「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和2年(2020)11月23日(月曜日、新嘗祭)
通巻第6709号
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ロシアの「G8復帰」になぜ民主党は反対なのか?
プーチンを意固地に追い込んで、中国包囲網にロシアを梃子とは出来なかった
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ロシアに対して、欧州は警戒を緩めない一方で、ドイツはロシアからガスを輸入し、さらにバルト海の海底パイプラインも第二期プロジェクトが進捗している。
ポーランドやバルト三国、フィンランドがロシアの軍事力を警戒するのは過去の歴史を振り返れば極く当然であり、スカンジナビア諸国も、ロシア警戒の防衛態勢の再構築には積極的になる。
NATOの軍事力は「ロシアシフト」され、さらにリトアニアとポーランドには米軍が展開している。ブルガリア、ルーマニアはNATOにすぐさま加盟し、対ロシアミサイル網の前線基地となった。旧ソ連圏の中の旧東欧諸国はことごとくが親欧米に向きを変えた。もっとも「神聖ローマ帝国」時代から東欧はソ連を受け入れる政治体制はなかった。
こうした情勢の変化を、ロシアから見ると、旧ソ連圏での影響力低下は屈辱的な外交的後退である。クレムリンの嘆きは手に取るように分かる。
冷戦が終結しソ連が崩壊した後、真っ先にバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が独立した。カフカスの三ヶ国(グルジア=現在のジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン)、そして中央アジア五ヶ国(カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギス)も独立し、傀儡政権と言われたウランバートルにも親西側の政権が産まれた。筆者はこれらの国々を何回にも分けてすべて訪問し、ルポをまとめた(拙著『日本が全体主義に陥る日』、ビジネス社)。
ロシアの影響力低下に便乗し、中国はタジキスタン、カザフスタン、トルキスタン、キルギスの大々的な投資を敢行し、ロシアの政治的位置を代替するかのように政治的影響力を拡げた。その手段は、SOC(上海協力機構)だった。
中国は謎の国トルクメニスタンにプロジェクトを持ちかけ、およそ6000キロ以上のガスパイプラインを敷設し、経由地のウズベキスタン、カザフスタンに「通過料」を支払い、しゃにむに上海まで繋げた。これにより旧ソ連中央アジア圏は、ロシアと中国のバランスをとる路線に修正し、さらにはキルギスでは親露派大統領が退陣、タジキスタンには中国人民解放軍が駐留している。
経済的困窮と政治的混乱に陥っていたロシアは、中国の跳梁を前に為す術もなく、逆に中国の金を当てに石油ガス、そして武器輸出で急場をしのいだ。だから内心で「:キタイ」に不快感を抱きながらも、中国とは戦略的パートナーだと言い張るのである。キタイはロシア圏で中国を意味する。
カフカスでもジョージアには親米派政権が誕生し、アゼルバイジャンへはロシアより、トルコの影響力が急増した。
ロシアはこれらの巻き返しのため、ガスパイプラインをトルコ経由に変更し、南欧への経済的影響力を強める一方で、米国が介入を躊躇ったシリア内戦に本格介入し、軍事的拠点を維持する。
ロシアはシリア介入で敵対していたトルコと急接近し、S400ミサイル防衛網を売り込み、配備させて米国を苛立たせた。トルコはNATOの一員だから、このトルコにロシア傾斜は西側にとっては重大問題である。
ロシアにとって「兄弟国」は、ウクライナ、ベラル-シである。スラブ民族として血の紐帯がある。
ところがオバマ政権時代に米国はウクライナ民主化に露骨に介入し、そのため内戦となってウクライナの東側はロシア軍(民間武装組織を名乗っているが)が抑えた。ウクライナの西側は親欧米派で、分裂状態となった。
▼民主党の価値観外交を看板の旧ソ連介入、ウクライナで失敗
米国のウクライナ介入は失敗だったと言える。
ヒラリーが長官時代の国務省が裏側で支援した。バイデン親子の「ウクライナ・スキャンダル」は、この過程で発生しており、バイデンは明確にロシアを敵視している。バイデン政権の外交を司る国務省は反露派の牙城と化けそうである。
ベラルーシは欧米が非難してやまないルカシェンコ独裁が続くが、ロシアが内側から静かに支援し、不正選挙に抗議する反政府運動を抑え込んだ。ロシアがベラルーシに気を取られている内にモルドバは親欧米派の大統領(サンドゥ女史)が大勝した。モルドバには国内国として沿ドニエストル自治区があって、ロシアはこの自治区を抑え、モルドバ政治を裏側から操ってきた。
2014年三月に米国は露西亜をG8から排除した。プーチンは意気消沈したかに見えたが、米国との間にSTART(戦略的核兵器削減交渉)の更新をひかえており、2018年6月にトランプは、露西亜の8Gを提唱した。
トランプの狙いは明らかです。ロシアを中国包囲網に巻き込む、あるいは対中敵視政策ではロシアを反対に回らせないことである。バイデンは、この基本をひっくり返そうとしており、ロシアへの敵対をつづけると、プーチンはますます意固地になって中国との「同盟関係」を深めさせるだろう。戦略的見地から言えば、たいそう危険なのである。
G8への復帰をトランプが提唱しても、欧州の反応はつめたく、米国でも本格議論とはならなかった。オバマ前政権が掲げていたのは「価値観外交」であり、ロシアは反発した。『価値観』などと意味不明、ロシア正教から見れば、欧米のキリスト教は聖典の解釈が異なる。
2019年8月、トランプはロシアとの間に締結していたINF(中距離核戦力全廃条約)の失効を迎え、廃棄した。むしろ中距離核戦力の再配備に移行する。これは対中国の軍事的脅威に対抗するためである。
こう見てくると民主党は中国に敵対するより、ロシア敵視が強く、バイデンは中国に対して(トランプの高関税報復のような)懲罰的政策は採らないと厳命している。したがってバイデン政権となると、外交戦略はロシア、中国へのアプローチが変わることになるだろう。
令和2年(2020)11月23日(月曜日、新嘗祭)
通巻第6709号
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ロシアの「G8復帰」になぜ民主党は反対なのか?
プーチンを意固地に追い込んで、中国包囲網にロシアを梃子とは出来なかった
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ロシアに対して、欧州は警戒を緩めない一方で、ドイツはロシアからガスを輸入し、さらにバルト海の海底パイプラインも第二期プロジェクトが進捗している。
ポーランドやバルト三国、フィンランドがロシアの軍事力を警戒するのは過去の歴史を振り返れば極く当然であり、スカンジナビア諸国も、ロシア警戒の防衛態勢の再構築には積極的になる。
NATOの軍事力は「ロシアシフト」され、さらにリトアニアとポーランドには米軍が展開している。ブルガリア、ルーマニアはNATOにすぐさま加盟し、対ロシアミサイル網の前線基地となった。旧ソ連圏の中の旧東欧諸国はことごとくが親欧米に向きを変えた。もっとも「神聖ローマ帝国」時代から東欧はソ連を受け入れる政治体制はなかった。
こうした情勢の変化を、ロシアから見ると、旧ソ連圏での影響力低下は屈辱的な外交的後退である。クレムリンの嘆きは手に取るように分かる。
冷戦が終結しソ連が崩壊した後、真っ先にバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が独立した。カフカスの三ヶ国(グルジア=現在のジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン)、そして中央アジア五ヶ国(カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギス)も独立し、傀儡政権と言われたウランバートルにも親西側の政権が産まれた。筆者はこれらの国々を何回にも分けてすべて訪問し、ルポをまとめた(拙著『日本が全体主義に陥る日』、ビジネス社)。
ロシアの影響力低下に便乗し、中国はタジキスタン、カザフスタン、トルキスタン、キルギスの大々的な投資を敢行し、ロシアの政治的位置を代替するかのように政治的影響力を拡げた。その手段は、SOC(上海協力機構)だった。
中国は謎の国トルクメニスタンにプロジェクトを持ちかけ、およそ6000キロ以上のガスパイプラインを敷設し、経由地のウズベキスタン、カザフスタンに「通過料」を支払い、しゃにむに上海まで繋げた。これにより旧ソ連中央アジア圏は、ロシアと中国のバランスをとる路線に修正し、さらにはキルギスでは親露派大統領が退陣、タジキスタンには中国人民解放軍が駐留している。
経済的困窮と政治的混乱に陥っていたロシアは、中国の跳梁を前に為す術もなく、逆に中国の金を当てに石油ガス、そして武器輸出で急場をしのいだ。だから内心で「:キタイ」に不快感を抱きながらも、中国とは戦略的パートナーだと言い張るのである。キタイはロシア圏で中国を意味する。
カフカスでもジョージアには親米派政権が誕生し、アゼルバイジャンへはロシアより、トルコの影響力が急増した。
ロシアはこれらの巻き返しのため、ガスパイプラインをトルコ経由に変更し、南欧への経済的影響力を強める一方で、米国が介入を躊躇ったシリア内戦に本格介入し、軍事的拠点を維持する。
ロシアはシリア介入で敵対していたトルコと急接近し、S400ミサイル防衛網を売り込み、配備させて米国を苛立たせた。トルコはNATOの一員だから、このトルコにロシア傾斜は西側にとっては重大問題である。
ロシアにとって「兄弟国」は、ウクライナ、ベラル-シである。スラブ民族として血の紐帯がある。
ところがオバマ政権時代に米国はウクライナ民主化に露骨に介入し、そのため内戦となってウクライナの東側はロシア軍(民間武装組織を名乗っているが)が抑えた。ウクライナの西側は親欧米派で、分裂状態となった。
▼民主党の価値観外交を看板の旧ソ連介入、ウクライナで失敗
米国のウクライナ介入は失敗だったと言える。
ヒラリーが長官時代の国務省が裏側で支援した。バイデン親子の「ウクライナ・スキャンダル」は、この過程で発生しており、バイデンは明確にロシアを敵視している。バイデン政権の外交を司る国務省は反露派の牙城と化けそうである。
ベラルーシは欧米が非難してやまないルカシェンコ独裁が続くが、ロシアが内側から静かに支援し、不正選挙に抗議する反政府運動を抑え込んだ。ロシアがベラルーシに気を取られている内にモルドバは親欧米派の大統領(サンドゥ女史)が大勝した。モルドバには国内国として沿ドニエストル自治区があって、ロシアはこの自治区を抑え、モルドバ政治を裏側から操ってきた。
2014年三月に米国は露西亜をG8から排除した。プーチンは意気消沈したかに見えたが、米国との間にSTART(戦略的核兵器削減交渉)の更新をひかえており、2018年6月にトランプは、露西亜の8Gを提唱した。
トランプの狙いは明らかです。ロシアを中国包囲網に巻き込む、あるいは対中敵視政策ではロシアを反対に回らせないことである。バイデンは、この基本をひっくり返そうとしており、ロシアへの敵対をつづけると、プーチンはますます意固地になって中国との「同盟関係」を深めさせるだろう。戦略的見地から言えば、たいそう危険なのである。
G8への復帰をトランプが提唱しても、欧州の反応はつめたく、米国でも本格議論とはならなかった。オバマ前政権が掲げていたのは「価値観外交」であり、ロシアは反発した。『価値観』などと意味不明、ロシア正教から見れば、欧米のキリスト教は聖典の解釈が異なる。
2019年8月、トランプはロシアとの間に締結していたINF(中距離核戦力全廃条約)の失効を迎え、廃棄した。むしろ中距離核戦力の再配備に移行する。これは対中国の軍事的脅威に対抗するためである。
こう見てくると民主党は中国に敵対するより、ロシア敵視が強く、バイデンは中国に対して(トランプの高関税報復のような)懲罰的政策は採らないと厳命している。したがってバイデン政権となると、外交戦略はロシア、中国へのアプローチが変わることになるだろう。
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