「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)5月4日(火曜日)
通巻第6895号 <前日発行>
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わが外務省の『外交青書』に「台湾は極めて重要なパートナー」
中国は「アメリカに巻き込まれるな」と批判
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日米首脳会談で尖閣有事の際に「日米安保条約第五条が適用される」とバイデン大統領は声明した。すっかり日本は安心しているが、はたしてそれで良いのか。
基本的には日本が自律的に防衛し、あとから米国が救援に駆けつけるかも知れないと述べたに過ぎないのだから。
21年度『外交青書』は、「中国による現状変更の動きと強く懸念する」とし、「尖閣周辺の中国海警鑑船の活動は国際法違反」と明記した。同時にパンダハガーの多い外交省作成の『外交青書』は「台湾は極めて重要なパートナー」と定義しなおしたのは、画期的である。
というのも2012年までは「台湾は重要な地域」と書いていた。13年に安倍晋三政権が誕生し「重要なパートナー」に昇格、15年からは「基本的価値を共有する」『大切な友人』という表現だったが、2021年度版からは「極めて重要なパートナー」とランクが飛躍した。
尖閣諸島の不安定な状況をさらに複雑化させたのは、中国が2021年2月に突如、施行した「海警法」である。
中央軍事員会傘下の中国海警局に法執行と国防の両方の任務を課し、武器使用権限を与えた。これで海警は実質的な第二軍であることが分かった。普通の国の沿岸警備隊が軍隊を兼ねるというわけだ。
「管轄海域」では他国の民間船舶や漁船の航行に制約を加えるばかりか、強制排除・拿捕ができる内容で、そのうえ公船に対しても武器の使用が可能としている。
中国海警の艦船は執拗に尖閣諸島領海内に侵入を続けている。毎日毎日、日本が根負けするくらいのしつこさを発揮するのも、中国が日本側の対応能力を調べ上げ、いざの戦争に備えているからだ。
この中国海警法は単に尖閣周辺だけでなく、台湾海峡から南シナ海、そして全球的な法体系に基づいたものだ。しかも、その前に中国は「国防法」を改正している。宇宙空間からサイバー空間まで、安全保障にかかわる領域における軍事行動、そのために必要な措置を取る法体系の確立である。
すなわち、中国において、海警法と国防法はセットである。
▲中国は究極の戦争を想定して行動しているのだ
目的は中国海軍が「第一列島線」の内側を優位な状態で固定し、「領域阻止」という戦略を全うする。畢竟、中国本土に外国軍を接近させないようにする軍略にある。
そのうえで「核心的利益」である台湾侵略のために有利な状況を造りだし、同時に尖閣諸島海域の海底に埋蔵が豊富といわれるレアメタルの産出も近未来の目標である。
また近代的な軍事基地となった海南島や中国本土内陸部に配備している中長距離ミサイル・航空基地を米軍のミサイルや空母などの艦艇から発射される対地ミサイルの防衛にも力をいれている。中国海軍の巡航ミサイル(空母キラー)装備により、米軍は戦略爆撃機をグアムから本土に後退させている。
空母、強襲揚陸艦、潜水艦の充足も加速しており、軍事訓練の頻度も上がった。
中国は尖閣を台湾侵攻の戦略手段の前段と位置づけているため、日本は尖閣諸島の有効支配を確実にする政策が急がれる。
また「管轄海域」での秩序壊乱的な軍事行動は、国際法違反になるが、武器の使用については、現状でも、海上保安庁の船もできるのである。現在は日本の海保巡視船が、侵入してくる海警船との間に入って日本の漁船の安全を守る措置を取っている。
保守系、民族派団体が漁船をチャーターして尖閣諸島海域へ入ろうとしても、それを阻止するのが、いまの海上保安庁である。あべこべだろう。
もし中国海警が日本の巡視船に銃撃をしかけきたら、警職法第7条に基づき武器使用ができる。そのうえで、海上保安庁では対応難となった場合、自衛隊が海上警備行動を行う。
海上保安庁25条は、「軍隊として組織され、訓練され、又は、軍隊の機能を営むこと認めない」としている。この25条を削除すべきだろう。
そもそも巡視船の大型化や装備の拡充は喫緊を要する。中国海警の大型艦は1000トン以上が130隻以上。対して日本側は六十数隻。
日米安保条約5条には、「各締約国は日本の施政の下にある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃」の際に、共通の危険に対処するよう行動すると書いてある。武力攻撃と認定されないと安保条約第5条の発動にはならない。
例えば中国軍人が漁民に扮し、武器を携行して尖閣に上陸しようとしたり、弾を撃ってきたりというのを武力攻撃といえるのか、どうか。武力攻撃とはっきり説明できなければ、国連安保理で武力攻撃とは認定されない。ゆえに日米安保条約5条の発令要件を満たさない。
もし武力攻撃が認定されても、中国は安保理の常任国で拒否権がある。
米軍は尖閣周辺で物資の補給線確保を想定して物資投下訓練を実施、離島では日米合同で島嶼奪回作戦の訓練が行なわれた。五月11日からは九州の自衛隊基地で、米軍とフランス軍が加わり、離党防衛訓練が行われる。これはフランス海軍の練習艦隊「ジャンヌダルク」の日本寄港にタイミングを合わせ、日米仏共同で水陸両用策縁、陸上戦争訓令を行う。英海軍空母クインエリザベスとフリゲート鑑の寄港も予定されている。
中国は「日本は台湾問題に近付くな。関われば代償が大きいぞ」と恐喝的文言を環球時報の社説に掲げた(4月19日)。「日本は米国に引きづられている」と日米の離間を画策するのはいつもの台詞である。
しかしながらハイブリッド戦争の時代である。中国が明確に武力攻撃となるようなやり方をとらないだろう。
自衛隊は沖縄本島だけでなく奄美大島、与那国島、石垣島、宮古島などの南西諸島方面に陸海空でざっと1万人ぐらいの防衛力を展開しつつある。
日米間でもいざという事態に備えて、陸上自衛隊と米国の第3海兵師団、航空自衛隊と米空軍、海上自衛隊と第7艦隊の間で、例えば尖閣諸島を想定して離島を使って上陸訓練や統合訓練を行い即応できる態勢をとっている。
また東シナ海中心に周辺海域・空域は常時、警戒監視体制があり、海保と自衛隊の連携、日米の連携も整ってきた。だが、中国の軍拡のスピードに追いつけない状態にあると言える。
令和三年(2021)5月4日(火曜日)
通巻第6895号 <前日発行>
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わが外務省の『外交青書』に「台湾は極めて重要なパートナー」
中国は「アメリカに巻き込まれるな」と批判
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日米首脳会談で尖閣有事の際に「日米安保条約第五条が適用される」とバイデン大統領は声明した。すっかり日本は安心しているが、はたしてそれで良いのか。
基本的には日本が自律的に防衛し、あとから米国が救援に駆けつけるかも知れないと述べたに過ぎないのだから。
21年度『外交青書』は、「中国による現状変更の動きと強く懸念する」とし、「尖閣周辺の中国海警鑑船の活動は国際法違反」と明記した。同時にパンダハガーの多い外交省作成の『外交青書』は「台湾は極めて重要なパートナー」と定義しなおしたのは、画期的である。
というのも2012年までは「台湾は重要な地域」と書いていた。13年に安倍晋三政権が誕生し「重要なパートナー」に昇格、15年からは「基本的価値を共有する」『大切な友人』という表現だったが、2021年度版からは「極めて重要なパートナー」とランクが飛躍した。
尖閣諸島の不安定な状況をさらに複雑化させたのは、中国が2021年2月に突如、施行した「海警法」である。
中央軍事員会傘下の中国海警局に法執行と国防の両方の任務を課し、武器使用権限を与えた。これで海警は実質的な第二軍であることが分かった。普通の国の沿岸警備隊が軍隊を兼ねるというわけだ。
「管轄海域」では他国の民間船舶や漁船の航行に制約を加えるばかりか、強制排除・拿捕ができる内容で、そのうえ公船に対しても武器の使用が可能としている。
中国海警の艦船は執拗に尖閣諸島領海内に侵入を続けている。毎日毎日、日本が根負けするくらいのしつこさを発揮するのも、中国が日本側の対応能力を調べ上げ、いざの戦争に備えているからだ。
この中国海警法は単に尖閣周辺だけでなく、台湾海峡から南シナ海、そして全球的な法体系に基づいたものだ。しかも、その前に中国は「国防法」を改正している。宇宙空間からサイバー空間まで、安全保障にかかわる領域における軍事行動、そのために必要な措置を取る法体系の確立である。
すなわち、中国において、海警法と国防法はセットである。
▲中国は究極の戦争を想定して行動しているのだ
目的は中国海軍が「第一列島線」の内側を優位な状態で固定し、「領域阻止」という戦略を全うする。畢竟、中国本土に外国軍を接近させないようにする軍略にある。
そのうえで「核心的利益」である台湾侵略のために有利な状況を造りだし、同時に尖閣諸島海域の海底に埋蔵が豊富といわれるレアメタルの産出も近未来の目標である。
また近代的な軍事基地となった海南島や中国本土内陸部に配備している中長距離ミサイル・航空基地を米軍のミサイルや空母などの艦艇から発射される対地ミサイルの防衛にも力をいれている。中国海軍の巡航ミサイル(空母キラー)装備により、米軍は戦略爆撃機をグアムから本土に後退させている。
空母、強襲揚陸艦、潜水艦の充足も加速しており、軍事訓練の頻度も上がった。
中国は尖閣を台湾侵攻の戦略手段の前段と位置づけているため、日本は尖閣諸島の有効支配を確実にする政策が急がれる。
また「管轄海域」での秩序壊乱的な軍事行動は、国際法違反になるが、武器の使用については、現状でも、海上保安庁の船もできるのである。現在は日本の海保巡視船が、侵入してくる海警船との間に入って日本の漁船の安全を守る措置を取っている。
保守系、民族派団体が漁船をチャーターして尖閣諸島海域へ入ろうとしても、それを阻止するのが、いまの海上保安庁である。あべこべだろう。
もし中国海警が日本の巡視船に銃撃をしかけきたら、警職法第7条に基づき武器使用ができる。そのうえで、海上保安庁では対応難となった場合、自衛隊が海上警備行動を行う。
海上保安庁25条は、「軍隊として組織され、訓練され、又は、軍隊の機能を営むこと認めない」としている。この25条を削除すべきだろう。
そもそも巡視船の大型化や装備の拡充は喫緊を要する。中国海警の大型艦は1000トン以上が130隻以上。対して日本側は六十数隻。
日米安保条約5条には、「各締約国は日本の施政の下にある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃」の際に、共通の危険に対処するよう行動すると書いてある。武力攻撃と認定されないと安保条約第5条の発動にはならない。
例えば中国軍人が漁民に扮し、武器を携行して尖閣に上陸しようとしたり、弾を撃ってきたりというのを武力攻撃といえるのか、どうか。武力攻撃とはっきり説明できなければ、国連安保理で武力攻撃とは認定されない。ゆえに日米安保条約5条の発令要件を満たさない。
もし武力攻撃が認定されても、中国は安保理の常任国で拒否権がある。
米軍は尖閣周辺で物資の補給線確保を想定して物資投下訓練を実施、離島では日米合同で島嶼奪回作戦の訓練が行なわれた。五月11日からは九州の自衛隊基地で、米軍とフランス軍が加わり、離党防衛訓練が行われる。これはフランス海軍の練習艦隊「ジャンヌダルク」の日本寄港にタイミングを合わせ、日米仏共同で水陸両用策縁、陸上戦争訓令を行う。英海軍空母クインエリザベスとフリゲート鑑の寄港も予定されている。
中国は「日本は台湾問題に近付くな。関われば代償が大きいぞ」と恐喝的文言を環球時報の社説に掲げた(4月19日)。「日本は米国に引きづられている」と日米の離間を画策するのはいつもの台詞である。
しかしながらハイブリッド戦争の時代である。中国が明確に武力攻撃となるようなやり方をとらないだろう。
自衛隊は沖縄本島だけでなく奄美大島、与那国島、石垣島、宮古島などの南西諸島方面に陸海空でざっと1万人ぐらいの防衛力を展開しつつある。
日米間でもいざという事態に備えて、陸上自衛隊と米国の第3海兵師団、航空自衛隊と米空軍、海上自衛隊と第7艦隊の間で、例えば尖閣諸島を想定して離島を使って上陸訓練や統合訓練を行い即応できる態勢をとっている。
また東シナ海中心に周辺海域・空域は常時、警戒監視体制があり、海保と自衛隊の連携、日米の連携も整ってきた。だが、中国の軍拡のスピードに追いつけない状態にあると言える。
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