いせ九条の会

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「サンデープロジェクト」を見ての雑感/山崎孝

2007-05-07 | ご投稿
5月6日の「サンデープロジェクト」は、全国紙の読売新聞論説委員長 朝倉敏夫氏、毎日新聞新聞論説委員長 潮田道夫氏、朝日新聞論説主幹 若宮啓文氏を招いて、改憲問題について討論会を行いました。司会は田原総一郎氏です。他に猪瀬直樹氏他が番組に出ていました。この番組を見て私が受け止めた各社の意見を要約した形で紹介します。突込みが特徴の田原総一郎氏の司会は概ね公平だったといえます。番組の注文は後に書いてあります。

改憲に対する各社の基本的な考え方とイラク戦争に対する態度

読売新聞 日米同盟で強化が迫られている中で、改憲まで待てない。解釈変更を行い集団的自衛権行使が必要である。9条1項は残すが2項を変えて自衛軍を持つ。その運用は別な法律の基本法で決める。国連安保理の決議による自衛軍の国際貢献を行う。

政府のイラク政策を支持 日米同盟を壊さないために支持以外の選択肢はなかった。

毎日新聞 私たちは「論憲」を掲げて憲法の総点検を行ってきた。不都合な所があれば、改憲を否定しない。だが、結論を急ぐことは無い。国連安保理の決議に基づくPKO活動を積極的に行う。

イラクへの自衛隊の派遣は、しぶしぶであるが認める。

朝日新聞 憲法のすべてを変えてはいけないと思わないが、9条を無くすことのマイナスは大きい。9条は日本社会が作り上げた資産。「平和安全保障基本法」(仮称)を定めて、自衛隊をきっちりと位置づける。自衛隊は軍隊とせず集団的自衛権は行使しない。国連安保理の決議に基づくPKO活動を積極的に行う。

イラク戦争に反対してイラクへの自衛隊の派遣に反対する。

これらが各社の基本姿勢です。論争になった幾つかの点を紹介します。以下、新聞名で主張や発言は紹介します。

読売新聞が、自衛隊は軍隊とどう違うのかと問いかけたのに対して、朝日新聞は、軍隊は何でも行うが、自衛隊は制約を受けた組織である。毎日も同様の考えを示した。

読売新聞が、イラク戦争はイラクの大量破壊兵器は疑うに足る理由があった。日米同盟を壊さないために米国への協力以外選択肢がなかった。朝日新聞に日米同盟を壊しても良いのかと問いかけた。これに対して朝日新聞は、イラクの大量破壊兵器の疑惑解明に、国連は査察継続を主張していた。憲法9条がなければ、日本は英国のように戦争に参加していたと反論した。

朝日新聞は、安倍首相は戦後レジームからの脱却を主張するが、戦後レジームの基本の自由と民主主義は憲法によりもたらされたものだと述べて、安倍政権下での改憲に懸念を示した。毎日新聞も同様の意見を述べた。

私のコメント 毎日新聞は、日本の平和観は変わってきていると述べましたがその意味を私は把握できませんでした。読売新聞は、憲法前文のように世界の状況は信義に基づくとか平和を愛している状況ではないと述べていました。これは世界の政治指導者にはそのような人物はいますが、国連は軍事紛争が起きれば停戦を求めて、平和維持活動を行い、平和構築活動をします。日本は財政的貢献を評価されて平和構築のための委員会のメンバーに選ばれています。武力では平和構築は出来ません。北朝鮮の核問題では経済制裁を行いましたが、目的は北朝鮮の6者復帰でした。

世界の世論の主流は平和を愛好し、武力行使をするなです。このことはイラク戦争、レバノン紛争などで示されています。日米同盟は日本を守ると主張しますが、東アジアの状況は、朝鮮半島の南北融和の前進、6者協議の前進があります。中国は台湾の独立を絶対認めない立場です。国連も中国の代表権は一つだけだとしています。従って中台の問題は国内問題です。日本も米国も一つの中国を確認しています。台湾が独立の動きを際立てない限り、中国と台湾の関係は、経済関係や人的交流の拡大など共存を目指す方向です。この関係は共に利益があると考えています。私は国家などと言う枠組みの観点から見ずに、両地域に住む人たちが共生できる方向を目指すことだと思います。

番組でも紹介されていましたが、日本の周辺地域で米国の艦船が攻撃を受けたときに併走する海上自衛隊の艦艇が応戦すると言うケースが集団的自衛権の研究例に入っていますが、米軍がどのような目的で行動してどうして攻撃を受けたかが問題なのです。他国の問題に軍事介入している場合があります。

読売新聞の主張は、米国は日本を守るのに、日本は米軍を守らないことで良いのかという主張です。このことについては具体的な討論がありませんでした。

読売新聞が、イラク戦争はイラクの大量破壊兵器は疑うに足る理由があった。日米同盟を壊さないために米国への協力以外選択肢がなかったと番組で述べましたが、日米同盟が壊れて打撃を受けるのはむしろ米国です。在日米軍のイラク攻撃の発進基地となり、兵站基地となっています。米国との友好国であるドイツとフランスは、イラク戦争に反対してブッシュ政権と厳しく対立しました。しかし、修復への努力を行いイラク戦争開始当時ほどの対立はありません。国連を無視した米国の単独行動主義が一定程度是正されたからです。

番組には猪瀬直樹氏ほか、改憲を主張する人がもう1人出ていました。護憲の立場の人も出演させるべきです。猪瀬直樹氏は読売新聞の主張に同調して、イラク戦争に反対し、自衛隊のイラク派遣に反対した朝日新聞に日米同盟を壊しても良いのかと迫りました。毎日新聞は黙っていて見る人には朝日新聞が孤立しているような印象を与えました。朝日新聞は日米同盟の実態を具体的に挙げて反論すべきと思いました。番組の第二部に中曽根康弘氏にインタビューする構成になっていました。番組の構成は憲法を守る立場から言えば公平とはいえないものです。

イラク戦争はイラクの大量破壊兵器は疑うに足る理由があったとして、番組でも支持を主張する読売新聞は2001年からの国際情勢を正確に見るべきです。9・11テロ事件のショックで冷静さを失いブッシュ政権の軍事路線に乗せられた米国民は、イラク戦争を起こした当初は80%前後の人がブッシュ政権を支持し、米国の主要新聞もイラク戦争政策を支持しました。それらの新聞は2004年に、イラク戦争の検証した記事で自らの誤りを認め、政府に寄り添ったことを反省しています。このようなマスメディアの報道姿勢が米国民に影響を与えました。米民主党も当初はイラク戦争を批判しませんでしたが、イラク戦争が深刻化するに伴いイラク戦争は誤りだったと批判して中間選挙で勝利しました。

本年5月5日に発表した米国の有力雑誌「ニューズウィーク」の世論調査は、政権支持率は28%となり、イラク政策ではイラクに軍隊を増派したブッシュ大統領は「正しいことをしようとしている」と答えた人は30%しかなく、62%の人がその逆の評価でした。イラクは内戦状態でマリキ政権も分裂の様相が強く表れ始めています。

読売新聞は安全保障の分野で、権力に対する監視というジャーナリズムとしての重大な役割を放棄して、自民党政府にほぼ同調した結果、イラク戦争への対応で政府と同様の誤りを犯しています。しかし、それへの反省はありません。読売新聞が国連決議に基づく自衛軍による国際貢献を主張していても、イラク攻撃容認決議のなかったイラク戦争を支持したことで馬脚を現しています。米国には是々非々で臨むのではなく、米国の行動に反対することは日米同盟を壊すという立場をとる以上、自衛軍の運用の仕方は米国への追従が予測されます。そして米国の行うことは国際貢献と評価するに違いありません。

3紙とも国連安保理の決議があれば、自衛隊は国連平和維持活動を積極的に行うべきと主張しています。朝日新聞は集団的自衛権行使はしないとして、湾岸戦争のような明らかに侵略を受けた場合は、医療などの後方支援に当たれば良いとしています。読売新聞は武力行使で参加する立場で、毎日新聞の態度は私にはわかりませんでした。そこで、7日に図書館で毎日新聞の3日付の「社説」を読んでみました。社説には《カナダは米国のイラク派兵要請を断ったが、対米関係は悪化していない。アフガニスタンの国際治安支援活動に貢献しているからだ。国連加盟国が安保理決議に基づき集団で行使をする「集団安全保障」と、個々の国が同盟国を守るため武力行使する「集団的自衛権」とは、まったく別の概念だ。混同して議論されている》と述べてあります。毎日新聞と朝日新聞は米国のアフガニスタン戦争を肯定的に捉えています。この戦争は9・11テロ事件の報復攻撃です。9・11テロ事件は3千人近い犠牲者を生んでいます。アフガニスタン戦争は既に数万人の犠牲者を生み出しており、攻撃方法も無差別殺戮兵器のクラスター爆弾を使用しています。このような戦争が正しいとはいえません。

「集団安全保障」と「集団的自衛権とは概念としては違うものですが、現実の状況は複雑です。アフガニスタン攻撃は国連も認めていますが、イスラム社会の反発を買い、非人道兵器を使用して多くの人命を犠牲にしています。武力を主体にしたテロとの戦いは成功を納めていません。小泉政権と安倍政権は安保理決議1441を持ち出してイラク攻撃の正当性を主張しています。国連の承認があるとしても、日本国憲法の武力で国際紛争を解決するなと言う理念や、人道上大きな問題がある場合は、なおさら、海外で武力行使が出来ないとする明確な憲法での基準が必要だと思います。

私は国連が多く行っている停戦成立後や国際部隊の受容れ容認を前提にした国連平和維持活動の中の武装解除、兵力引き離し、停戦監視をしている時にどの程度、任務の遂行時に武器を持った人たちの妨害を受けて、武器を使用して妨害を排除する事件が起きているのかを知らなければと思いました。現在は法律的には「PKO協力法」で可能になっていますが、自衛隊は、武装解除、兵力引き離し、停戦監視の任務を行うには武器使用の基準を他国並みにしてもらわないと出来ないと述べています。いずれにしても海外で武力行使が可能という風穴を空けられると、政権党は、日米同盟も世界の平和を守るためにあると主張していますからこれに転用される恐れは十分にあります。

肝心なのは憲法9条を守りながら、国際貢献を行なう立場を堅持して、国際貢献は様々な分野があり、武装解除、兵力引き離し、停戦監視の活動のPKFが積極的に出来ないとしても、そのことで国際貢献が足らないという主張に反撃しなければと思います。この主張の到着点は集団的自衛権の行使です。

改憲派の攻撃のターゲットはNHKと朝日新聞だと言われています。NHKの最近放送された「焼け跡から生まれた憲法」、「日本国憲法誕生」は史実を丁寧に掘り起こして、マッカーサー憲法草案に携わった人たちの経歴(肩書きは軍人ですが米国では法律の仕事をしていた)や当時の証言を伝え、憲法を生まれた経緯や当時の日本人が民主と平和思想を身につけていた姿を描いています。これを見た現在の人たちは「押し付け憲法論」は確実に通用しないと思います。