新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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ユネスコ世界遺産は初心に帰れ

2015年06月05日 | 文化

 観光目的と違う、登録厳選を

                         2015年6月5日

 

 ユネスコの世界遺産登録で日本が対象になると、地元自治体、観光業界は大喜びし、テレビ、新聞も大騒ぎする様子がおなじみになっています。趣旨が誤解されていますね。ユネスコにせよ、料理のミシュランにせよ、国際的なお墨付きを欲しがる精神的依存症から卒業したいですね。

 

 「明治日本の産業革命遺産」が登録候補になり、7月の委員会にかかります。首相の地元の山口や九州ほかの各地に残る製鉄、鉄鋼、造船、石炭産業関連が対象です。これに韓国が「対象遺産では非人道的な強制労働が行われた。日本はその歴史を無視したまま登録しようとしている」と、横やりを入れてきました。慰安婦、靖国と同列の日韓問題に飛び火しました。

 

 「なにもそこまで歴史問題を巻き込むことはないだろう」というのが、多くに日本人の感想でしょう。これを韓国からみると、、とくに朴大統領は反日政策を政権の柱にしていますから、日本に食いついて離れません。この国はとにかくしつこいですね。いい加減にしなさいよ。これが影響したのか、委員会21票のうち登録に必要な14票にまだ達していないという微妙な状況のようです。

 

 安倍官邸の逆転登録も裏目

 

 安倍政権にとって重大事です。韓国の横やりに屈するわけにいかない。さらに官邸のそれこそ横やりで、すでに登録候補にあがっていた「長崎の教会群」を押しのけてユネスコに持ち込んだらしいのです。「産業革命遺産」が登録見送りともなれば、首相の立つ瀬がなくなります。だれが官邸に入れ知恵をして、逆転させたたのか。政治主導の失敗ともなれば、また問題が大きくなります。とにかく日本は「世界遺産」というと、大ニュースの扱いですから。

 

 わたしは、そんなドタバタ劇より、ユネスコの世界遺産登録がすでに1000を数え、「いくらなんでも多すぎはしないか」に関心があります。ヴェルサイユ宮殿(仏)、自由の女神像(米)、万里の長城(中)などは、世界遺産にする十分な価値があります。人類の歴史や文化の歩みをまさに刻印しています。このままのペースが続くと、いずれ1500とか2000に届くかもしれません。

 

 登録の乱発を懸念します

 

 日本の場合、登録数は18で、京都・奈良の文化財、広島の平和記念碑(原爆ドーム)はそれに値する価値があっても、石見銀山、富岡製糸場あたりになるとどうでしょうか。日本人は国際的なレッテル貼りに弱いうえ、さらに世界遺産を観光資源と勘違いをしているようですね。日本では、「観光資源の国際的な格付け」の意味で、歓迎されているのです。

 

 本来は「武力紛争、自然災害、都市開発、観光開発によって、危機にさらされている危機遺産を救う」のが目的だったはずです。エジプトのアスワンダム建設でヌビア遺跡を水没から守る運動を米国が先頭に立って始めたのが、世界遺産思想の始まりだそうです。つまらぬ遺産を次々に指定、登録するのは、そろそろやめにしたらどうでしょうか。

 

 英国で始まった産業革命遺産の保護、保存は価値があります。それに対し、日本なりの産業革命遺産は、なにもユネスコのお墨付きもらう必要はなく、日本独自に保護、保存すればいいのです。石見銀山、富岡製糸場のときもそう思いましたね。ユネスコもだらだら続けるではなく、保存、保護の現状を総点検したらどうですか。「本来の教育・科学・文化機関のユネスコというより、世界遺産で知名度を上げているユネスコ」などといわれるのは恥でしょう。

 

 戦争、災害による破壊こそ心配

 

 ネパール地震で世界遺産が崩壊し、イスラム国の暴挙で中東の世界遺産が破壊され、これらをどうするかのほうが大切な問題です。修復に資金がかかるようでしょうから、今後、どう調達するか。そうしたことが必要なのは、ネパール地震やイスラム国紛争に限らないはずです。

 

 

 

 



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