分娩台はクッションが効いており両側にハンドルもついていて、ここで仰向けになりつつハンドルを握って陣痛に耐えるのが一番楽でした。いきんで下さいね、と助産師さんに言われたのですが、私はいきむということがわかっておらず、陣痛の度にウンウン言っていただけでした。助産師さんが診察にやって来て「陣痛室の方がいきみやすいですか?戻りましょうか?」と言ってくれたのですが「ここが一番楽です」と言って分娩台の上にいました(胎児の頭が全然降りてこないのを、いきみが足りないからだと助産師さんが考えてそう言ってくれたのだと思います)。
暫くしてベテラン風の先生がやってきて、助産師さんに「全開大は何時?」と聞きながら時計を見上げました。16時半になっていました。内診して「回旋異常はないみたいだね。恥骨に引っかかって降りてこないんだろう。恥骨をうまく外すようにして誘導してやれば出てくるよ」と助産師さんに言い、息子の頭のあたりを触りながら、「こっちにむかっていきんで下さい」と私に言いました。この時はじめていきむということがわかりました。ウンチを出す時のように力を入れるべきだったのですね...。何度かいきみました。先生たちの会話が聞こえてきました。
「すぐそこに見えるけど、それは産瘤だね。まだ頭は高いね」
「あまり進まないね」
「大横径はどれ位だった?」
「過強陣痛です」
「lateが出ています」
「またlateが出ています。今度は長いです」
「小児科の先生も呼んで。吸引器準備できてる?」
「ガウン着るから」
この頃はもういきむのも辛くなってきて、早く終わってくれることを願うばかりでした。胎児の状態もあまり良くなさげな雰囲気で、私の気分も沈んでいきました。
「吸引するので、切開しますね」
と言われ、会陰部に麻酔の針が刺さる感覚とパツン、とハサミが入る感覚がしましたが痛みは感じませんでした。会陰部をめくるようにして息子の頭にカップをパチパチ嵌めている感覚がしました。次の陣痛が来たときに「はい、いきんで、その調子」と言われながらいきむと、カップに引っ張られながらスーッとコルク栓を抜くように息子の頭が出てきて、急に楽になりました。引っ張られるというよりは、いきむのを助けてもらうような感じでした。
「肩甲骨が引っかかっている。McRoberts!」
と言われ、一斉に他の先生や助産師さんが私の太ももをお腹につけるように曲げました。「もう一回いきんで」といわれ陣痛に合わせて最後の力を振り絞っていきむと、息子の肩が出てきたのが見え、今度はスッキリ楽になりました。続いてニュルニュルと胴体、足が出てきました。臍の緒を切った後、息子は布にくるまれて私の背後の方に連れて行かれ、暫くして息子の泣き声が聞こえました。
助産師さんがずるずると胎盤を引き出してくれました。何かが出ていく感覚はわかるのですが痛みはありませんでした。その後、傷を先生が縫ってくれました。奥の方は麻酔が効かないから少し痛いですよ、と言われました。確かに針を刺している感覚がありましたが、先ほどの痛みに比べると何でもありませんでした。外陰部を縫われているときは麻酔のおかげで殆ど痛みがありませんでした。傷が深いと先生が会話しているのが聞こえました。
「あそこだったから引けたけど、もう少し頭が高かったらダブルセットアップだったね」
「昔だったら母児ともに多分助からなかったケースだね」
と吸引してくれたベテラン風の先生が他の若い先生に話しているのが聞こえました。
最後にベテラン風の先生が
「お母さんも赤ちゃんも最後ちょっと疲れていたので吸引器で助けましたが、赤ちゃんは元気ですよ」と説明してくれました。