いせ九条の会

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読売新聞社が主張する日本の国際平和活動の中核とは/山崎孝

2008-04-19 | ご投稿
まず初めに4月18日付・読売社説を紹介します。見出し「イラク空自判決 兵輸送は武力行使ではない」

イラクでの自衛隊の活動などに対する事実誤認や、法解釈の誤りがある。極めて問題の多い判決文である。

航空自衛隊がクウェートとイラクの間で実施中の空輸活動の一部について、名古屋高裁は、国際紛争解決の手段としての武力行使を禁じた憲法9条に違反するとの判断を示した。

市民団体メンバーらが空自のイラク派遣の違憲確認と差し止め、損害賠償を国に求めていた。

判決は、原告の請求をいずれも退けた。違憲確認の請求についても「利益を欠き、不適法」と判断している。それなのに、わざわざ傍論で「違憲」との見解を加える必要があったのだろうか。

国は、訴訟上は勝訴したため、上告できない。原告側も上告しないため、この判決が確定する。こうした形の判例が残るのは、好ましいことではない。

イラク復興支援特別措置法は、自衛隊の活動について、人道復興支援などを「非戦闘地域」で行うよう定めている。

判決文は、イラクでの多国籍軍と国内の武装勢力との抗争を「国際的な戦闘」と“認定”した。それを前提として、空自による多国籍軍兵の空輸は「他国による武力行使と一体化した行動」で、武力行使に当たる、と結論づけた。

だが、多国籍軍による武装勢力の掃討活動は、イラクの安定と安全への貢献を求めた2003年5月の国連安全保障理事会決議1483などを根拠としている。イラク政府も支持しており、正当な治安維持活動にほかならない。

仮に掃討活動が武力行使だとしても、憲法上の問題はない。空自による多国籍軍兵の空輸は、武力行使と一体化しないからだ。

内閣法制局は、「一体化」の有無を判断する基準として、地理的関係、密接性など4項目を挙げている。空自の輸送機から降り立った兵士がすぐに戦闘活動を開始するなら、一体化する恐れもあるだろうが、実態は全く違う。

判決文は、バグダッドが「戦闘地域」に該当するとしている。

だが、イラク特措法に基づく基本計画は、空自の活動地域をバグダッド空港に限定している。空港は、治安が保たれ、民間機も発着しており、「戦闘地域」とはほど遠い。空港が「戦闘地域」になれば、空自は活動を中止する。

イラク空輸活動は、日本の国際平和活動の中核を担っている。空自隊員には、今回の判決に動じることなく、その重要な任務を着実に果たしてもらいたい。(以上)

★名古屋高裁判決が《現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支遼を行っているものということができる。少なくとも多国籍軍の武装兵員を戦闘地域であるバグダッドに空輸するものについては他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない》と判断したことを、読売新聞の社説は、空自による多国籍軍兵の空輸は、武力行使と一体化しない。空自の輸送機から降り立った兵士がすぐに戦闘活動を開始するなら、一体化する恐れもあるだろうが、実態は全く違う、と主張しています。

戦争は戦場での戦いと後方からの戦場に対する兵力の補給、武器の補給、戦闘員を交代・休養させ再び戦場に送り込むことが一体となって戦争遂行能力が機能して戦争が継続できます。読売新聞の社説の《空自の輸送機から降り立った兵士がすぐに戦闘活動を開始するなら、一体化する恐れもあるだろうが》という主張は、この戦争の常識を踏まえない主張です。航空自衛隊は米軍を主体とする多国籍軍の兵員輸送の役割を担っていますから、武力行使=戦争と一体となった活動になります。

読売新聞の社説は、多国籍軍は正当な治安維持活動と主張しています。この多国籍軍は米英が国連安保理でイラクに対する武力行使容認決議の取り付けが出来なくて「有志連合」と呼ばれていたのが多国籍軍になったものです。大半は米国への義理立てで参加していて、多い時は39カ国の参加がありましたが、現在は21カ国になっています。ちなみに国連加盟国は190を超えています

義理立てというのはその証拠に、イラクの治安が全然回復せず、目的が果たせていないのに撤退する国が多く出ているからです。そして、有力な参加国の英国や豪州は兵力を削減する意向を示しています。もうひとつ国際的な正当性がないこととして、スペイン、イタリア、オーストラリアなどは、イラク撤退を主張した野党が勝利して政権交代が起きています。英国のブレア政権も選挙で負けています。

読売新聞の社説は、《イラク空輸活動は、日本の国際平和活動の中核を担っている》と主張しています。この主張は改憲の目的の本音が出ています。読売新聞社は自民党の改憲案に大きな影響を与えたといわれます。読売新聞社は泥沼に陥っているイラクの戦争に加担するようなことでも、日本の国際平和活動の中核と考えるのです。すなわち、如何なる事態でも米国に軍事協力をする、日米同盟において集団的自衛権行使することが、日本の国際平和活動の中核と考えているのです。

★町村官房長官は18日、記者会見で名古屋高裁判決について次のように語りました。《「国に準ずる組織」にどういう理解をしているのか。その辺の誤りが裁判所にあるのではないか》。政府はイラク特別措置法で、空自が行なう後方支援が武力行使と一体と受け取られないために、「国に準ずる組織」という概念を考え、テロ組織は「国に準ずる組織」ではないから武力行使と一体にならないと主張してきました。しかし、テロとの戦いの実態を見れば、米国が16万人の兵力を投入しても治安維持が出来ないということは、単なるテロリストとの戦いでないことは明らかです。米軍のイラク侵略・占領に抵抗する勢力との戦いが基本的な性格です。そこに破壊だけを目的にしたようなアルカイダをイラクに引き寄せた格好になっています。米国が引き起こした国際紛争です。

名古屋高裁は《行為主体が一定の政治的な主張を有し、国際的な紛争の主体者たり得る実力を有する相応の組織や軍事力を有する組織体で、主体の意思に基づいて破壊活動が行われていると判断される場合は、その行動が国に準ずる組織によるものに当たり得るとの見解が示されている》、そしてイラクの紛争を《武装勢力は海外の諸勢力からも援助を受け、米軍の駐留に反対する等の一定の政治的な目的を有していることが認められる》と述べています。政府こそがイラクでの紛争・戦争の実態をごまかしているのです。

政府は憲法違反の政策は止めなければなりません。多国籍軍の後方支援の活動は違憲とされるのに、政府が検討している自衛隊海外派遣恒久法では、アフガニスタンの国際治安支援部隊に参加して、治安維持活動も想定されています。国会は憲法違反となる法律を議決してはなりません。アフガニスタン戦争は米国の報復から始まっています。イラク同様に他国の政権を武力で打倒しましたが、その後始末が出来ないで泥沼に陥っています。そのために多くの人命が奪われました。イラクも同様の状態です。