一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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世界の音楽に開かれた「こぶし」【その1】

2006-09-08 11:34:54 | Art
音楽的に「こぶし」が演歌の一つの特徴になっているのは、ご存知のとおり。、
しかし、その評価となると、けっして芳しいものではありません。
『音楽事典』の類によれば、
「演奏者の好みで即興的につけられるが、過剰にすぎるとかえって歌の品位格調を低下させる」
となっていて、クラシカル音楽サイド(しかも、〈バロックー古典派ーロマン派〉といった狭い範囲の)からの見解が述べられているのが通例のようです。

時代を遡ってみると、
「もともと観世流謡曲の用語にあったものが派生して民謡や歌謡曲の歌い方に使われるようになった」
とあり、「ことば」としての源流は「能楽」のようです。

けれども、「節」としての「こぶし」は、もっと古い時代の音楽にも聴くことができます。

とりあえず、最も古い音楽を伝えていると思われる「雅楽」。
「雅楽」には、朝鮮半島・中国大陸・シルクロード地域・東南アジアなどの広い範囲の音楽が伝えられている(「大陸系舞曲」)ほか、日本列島各地で古くから行なわれていた神事的音楽(「神道系祭祀曲」)や、催馬楽や朗詠といった「和製藝術歌曲」、も含まれています(蒲生美津子「雅楽の種類と形式」による)。

これらの「歌」のどれにも、「こぶし」を聴くことができるのね。
たとえば、朗詠の一つ「春過(はるすぎ)」。

歌詞のまとまりの終りには、必ずといっていいほど、装飾的な節の揺らし=「こぶし」があります。
現在、「歌会始」で和歌が詠まれるとき、「こぶし」を聴くことはできませんが、これも元々は、この朗詠のような歌い方がされていたんじゃあないかしら(明治以降、西欧音楽の美学に基づいて「こぶし」をなくした可能性が大きい)。

この項、つづく


参考資料 
 『雅楽の世界』上・下 (Columbia COCF-6194~5)
 柿木吾郎『エスニック音楽入門ー民族音楽から見た音楽と教育』(国土社)
 江波戸昭『世界の音 民族の音』(青土社)

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