新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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軽減税の大問題は生鮮食品と加工食品の違い

2015年06月16日 | 経済

  財務省の作戦に乗るな

                        2015年6月 17日

 

 生活必需品の消費税を低くする軽減税率の導入で、具体案作りが難航しています。適用する生鮮食品の線引きが簡単でないようで、秋までに結論を出せるのか、心配になってきました。どうも減収額をできるだけ小さくしたい財務省による引き延ばしの作戦にはまっているような感じがあります。


 出版物(新聞、書籍、雑誌などの著作物)への軽減税率の適用は関係業界が要望を繰り返すばかりで、与党協議では議論が始まっていません。特に自民党には、安全保障、戦後問題に対する新聞論調に相当な不満があります。ぎりぎりまで態度をはっきりさせず、新聞界を焦らせ、圧力をかけ続ける腹つもりでしょう。なかなかの策士がいますね。


 軽減税率は自民、公明党が「2017年4月の消費税10%引き上げ時に導入する」ことで合意し、選挙公約にしましたから、もう全面見送りというわけにはいきません。常識的には、減収額を抑えるため、コメを含む生鮮食品(消費税1%につき3400億円の減収)に絞って導入し、加工食品や飲料は除外する方向でしょう。


 今頃になって問題を提起


 与党協議を伝える新聞記事を読んでいましたら、生鮮食品と加工食品の区分が簡単でなく、検討委員会の委員長が「線引きの妙案が財務省からまだでていない」というのです。「なるほどそんな微妙な問題があったのか」と思う一方、「財務省はそんなことは前から知っていたはず。なぜ今頃になって」という疑問が沸いてきました。


 具体例としては、「マグロの刺身は生鮮食品、複数の刺身を組み合わせると加工食品の扱い」、「レタスは生鮮食品、袋詰めのカットサラダは加工食品」、「牛ひき肉は生鮮食品、合びき肉は加工食品」だそうです。食品表示法では確かにそうなっており、加工食品に分類されると、軽減税率の対象外となりそうなので、「ばかばかしいルールだ」と、笑ってすまされません。


 「そんなこと知らなかったなあ」という例はまだあり、「低所得層ほど冷凍食品、スーパーの総菜を買っている」そうです。生鮮食品を買って調理するより割安だからでしょう。実質的には生鮮食品でしょうね。これらが加工食品の扱いになると、本来は低所得層対策であるはずの軽減税率の趣旨に背きますね。今頃になって財務省がそんな話を持ち出すのは、作為を感じます。「ああでもない、こうでもない」と議論が混乱し、関係業界の利害関係が対立し、時間切れに持ち込む作戦と見えないこともないのです。


 安倍政権が公約通りに2017年4月に消費税を10%にするには、一年半の周知期間が必要です。逆算すると、今年の年末ごろには具体案を作っておかねばなりません。まだ先のことと、のんびりしてはいられないのです。


 消費期限、賞味期限、無表示が混在


 スーパーの売り場をのぞいてみますと、消費期限(食べてよい期限)の表示がない食品(むき出しの野菜、果物、魚など生もの)、消費期限が明記されている食品(刺身の盛り合わせ、肉類、カット野菜など。実際は生もの)、賞味期限という別の表示がされている食品(保存がきくソーセージ、缶詰など)とさまざまです。保存がきく加工食品を軽減税率の対象外にしても、「加工」とは名ばかりで、実際は生鮮食品と同然の食品を対象外にすることには抵抗があるでしょう。


 これから官僚が知恵を絞るだろうにせよ、パック入りでも、消費期限が4、5日とか一週間程度のものは生鮮食品の扱いにしたらどうででょうか。さらにコメを対象に入れるなら、パン(加工食品)も含めないとおかしいですね。ある程度の不公平が生じても、あまり細かな議論にこだわらないことです。財務省の手の内の乗らないようにし、本来の目的を果たてしていけばいいのです。


 ポジリスト、ネガリスト方式は


 「ポジリスト、ネガリスト」といって、乱用、悪用されない範囲(ネガリスト)は示すというやり方もありますね。対象と認める食品を際限なく、延々と列挙(ポジリスト)するのは、徒労です。認めない範囲、品目だけの明示にとどめるのです。


 生鮮食品をめぐってさえこうなのですから、出版物の軽減税率適用では、さらに議論が沸騰することでしょうね。「ひどい新聞論調が目に余る」、「日刊新聞はともかく、スポーツ紙、夕刊専門紙はどうなのか。民主主義とか文化水準の維持とは無縁」、「書籍はともかく、政治家のスキャンダルを売り物にする週刊誌はどうなのか」。こちらのほうがもめそうですね。真面目な議論をお願いしたく、活字文化論の政治利用はご免です。



 



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