わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
頂門の一針 6473号
頂門の一針 6473号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
問題山積の日韓、それでも改善する訳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
櫻井よしこ
今週、韓国の尹錫悦大統領が来日する。日韓関係を戦後最悪の水準に突き落とした戦時朝鮮人労働者問題の解決策を引っ下げての来日だ。戦時朝鮮人労働者の動員は「反人道的不法行為」であるから、慰謝料を払えと韓国大法院がとんでもない判決を下したのは2018年10月だった。日本側は猛反発し、その後22年5月に発足した尹政権は日本側に新たな謝罪や賠償を求めず、韓国側が支払うとの解決策を提案したうえで日韓関係修復のために来日するわけだ。
戦略的に見ると、中国や北朝鮮の核の脅威が日々高まる中で、日米韓の関係緊密化は欠かせない。尹氏の訪日はその点で意味がある。しかし、日韓間には余りにも多くの重要な問題が積み残されている。大戦略として日米韓、また日韓の協力は大事だが、それで日本が、関係修復を望む韓国のペースに巻きこまれて、個別の問題をなおざりにしてよいということにはならない。日韓間に横たわる最大の懸案がレーダー照射問題だ。
18年12月に韓国の駆逐艦が自衛隊のP-1哨戒機に、艦砲の照準やミサイルの誘導に使われる火器管制レーダーを照射した。元空将の織田邦男氏は「引き金に指をかけて人のこめかみに銃を突きつけるような行為だ」と語る。レーダー照射は自衛隊機の墜落やパイロットの死につながりかねない明らかな敵対行為だ。
韓国側の対応は今日に至るまで許し難い。レーダー照射を認めずに、日本側が嘘をついているというのが韓国政府の公式の態度だ。これでは日韓間に、とりわけ軍同士に信頼関係が生まれるわけがない。
韓国側が日韓関係改善を急ぐ理由に安全保障環境の悪化がある。北朝鮮は去年9月、核こそ国威を示すもので、核大国であることが北朝鮮の国体だと、法律で定めた。同時に核の先制攻撃を合法化した。
今年2月18日には米国を標的にした核攻撃演習を実施した。2日後には短距離ミサイルを日本海に撃ち込み戦術核運用部隊の発射演習だと発表した。日本と韓国を標的にして核演習をしたというのだ。
暗殺未遂事件
こうした危険な北朝鮮の状況に対抗する形で尹氏は1月11日に、北朝鮮の核問題がもっと深刻化すれば、韓国は核兵器の配備や、自前の核の保有も辞さない、と演説した。韓国の保守系有力紙、朝鮮日報は2月20日の社説で「北朝鮮の核の効用を一瞬でゼロにする方法は韓国独自の核保有しかない」と主張した。
こうした中、米空軍の戦略爆撃機B-1BとF-16戦闘機は、2月19日、日韓両国と各々合同演習を行った。22日には米国防総省で北朝鮮の核使用を想定した机上演習を米韓両軍が実施した。月をまたいだ翌3月13日から5年振りの米韓大規模演習、「自由の盾」が始まった。
一方、北朝鮮は2月23日に米韓に対抗して巡航ミサイルを発射、続いて3月12日には東部の新浦沖で潜水艦からミサイルを発射した。彼らの一連の強気な挑発の背景に中露の肩入れがある。日米韓は北朝鮮の核とミサイルの脅威だけでなく、背後の中露、とりわけ中国の脅威に備えなければならないのが現状だ。
日米韓の協力の第一歩が情報の共有である。敵のミサイルや砲弾、核の脅威に晒されるとき、日米韓は命運を賭けていわば運命共同体のような形で扶(たす)け合わなくてはならなくなると考えるべきだ。そのときに物を言うのが前述の信頼である。日韓間にその信頼はあるか。現時点では非常に疑わしい。理由のひとつがすでに触れた18年12月のレーダー照射事件だ。
これは摩訶不思議な事件だった。厳冬の日本海、わが国の排他的経済水域(EEZ)にオンボロの漁船が漂流してきた。北朝鮮の船と思われる。そこに韓国海軍の駆逐艦と海洋警察のいかつい2隻が接近し、挟みうちにした。
なぜ、日本のEEZにこんな大きな韓国海軍艦が入ってきたのか。しかも追っている相手はいまにも沈みそうで装備は何もついていない。自衛隊機が不思議に思って哨戒に出たのは当然だ。自衛隊機は韓国駆逐艦に通信したが返答はない。そこで自衛隊機は接近した。すると突然、レーダーを照射されたのだ。判断が一瞬でも遅れれば大惨事になりかねない。自衛隊機は直ちに現場を離れたが、韓国側はなぜ無謀な攻撃を仕掛けたのか。彼らの側には自衛隊機に見られたくない何かがあったのではないか。国家基本問題研究所研究員、西岡力氏の指摘だ。
「それより少し前、北朝鮮で金正恩氏暗殺未遂事件があり、約90名が検挙されたとの情報があります。小船で漂流していた4人の男は事件の関係者で、逃走してきた可能性があるのです。金正恩はどうしても彼らを捕らえたかった。それで韓国側にこの小船の男らを拘束しろと指示したのではないか。あくまでも推測ですが、当時は従北の文在寅氏が大統領でしたから正恩氏の指示に従って駆逐艦などを出したのではないか。そう考えれば、日本のEEZ内に突然、巨大な軍艦が出現してオンボロ小船を追い詰めたという、通常ではあり得ない話も納得できるのです」
大スキャンダル
捕らえられた男たちはわずか3日後、38度線で北朝鮮側に身柄を引き渡された。北朝鮮に引き渡された男たちのその後の情報は皆無である。だが尹氏は文在寅前大統領と北朝鮮との関係について捜査する考えを全く示していない上、この件についても全く追及していない。かつて尹氏が文氏と同じく、左翼陣営にいたことを想起せざるを得ない。
この事件は、韓国軍、韓国政府、或いは文在寅前大統領が北朝鮮の手先だった可能性を示すのではないかと思わせる。もしそうなら、韓国の天地が動転する大スキャンダルだ。韓国も韓国軍も到底信じられない。だからこそ、韓国側はレーダー照射事件を究明し、説明しなければならない。自衛隊と日本への謝罪も欠かせない。そうして初めて信用構築のプロセスが始まる。それまでは決して信用できない。レーダー照射問題を脇に置いて日韓の関係強化、日米韓の連携など、無理なのである。
日韓間には戦時労働者の件でも、貿易管理の件でもまだ問題がある。たとえば岸田文雄首相は戦時労働者の件で韓国が未来永劫問題を蒸し返さないように、日本企業に賠償金を求める求償権の放棄を求めてきた。これが韓国側の提案に入っていない。現在の尹政権は最長であと約4年、その後の政権次第では日韓関係はまたもや最悪の状況に転落する。
ただ、中国が台湾を攻める時が近づいている今、尹政権と対立する余裕は日本にも米国にもない。その意味で今回の日韓関係の改善は長続きしないと覚悟し、暫定的に関係改善をはかりながらも、日本側は韓国にも世界にも日韓間の問題について事実の発信を続けなければならない
問題山積の日韓、それでも改善する訳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
櫻井よしこ
今週、韓国の尹錫悦大統領が来日する。日韓関係を戦後最悪の水準に突き落とした戦時朝鮮人労働者問題の解決策を引っ下げての来日だ。戦時朝鮮人労働者の動員は「反人道的不法行為」であるから、慰謝料を払えと韓国大法院がとんでもない判決を下したのは2018年10月だった。日本側は猛反発し、その後22年5月に発足した尹政権は日本側に新たな謝罪や賠償を求めず、韓国側が支払うとの解決策を提案したうえで日韓関係修復のために来日するわけだ。
戦略的に見ると、中国や北朝鮮の核の脅威が日々高まる中で、日米韓の関係緊密化は欠かせない。尹氏の訪日はその点で意味がある。しかし、日韓間には余りにも多くの重要な問題が積み残されている。大戦略として日米韓、また日韓の協力は大事だが、それで日本が、関係修復を望む韓国のペースに巻きこまれて、個別の問題をなおざりにしてよいということにはならない。日韓間に横たわる最大の懸案がレーダー照射問題だ。
18年12月に韓国の駆逐艦が自衛隊のP-1哨戒機に、艦砲の照準やミサイルの誘導に使われる火器管制レーダーを照射した。元空将の織田邦男氏は「引き金に指をかけて人のこめかみに銃を突きつけるような行為だ」と語る。レーダー照射は自衛隊機の墜落やパイロットの死につながりかねない明らかな敵対行為だ。
韓国側の対応は今日に至るまで許し難い。レーダー照射を認めずに、日本側が嘘をついているというのが韓国政府の公式の態度だ。これでは日韓間に、とりわけ軍同士に信頼関係が生まれるわけがない。
韓国側が日韓関係改善を急ぐ理由に安全保障環境の悪化がある。北朝鮮は去年9月、核こそ国威を示すもので、核大国であることが北朝鮮の国体だと、法律で定めた。同時に核の先制攻撃を合法化した。
今年2月18日には米国を標的にした核攻撃演習を実施した。2日後には短距離ミサイルを日本海に撃ち込み戦術核運用部隊の発射演習だと発表した。日本と韓国を標的にして核演習をしたというのだ。
暗殺未遂事件
こうした危険な北朝鮮の状況に対抗する形で尹氏は1月11日に、北朝鮮の核問題がもっと深刻化すれば、韓国は核兵器の配備や、自前の核の保有も辞さない、と演説した。韓国の保守系有力紙、朝鮮日報は2月20日の社説で「北朝鮮の核の効用を一瞬でゼロにする方法は韓国独自の核保有しかない」と主張した。
こうした中、米空軍の戦略爆撃機B-1BとF-16戦闘機は、2月19日、日韓両国と各々合同演習を行った。22日には米国防総省で北朝鮮の核使用を想定した机上演習を米韓両軍が実施した。月をまたいだ翌3月13日から5年振りの米韓大規模演習、「自由の盾」が始まった。
一方、北朝鮮は2月23日に米韓に対抗して巡航ミサイルを発射、続いて3月12日には東部の新浦沖で潜水艦からミサイルを発射した。彼らの一連の強気な挑発の背景に中露の肩入れがある。日米韓は北朝鮮の核とミサイルの脅威だけでなく、背後の中露、とりわけ中国の脅威に備えなければならないのが現状だ。
日米韓の協力の第一歩が情報の共有である。敵のミサイルや砲弾、核の脅威に晒されるとき、日米韓は命運を賭けていわば運命共同体のような形で扶(たす)け合わなくてはならなくなると考えるべきだ。そのときに物を言うのが前述の信頼である。日韓間にその信頼はあるか。現時点では非常に疑わしい。理由のひとつがすでに触れた18年12月のレーダー照射事件だ。
これは摩訶不思議な事件だった。厳冬の日本海、わが国の排他的経済水域(EEZ)にオンボロの漁船が漂流してきた。北朝鮮の船と思われる。そこに韓国海軍の駆逐艦と海洋警察のいかつい2隻が接近し、挟みうちにした。
なぜ、日本のEEZにこんな大きな韓国海軍艦が入ってきたのか。しかも追っている相手はいまにも沈みそうで装備は何もついていない。自衛隊機が不思議に思って哨戒に出たのは当然だ。自衛隊機は韓国駆逐艦に通信したが返答はない。そこで自衛隊機は接近した。すると突然、レーダーを照射されたのだ。判断が一瞬でも遅れれば大惨事になりかねない。自衛隊機は直ちに現場を離れたが、韓国側はなぜ無謀な攻撃を仕掛けたのか。彼らの側には自衛隊機に見られたくない何かがあったのではないか。国家基本問題研究所研究員、西岡力氏の指摘だ。
「それより少し前、北朝鮮で金正恩氏暗殺未遂事件があり、約90名が検挙されたとの情報があります。小船で漂流していた4人の男は事件の関係者で、逃走してきた可能性があるのです。金正恩はどうしても彼らを捕らえたかった。それで韓国側にこの小船の男らを拘束しろと指示したのではないか。あくまでも推測ですが、当時は従北の文在寅氏が大統領でしたから正恩氏の指示に従って駆逐艦などを出したのではないか。そう考えれば、日本のEEZ内に突然、巨大な軍艦が出現してオンボロ小船を追い詰めたという、通常ではあり得ない話も納得できるのです」
大スキャンダル
捕らえられた男たちはわずか3日後、38度線で北朝鮮側に身柄を引き渡された。北朝鮮に引き渡された男たちのその後の情報は皆無である。だが尹氏は文在寅前大統領と北朝鮮との関係について捜査する考えを全く示していない上、この件についても全く追及していない。かつて尹氏が文氏と同じく、左翼陣営にいたことを想起せざるを得ない。
この事件は、韓国軍、韓国政府、或いは文在寅前大統領が北朝鮮の手先だった可能性を示すのではないかと思わせる。もしそうなら、韓国の天地が動転する大スキャンダルだ。韓国も韓国軍も到底信じられない。だからこそ、韓国側はレーダー照射事件を究明し、説明しなければならない。自衛隊と日本への謝罪も欠かせない。そうして初めて信用構築のプロセスが始まる。それまでは決して信用できない。レーダー照射問題を脇に置いて日韓の関係強化、日米韓の連携など、無理なのである。
日韓間には戦時労働者の件でも、貿易管理の件でもまだ問題がある。たとえば岸田文雄首相は戦時労働者の件で韓国が未来永劫問題を蒸し返さないように、日本企業に賠償金を求める求償権の放棄を求めてきた。これが韓国側の提案に入っていない。現在の尹政権は最長であと約4年、その後の政権次第では日韓関係はまたもや最悪の状況に転落する。
ただ、中国が台湾を攻める時が近づいている今、尹政権と対立する余裕は日本にも米国にもない。その意味で今回の日韓関係の改善は長続きしないと覚悟し、暫定的に関係改善をはかりながらも、日本側は韓国にも世界にも日韓間の問題について事実の発信を続けなければならない
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます