四国88ヶ所自転車遍路の旅の8-6 通算で21回目です。
バスに乗ったりして何と結願しました。この旅の1・2・4・6は工事中でアップしていませんが、近々「完成版」にしたいと思います。 とりあえず、このシリーズは、本日で一旦おしまいです。
十二時三十分に予約していたタクシーに乗り、長尾方面に戻りJR高徳線「造田駅(ぞうだえき)」まで行く。造田駅まで着くとちょうど徳島方面行きの汽車が発車したばかりで、駅方面から二~三人のお遍路さんが歩いてきた。彼らは、交通機関を利用して遍路をしていて、これから長尾寺へと向かうのだろう。お遍路さんにもいろんなやり方がある。
造田駅でしばらく待って十三時二十分発の徳島行きの汽車に乗ることとした。これから、鳴門の「板東駅」まで向かい、そこから八十八ヶ所のスタートの寺である霊山寺に行き、「お礼参り」をしてから徳島へ、そこから高速バスで大阪へ今日中に帰ることにした。造田駅の待合所で靴を脱いで足を見ると、浸潤液は止まらずジュクジュク。両方の小指は真っ白になってまるで壊死の状態。これは結構重症である。本当に気が滅入る。
汽車は、十三時二十分定刻に入り、私たちは汽車に乗り込んだ。車内は高校生が結構多い。すでに夏休みであるのに、クラブ活動でもしているのだろうか。座席に座り、“連れ合い”といろいろと話をしているうちに、だんだんと四国八十八ヶ所の思い出が、走馬灯のように駆け巡りだしてきた。
『板野の駄菓子屋さんで、おばあちゃんからの初めての御接待に驚いて断ってしまった。』
『今は航路が廃止になった四国フェリーで未明の甲浦に降り立ち、暗闇の中を室戸岬までひた走り、道中のモルゲンロートに心洗われた。』
『神峰寺の湧水は大変おいしかった。境内の手入れは隅々まで行き届き、つつじや紫陽花が 誇らしそう。奥さんの心こもる御接待に感激した。』
『雪蹊寺では納経所のおばさんに聞いた長宗我部元親さんの話と、月峰さんの奔走の話。幕末・明治維新の頃は歴史の激動に翻弄されたのだろう。』
『四万十川を越えて、延々と続く遥かなる足摺への道。崖にへばりつくような道を越えて、 天狗の鼻の絶壁の上にたち、太平洋の“水平弧”に見とれた。』
『足摺半島の入り江ごとにある集落を繋ぐアップダウンの道で、“京都にいるときゃ~”と がなりたてながら、移動魚屋さんのトラックが走り回っていた。』
『同じところの高台にある保育園で、孫のことを思い出していると、“皆さん~役場から御 用納めのご挨拶です”と有線のラウドスピーカーが鳴り出した。』
『日本の海とは思えない内海からの宇和海の群青色。引き込まれそうな思いがした。その後 宇和島へ入り、宇和島水産高校へ向かって黙祷。宇和島での昔の仲間との出会い。』
『内子町で見た日本の原風景。』
『久万高原に一気に漕ぎ上がる。大宝寺、岩屋寺の粛然とした雰囲気。岩屋寺前の茶店で御接待でいただいた西瓜のおいしかったこと。気持ちのやさしいご夫婦だった。』
『横峰寺は一度通り越してしまって断念、次回に登った。厳しい場所にありバスでは入ってこれない。静寂な山寺、早足で歩いて登れば遍路道に仁王門(ウェルカムゲート)。』
『遥かかなたの稜線上に見える雲辺寺。殆ど自転車を押して登る。三角寺であったアゴヒゲ遍路さんに再び出会う。今は元気に暮らしているかな、教師に復帰しただろうか。』
『崇徳天皇に縁の天皇寺高照院。何か鬱蒼とした雰囲気の寺。納経所でご婦人に御接待でバナナを二本いただく。おいしかった。』
『第八十一番白峯寺からは”連れ合い”と二人で歩き遍路。全てが思い出。足の爪は剥れ、両方の小指は壊死のような状態。それでも何とか今ここにいる。』
ふと、思い浮かぶシーンだが、私の思いは全ての寺に残っている。全部の寺が今でも鮮明に浮かび上がってくるし、様々な人との出会いもつい昨日のように思い出される。
高徳線の汽車の中でいろんなことを“連れ合い”と話していると、天気予報の通り雨が降り出した。四国八十八ヶ所自転車遍路の旅の終章のカーテンのようだ。にわか雨のようであるが、台風が近いということで、気になる雨だ。十四時十五分時間通りに汽車は「板東駅」についた。雨はちょっと小ぶりになっているが、にわか雨のように降ったのだろう、あちこちに水溜りができている。私は、足が痛くてゆっくりゆっくりと歩を進め霊山寺へと向かった。普通なら十分とかからない道のりを二十分以上かけてやっとの思いで霊山寺へ辿り着いた。
霊山寺は、たくさんの人たちで賑わっていた。ツアーで四国八十八ヶ所を回り、結願した人たちが本堂で集団で法話を聞いている。納経所ではこれから四国八十八ヶ所を目指して、お遍路グッズを揃えている若い女性や売店のご婦人に四国遍路の心得を聞いている中年男性、自動車でお遍路をしようとしている男性グループ等で賑わっている。そんな中を納経所へ行く。
私
「結願しましたので、納経帳に記帳をお願いします。」
納経所の男性
「おめでとうございます。お車ですか。」
私
「いいえ、区切り打ちですが自転車と歩きとで回りました」
納経所の男性
「それはそれは、どうもご苦労様でした。お接待させて頂きます。」
そういって、お茶と饅頭を出してくれた。“連れ合い”と二人でお茶を飲み饅頭を食べていると、やっと肩の荷が下りたような、快い気分が体中に拡がる感じがしてきた。少しくつろぎ、本堂で記念写真を写し、再び板東駅へと向かうこととした。 足は、相変わらず激痛でとにかく引きずるような感じで、ゆっくりゆっくりと駅に向かう。ちょうど汽車が止まったのか、駅の方から霊山寺に向かって多くの人がやってくる。これから四国八十八ヶ所遍路の旅へ向かおうとしている人たちも結構いるようだ。外国人の男女も元気に颯爽と歩いてくる。それぞれに何を思い、なにを期してくるのかは心の中にあるのだろうが、四国曼荼羅の中に溶け込もうとしている人たちが次から次へとやってくる。
十五時五分に板東駅にやっと辿り着く。十五時十五分発の徳島行きの汽車がホームに滑り込んできて、それに乗車。JR徳島駅に到着し、駅前ロータリーから大阪行きの高速バスに乗り、一路孫たちが待つ我が家へとひた走った。
四国曼荼羅さようなら。また来ます…。
(一旦完)