わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
頂門の一針 6787号
頂門の一針 6787号
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デフレ中国への投資は控えるべきだ
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櫻井よしこ
産経新聞特別記者の田村秀男氏は、今年2024年の経済は「デフレ中国対脱デフレ日本」の構図下で勝敗が決まると断ずる。長期の停滞局面に入った中国経済は「失われた30年」に喘いできた日本の巻き返しにつながるのか、それとも日本再生の妨げになるのか、それを探るために『中国経済衰退の真実』(産経セレクト)を上梓したという。
氏は日本こそが今後の中国の生死の鍵を握っていることに気づけと、序文で呼びかける。米国の力も大きいが、30年も続いたデフレで行き場を失ったジャパンマネーが国際金融市場を経て中国に流れ込み、中国経済を牽引してきたことの深い意味を、日本こそが理解しようと説く。その上で、日本は現在、真にデフレ脱却を果たせるか否かの瀬戸際に立っており、ここで完全に脱却しなければ、わが国は再び長いデフレの暗闇に引き戻され、日本経済は沈没すると警告する。
中国経済の特徴はGDPの約5割を固定資産投資、つまり地上の構造物への投資が占めていることだ。その柱は住宅を中心とする不動産だ。ここに住宅関連設備や家電製品などの需要を加えると、中国景気はまさに住宅需要次第ということになる。
住宅需給を反映する中古住宅相場は21年初頭をピークに不振に陥った。不動産バブルがはじけ出し、大手不動産会社の恒大集団、碧桂園の経営危機が大きく報じられた。
不動産大手の経営危機は金融界に伝播し、中国のノンバンク最大手の中植企業集団と傘下の中融国際信託が元本と配当金の支払いを停止した。
田村氏は、中国金融の特徴としてノンバンク系金融機関による投融資の巨大さを挙げ、その規模は銀行ローンの4600兆円に対して、2700兆円の巨額に上ると指摘する。そのノンバンク系の中核に位置するのが信託会社で、最大手が中植企業集団だ。
中国金融に深刻な影響を及ぼす中植企業集団の経営不振、支払い停止の大ニュースを中国メディアが一切報じなかったことに、田村氏は重大な意味を見てとる。ちなみに氏は、この問題が表面化した23年8月以前から同問題を追跡してきたのは自身だけだったと明かしている。
リーマンショック以上の危機
中国メディアがノンバンク系金融機関の経営不振を伝えなかったことと、日本経済新聞が専ら恒大集団や碧桂園という不動産会社の経営危機のみを報じたことを、田村氏は合わせ鏡のように取り上げた。双方に共通するのは中国が直面する恐ろしいまでの危機に対して故意に目をつぶっていることだろう。日経の報道について氏は「不動産バブル崩壊の皮相をなぞらえているのに過ぎない」と手厳しい。
氏の指摘はこうだ。
バブル崩壊は金融に波及したときに初めて経済危機に発展する。不動産開発業者の負債が膨らんだだけで中国経済が根底から揺らぐことはない。習近平政権もそれくらいは分かっているから、不動産会社2社の債務支払いに猶予を与えた。そして2社は、その後しばらく何事もなかったかのように業務を続けた。
しかしそんな騙しは金融には通用しない。銀行であれノンバンクであれ、債務超過に陥れば信用を失い経営破綻する。1社の破綻は直ちに他社に連鎖し、中国全体が金融危機に陥る。リーマンショック以上の危機が中国で起きかねないのだ。
前述したように中植企業集団を筆頭に中国のノンバンク系の資産総額は2700兆円で、中国のGDP2886兆円に並ぶ規模だが、その多くが巨額の損失を抱える。中植企業集団などの経営破綻は間違いなく中国全土を揺るがす。バイデン米大統領が23年8月10日に、中国経済は「チクタクと時が刻まれている時限爆弾」と語ったのはそういう恐ろしい意味なのだ。
習近平国家主席はこの状況にどう対処するのか。田村氏は、これまで習氏がやってきた唯一のことは徹底した情報隠しだと言う。報道禁止は無論のこと、中植企業集団や中融国際信託の、主要都市におけるオフィスには投資家、主婦、中小企業経営者らが詰めかけたが、各地の公安警察部隊が直ちに排除する。公安は全国で15万人に上る投資家の個人情報を駆使して、深夜早朝を問わず、投資家宅に押し入って黙らせた。
習氏はこの10年間、同じ手法で不動産市況の急落と金融危機の発生を阻止してきた。だが今回ばかりはその手は通用しないだろう。住宅の供給過剰とデフレ圧力の下、不動産相場に再浮揚の気配がないからだ。
平成の時代、橋本龍太郎氏、大蔵省、日銀の失政でわが国ではバブルが崩壊し、長く苦しいデフレの時代に入った。日本の失敗を反面教師とした米国のバーナンキFRB議長は前代未聞の大規模な量的緩和でデフレを回避した。
富の源泉は日本
中国はどうするか。米国式の解決策を模索しようとしても中国には不可能だと、田村氏は指摘する。中国人民銀行は外資が増えない限り、人民元の発行を増やせないからだ。
人民元はそれ自体に価値や信頼があるわけではない。そこで中国は自国通貨の信頼を得るためにドルに連動させて「準ドル本位制」を実践してきた。
日本や欧米諸国の中国に対する投資は中国人民銀行がすぐに引き取り、外貨準備とする。中国政府はそれに見合う額の人民元を刷り、発行してきた。中国の富の源泉は日本をはじめとする国々の投資だったのだ。
他方わが国は長い間、デフレに苦しんだ。給料は上がらず、消費は振るわない。凍りついたような経済の下では、世界一といってよい規模の貯金や年金といった資産を運用する舞台もない。仕方なく、円は海外の金融市場経由で中国に投資されたことはすでに述べた。
中国は日本からの投資も含めた巨額の外資に見合う分の人民元を発行し、その経済力で軍事大国となった。発展途上国にも強い影響力を持つに至った。中国マネーで彼らは各国の不動産を買い漁った。日本の不動産も同じだ。そして軍事大国となった中国はいまや台湾侵攻を目論む。それ自体が日本有事である。
他方、ロシアのウクライナ侵略以来、ロシアを経済的に助けてきた中国への投資は激減した。外貨不足ゆえに大規模財政出動が不可能になった。ドルの裏付けなしに人民元を大量に発行すれば、通貨価値が失われ、高インフレを招きかねない。そのためどうしても外貨が欲しい。このところの中国の柔軟外交は日本や米国から投資を引き出したいためなのだ。
こんな中国にどう対処すべきか。答えは明らかだ。日米が共に中国向けの投資、金融を規制して習政権による暴虐を抑止するのが最善の道だとする田村氏の結論が正しいと思う。同時に、わが国はデフレ脱却の少し手前まできた経済をもうひと押しして賃金を上げたい。ここに書き切れなかった多くの事柄もある。田村氏の著書こそ一読してほしい。
デフレ中国への投資は控えるべきだ
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櫻井よしこ
産経新聞特別記者の田村秀男氏は、今年2024年の経済は「デフレ中国対脱デフレ日本」の構図下で勝敗が決まると断ずる。長期の停滞局面に入った中国経済は「失われた30年」に喘いできた日本の巻き返しにつながるのか、それとも日本再生の妨げになるのか、それを探るために『中国経済衰退の真実』(産経セレクト)を上梓したという。
氏は日本こそが今後の中国の生死の鍵を握っていることに気づけと、序文で呼びかける。米国の力も大きいが、30年も続いたデフレで行き場を失ったジャパンマネーが国際金融市場を経て中国に流れ込み、中国経済を牽引してきたことの深い意味を、日本こそが理解しようと説く。その上で、日本は現在、真にデフレ脱却を果たせるか否かの瀬戸際に立っており、ここで完全に脱却しなければ、わが国は再び長いデフレの暗闇に引き戻され、日本経済は沈没すると警告する。
中国経済の特徴はGDPの約5割を固定資産投資、つまり地上の構造物への投資が占めていることだ。その柱は住宅を中心とする不動産だ。ここに住宅関連設備や家電製品などの需要を加えると、中国景気はまさに住宅需要次第ということになる。
住宅需給を反映する中古住宅相場は21年初頭をピークに不振に陥った。不動産バブルがはじけ出し、大手不動産会社の恒大集団、碧桂園の経営危機が大きく報じられた。
不動産大手の経営危機は金融界に伝播し、中国のノンバンク最大手の中植企業集団と傘下の中融国際信託が元本と配当金の支払いを停止した。
田村氏は、中国金融の特徴としてノンバンク系金融機関による投融資の巨大さを挙げ、その規模は銀行ローンの4600兆円に対して、2700兆円の巨額に上ると指摘する。そのノンバンク系の中核に位置するのが信託会社で、最大手が中植企業集団だ。
中国金融に深刻な影響を及ぼす中植企業集団の経営不振、支払い停止の大ニュースを中国メディアが一切報じなかったことに、田村氏は重大な意味を見てとる。ちなみに氏は、この問題が表面化した23年8月以前から同問題を追跡してきたのは自身だけだったと明かしている。
リーマンショック以上の危機
中国メディアがノンバンク系金融機関の経営不振を伝えなかったことと、日本経済新聞が専ら恒大集団や碧桂園という不動産会社の経営危機のみを報じたことを、田村氏は合わせ鏡のように取り上げた。双方に共通するのは中国が直面する恐ろしいまでの危機に対して故意に目をつぶっていることだろう。日経の報道について氏は「不動産バブル崩壊の皮相をなぞらえているのに過ぎない」と手厳しい。
氏の指摘はこうだ。
バブル崩壊は金融に波及したときに初めて経済危機に発展する。不動産開発業者の負債が膨らんだだけで中国経済が根底から揺らぐことはない。習近平政権もそれくらいは分かっているから、不動産会社2社の債務支払いに猶予を与えた。そして2社は、その後しばらく何事もなかったかのように業務を続けた。
しかしそんな騙しは金融には通用しない。銀行であれノンバンクであれ、債務超過に陥れば信用を失い経営破綻する。1社の破綻は直ちに他社に連鎖し、中国全体が金融危機に陥る。リーマンショック以上の危機が中国で起きかねないのだ。
前述したように中植企業集団を筆頭に中国のノンバンク系の資産総額は2700兆円で、中国のGDP2886兆円に並ぶ規模だが、その多くが巨額の損失を抱える。中植企業集団などの経営破綻は間違いなく中国全土を揺るがす。バイデン米大統領が23年8月10日に、中国経済は「チクタクと時が刻まれている時限爆弾」と語ったのはそういう恐ろしい意味なのだ。
習近平国家主席はこの状況にどう対処するのか。田村氏は、これまで習氏がやってきた唯一のことは徹底した情報隠しだと言う。報道禁止は無論のこと、中植企業集団や中融国際信託の、主要都市におけるオフィスには投資家、主婦、中小企業経営者らが詰めかけたが、各地の公安警察部隊が直ちに排除する。公安は全国で15万人に上る投資家の個人情報を駆使して、深夜早朝を問わず、投資家宅に押し入って黙らせた。
習氏はこの10年間、同じ手法で不動産市況の急落と金融危機の発生を阻止してきた。だが今回ばかりはその手は通用しないだろう。住宅の供給過剰とデフレ圧力の下、不動産相場に再浮揚の気配がないからだ。
平成の時代、橋本龍太郎氏、大蔵省、日銀の失政でわが国ではバブルが崩壊し、長く苦しいデフレの時代に入った。日本の失敗を反面教師とした米国のバーナンキFRB議長は前代未聞の大規模な量的緩和でデフレを回避した。
富の源泉は日本
中国はどうするか。米国式の解決策を模索しようとしても中国には不可能だと、田村氏は指摘する。中国人民銀行は外資が増えない限り、人民元の発行を増やせないからだ。
人民元はそれ自体に価値や信頼があるわけではない。そこで中国は自国通貨の信頼を得るためにドルに連動させて「準ドル本位制」を実践してきた。
日本や欧米諸国の中国に対する投資は中国人民銀行がすぐに引き取り、外貨準備とする。中国政府はそれに見合う額の人民元を刷り、発行してきた。中国の富の源泉は日本をはじめとする国々の投資だったのだ。
他方わが国は長い間、デフレに苦しんだ。給料は上がらず、消費は振るわない。凍りついたような経済の下では、世界一といってよい規模の貯金や年金といった資産を運用する舞台もない。仕方なく、円は海外の金融市場経由で中国に投資されたことはすでに述べた。
中国は日本からの投資も含めた巨額の外資に見合う分の人民元を発行し、その経済力で軍事大国となった。発展途上国にも強い影響力を持つに至った。中国マネーで彼らは各国の不動産を買い漁った。日本の不動産も同じだ。そして軍事大国となった中国はいまや台湾侵攻を目論む。それ自体が日本有事である。
他方、ロシアのウクライナ侵略以来、ロシアを経済的に助けてきた中国への投資は激減した。外貨不足ゆえに大規模財政出動が不可能になった。ドルの裏付けなしに人民元を大量に発行すれば、通貨価値が失われ、高インフレを招きかねない。そのためどうしても外貨が欲しい。このところの中国の柔軟外交は日本や米国から投資を引き出したいためなのだ。
こんな中国にどう対処すべきか。答えは明らかだ。日米が共に中国向けの投資、金融を規制して習政権による暴虐を抑止するのが最善の道だとする田村氏の結論が正しいと思う。同時に、わが国はデフレ脱却の少し手前まできた経済をもうひと押しして賃金を上げたい。ここに書き切れなかった多くの事柄もある。田村氏の著書こそ一読してほしい。
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