いせ九条の会

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日米の司法の心眼を比較する/山崎孝

2006-07-01 | ご投稿
日本の裁判所の最近の動向

★2003年の衆院選前に共産党の機関紙を配ったとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反の罪で在宅起訴され、無罪を主張した厚生労働事務官、堀越明男被告に対して東京地裁(毛利晴光裁判長)は6月29日、罰金10万円、執行猶予2年(求刑・罰金10万円)の有罪判決を言い渡した。被告側は控訴する方針。

 政治活動の制限を定めた同法102条1項違反で国家公務員が起訴されたのは、60年代に北海道・猿払村の郵便局職員が社会党のポスターを掲示・配布したことが罪に問われた「猿払事件」最高裁大法廷判決(74年)以降では初めてとされる。

 今回も猿払事件同様、政治的行為を制限した同法などが、表現の自由を保障する憲法に違反するかが争われた。

 判決は、国公法などは合憲と判断したうえで堀越事務官の行為を「公務員の政治的中立性を著しく損なう」と指摘した。

 ただ、勤務時間外の休日に、職場と離れた自宅周辺で配布したことを踏まえ、「配布行為で職場に悪影響が出たことはなく、直ちに行政の中立性を侵害したものではない」と述べ、執行猶予つき判決を選択した。

 裁判では、警視庁公安部の捜査員が堀越事務官を長期間尾行し、ビデオ撮影したことも明らかになった。判決は、配布と関連の薄い党事務所への出入りは「犯罪立証上で重要とは言えず、撮影は限度を超えている」と述べ、違法と指摘した。(以上6月30日朝日新聞より)

★東京地裁は5月30日、高等学校の卒業式の始まる前、保護者らに国歌斉唱時に起立しないよう呼びかけた元教師に対して、威力業務妨害罪で20万円の罰金刑を言い渡しています。

★6月23日、最高裁は靖国訴訟に対して、憲法に定めた政教分離に違反しているかどうかの判断は示さず、首相の参拝は原告の利益や権利を侵していないとして上告を棄却しました。憲法判断は示していません。

★小泉首相と東京都知事の靖国神社参拝をめぐり、同神社に肉親が合祀されている日本と韓国の戦没者遺族を含む約140人が首相や都知事などを相手に、参拝の違憲確認と1人あたり3万円の賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が6月28日、東京高裁であった。安倍嘉人裁判長は「原告らの法的に保護されるべき権利が侵害されたとはいえない」と述べ、一審・東京地裁で全面敗訴した原告側の控訴を棄却した。参拝が憲法に違反するかどうかや、公的なものかどうかの判断は示さなかった。

 原告側は「憲法判断は不可欠」と主張したが、安倍裁判長は「憲法適合性が原告らにとって重大な関心事であるとしても、本件で憲法判断をしなければならないという理由はない」と退けた。(6月29日朝日新聞より)

【米国の国会と裁判所の態度】

★ベトナム戦争で米国が泥沼に陥っていた時、それでも米国民は戦争は正義の戦いと信じる人が多かった。そのような時期に、ニューヨークタイムズは「ペンタゴンペーパー」をスクープして、政府発表は虚偽であったことを報道した。当時のジョンソン大統領は連邦裁判所に連載差し止めの訴訟を起こした。それに対して連邦裁判所は「この資料は血を流して支払った米国民とインドシナ人民のものだ」として訴えを却下しました。世論への影響は大きく反戦の世論は高まりました。

★米連邦最高裁は6月29日、対テロ戦争の「敵性戦闘員」として拘束した容疑者をキューバにあるグアンタナモ米軍基地の特別軍事法廷にかけることは、捕虜の取り扱いを定めたジュネーブ条約に反すると同時に大統領権限を逸脱するなどの理由から、違法だとする判決を出した。対テロ戦では既存の法律や条約に縛られないとして、特別軍事法廷を設けたプッシュ政権に、司法が異例のストップをかけた形だ。

 国際テロ組織アルカイダを率いるオサマ・ビンラディン容疑者の元警護兼運転手で、02年にグアンタナモの収容所に入れられたイエメン国籍のサリム・アハメド・ハムダン被告(36)が、特別軍事法廷にかけられるのは違法だとして、ラムズフェルド国防長官らを相手取り提訴していた。

 2004年の連邦地裁判決は違法と判断したが、二番の連邦高裁は2005年7月、ほぼ政権側の主張通り適法とする判決を出した。

 この日の最高裁判決は、5対3の多数意見だった。特別軍事法廷が、被告への証拠開示制限など主に手続き面で、既存の法令やジュネーブ条約を順守していないと判断。議会による立法手続きを経ないで設置された点も問題視した。

 プッシュ大統領は同日、小泉首相との共同記者会見で「我々は最高裁には従い、判決を検討するが、米国民の安全を危険にさらすことはしない」などと述べ、議会による新規立法で違法状態の解消を目指す考えを示した。

 プッシュ政権は対テロ戦開始後の2001咋11月、被拘束者を通常の犯罪者として起訴せず、ジュネーブ条約上の戦争捕虜ともみなさない特別軍事法廷を大統領命令で設置した。

 だがこうした姿勢には、欧州などから批判が出ていた。(6月30日朝日新聞夕刊より)

日本と米国の裁判所を比較すれば、日本が判断基準を矮小化しているのに対して、米国の連邦裁判所は、言論の自由と人権の保障を最高の基準に判断していることがわかります。訴訟された事柄の本質を裁判所が見極める心眼を持っているか、どうかの違いです。そして裁判所が政府・国会・検察の行為を自由と民主主義の観点から厳格に監視している役目を果たしているか、どうかだと思います。

日本はイラク戦争に自衛隊を派遣してから、平和運動に対する警察と検察の干渉が増えてきています。自民党新憲法草案の「公の秩序」で自由を制限する方向と一致しています。

★追伸 米上院は6月27日、国旗(星条旗)を冒涜する行為を禁止する憲法修正法案を否決しました。同法案は昨年6月に下院を通過しましたが、上院では可決に必要な賛成三分の二に相当する67に一票足りませんでした。

 国旗を焼き政府への抗議の意を示すことは、米国でもしばしば行われます。米最高裁は1989年、この行為は憲法修正第一条(言論の自由)で守られた政治的表明で、国旗冒涜禁止の州法は憲法違反だと判断しています。保守派は繰り返しこの憲法条項の修正を求めてきました。

 上院では修正案は共和、民主両党の議員が共同提案。採決の結果は賛成六十六、反対三十四でした。共和党では三人が反対し、民主党では十四人が賛成しました。