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皇后のピアノ演奏とカタツムリの悩み

2019年05月01日 | 文化

  童話で心が昇華される

            2019年5月1日 

 天皇陛下が30日、退位されて上皇に、皇后さまも上皇后なられました。皇后さまとは、身近な距離でお話する機会がたまたまあり、「でんでん虫(カタツムリ)の悲しみ」というタイトルの児童文学を話題にしました。そのことを5年前ブログに書いたところ、今も読んで下さる方をお見掛けします。


 カタツムリが自分の背中の殻には、重荷や悲しみがいっぱい詰まっていると、仲間に訴えました。仲間は言いました。「それはあなただけではない。自分もそうだ」と。それ以来、カタツムリは「自分だけが特殊ではないのだ」と悟り、重荷や悲しみに耐えていけるようになったという主旨です。


 大きな国際会議でのスピーチでのお話です。皇后はご自分の心境をカタツムリの話に重ね合わせたのではないかと、私は想像しました。公の仕事から身を引かれるのを機会に、このブログを再録しました。

  (以下、再録する本文です)

 

 13年9月29日、天皇、皇后両陛下が群馬県草津町で開かれた「国際音楽アカデミー・フェスティバル(音楽祭)」でコンサートを鑑賞されたという記事が掲載されました。幼い子供の手の平くらいの大きさの、小さな記事でした。皇后陛下がピアノを弾く姿を撮ったマッチ箱ほどの写真もそえてありました。コンサートに先立ち、ピアノレッスンを受けられる公開講習会にも参加し、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」をピアノで演奏された時の写真です。

 

 記事の後段の、聴衆の前で「ピアノ演奏をされた」というくだりが、わたしにとって印象深く、記事を切り抜いておきました。それからしばらくして、ボランティアで日独青年交流の活動をしている知人からメールをもらいました。「ドイツからきた青年オーケストラのグループが来日して、日本の青年男女たちと音楽交流をしました。ある日、ドイツ大使公邸での行事に、皇后陛下が参加され、ピアニストとしてオーケストラとの共演を楽しまれた」というのです。

 

 日独音楽交流の話を聞いて、インターネットの検索で、草津の音楽祭での演奏を動画で拝見しました。魂を込めるようにピアノを弾いている姿、指使いの様子からすると、演奏のレベルは相当、高いように見受けられました。わたしはピアノ演奏が趣味です。こちらは人前でとてもお聞かせできるレベルではありません。それでも、ピアノを演奏する姿から、その人の音楽のレベルがある程度、想像がつきます。

 

 ラフマニノフ(1873-1943年)はロシア人で、作曲家でもあり、ピアニストでもありました。1941年のインタビューで「作曲においては、自分の心の中にあるものを、簡潔にそして直截に語る」といったそうです。「ヴォカリーズ」は14曲からなる歌曲集です。歌曲から発展し、管弦楽曲、ピアノ曲、ヴァイオリン曲にも編曲されました。甘美な曲の中に、悲しみに近い叙情が浮かんでくる作品に、ラフマニノフの特色があります。


お気持ちに通じるものがあった

 

 皇后が選んだ曲は、憂愁に満ちています。この世の重荷、悲しみ、哀れみが洗い流されて、人の心が天に昇り、昇華される。そんな印象をわたしは受けました。皇后陛下の日ごろのお気持ちに通じるものがあると、思いました。

 

 わたしは皇后陛下に直接、お目にかかったことがあります。系列の出版社に出向していたとき、ある著者の出版記念パーティがあり、その著者との個人的な関係から、皇后も私的に顔を出されたのです。一人一人と挨拶を交わされ、わたしの前にこられました。わたしは主催者側で、お礼を述べた後、私の記憶に鮮明に残っているお話をしました。

 

 「ニューデリーで開催された国際児童図書評議会の大会で、児童文学について基調講演をされましたね。記事で読みました。お心のこもったお話でした」と、申しあげると、うれしそうな表情をされ、「まあ、読んでいてくださっていたのですか」というお返事です。

 

 一面の半分を使った大きな、夕刊特集の記事で、実をいうと、掲載したのはライバル紙でした。当時の編集局長から、ずっと後に「あまりにもいい講演なので、自分が直接指示して、書かせた」という話を聞きました。講演内容は、ネット検索で今でも読めます。


児童図書評議会でのスピーチ

 

 基調講演のタイトルは「子供の本を通しての平和」でした。幼いとき、疎開したときを含め、読書遍歴を題名をあげながら語られました。そのひとつが「でんでん虫のかなしみ」でした。「ある時、でんでん虫(かたつむり)は自分の背中の殻に悲しみがいっぱい、詰まっていることに気づき、仲間に訴えます。他のでんでん虫はいいます。それはあなただけでないよ。わたしも同じだ。でんでん虫は、自分だけが悩んでいるのではないと悟ります。

 

 それ以後、わたしはわたしの悲しみをこらえていかなければならない、と思うようになった」といった主旨です。皇后は公の席でこう話されたのです。皇后は幼少のころから児童文学がお好きでした。皇室に入られ、様々なご苦労や重荷、耐え難い悩みがおありだったと思います。

 

 ここからは想像です。でんでん虫の背中の殻に詰まった悩み、悲しみをご自分の心境と重ね合わせたのだろうと。皇室に入られてからの30年、皇后さまだからこそ、様々なご苦労に耐えてこられたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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