*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第10章 政治家と官僚のエクソダス」を複数回に分け紹介します。2回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介
前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※1回目の紹介
日本産業自動車株式会社は、既に閉鎖していた座間や東村山の工場に続き、最後の国内工場の砦であった横須賀・追浜工場を閉鎖し、本社を横浜から上海に移転することを決定した。ブラジル系フランス人のCEOにとっては、グローバル企業のヘッドクォーターの所在は、利益を極大化するための一つの要素に過ぎなかった。
日本経済団体連盟も関西経済団体連盟と統合し、関西への移転を模索しているとのスクープが、日本経済産業新聞の一面に躍った。
早速、加部総理が日本経済団体連盟会長を呼び出し、経済界が東京に留まることを要請した。
「首都機能の空洞化が懸念され、事故対応に支障を来しますから」
というのが加部の台詞であった。
東京都知事の松添幸一も声明を発表した。
「これから科学的・計画的に除染を実施しますから、2020年の東京オリンピックを成功させるためにも、経済界が東京に留まってもらわないと・・・」
東京オリンピックを口実に大衆を煽り、経済界を引きとめようとするが、いまとなっては空虚な言葉だった。
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加部や松添の発言に、表面的には、公務員は反発しなかったものの、内心は複雑だった。
「おい、俺達をモルモットみたいに、このままこの線量のなかで働かせられるのかなぁ?」
終業時刻を過ぎて人がまばらになり始めた六本木ファーストビル内、原子力規制庁の大部屋で、原子力防災課長の守下靖は、それとなく経産省出身の係長、東田達也に問いかけた。
海外にいち早く妻や子息を逃した経産省の大臣や幹部とは異なり、経産省の一般職員の多くは、情報から疎外され、家族を疎開させるタイミングを逸していた。経産省から原子力規制庁への出向組は、なおのことそうだった。
課長の守下には、新崎原発の緊急事態の情報はいち早く回ってきていたものの、彼は例外的に、家族を逃がすことはしなかた。自分がPPAでの避難計画の内容を甘くしたこともあって首都圏の住民が放射線に晒されているなか、己の家族だけいち早く逃すなどということは、彼の国家公務員としてのモラルが許さなかったのである。
だからといって、このまま家族を年間積算線量が50ミリシーベルトを超える地域に住まわせておくことには、正直、恐怖を感じていた。妻はともかく、子供はまだ小学生なのだ。
子供は大人に比べて細胞分裂が活発で新陳代謝が激しいので、放射線の影響を受けやすい。小児白血病とか甲状腺がんになってしまっては、取り返しがつかない。
新崎原発からバラ撒かれたストロンチウム90は、カルシウムと組成が似ていて、骨に吸収されやすく、半減期が29年と長いため、骨や血液のがんが引き起こされる。肺がんや膀胱がんも統計的に有意に増加する。
※続き「第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/3(火)22:00に投稿予定です。
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