胃 癌 日 記 16
(四国88箇所 第83番霊場 一宮寺は高松の市街地に)
いよいよ手術の日 2
「【いそ】さん。終わりましたよ。」
Y先生に起こされた。
「手術は終わりましたよ。全部きれいに取りましたよ。」
「ありがとうございました。」
自分でも分かるほど、呂律が回らないしわがれた声で返事した。柱の時計を見ると午後4時30分だった。少し遅い。思ったより難しいことになっていたのか。胃以外にも切り進んだのか、何故予定より2時間以上も費やしたのか、良くないことばかりが頭に浮かんできた。やがて、看護師さんが、
「【いそ】さん。部屋に戻りましょうね。」
「部屋といっても回復室ですね。」
「そうです。今晩一晩は、回復室です。明日できれば午前中に病室に戻ります。」
北棟8階の病室が有るフロアのナースステーションの奥にある回復室に午後5時に『運ばれて』来ると、手術の間中ずっと待っていた連れ合いと、仕事が午前中で昼からやってきて待っていた長女がまもなく回復室に入ってきた。手術時間が長引いたことについては、お互い気にしつつも何も言わず。
「どう。痛い?」
「じっとしてると痛くないけれど、動くと痛いわ。」
「仕方ないわ。」
などと話している。全身麻酔で挿管されていた為、喉がいらつき水気を飲みたいが、術後の為絶飲食。辛い。5時30分頃、孫の世話の為長女は返った後でY先生がやってきて手術の説明。
(早朝、高松のビジネスホテルから、屋島寺を目指す)
「お疲れ様でした。手術はたいへんでした。」
何が大変だったのか聞きたい。
「内臓が癒着していて、それを剥がすのに2時間以上、午前中一杯かかりました。盲腸は以前に手術していて癒着もあるのですが、まるでいろんな内臓手術をした人みたいに癒着していました。T先生も『こんなん、初めてや』と言っておられました。それで手間取り大変でした。」
「そうですか。癒着てそんなに大変ですか。」
「胃を切って、腸に繋げるのに引っ張ってこられないです。また、内臓に癒着があると腸閉塞とかの通過障害を併発し易いのですよ。」
との説明だった。しかし、私は素直に額面どおりの説明とは思えなかった。どこかに転移があって切り拡げていったのではないだろうか、きっとそうだろう。そう思った。
いろんな話をしているうちに、午後7時30分次女が仕事を終えて回復室へ駆けつけた。私は身体を動かすと痛いのでなるべく同じ姿勢のまま、連れ合い、次女と今日一日のことを話していた。やがて8時15分、
「頑張ってね。」
といって連れ合いと次女は帰っていった。
(第84番霊場 屋島寺は、屋島の山頂にある)
(続く)