いせ九条の会

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日本を観察してジョン・ダワー再び曰く/山崎孝

2006-05-27 | ご投稿
2001年に発行されたジョン・ダワー氏の著作「敗北を抱きしめて」(岩波書店発行上・下)のカバーには次のように記されています。

一九四五年八月、焦土と化した日本に上陸した占領軍兵士がそこに見出したのは、驚くべきことに、敗者の卑屈や憎悪ではなく、平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿であった。勝者による上からの革命に、敗北を抱きしめながら民衆が力強く呼応したこの奇蹟的な「敗北の物語」を、米国最高の歴史家が描く。二〇世紀の叙事詩。ピユリッツアー賞受賞。

ジョン・ダワー氏は同書の「日本の読者へ」の序文に、次のように記しています。(抜粋)

 …これが、この本で私が実行しようとしたことである。吉田茂のような有名人だけでなく、日本社会のあらゆる階層の人々が敗北の苦難と再出発の好機のなかで経験したこと、そして彼らがあげた「声」を、私はできる限り聴き取るように努力した。この作業をはじめた当初は、歴史のこの瞬間に耳を傾けることによって、いったい何が得られるのか、私には予想できなかった。しかしこの時代に起きた多くのことを慎重に書き進め、それが終わったとき、私はある事実に深く心を打たれていた。悲しみと苦しみのただ中にありながら、なんと多くの日本人が「平和」と「民主主義」の理想を真剣に考えていたことか!

もちろん、「平和」と「民主主義」こそ、私自身の国がたたかい取ろうと努力している当のものにほかならない。日本人も私たちと同じ夢と希望をもち、同じ理想とたたかいを共有しているのだ。それを知ることは、アメリカ人の多くの読者にとって驚きであると同時に、明らかに心が暖まり、勇気のわく発見だったのである。(以下略)

ジョン・ダワー氏は、2006年5月25日の朝日新聞のインタビューで、質問に答えて次のように語っています。(抜粋)

現在の米国は、保守派が非常に強くなって、ナショナリスティックな国になっています。ブッシュ政権はそういう性格が色濃いと思います。

米国の保守派は、日本に憲法9条を改正して、もっと軍事的な役割を果たしてほしいと考えている。その意味では、日本の保守派と目標を共有しています。

それを進めるひとつの方法が、日本の戦争責任や過去の問題をあいまいにして、日本国内の軍国主義批判を弱めることなのではないでしょうか。戦争の記憶が薄まることは、双方の保守の利益になるというわけです。ブッシュ政権は、日本が軍事的役割の増大に応じる限り、首相の靖国参拝には異議を唱えないうことではないでしょうか。(以下略)

ジョン・ダワー氏は2001年では、「日本人も私たちと同じ夢と希望をもち、同じ理想とたたかいを共有している」と語り、2006年は、米国の保守派と日本の保守派は、「憲法9条を改正して、もっと軍事的な役割を果たす」という目標を共有していることを指摘しています。

この日米の保守派の目論見を阻止するために、平和を望む日本人は、ジョン・ダワー氏が述べた『悲しみと苦しみのただ中にありながら、なんと多くの日本人が「平和」と「民主主義」の理想を真剣に考えていた』という原点に立ち返ることだと思います。

高年の世代は、この原点に立ち返って、それより若い世代は、平和と民主主義の追求してきた日本の社会を知って、各地の「九条の会」および他の会の、憲法を守り生かす運動に結集したのだと思います。

5月9日の「九条の会」の記者会見で、大江健三郎氏は質問に答えて次のように語っています。

質問 九条の会は草の根で4770を数えるというが、当初、立ち上げたときに、こういうことを予想したか、この状況をどうみるか。

大江健三郎さんの答えの抜粋 すい点というものがある。たくさんのものが集まっているという意味だ。ある方向に運動をしょうとする、声を発する、どんどん声を発していけば、声を直線と考えれば集まる点があるだろう、黒々とした点がある、それをすい点といっている。いま憲法について、日本の現実について、これではいけないと思っている人が自分の声を発していると、それがどうしても憲法というところを通らなければいけない、憲法九条というところに固まるだろう。みんなの声が固まっている。4500の声が重なってくる、そのすい点として憲法九条を守ろうということをスローガンにすればいいと考えた。(以下略)

優れた文学者らしい表現だと思います。他の発起人の方の発言は、「九条の会」メールマガジンに掲載されています。