いせ九条の会

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安倍政権、戦後体制から船出の船のもやいを解く/山崎孝

2006-10-27 | ご投稿
10月27日付け共同通信電子版報道より 衆議院運営委員会は10月26日、防衛庁を「省」に昇格法案について27日午後の衆議院本会議で審議入りする日程を採決し、自民、公明両党の賛成多数で可決した。(中略)民主党は「北朝鮮の核実験問題が解決しない段階で議論するのは時期尚早」との立場。共産、社民両党は法案そのものに反対しており、教育基本法改正案とともに与野党の攻防の焦点になりそうだ。(後略)

朝日新聞の報道では、公明党は来年の統一地方選挙や参院選への影響を避けるため、防衛庁「省」昇格法案の今国会の成立を強く望んでいると伝えています。これは正に、この法案が平和の党の看板と相容れず看板を大きく傷つける性格の法律であることを物語っています。

10月26日付け「しんぶん赤旗」からの情報を紹介します。防衛庁から防衛省になることは、たんなる名称変更ではありません。内閣府の一外局の「庁」から独立した「省」になれば、「防衛大臣」は内閣府の主務大臣である総理大臣を通さずとも、閣議開催要求、省令制定、予算要求が可能になるなど権限は拡大します。これは、憲法の制約を受けて防衛「庁」とし、防衛行政をいまの仕組みにとどめた政府の立場をくつがえす重大問題です。

 憲法九条は、軍部の暴走を許した侵略戦争の反省に立ち戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認を明記しています。このため政府は、自衛隊を「自衛のための必要最小限度の実力組織」だといいつくろい、防衛庁を内閣府の一外局の組織にしました。

 戦前は軍部が幅を利かし、外務省などの他省庁をらち外において領土拡張政策を進める推進力になりました。歴代首相が防衛「省」化を否定してきたのは、こうした過去の苦い経験をふまえてのことです。

 一九六〇年の安保国会で、安倍首相の祖父であり、太平洋戦争開戦時の東条内閣で商工大臣をつとめた岸首相(当時)は、「戦後の新憲法のもとにおける防衛というものは、旧憲法のときの軍部、陸海軍とかその他のような立場を絶対にとらしてはならない。国防省という考え方が、(権力肥大化の)懸念を伴う」と答弁しています(六〇年五月十六日衆院内閣委員会)。また、中曽根首相も「憲法そのほかの関係から見て、総理大臣の直属の庁にしておいたほうが適切」といいました(八六年十二月九日参院内閣委員会)(以下省略)

★10月23日付け朝日新聞は、安倍首相は10月23日の衆院本会議で、自衛隊の海外派遣を可能にする一般法(恒久法)の制定について「国民的議論を十分踏まえた上で、幅広く進めていく」と述べた。政府として自民党の条文案をもとに検討作業を加速させるものだ。ただ、閣内には「一くくりの法律を作るのは技術的に難しい」(久間防衛庁長官)と慎重論があり、公明党にも異論がある。政府・与党内の調整は難航しそうだと伝えています。

安倍首相はこの恒久法に関した国会答弁で「国際社会の多様な取り組みに機動的に対応し、わが国として的確な国際協力を推進する必要がある」と述べています。しかし、自民党の条文案は、これまで必要だった国連決議や国際機関の要請がなくても自衛隊の海外派遣が可能になっています。この自民党の条文案から察するに、安倍首相の「わが国として的確な国際協力を推進する必要」は、自民党政府の先制攻撃さえ正当化してイラク戦争への協力した経緯から見ても、「米国への的確な協力」という考え方だとも言えます。

★10月24日付け毎日新聞電子版は、久間防衛庁長官は24日の参院外交防衛委員会で、憲法解釈で禁じられている集団的自衛権行使の問題について「何十年も前の解釈が現時点でも変わらないことがいいのか。状況は変わってもいると思うので、立法府でも議論すべきだ」と述べ、政府が示してきた憲法解釈の是非を国会で議論すべきだという考えを示した、と報道しました。

「何十年も前の解釈が現時点でも変わらないことがいいのか。状況は変わってもいると思う」ではありません。2003年には日本の集団的自衛権行使の是非が問われた状況に具体的に直面したのです。自衛隊は憲法の制約を受けて、イラクの「非戦闘地域」に派遣されましたが、2006年1月、日米防衛首脳会談では、イラクの治安維持の要請を受けたのです。しかし、2004年10月の朝日新聞紙上で内閣法制局長官が示した「我が国が武力攻撃を受けて、国民の生命、財産が危機にある時に、黙ってみていることは国家としてはありえない、という立場をとってきた。国家の最低限の義務として自衛権は行使できる。ただ、集団的自衛権はそれを超えている」の見解が確立していたため、日本は「現行法では困難」と断ることが出来、反米武装勢力と交戦をしなかったために、自衛隊員から戦死者が出なくて済みました。現在119人の死者を出した英軍のようにはならなかったのです。

米国とは自由と民主主義という価値観を共有すると考えている安倍首相や久間防衛庁長官は、英陸軍のリチャード・ダナット参謀総長の言葉「もともとの意図は自由民主主義を植え付けることだった」が、「私たちがそれを実現するとは思えない」、「私たちの駐留は治安を悪化させており、近いうちに手を引くべきだ」、「イラク人の意思を無視した強引な軍事行動と軍駐留が、イラク情勢の泥沼化やロンドン同時テロを含むテロ拡大の要因となっている」という反省に耳を傾けるべきです。

★防衛庁の省昇格法案は、共同通信10月27日付けは、《民主党は「北朝鮮の核実験問題が解決しない段階で議論するのは時期尚早」との立場》と報道していましたが、27日の朝日新聞朝刊には、民主党は《法案そのものには反対しておらず、集中審議を含む審議時間の十分な確保などの条件付で審議に応じる方針を固めため》法案は《今臨時国会で成立する公算が大きくなった》と報道しています。

専守防衛の任務から海外での活動への軸足を移す防衛庁の省昇格法案の審議入り、国のために戦う若者を作ることを意図した教育基本法改定案の審議入り、集団的自衛権行使の出来る憲法改定のための一里塚である国民投票法案の審議入りの状況が作り出されています。安倍首相の考える戦後体制からの船出の船のもやいが一斉に解かれました。戦争が出来る日本への船出です。

10月19日投票の沖縄県知事選で、「沖縄に新たな米軍基地を作らせない」とする革新統一候補、糸数慶子候補が勝利をおさめ、対米追随路線に打撃を与えることを切に願っています。