大臣、小口陽子の秘書にも電話を入れた。

 小口前大臣には小学校1年生と4歳の男の子がいる。しかし、大臣を辞任したあとは原発事故の機密情報は入らない。だから小口前大臣も、この機転のよさには必ず恩義を感じてくれるはずだ。

 なにせ、小口陽子はキャンダルで失脚したとはいえ、禊を終えれば、確実に5年後には、女性発の総理候補となるはずなのだ・・・。


 ちょうど同じころ、二子玉川にある高級幹部用の公務員宿舎では、窓という窓のカーテンがすべて閉められていた。

 駐車場の自動車は一台もなくなり、自転車置き場の自転車もほとんどなくなっている。慌てていなくなったのか、三輪車や子ども用の自転車だけがその場に転がっている。

 多摩川沿いを、いつものように犬の散歩に出ていた元大蔵省主税局長の吉岡茂雄(75歳)は訝しく思う。

「・・・いったい何が起こっているんだ。公務員宿舎がもぬけの殻じゃないか。昨夜は灯りが点っておったが、まさか全員が、新年の朝、一斉に田舎に帰省しているわけではあるまいし・・・」

 悪い胸騒ぎがした。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/18(水)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※2回目の紹介

2015-02-04 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。2回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
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救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
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私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※1回目の紹介

 翌、元日の早朝6時から、官房長官の緊急記者会見が官邸で行われた。

「昨夜12時前、関東電力の高圧送電線の鉄塔が倒壊する事故があり、新崎原発が緊急停止いたしました。現在、原子炉を非常用電源で冷却中であります。

 周辺住民の方々は、冷静に対応願います。この事態によりまして、関東電力の供給区域内で、現在、50万世帯に停電が起きておりますが、順次復旧する見込みであります」

 緊張した面持ちで官房長官がこう述べた。


 新崎原発では、午前7時の段階で、原子炉を冷却中のバッテリー電源の残量がほとんどなくなりかけていた。そのため、非常用のディーゼル発電機を始動させようと、現場の当直の作業員が努力していた。

 前日夕方からの冷え込みは非常に厳しく、気温は、氷点下9・5度に達していた。キンキンに冷え込んでいるためか、ディーゼル・エンジンがかからない。

 午前7時半にバッテリー電源が切れたあと、原子炉の圧は急速に上昇し始めた。それに比例して、俄然、中央制御室の緊張が、ぐんぐんと上り詰めていった。

 テレビ会議システムでつながる関東電力本店や官邸のオペレーションルームも緊迫してきた。

 所長代理が外部電源者の出動を命じ、所員が原子炉のある海岸線から少し離れた高台の車庫棟に向かおうとするが、そこに行く道は50センチメートル以上の深い積雪に覆われていた。吹雪も強まっていた。

「外部電源車、出動できません!」

 そう、所員が報告する・・・海抜40メートルの高台にある車庫棟へ歩いて近づこうとしても、積雪が、夜からの冷え込みで、カチンカチンに凍結している。アイゼンもピッケルもない状況で、吹雪のなか車庫棟に登っていくのは至難の業だった。

 免震重要棟の緊急時対策室の所長代理が、

「除雪車を呼べ、すぐにだ!」

と、必死の形相で施設課長に指示する。

「原子力災害対策特別措置法に基づく15条通報です。原子力緊急事態です!」

 所長の留守を預かる所長代理が、官邸のオペレーションルームに報告した・・・。


 官邸のオペレーションルームから、資源エネルギー庁次長の日村直史がそっと抜けだしてきた。オペレーションルーム内部の喧騒が嘘のように、廊下は静かだった。

 そのまま側のトイレに駆け込む。個室の鍵を締め、慌てて携帯を取り出す・・・妻への電話だった。

 経産省から公用携帯として提供されているNTTドコモの災害時優先携帯電話ー通常の携帯は災害時には大抵不通になるが、災害時優先携帯電話は、災害対応のためという名目で、常時つながるようになっている。

 そしてこれは、政府関係者と、電力、ガス、鉄道といったライフラインを提供する事業者にだけ供給されているが、私用で使うこともできる。一種の役得といっていい。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/5(木)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※1回目の紹介

2015-02-03 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

プロローグ

毎日新聞(2011年12月24日・夕刊一面)

「東日本大震災:福島第一原発事故 最悪『170キロ圏強制移住』 原子力委員長、前首相に3月試算」


 東京電力福島第一原発事故から2週間後の3月25日、菅直人前首相の指示で、近藤駿介内閣府原子力委員長が「最悪シナリオ」を作成し、菅氏に提出していたことが複数の関係者への取材でわかった。さらなる水素爆発や使用済み核燃料プールの燃料融解が起きた場合、原発から半径170キロ圏内が旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)の強制移住地域の汚染レベルになると試算していた。

 近藤氏が作成したのはA4版約20ページ。第一原発は、全電源喪失で冷却機能が失われ、1,3,4号機で相次いで水素爆発が起き、2号機も炉心融解で放射性物質が放出されていた。当時、冷却作業は外部からの注水に頼り、特に懸念されたのが1535本(原子炉2基分相当)の燃料を保管する4号機の使用済み核燃料プールだった。

 最悪シナリオは、1~3号機のいずれかでさらに水素爆発が起き原発内の放射線量が上昇。余震も続いて冷却作業が長期間できなくなり、4号機プールの核燃料が全て溶解したと仮定した。原発から半径170キロ圏内で、土壌中の放射性セシウムが1平方メートルあたり148万ベクレル以上というチェルノブイリ事故の強制移住基準に達すると試算。東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた同250キロの範囲が、避難が必要な程度に汚染されると推定した。

 近藤氏は「最悪自体を想定したことで、冷却機能の多重化などの対策につながったと聞いている」と話した。菅氏は9月、毎日新聞の取材に「放射性物質が放出される事態に手をこまねいていれば、(原発から)100キロ、200キロ、300キロの範囲から全部(住民が)出なければならなくなる」と述べており、近藤氏のシナリオも根拠となったとみられる。


読売新聞(2014年9月12日・朝刊13面)

 「原発事故調書の要旨」

 細野豪志首相補佐官「恐れたのは公表することでこのシナリオが現実になること。自主移転容認区域が250キロまで含むと書かれ、これは東京を含む。(中略)東京からの避難が優先されれば福島の事故対応がおろそかになり、4号機のプールが露出することになると考えた。それは絶対にしてはならないので、この情報をみたときは非常に迷ったが、出すべきではないと考えた」


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 年の瀬は典型的な冬型の気圧配置となった。シベリアから張り出した低気圧が日本海上空を通過する際に異常に発達し、「爆弾低気圧」となった。急激な天候の変化が、日本列島を襲った。

 この低気圧は、強風とともに、日本海側の山沿いに5メートル超もの積雪をもたらした。沿海部でも積雪は50センチメートルを超えていた。

 新崎原子力発電所の高台にある非常用電源車の車庫棟の入口も50センチメートルの積雪で埋まり、大晦日の夕刻からの厳しい冷え込みで表面が硬化していた。

「関東地方で大規模な停電が発生、原因は調査中」ーこのテロップがNHKの「ゆく年くる年」の放送中に流れたのは、新年を迎える数分前だった。

 停電が起きたのは関東地方の50万世帯・・・しかし停電を食らった世帯ではテレビでテロップを確認することもできず、不意の停電に不吉な予感を覚えはしたが、多くの人はそのまま床についた・・・。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/4(水)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)