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原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

第8章 50人の決死隊 ※1回目の紹介

2015-05-07 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介

朝日新聞(2011年3月24日・朝刊一面)

「水道水『乳児は控えて』 東京23区・多摩5市で放射性物質検出 福島原発事故影響」

 東京都は23日、金町浄水場(葛飾区)の水道水から1キロあたり210ベクレルの放射性ヨウ素を検出したと発表した。同浄水場から給水している東京23区と多摩地域の5市を対象に、乳児に水道水を与えるのを控えるよう呼びかけている。

 金町浄水場は利根川水系の江戸川から取水している。同じ利根川水系から取水している千葉県も同日、全域に同様の呼びかけを始めた。

 都の対象は23区全域と武蔵野、三鷹、町田、多摩、稲城の5市で計489万世帯。

 都によると、対象地区に1歳未満の乳児は8万人おり、粉ミルク用の緊急対応として、放射性物質検出前に詰めた水道水550ミリリットル入りのペットボトルを乳児1人につき3本、計24万本を配布する。24日にも各区・市役所などで配り始める。

 東日本大震災を受け、都は21日の降雨の影響を調べるため、22日午前9時に同浄水場からサンプルを採取。23日午前11時ごろ、基準を超える値を検出したと報告を受けた。同日午前9時のサンプルでも190ベクレルを検出した。


(28)

 新崎原発では、1000人以上の所員たちが退避を選択し、50名の決死隊がとどまった。のちにいう「ニイザキ・フィフティーズ」である。

 退避を止める手段は何もない。フクシマの「吉田調書」を読んでも、吉田所長が認識しない間に9割の所員がフクシマ第二原発に退避していたのは事実だ。

 日本の法律上、監督者には、作業員への安全配慮義務がある。戦時中の軍隊ではないのだから、突撃させて全滅させることはできない。

 ・・・そしてそれは、警察、消防、自衛隊も同じだった。

 官邸では、原子力災害対策本部長の総理から、国家公安委員長、総務大臣、防衛大臣に対して、新崎原発への対応に協力するよう既に指示が下されていた。しかし、拡大する一方の極大放射能汚染に、警察、消防、自衛隊の現場からは、反対が起きていた。

 「ちょっと、さすがに線量が高すぎます。電力会社の社員が現場から退避しているのに、なんで我々が突撃させられるんですか? 私には、部隊にそんな命令はできません。いっそ指示ではなく、命令してください・・・ただ従いませんから、命令違反で罷免してください!」

 統合幕僚長が江藤徳之防衛大臣に噛みついている。

「軍法」のない、自衛隊という、軍隊かどうかもわからない、いってみれば「鵺」のような組織では、隊員が命令を拒否しても、そのことをもって獄につなぐことはできない。そしてこの統合幕僚長を罷免したところで、次の人間も同じリアクションをするだろう。

続き第8章 50人の決死隊」は、5/8(金)22:00から投稿予定です。

===「第8章 50人の決死隊の一部紹介===

・・・法律は無力だった。経産大臣には、新崎県のパニック下でガソリンがどのように売られているか、そもそも知る由もなかったから、石油需給適正化法に基づく指示など出しようもなかった。

・・・結果として、弱いものが出遅れ、仮に避難の車が手配できたとしても、ガス欠で幹線道路の路肩に自動車ごと取り残されることになった。路肩で、家族全員が嘔吐のうえ窒息死している自動車や、家族全員が凍死している自動車が、いくつも並ぶことになったのだ。

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東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※18回目の紹介

2015-04-29 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。18回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※17回目の紹介

 日村は続けた。

「それから、汚れた土地、まあ関東平野のかなりの部分にまで及ぶかも知れない・・・その使い道として、海外から使用済み核燃料の中間貯蔵施設を誘致する。

 これから日本国債の価値が暴落し、円安、株安、債権安のトリプル安が日本経済を襲うだろう。この経済不況を乗り切るために、日本が外貨を獲得していくことは不可避。我が国が不死鳥のごとく経済的に蘇るために、これはどうしても必要なことだし、最終処分場ではないと強弁すれば大丈夫でしょう」

 原発政策の行方を事実上支配する自分は日本の行方を支配しているー逆境に陥ってもそう思えることが、日村の強みだった。

 小島は小島で、謀議の概要を、随行している副部長にその場でまとめてプリントアウトさせた。逆境のなかでも、前進させた部分はつかみ、決して離さない。メモという形に残して、日村と共有することで、今後の足掛かりにするのだ。


「当面の対応」というタイトルの下には、以下の記述が箇条書きにされていた。

1.被ばく限度を引上げ。即日実施。住民の被曝限度を年20ミリシーベルトに、作業員50ミリシーベルトから500ミリシーベルトに変更。事態の推移に応じ、さらなる見直し。

2.計画停電の実施。電力不足のキャンペーン。

3.発送電分離の先延ばし。附則を足掛かりに。

4.国政選挙対策。「脱原発」○、「即ゼロ」☓。0泉対策。Mシステムフル稼働(フロー + ストック)。

5.首都圏壊滅→パニック鎮圧→遷都。19兆円の財源は原子力発電課税→運転保障。

6、中間貯蔵施設の対内誘致。

第7章 メルトダウン再び」の紹介は、今回で終了します

引き続き第8章 50人の決死隊」を、5/7(木)22:00から投稿予定です。

===「第8章 50人の決死隊の一部紹介===

・・・法律は無力だった。経産大臣には、新崎県のパニック下でガソリンがどのように売られているか、そもそも知る由もなかったから、石油需給適正化法に基づく指示など出しようもなかった。

・・・結果として、弱いものが出遅れ、仮に避難の車が手配できたとしても、ガス欠で幹線道路の路肩に自動車ごと取り残されることになった。路肩で、家族全員が嘔吐のうえ窒息死している自動車や、家族全員が凍死している自動車が、いくつも並ぶことになったのだ。

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東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※17回目の紹介

2015-04-28 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。17回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※16回目の紹介

「仮に衆参同日選であれば、また3年間選挙はないですからね。とにかく、今回は天王山ですから、例のシステムをフル稼働させて、フローのカネだけでなく、いままで蓄積したストックも吐き出しますよ」

 ー 例のシステムとは「電力モンスター・システム」、フローは電力業界が自由に使える年2000億円の政界工作資金、ストックとは市谷加賀町の電力迎賓館に代表される、これまでに蓄財された埋蔵資産のことだ。

 2人の謀議により、今後の道筋の共有はあらかた終わった。

「それにしても、これでプールまで沸騰、爆発して、使用済み核燃料が大気中に拡散したら、それこそ『最悪のシナリオ』でしょ? 風向きによっては首都圏壊滅ですよ」

 と、珍しく心配顔を見せる小島が口にした。

「そのときは、まず首都圏のパニックの鎮圧だな。そのやり方は、ちょっと私のほうで研究します」と日村。

 パニックの鎮圧といわれても、平時の会社の代表選手である関東電力出身の小島にとっては、何の発送も湧いてこない。

 日村は天を振り仰ぐ。そして、「それから・・・遷都だな・・・」と続けた。小島の目が泳ぐ。

「えっ、遷都ですか?」

「そうならざるを得ないでしょう。もう一度、京都に首都を戻す。そのために必要なカネは、過去の遷都についての調査研究によれば、ざっと19兆円くらいだろう。そのカネの財源を捻出するためにも、輸入の化石燃料には頼れない、原発に課税する、そういうロジックだな」

「・・・な、なるほど、それはいいですね!」

 小島は相槌を打った。たしかに秀逸なアイディアだ。いや、日村という男の知謀には敬服するしかない。

「核燃料サイクルの19兆円にだって騒がない呑気な国民なんだからな、ふふ。原発事故によって必要になった遷都の費用だから、原発の発電電力量に対して課税する・・・そうすれば、原発を動かさない限り、遷都ができないというわけだ」

 世の中を小馬鹿にしたような顔で、日村は片頬を吊り上げ、ニヤリと笑った。

 こうすれば、首都を壊滅させたとしても、遷都の費用だって呑み込める。それだけの凄い力が原発には内包されているのだ。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/29(水)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※16回目の紹介

2015-04-27 22:00:02 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。16回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※15回目の紹介

 「あとは、どうやって原発への逆風を防ぐかですな。とにかく、せっかく再稼働させた原発を止められないようにしないと・・・新崎の問題にとどめておく、ということです。フクシマよりも今回の新崎の事故のほうが酷そうですが、そうやって持ちこたえれば、所詮は程度論ですから、フクシマ後と、手順は同じでしょう」

 そう日村は淡々と語る。

 小島も満足そうに日村の言葉に続いた。

「状況によっては、またすぐに計画停電で、電力が足りないというキャンペーンを打ちますよ。さすがに、新崎が事故を起こしても電力が十分に足りてるってわけにもいかないですから」

「そうですね」と、日村も相槌を打つ。

「それから、附則の規定を足掛かりに、発送電分離は当面、先延ばしってことでお願いしますよ。こんな状況じゃ、国民の原発事故の記憶が薄れないと、原発推進策はとても実施できないでしょ」

 そう小島は日村に要求する。

 発送電分離の法案は、相次ぐ再稼働のなかで、すんなり可決、成立していた。そして附則の規定だけが、発送電分離を阻止する電力の足掛かりだった。

「まあ、状況次第ですけどね・・・」このときばかりは日村が口を濁す。「それよりも、心配は選挙でしょ」

 この夏は、少なくとも参議院の改選が来る。

「とにかく、候補者へのテコ入れをしてもらわないと。大泉元総理が一気に勢いづいてくるでしょうから」

「さすがに、こんな感じじゃ『原発推進』なんていったんじゃ、とても勝てないですよね」と小島は嘆く。

「大泉対策は進んでいるんですよね」と、日村が確認する。

「ええ、仕込みは進んでいますけどね、ふふっ」

 小島は余裕の表情を見せた。

「とにかく肉を斬らせて骨を断つ、ってことじゃないですかね。2度目の事故が起きた以上『脱原発』といわないと候補者は勝てない。でも『即ゼロ』とだけはいわせない。チラチラ計画停電をかまして、いま動かしている原発を止めると計画停電になりますよ、と脅すんです」

 そう日村が知恵を付けた。

「候補者に、恩着せがましく、『脱原発といっていい』と割り切るんですな。許すんですな。『でも、即ゼロとだけは約束しないでください』ということですか?」

 と、小島が日村の方針を確認する。

「その通りですよ」

 日村はニヤリと微笑んだ。

「・・・そして、当選後には、『脱原発』のタイムスパンの問題にすり替える」

 日村は自信満々だ。

「それなら、いまの政権だって脱原発依存ですから、抽象的には、ほとんど同じラインにまで戻せますね、選挙後は・・・」

 小島は安堵の表情を見せ、そして続けた。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/28(火)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※15回目の紹介

2015-04-24 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。15回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
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こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※14回目の紹介

(27)

 新崎原発の格納容器の爆発で官邸のオペレーションルームが騒然とするなか、日村と小島が示し合わせたように部屋を出てきた。2人の家族は誰よりも早くフライトチケットを手配し、成田や羽田から海外に飛び立っている。あとは安心して仕事に専念できる、というものだ。

 2人は官邸2階のホワイエの木のベンチに並んで座った。建物のなかでありながらも陽光が差し込む、普段であれば長閑な場所だ。いろんな人から見られるところだが、だからこそ、誰が見ても、まさかこれからの日本を左右する謀議が行われているとは思わない。意表を突いた密談場所であった。

「まずいことになりましたな・・・」

 と小島が語りかける。

「でも、まずいといっていても仕方がないから、これからの対策を考える、ということでしょ」

 日村はすぐに、小島のいわんとすることを言い当てる。経産省と関東電力、立ち位置が違うといえども、2人は、世の中の流れに付和雷同して流される側ではなく、積極的に流れを読み、手を打っていく人間だ。時代に流されるのではなく、時代の流れを作り出す側という点で共通している。

「ちょっと、お互いに講じていく対策を整理しておきましょう」と小島。危機の際には初動を誤らないことが大切なのだ。日村はそれに応える。

「まず、被曝限度を引き上げないとどうしようもない。速やかに住民の被爆限度を年20ミリシーベルトに、作業員は年50ミリシーベルトから年500ミリシーベルトに変更するよう、政府内で指示を出しますよ。省令事項だから、やる気になれば、即日でできる。非常事態ってことで、有識者に諮るのは後伺いだ」

 小島が満足そうにうなずく。

「それは政府にしかできないから、日村さんにお任せいたします。500ミリシーベルトなら2時間半は作業できる。多少吐き気を感じるくらいですよ、どうってことないです。脱毛は300ミリシーベルト、皮膚やけどは5000ミリシーベルト、全身に浴びると死ぬのは7000ミリシーベルトくらいですから・・・事態が進行したら、もっともっと上げてもいいですよ」

 小島は恐ろしい言葉を並べ立て、日村の対処方針を裏書する。

 本当は、小島のいっていることは、急性の確定的影響のことである。事後的に、何年も経ってから生じる、甲状腺がんや白血病といった確率的な影響について、小島はまったく触れていない。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/27(月)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※14回目の紹介

2015-04-23 22:07:50 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。14回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※13回目の紹介

 状況は、フクシマの事故のあとに近藤駿介原子力委員長が作成した「最悪シナリオ」に近づいているー。

 新崎原発の7基とその使用済み核燃料プールが制御できなくなったら、チェルノブイリの何十倍という量の放射性物質が放出され、少なくとも東日本が壊滅する。250キロ圏内の5000万の人が、何十年も、その地域から避難し続けなくてはならなくなる・・・。


「す、すごいです・・・6号機と7号機周辺の地表で、200ミリシーベルト時の線量です。ちょっと、普通には作業をさせられません・・・」

 200ミリシーベルト時であれば、わずか15分で、労働安全衛生法上の年間被曝限度に到達する。1時間その場にいるだけで白血球が減少する被曝量だ。

「いったん作業員をオフサイトセンターに退避させて、態勢を整えさせてください!」

 そう所長代理が懇願する。自らの命を惜しんでいるわけではない。この男の表情は、既に自分の死を覚悟している人間のものだ。このまま打つ手もなしにとどまって、所員を犬死させることだけは避けたいのだ。

「・・・私と志願する老兵は居残って、最後のご奉公をします。突っ込んでいって、とにかくプールの電源を復活させます。ですから、それ以外の所員は、いったん退避させてください。

 ホイールローダー、非常用電源車、それから放水車、砂と水を混ぜたスラリーを流し込むコンクリートミキサー車もいるかもしれません。ヘリによる注水もやってください。とにかく、私は前線で最後まで応急措置を試みますから、あとは一刻も早い救援と、より根本的な対応策の実施をお願いします!」

 原子力災害対策本部長の総理も、関東電力の社長も、それを否定することはできない。

 テレビ会議システムでつながった映像のなかで、所長代理が所員に、所内放送で訓示を始めた。

「・・・残念ながら、これだけの線量になると、一時的に退避せざるを得ません。みなさん、ここまでよく頑張りました、ありがとう。これからオフサイトセンターに、発電所のバスで、順次退避してください」

 所長代理がテレビカメラのほうに視線を向けた。官邸オペレーションルームの人間は、みな、目を背けた。

「・・・私ははここで、みなさんとはいったんお別れです。最後まで発電所を見届けるために残ります。これから瓦礫を片付けて、非常用電源車の到着を待ちます。ホイールロオーダーや非常用電源車の操作ができる方で残留を希望される方は、一緒に残って下さい。

 こうした作業のできない方は、このまま残っても犬死です。みなさんの気持ちはわかりますが、退避は決して恥ずかしいことではありません。いったん、オフサイトセンターに退避をして、態勢を整えて、本店の指示に従って下さい。また、みなさんとお会いできる日があればうれしいです。以上・・・。

 去る者も残る者もみな号泣していた。

 しかし、なかには、この放送の途中で、早々にバスに乗り込んでいく所員もいた。現地に駐留しているはずの原子力規制庁の検査官の姿も、いつの間にか見えなくなっている。退避の指示が出た以上は、居残って出足が遅れるよりも、とっとと最初のバスに乗り込んだほうが勝ちだ。そう考える者もなかにはいる。

 関東電力にも、出入りの業者にも、いろんな人間がいるのだ。人生のなかで何に価値を置くかは、人それぞれなのだ。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/24(金)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※13回目の紹介

2015-04-22 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。13回目の紹介

 

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作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※12回目の紹介

 全国に放映されているテレビ画面には、6号機の建屋が全壊し、その隣の7号機の建屋も半壊している姿が、無残にも映し出されていた。

 6号機の格納容器が爆発したことを示している・・・こうなると7号機の格納容器も時間の問題だろう。

 すると、原子力規制庁から駆けつけた原子力のプロである緊急事態対策監が冷静に通告した。

 「・・・雲と雨の行方次第では、首都圏が壊滅するな。6号機、7号機と、2炉心分の放射性物質が大気中に放出されたら、風向きを考えなくったって、170キロ圏内くらいは、年間50ミリシーベルトの強制移住レベルになる。

 北西の風に乗って放射性プルームが関東平野を襲ったら、250キロ離れた東京だって、まず間違いなく、人っ子一人住めなくなる」

 ー 官邸のオペレーションルームにいるすべての人間が凍り付いた瞬間だった。

(26)

「ちょ、ちょっと、すごい線量なんで、退避、退避させてください。死にますー」

 新崎原発の所長代理が叫んでいた。正月休みで帰省した所長が恨めしかった。まだ到着しないのだろうか。

「退避ったって、どうすんだ?」と官房長官。

「どうするも、こうするもありません。とにかく打つ手がありませんから」

「決死隊でも組んでやれ!」とは加部総理だ。

 かつてのフクシマ原発事故で歴史に残った名台詞だ。加部も同じことをいってみたのだ。

「決死隊っていったって、何をするんですか? もう打つ手がないんですから、このままここにいても、犬死です!」

 フクシマのときの決死隊は、手動でベントをするための決死隊であった。今回は、格納容器が爆発し、メルトダウンした燃料や瓦礫を拾い集めろ、ということなのだろうか。

 所長代理の勢いに圧倒されて、総理はもう何も言い返せない。これも、その人生で踏んだ修羅場の数の少なさがなせる業だ。

「6号機、7号機の中央操作室と、連絡がとれません!」

 中央操作室は、荒れ狂う6号機と7号機の最前線基地である。格納容器と建屋が爆発したのだから、常識的に考えれば、所員は爆死しているであろう・・・。

 すると所長代理の声が再び入った。何か達観したような声音に変わっている。

「・・・あたり一面、瓦礫のようなんで、まずホイールローダーで片付け始めてみます」

 6号機と7号機の建屋が破壊されたということは、使用済み核燃料プールを覆う構造物がなくなっていることを意味する。電源がないということは、数時間後にはプールが沸騰し、使用済み核燃料がむき出しのまま、大気中に晒されることになる。何が何でも電源を繋がなくてはいけない。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/23(木)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※12回目の紹介

2015-04-21 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。12回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※11回目の紹介

「そうだとすると、リークしているわけですから、爆発は避けられる可能性が高いですね」

 ・・・関東電力の人間はなぜかほっとした様子だ。この会社の人間には、職責という言葉が理解できるのであろうか。

 その時点で判明している事象だけで、原子力工学の世界で合理的に説明がつく範囲で、推論を働かせる ー 原子力規制委員会委員と関東電力原子力事業部の両者は、こうした正常化バイアスに陥っていた。真に必要なことは、その時点で判明していないけれども、その背後で何が起きているのかを想像し、別の推論を働かせることだ。

「で、どうなんだ? 放っておいたら、格納容器が爆発するのか、しないのか、どっちなんだ?」

 と官房長官が、ギロリと原子力規制委員長を一瞥した。

「周辺線量から見て、多少のリークが起きていますから、爆発にまで至る可能性は低いと思います」

 そう原子力規制委員長が答える。しかし、格納容器の内圧が、フクシマのときのように減少せず、最高使用圧力を越えたままで高止まりしていることについて、内心かすかなわだかまりを感じていた。

 ・・・原子力規制委員長が官房長官に答えた、その瞬間だった。

 ド、ドッ、ドーン!! という激しい大音響と振動が、テレビ会議システムを通じて伝わってきた。

 官邸のオペレーションルーム自体が激しく振動したような臨場感である。

「た、大変です、大変です。いま、ものすごい衝撃が起きました。6号機か7号機かは、ちょっとわからないんですけど・・・」

 所長代理が免震重要棟から叫んでいる。

 新崎原発が常時公表しているモニタリングデータが明らかに跳ね上がっている。

「線量が急上昇しています!」

 関東電力原子力事業部長が叫ぶ。格納容器の圧は急激に低下している。

「おいっ、格納容器は爆発しないんじゃなかったのか!?」

 官房長官が鬼のような形相で原子力規制委員長をにらみける。

「アチャー」

 原子力規制委員長は、頭を抱えた。椅子から崩れ落ち、床を両手で叩きながら、のたうちまわっている。発作でも起こしたようだ。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/22(水)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※11回目の紹介

2015-04-20 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。11回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※10回目の紹介

「県内は、もうPAZ、UPZに限らず、全域が大渋滞しています。いまベントされれば、新崎県民全体が放射能に晒されます。絶対にやめてください!」

 知事としても、フクシマの事故のように、このテレビ会議システムの映像と音声が後々公開される可能性があることを考えれば、軽々にイエスとはいえない。

 戦前の官選知事の時代であれば、国が県知事に命令することができた。しかし戦後、地方自治が憲法で保障され、特に地方自治法改正後に国と地方が対等だという建前になってからは、地方がノーということを国がゴリ押しするわけにはいかない。

「そもそも、ベントしなければ日本が沈没してしまうかどうかもわからないんですよね? メルトダウンした燃料が建屋の基礎を貫通しても、格納容器の健全性が一応保たれていれば、ベントより、まだましかもしれないですよね?」と県知事。一理ある考えだった。

 問題は、フクシマの事故の教訓を生かすことができていない、ということだ。

 事故後5年近くが経過したフクシマですら、メルトダウンした燃料がどれくらい格納容器にとどまっているのかどうか確証がない。フクシマを先例として検証し、対策を講じないまま、新崎原発を再稼働しているので、メルトダウンしたデブリがどのような挙動を示し、どのくらいの水素や一酸化炭素や水蒸気が発生し、格納容器がどの程度耐えられるのか、ということが一切わからないのだ。

 フクシマの事故の検証は、逮捕された伊豆田前知事が口を酸っぱくして主張していたことだったが、これも後の祭りだ。


 新崎原発6・7号機は、ABWRという最新型の原子炉であり、旧来型の鋼製格納容器ではなく、原子炉建屋と一体化した円筒形の鉄筋コンクリート製格納容器を有している。この格納容器は、耐圧機能を受け持つ鉄筋コンクリートと漏洩防止機能を受け持つ鋼製ライナーから成る。福島のマークIと異なり、堅牢であり、溶接技術の進歩などもあって、耐圧性も優れていた。

 ただ、ここに来ての悩みは、フクシマよりも堅牢で耐圧性能が高いからこそ、フランジやハッチから放射性ガスの漏洩が起こりにくいのではないか、ということであった。

「ベントできなくても、フクシマのように徐々にリークしてくれれば、かえって爆発しないから安心なのにな・・・」

 と、原子力規制委員会の1人が無責任に嘆く。

 現にフクシマの場合には、フランジやハッチに数マイクロメートルから数十マイクロメートルの余裕があったがゆえに、それがベントの代わりの機能を果たしたといってもいい。建屋周辺は汚染されたが、代わりに格納容器全体が爆発することは避けられた。

 最新のABWRの場合には、机上の計算ではなく実際にどのくらいの耐圧性能ががあるのか、内圧がどのくらいであればどのくらいのリークが起こるのか、どれだけリークが起きるとどれだけ周辺線量が上がるのかといったことが、当てずっぽうの推論でしか想像できない。

 本来、フクシマの事故の検証によってシュミレーションをしておけばよかったのだが、それがない以上は仕方がない・・・。

「ABWRの耐圧性能はフクシマとは比べ物にならないほど優れていますから、リークはないと思います」

 そう関東電力原子力事業部の1人がいうと、

「じゃ、どうして周辺線量があがっているんだ、リークしているんだろ?」

 と、原子力規制委員が疑問を呈す。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/21(火)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※10回目の紹介

2015-04-17 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。10回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※9回目の紹介

 昨夜の官邸からの指示で、各地から非常用電源車やタンクローリー車が合計100台以上、新崎原発へ向かっていた。しかし、軒並み新崎県内の交通渋滞に巻き込まれ、到着している車は一台もなかった。

 しかも、雪が踏み固められ、路面が鏡面化したインターチェンジの出口付近では、首都圏から向かったタンクローリーが横転、漏れた燃料に引火し、出入口一帯が火の海になってしまった。こうして高速道路は、全面的に通行止めとなったのである。


 原子炉の電源がストップしたということは、原子炉本体に冷却水を送り込む手段がなくなったことを意味している。あとは、核燃料のメルトダウンによって膨張する内部圧をベントで逃さなければ、格納容器が爆発する。

 世界最高の安全水準と日本国政府が胸を張った新崎原発6・7号機ではあるが、世界的には常識になっているコアキャッチャーすら設置されていなかった。

 コアキャッチャーとは、原子炉でメルトダウンが発生した場合に備えて、原子炉格納容器の下部に設置される装置のこと。溶けた核燃料を閉じ込めて冷却し、放射性物質の拡散を抑制することができる。実は、中国の原子力発電所にも配備されている、世界では常識となっている装置なのだ。

 原子力規制庁のシュミレーションでは、冷却が止まれば直ちにメルトダウンが始まり、3時間後にはメルトスルーして圧力容器を破壊、7時間後には格納容器を破壊、20時間後には建屋の基礎を貫通、そして、大量の放射性物質が外部に放出されると予測されていた。

 コアキャッチャーがあれば、それに加えて12時間以上は稼げたであろうが、それはもう後の祭りだった・・・。


 格納容器の圧は既に最高使用圧力を超えていた。

「周辺線量が上がってきているんだし、圧もこれだけ高いんだから、もう相当メルトダウンが進行しているとみるべきだろっ」

 と、関東電力本店の原子力事業部長が叫ぶ。

「今日中には、ベントしなくても、自然にベントになります」

 とは所長代理。

「自然にベントってどういうことだ?」と、官房長官が問う。

「原子力建屋から放射性物質が溶け出るってことですよ。格納容器がもたずに爆発するか、メルトスルーするか・・・爆発の仕方次第では、日本沈没です」

 そう原子力規制委員長が説明する。努めて冷静な様子を装っているが、右の目尻がピクピクとけいれんしている。

「水素爆発も気を付けて」

 とは原子力事業部長。フクシマの1号機と3号機、4号機の原子炉建屋が水素爆発でブロウアウトしたことは記憶に新しい。新崎原発には、建屋内に滞留した水素を酸化させて水に変化させる装置や、水素を逃がす弁が、再稼働の前に新設されていた。その対策を講じているか、原子力事業部長は、そう念押ししたのだ。

「わ、わかってます、やってますよ・・・それよりベント、何とかなりませんか?」所長代理は必死だ。

「知事。もう、避難指示から4時間経過しています。避難の確認がとれていないだけなのですから、避難は終了したと見做してしまってもいいんじゃないですか?」

 と、官房副長官が県知事にお伺いを立てる。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/20(月)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※9回目の紹介

2015-04-16 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。9回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

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( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※8回目の紹介

(25)

 新崎原子力発電所の現場では、格納容器の圧の上昇に頭を悩ませていた。

「とにかく、早くベントしようよ、ベント!」

 と、関東電力本店から指示が飛ぶが、そのたびごとに、テレビ会議システムでつながっている新崎県庁の危機管理監から、

「地元自治体から、住民の避難が終了した、との報告が来ておりませんっ」

 と釘を刺される。

「どんな感じですか、住民の避難は?」

 原子力災害対策本部事務局長の井桁勝彦が、焦れている官邸を代表して質問する。事務局長といっても法律的な位置づけはないし、原子力の専門的な知見もない。

「とにかく、道路という道路は麻痺してるんです、避難も何もできてません」

 そう、県の危機管理監が開き直る。

 すべての関係者をテレビ会議システムでつなぐことは事故情報の共有にはよいことではあるが、必然的に関係者全員が了解したことしか対策を実施できないことになる。

 ・・・原発周辺の線量も徐々に上昇していた。

 格納容器の圧が高まっていることから、格納容器のフランジやハッチを通して微量の放射性物質が漏洩していると見られた。格納容器が破損される前に、ベントで内部の圧を逃してやることが必要だ。

「避難が終わるまで、ベントは絶対にやめてください。ベントで放射能を浴びるのは、日本全体ではなくて、住民です。私には住民の安全を守る責任があるんです!」

 新崎県知事が吠える。

 知事に圧倒され、原子力規制委員長は、本部長たる総理の顔色を窺った。原子力緊急事態における最高司令官は総理である。知事や事業者に指示できるのは、総理だけだ。

「とにかく、知事におかれては、一刻も早く避難を完了させてください」

 と総理。まだ声には張りがあるが、不安そうな顔つきだ。目が泳いでいる。

 しかし、そんなことは誰だってわかっている。この局面では、住民のリアルな被曝と日本沈没のリスクとの究極の選択、それが総理に求められていた。

 しかし、少数に犠牲を強いることは、知事の手前、総理にはできない。他の日本の政治家と同様、いままでコンセンサスに基づく決断しか経験していないのだから仕方がない。大泉元総理のような決断は、加部には難しかった。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/17(金)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※8回目の紹介

2015-04-15 22:00:57 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。8回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※7回目の紹介

 もっと過酷なのは、特別養護老人ホームだった。新崎原発からわずか3キロの距離に立地するこの施設では、要介護4や5の高齢者を80名収容していた。要介護4や5というのは、いわゆる寝たきり老人である。

 平日の日中は、30名近いスタッフが働く特別養護老人ホームであるが、夜間の当直は、介護職2名と看護職1名の合計3名体制だ。正月の午前は、祝日のなかでも最小の体制で、当直明けの3名に加えて、さらに介護職3名が、午前9時にようやく出勤してきていた。

 防災無線のスピーカーから避難指示の放送が流れてくるが、80名の寝たきり老人を6名の職員で連れ出すことなど不可能だ。

 特別養護老人ホームがあらかじめ策定していた避難計画では、原子力緊急事態宣言の前に退避準備指示が流れ、その時点で当直が施設長に連絡、そうして施設長からスタッフに参集の連絡が行くことになっていた。しかし、まず施設長がつかまらなかった・・・。

 施設長はUPZの圏外の新崎市に自宅がある。自宅に電話しても留守電に切り替わるし、携帯電話も同じだった。

 避難のためのバスも一向に来ない。原子力緊急事態宣言が発出されれば、保健所がバスを差し向けるはずなのだが、いったいどうなっているのだろうか? 仮にバスが来たとしても、スタッフが集まらなければ、寝たきり老人をバスに乗せることすら不可能なのだ。

 そうこうしているうちに、特別養護老人ホーム周辺も、交通渋滞で車が動かなくなった。こんな大渋滞のなか、施設長やスタッフは現れるのだろうか? バス来るのだろうか? 寝たきり老人とともに自分たちも取り残されたのだろうか? 施設のスタッフたちは、もう祈るしかなかった。

 またフクシマでは、自衛隊員が病院に駆けつけて患者を搬送したと聞いたが、自衛隊は来てくれるのだろうか? スタッフたちは、希望と不安が入り混じる気持ちで渋滞した道路を見つめていた。

 この渋滞であれば、施設長や他のスタッフが出勤してくるという期待は持てない。朝早く目覚めた老人たちのために、おむつを交換して、いつもの通り食事を出さなくてはいけない。呆けた老人たちには原発事故の深刻さなどわかるはずがなく、いつものようにおなかを空かせているのだ。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/16(木)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※7回目の紹介

2015-04-14 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。7回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※6回目の紹介

 放送から30分後に、結局、集まったなかでは比較的若い連中・・・といっても60歳代の男たちが、集落の全戸を訪問して歩いた。全戸を訪問しても、応答のない家が、たまたま旅行に出かけていて不在なのか、補聴器を外しているだけなのか、とっとと自分で避難してしまったのか、それは判然としなかった。

 なかには事故以前に転居してしまった家族や、既に亡くなった独居高齢者もいたが、台帳上は名前が残っているので、それがさらなる混乱を招いた。

 一通り全戸訪問が終わっても、一時避難場所に避難用のバスは現れない。じりじりと焦りが広がってくる。新崎交通のバスが現れるはずなのだが、所詮は民間会社のバスだ。運転手と連絡がつかないのか、運転手が逃げ出したのか、避難場所に至るまでの道路が渋滞しているのか・・・いずれにせよ、迎えのバスが来ていない事実だけがハッキリとしている。

 携帯電話も、まったくといっていいほどつながらない。災害時優先携帯電話や衛星携帯電話など、非常時につながる通信手段を、避難する住民は持たされていない。防災無線では、避難を開始したら役場に連絡せよとの放送がしきりに流れているが、携帯電話がつながらないのに、どうやって連絡をせよというのだろうか。

「バスを待つより、自家用車で逃げましょう。自家用車で逃げられる人は、みんなを乗せられるだけ乗せて、先に避難し始めましょう」

 と青年部の部長・・・といっても、来年で会社を定年退職する予定でいた兼業農家の男性、彼がそう提案する。

 「そうすべえ」

 自治会長のお許しを得て、自家用車を持って来られる人が各自、自家用車を持ってくることになった。


 2回目の官房長官の記者会見は、正月にのんびり床から起きたUPZの住民が、ちょうど寝ぼけ眼でテレビを点ける時間だった。官邸の記者会見のテレビ中継によって、跳び上がった。

「なんだと、メルトダウンだぁ!逃げるべぇ」

 原発から30キロ圏内のUPZの住民はもちろん、UPZ外の県庁所在地たる新崎市などの住民も、着の身着のままで、乗用車で一斉に自宅を飛び出していった。新崎県内の県道、国道、高速道は、数十分のうちにすべて大渋滞となった。みなテレビを見て、慌てて集落から逃げ出してきたのだ。

 原子力災害対策特別措置法に基づいて原子力規制委員会が定めた原子力災害対策指針上の整理では、まだUPZの住民は屋内退避指示の対象であるので、UPZの住民が避難を開始することは想定されていない。しかし、屋内にとどまる指示であることについて住民は認識する由もないし、屋内退避の指示に従う義務もないのだ。


 一時退避場所の公園では、自家用車に分乗しきれずに残された住民たちが、バスの到着を待っていた。しかし、バスが到着する前に、周辺道路は既に大渋滞となってしまっている。

 すると、周辺の放射線量が徐々に上がり、格納容器が破損している可能性も出てきていることが、ネットを見た若手の住民から口頭で伝わってきた。

「俺達、どうするべえか?」

「このままここでバス待っとったら、死ぬど」

 足はない・・・しかし放射能は襲ってくる。

「しかたあんめぇ、歩いて逃げベぇ」

「どこへ、逃げたらいいさ」

「とりあえず、市役所に向かおう。きっと、どうすっか教えてくれるっペ」

「知り合いがいたら乗せてもらうべ」

 こう決めた住民たちは、とぼとぼと国道を市役所のほうに向かって歩いて行く。ちょうどヒロシマの原爆投下のあとに、被災者が郊外へ向け、さまよい歩いていったように・・・。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/15(水)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※6回目の紹介

2015-04-13 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。6回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※5回目の紹介

(24)

 午前9時、テレビで2回目の官房長官会見が流れている頃、PAZの自治体の防災無線のスピーカーから避難を呼びかける放送が流れた。

「ただいま、原子力災害対策本部長の内閣総理大臣から、原子力緊急事態宣言が発出されました。事前にみなさんにお配りしている避難のマニュアルに従って、一時避難場所に速やかに集合してください」

 それはあたかも、戦時中の空襲警報のようであった。突然、元日の朝の平穏な生活を蹂躙し、住民は着の身着のままで逃げ惑う。新崎は空襲の被害には遭わなかったが、戦後70年を経て、空襲警報以上の災難に見舞われた。

 ただ、空襲警報は解除されれば自宅に戻れるが、今回の避難指示は、もしかすると故郷との今生の別れになるのかもしれないのだ。

 新崎原発のPAZには合計1万6500名の住民が住んでいる。3分の1は高齢者だ。事前に配られた安定ヨウ素剤を慌てて服用する。

 一時避難場所の目の前の道路を、子供を連れた若い家族がミニバンで走り去っていく。子供のいる家族にとってみれば、強制力のないバスでの避難指示に悠長に従うよりも、子供の命を考えて、誰よりも、そして一刻も早く、原発から離れるほうが大切なのだ。

 PAZ内で、最初に住民が集まるべしと、避難計画上位置づけられている一時避難場所の公園では、住民の点呼に手間取っていた。

 まず、避難計画の台帳全体では、単身高齢者が400名以上いるはずだった。台帳は自治会・町内会ごとに分けられていたが、どの自治会・町内会も、独居の高齢者の集まり具合が滅法悪かったのだ。

 それもそのはずだ。ふだん補聴器を外して生活している高齢者が、防災無線の放送に気が付くはずがなかったのだ・・・。

 もともとの避難計画のマニュアルでは、若者が手分けをして独居の高齢者宅に声かけに行くことになっていた。しかし、若者の多くは子供を連れて、既に自家用車で避難してしまっているようだ。壮年者も思うように集まらない。一時避難場所に現れない家族についても、避難が遅れているのか、それとも自力で自家用車で避難して立ち去ったのか、それもわからなかった。

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/14(火)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第7章 メルトダウン再び ※5回目の紹介

2015-04-10 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第7章 メルトダウン再び」の紹介

前回の話:第7章 メルトダウン再び ※4回目の紹介

 その官房長官から、

「先ほど午前8時、関東電力の新崎原発の6号機と7号機につきまして、原子力災害対策特別措置法第15条に基づく原子力緊急事態宣言を発出し、原子力災害対策本部を官邸に設置いたしました。PAZの住民の方は、これから自治体の指示に従い、速やかに退避をお願いいたします。原子炉の冷却につきましては、バッテリー電源から非常用電源への切り替えに向けた作業を行っているところであります」

 との説明がなされた。

「現在、原子炉の冷却は継続できているのでしょうか?」

 本社から出張ってきたのかもしれない。普段は見かけない年嵩の記者が質問を投げかける。

「現時点では、一時的に冷却が中断しております・・・」

 官房長官の苦渋に満ちた表情を前に、正月返上で官邸に詰めていた記者たちのあいだに、どよめきが起こる。記者会見室から外に走り出す者や、その場で携帯をかけ始める者も現れた。

 緊迫したやり取りが続く。

「冷却はいつ再開できる見込みでしょうか?」

「それについての情報は、まだありません」

「非常用ディーゼル発電機は、なぜ作動していないのでしょうか?」

「現在、調査中であります」

「発電所内にある外部電源車は使えないのでしょうか?」

「現在、鋭意作業中であります」

・・・民法の正月番組でも、

「新崎原発、原子力緊急事態宣言。原子炉冷却が一時中断。冷却再開の見通し不明」

 とのテロップが一斉に流れた。生放送のお笑い番組は中断され、官邸の緊急記者会見に切り替わった。

 官房長官に対して、記者が矢継ぎ早に質問を浴びせかける。

「メルトダウンが始まっているということでよろしいでしょうか?」

 フクシマの事故後、すっかり世の中の原子力事故に対するリテラシーが向上している。「損傷」といった表現で誤魔化すことは無理だった。

「原子炉内部の状況については現在調査中であります」

「メルトダウンの可能性はありますね?」

「可能性は否定できません」

「いつ格納容器の外に放射能漏れが起きると予想されますか?」

「現在、鋭意シュミレーション中です」

「ベントはやるんですか?」

「PAZの住民の避難を確認したうえで、ベントをすることも選択肢の一つとして検討中であります」

「これからPAZの住民が避難ということですが、UPZの住民やPPAの住民は避難の必要はないのでしょうか?」

「避難計画上は、現時点では、屋内退避となっております。いずれ、それぞれの自治体から指示がありますので、冷静に行動していただければと考えております」

「ベントの際には、併せてSPEEDIのデータは公表するということでいいですか?」

「その方向で検討しております・・・」

続き第7章 メルトダウン再び」は、4/13(月)22:00投稿予定です。

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)