いせ九条の会

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読売新聞と中日新聞の社説を比べる/山崎孝

2008-12-17 | ご投稿
【新テロ法成立 給油継続の「次」も考えたい】(12月16日付・読売社説)

 我が国が「テロとの戦い」から離脱する事態は避けられたが、これで十分とは言えない。

 今後、国際平和活動にどう関与していくかを考え、着実に行動に移すことが肝要だ。

 改正新テロ対策特別措置法が、参院で否決された後、衆院の3分の2以上の多数で再可決、成立した。海上自衛隊によるインド洋での給油活動の期限が来年1月15日から1年間延長された。

 インド洋では、米英仏パキスタンなどの艦船10隻前後が、テロリストらの海上移動や麻薬・武器輸送の監視、摘発を続けている。今年2~6月だけでも麻薬30トンを押収するなどの実績を上げた。

 アフガニスタンの治安回復に直結するものではないが、テロリストの行動を制約し、資金源を断つうえで重要な任務である。この海上阻止活動にとって、海自の給油活動は欠かせない存在だ。

 日本は最低限の責務として給油活動を継続せねばならない。

 改正特措法の審議では、民主党の政局優先の対応が目立った。

 当初は、衆院解散を促す思惑から「早期採決」を主張したが、解散が遠のくと、「慎重審議」に方針転換した。さらに第2次補正予算案が今国会に提出されないことを理由に「徹底抗戦」に入った。

 参院では11月中旬以降、約1か月間も改正特措法の審議を一切行わなかった。

 民主党は、給油活動に反対するだけで、現実的な対案の党内論議さえ回避してきた。次期衆院選前は、とにかく党内対立を“封印”したいのだろう。こうした姿勢では政権担当能力に疑問符がつく。

 給油活動の継続以外にも、今後、取り組むべき自衛隊の海外派遣に関する課題は多い。

 最も迅速な対応が求められるのは、ソマリア沖の海賊対策だ。

 政府は、現行の自衛隊法の活用と新法制定の両にらみで海自艦船の派遣を検討している。

 現地を航行する民間船舶の1割超を日本関連の船舶が占める。その船が重大な被害を受けるまで具体的行動を取らないようでは、政治の怠慢のそしりは免れまい。

 新テロ特措法を1年ごとに改正する手法も見直す必要がある。国際情勢に機敏に対応するため、自衛隊の海外派遣に関する恒久法整備に本格的に取り組むべきだ。

 オバマ米次期大統領がアフガンへの部隊増派を発表するなど、国際社会はアフガン重視の姿勢を強めている。日本も、自衛隊のアフガン派遣について、より真剣に議論する時期が来ている。(以上)

【空自イラク撤収 徹底検証が政治の責務】(2008年12月16日の中日新聞社説)

 空自がイラクでの活動を終え撤収を始めた。約五年に及ぶ自衛隊の「戦地派遣」の実態は経緯も含め不透明な点が多い。徹底的な検証が必要だ。ふがいなさが目立つ政治の責任放棄は許されない。

 米英による二〇〇三年のイラク攻撃を機に、当時の小泉政権は戦闘状態が終結していない「戦地」への初の自衛隊派遣を決断した。生命の危険にさらされる厳しい環境下で、一人の犠牲者も出さずに任務を終えることになる。

 陸自と空自は〇四年から活動を開始。給水や道路復旧などに従事した陸自の〇六年撤収後も、空自は多国籍軍の要員や支援物資の空輸に当たってきた。イラクの治安状況回復などを踏まえ、政府は人道復興支援の活動目的を達成したとしている。

 だが自衛隊活動をめぐっては、米軍支援の色彩が強かった印象がぬぐえない。特に空自は八百二十一回の飛行で四万六千五百人と物資六百七十三トンを空輸。詳細は不明だが、大半は米兵や米軍関連物資とみられる。空自機は米軍から「タクシー」とも呼ばれていたという。国際貢献の名に値する活動だったのかどうか。

 名古屋高裁は空自活動を違憲と判断した。政府は「国際社会が高く評価した」と自賛するのなら、国民に見えにくかった活動を明らかにし、憲法との整合性など国会のチェックを受けるべきだ。

 イラク攻撃を日本政府が支持したことの総括もできていない。ブッシュ米大統領ですら開戦理由とした大量破壊兵器が見つからなかったことを「最大の痛恨事」と言及した。それにもかかわらず支持判断は正しかったと、政府がかたくなな姿勢を取り続けるのは不可解だ。方針決定過程を精査し説明責任を果たすことが肝要だ。

 今後「テロとの戦い」の焦点は、イラクから治安悪化が著しいアフガニスタンへと移る。

 与党は先週末、インド洋での給油活動継続法を衆院再可決で成立させたが、アフガンシフトを鮮明にするオバマ米次期政権は、日本に本土派遣も含めたさらなる人的貢献や資金提供を強く迫ることが予想される。

 政府に求められるのは「次」の貢献をあたふたと決めることではない。軍事偏重でなく「平和国家・日本」にふさわしい骨太な外交指針を打ち出すことだ。本来は民意の支持を受けた本格政権が手掛けるべき課題である。衆参ねじれ国会と弱体化が進む麻生政権下での政治空白のツケは重い。(以上)

【コメント】中日新聞の社説は《イラク攻撃を日本政府が支持したことの総括もできていない。ブッシュ米大統領ですら開戦理由とした大量破壊兵器が見つからなかったことを「最大の痛恨事」と言及した。それにもかかわらず支持判断は正しかったと、政府がかたくなな姿勢を取り続けるのは不可解だ》と批判しています。この批判は政権与党と同じ立場を取った”読売新聞社”にも当てはまります。読売新聞は《給油継続の「次」も考えたい》と言う前に、自ら支持したことの検証をすべきなのです。

読売新聞の社説は《最も迅速な対応が求められるのは、ソマリア沖の海賊対策だ》と述べた後、《自衛隊の海外派遣に関する恒久法整備に本格的に取り組むべきだ》と述べています。これを見れば、ソマリア沖の海賊対策が単なる警察的な活動を意味しているだけではなく、海外での自衛隊の武力行使の流れを作りだすことを企図していることは明らかです。

中日新聞社説が述べるように《軍事偏重でなく「平和国家・日本」にふさわしい骨太な外交指針を打ち出すこと》が大切だと思います。政府は国のあり方を決めた憲法を守り活かさなければなりません。

私たちが目にしている米国の軍事による国際紛争を解決しようとした結果の現実は、《バグダッドを14日に訪問したブッシュ米大統領に対し、記者会見で靴を投げ付けたイラク人記者を称賛する声が、イラク国内で広がっている(中日新聞報道)》、《アフガニスタンとイラクへ侵攻したブッシュ大統領の任期終了間際に起きた事件は、アラブ社会の根深い反米、反ブッシュ意識を改めて浮き彫りにし、オバマ次期政権に「米国への信頼回復」という重い課題を突きつける(毎日新聞報道)》という状況です。米国にとっても大きなマイナスの結果を生み出しています。

新聞社は事実と真実をしっかりと見据える目を持ち、誤った場合は米国の新聞のように反省しなければならないと思います。

2004年に、自国政府の主張に重きを置いて編集したワシントン・ポスト紙は「戦争に向けて打ち鳴らされるドラの音に警戒や疑問がかき消されていった」と、報道検証で反省しています。ニューヨーク・タイムスも反省しています。