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新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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奇怪な消費増税時の負担軽減案

2015年09月06日 | 経済

 

 

突然、浮上は財務省の裏技か

2015年9月6日

 

 新聞記事の解釈で、こんなに首をひねることはめったにありません。2017年4月に予定されている消費税10%への引き上げ時の負担軽減策をめぐり、裏で何がおきているのだろうと、思わず考え込みました。


 これから自公両党の税制協議が始まろうとする矢先に、読売新聞が4日夕刊で、財務省案を報道したのです。新聞社のスクープか、財務省側のリークかは分りません。記事には「酒類を除く飲食料品を軽減対象とし、各家庭に2%の引き上げ分を(上限にして)、後で給付(還付)する」、「所得に応じて給付額は変動する(低所得層は厚く、恐らく中高所得層は薄いか対象外にする)」、「16年1月から導入されるマイナンバー・カードを活用する」などです。


給付型負担軽減は学者の多数が支持


 実は、この給付型の負担軽減策は、まともな経済学者ならまず支持する正攻法です。軽減税率は所得の多少に無関係に適用されるので、「消費の多い金持ちは軽減される金額が多く、消費が少ない低所得層ほど恩恵は少ない」のです。軽減税率は「新たな不公平、不公正を生む」という批判は経済倫理的にいうと正しいのです。


 軽減税率は、対象品目、除外する品目の線引きが難しく、利害関係も表面化し、収拾は容易ではありません。来年夏の参院選を前に、業界側を敵に回したくない。「線引き困難」を口実に、軽減税率を見送る。曲者の多い官僚はその程度の知恵はいくらでも働かせます。


 軽減税率を導入すると、「酒類を除く全ての飲食料品を対象にした場合、1%につき6600億円の税収減となる」と、試算されています。財政の台所事情が厳しいおり、「低所得層なら、年間何万円かになる給付金(還付金)型を検討しよう」、「金持ちははずす」という案もかねてからありました。すでに部分的には、8%の現在でも実施されています。今回の案は決して不思議ではありません。


麻生氏がまた軽率な言動


 奇怪だと思うのは、海外出張中の麻生財務相の言動です。外遊先で「複数税率(軽減税率)を入れることは面倒くさい」と述べました。せめて「煩雑で事業者の負担が増える」というべきでしょう。財政の基幹である消費税を「面倒か、否か」で判断されたらたまったものではありません。軽率です。そもそもこんなに重要な問題を、財務相が国内でまず発言するのではなく、外遊先でちょっと一言、では消費者が泣けてきます。


 消費者はマイナンバー・カードを支払い時に提示するようになる、と記事は書いています。毎日、何回も買い物するたびに、カードを読み取り機にかざすのでしょうか。持ち歩きする消費者は面倒だし、大切なカードを紛失したり、情報を盗まれたりしたらどうするのでしょうか。この点は安易で危険な方法だと思います。


新聞はずしも狙ったか


 報道された原案は、財務省にとって、理想に近いのかもしれません。マイナンバー制も、普及させられます。飲食料品に絞れば、新聞・出版物をはずすことができます。安倍政権は、激しい政治批判を繰り返す新聞、雑誌を対象外にしたくてしょうがないのです。官邸側と財務省の利害は一致します。「社会経済的公正のため」と、いわれれば、政治力の強い新聞界も引き下がるしかないかもしれません。


 さらに不思議なのは、大々的に報道した新聞社が財務省案は気に入らないようですね。「給付制にはバラマキの懸念がある」、「国民の側に煩雑さを強いる」、「軽減税率の導入を選挙公約にした公明党との与党合意に反する」と批判しています。6日の朝刊では、社会保障論の教授とのインタビューも掲載し、「軽減税率は不可欠」との主張を紹介しています。


 批判に回るであろうメディアに、特ダネのような報道をさせ、黙らせるという裏技はよく使われます。今回もそうであるのかどうか。新聞側は「軽減税率はずし」が本当なら、当然、怒っているでしょうね。財務省も相当なクセ球を使ったものです。


 

 



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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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お邪魔致します (kuri)
2015-09-06 18:49:28
いつも拝読させて頂き、新聞からは読み解けない多くの知識を学ばせて頂いております。

軽減税率。
低所得者層に手厚く?
確かに大切なポイントでしょうが、汗水垂らして働き やっとの事で中間所得層に食い込んでいるような世帯は またまた、そこだけ!手厚く!税負担かよ?と…
憤りすら覚えております。
いろんな事情で低所得者にというケースもあるでしょうが、 不公平です。
助けたいなんて思わないけど!
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