いせ九条の会

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維新の志士と現代の靖国神社参拝にこだわる政治家/山崎孝

2006-08-25 | ご投稿
私は8月19日のブログへの投稿で産経の社説を批判しました。「特に、春秋の例大祭は、安政の大獄で刑死した幕末の思想家、吉田松陰らすべての国事殉難者を慰霊の対象としており、終戦記念日の参拝とは違った意義をもつ。」このくだりに対して「産経の社説は想像力が欠如しています。一例を上げれば、国事殉難者として名前を上げた吉田松陰は、外国を排他する尊皇攘夷・鎖国では、これからの日本は立ち行かないと考え、外の世界を見ようとして密航を企て処罰されています。この吉田松陰の外の世界との関連で日本を捉える視点と、小泉首相の隣国を無視する排他性を帯びた外交姿勢とを比較してみる想像力が働きません」と述べました。この批判とよく似た発想をして、論考を深め発展させた文章がありました、紹介します。

8月23日の朝日新聞の「オピニオン」頁「世界の窓」欄で、天児慧早稲田大学教授は、「幕末の志士から何を学ぶ」と題して、首相の靖国神社参拝にこだわる政治家と吉田松陰や坂本竜馬らと比較してその先見性を述べています。

天児慧さんは、小泉首相は執務室に吉田松蔭のブロンズを飾っていることを一例にあげて、靖国にこだわる政治家らを、維新の志士の何に憧れ、尊敬しているのだろう。新しい日本の国造りに命を賭したカッコ良さか、と述べています。

靖国にこだわる政治家を「未来へのメッセージを示すこともなく、国際社会からの孤立化と日本のプレゼンス低下をものともせず、ひたすら『靖国という過去』に固執し、自我を通し続けることがいかに愚かなことであるか」と批判しています。

維新の志士たちを「彼らの凄さは日本が『鎖国の平和』をむさぼっている時代に、いち早く新しい変化の徴候を嗅ぎ取り、それがとてつもなく重大なことだと受けとめたことにある。藩という狭い世界を打ち破り、世界を視野に入れて日本の行く道を指し示したことにある。そのために勇気と知恵を持って『西欧列強の侵略』をかわし、旧体制を打破して新体制を打ち立てることに全力を投じたことにある」と述べています。

そして、現在のアジア情勢を「協力や相互依存が深化して、やがてうねりとなっていくであろうアジアの連帯・統合への胎動である」と述べています。これの具体的説明を2005年の国内総生産(GNP)は、日本、中国、韓国、香港、台湾だけで8兆ドルを超え、これに東南アジア諸国連合を加えるとほぼ9兆ドルとなる。域内の貿易・投資・技術移転なども急速に拡大している。これはEUの13兆ドル強、米国の12兆ドル強に次ぐもので、緩やかながら、すでに世界第3位の経済圏が生まれていることを指摘しています。

アジア域内の技術移転の例では、日本が中国に進出して中国の労働者を指導していた金型産業では、技術を習得した中国人労働者が独立して企業を立ち上げて日本企業の手ごわい競争相手になっています。中国企業は全体として競争力が増して近い将来、日本企業にとって手ごわい競争相手になると言われています。これに対抗して日本と台湾が連携して中国に進出する動きが強まっていると言われています。中国はこれを歓迎しています。台湾は中国大陸進出企業に優遇措置をしています。日本が政治的に対立していては競争力に悪い影響を与えます。

天児慧さんは最後に「アジアの現実と新しい胎動を直視し、歴史の使命感を感じて欲しい」と述べています。

天児慧さんは「新しい日本の国造りに命を賭したカッコ良さか」と靖国神社参拝にこだわる政治家を批判していますが、これは形ではなくて、情勢を的確に把握してその流れに過ちのない日本の対応する考えだと思います。

この観点で過去と現在を見れば、日中戦争は、中国人の抵抗を過小評価して泥沼にはまり、日米戦争では米国の国力を過小評価して生産力と科学力に対して神風精神で対抗して敗北、国土を焼け野原にして310万の日本人と犠牲と他国に多大な損害を与えたがこれに対する反省を真っ当にしない。現代においてはイラク戦争では戦争で国際紛争を解決しないとした憲法の理念を放棄して、国連加盟国の多数が日本国憲法の理念を実践する動向を読み間違い、戦争を支持し加担した。その反省すら政府はしていません。これを見れば歴史に学ぼうとしない者は、現在と未来において盲目になるの通りです。人間は過ちは犯しますがそこから教訓を学ばなければと思います。

自民党総裁選では小泉政権が損ねた隣国との関係をどう改善すべきなのか争点にせよと言う意見のある中で、安倍官房長官が政権公約で打ち出したのは日本版「国家安全保障会議」でした。これの狙いは日米同盟が主眼と言われています。日米同盟は冷戦時代の産物で、冷戦が終わり15年経った今でも変えようとせずに逆になおも強化します。中国とはこれも冷戦時代の産物であった「政経分離論」を持ち出してきます。しかも日本が仕掛けた戦争に関る歴史の認識問題を棚上げにする政経分離ですから従来のものより異質の性格のものです。これで良好な日中関係が成立するはずがありません。天児慧さんは「…いかなる言い分はあれ、仕掛けたのは日本だった。そこを十分に認識したうえで両国の人々の気持ちに配慮し、信頼と協力の関係づくりに全力を尽くすのが我々の使命であるまいか…」と述べています。

時代の大局的な流れの方向が政治統合さえ俎上にのぼっている時代において、国の上部構造と下部構造に当たる政治と経済を分離する主張は時代錯誤です。吉田松陰を祀る吉田神社さえある出身地の安倍氏は、吉田松陰の思想に見習い、天児慧さんの言われる「アジアの現実と新しい胎動を直視し、歴史の使命感を感じて欲しい」の言葉に耳を傾けて欲しいと思います。