一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

最近の拾い読みから(63) ― 『世界の音 民族の音』

2006-09-09 07:23:22 | Book Review
このところ、民族音楽に関する適当な本がないかと思って、いろいろ当っていたのですが、結果的には「帯に短し、襷に長し」の感のするものが多いのですね。

もっとも小生の要求するところに、巧くフィットするものがないというだけなのかもしれませんが、どうやら、それだけでもないらしい。

このジャンルの本、傾向を見ていくと、

 (1) 民族音楽(特に楽器)についてのカタログ本
   *CD/DVDに関するカタログ本を含む。
 (2) 音楽教師(公教育での)向けの解説本
 (3) 研究者向けの専門書

に分類されるものが多いようです。

(1)は、民族楽器大好きオジサンが書いたようなマニアックなエッセイに、楽器やCDなどのカタログが付いたような構成。
著者は、ほとんどが団塊の世代で、1960年代後半から1970年代に日本を脱出、インドやインドネシアなどを放浪してきた、というようなタイプ(「エコロジスト」にも通じるところ大)。

愛好の度合いや、熱情のありようは分るのですが、どうも文章や構成に難があることが多い。
理論的でないことと、地域や楽器の種類などに偏りがあることが原因なんでしょうか(文章にクセのある著者が多いようです)。

(2)の背景にあるのは、音楽科の学習指導要領が、「我が国の伝統音楽及び世界の諸民族の音楽を含めて扱う」というように変ったことでしょう(この指導要領改訂に関する批判については、ひとまず置いておく)。

西欧音楽にしか触れてこなかった教師が、急遽、民族音楽を教えなければならない、ということで、このような本への需要が高まった、というわけです。
まあ、網羅的な知識のまとめとしては役立つのですが、なぜ民族音楽に触れねばならないのか、とか、民族音楽の背景にある社会をどのように見ればいいのか、という問題意識には欠けているものが多い。  

かといって、「テトラコード」「セント法」「ウェーバー-フェヒナーの法則」などという用語が頻出する(3)を読むのもつらいものがある(文化人類学ジャンルの専門書なら、なんとか取っ付けるんだけどね)。

まあ、そういったことで、これなら読むにも苦にならないかな、と思えたのが、江波戸昭『世界の音 民族の音』だったのです。

もちろん、いろいろな意味で、言いたいことのある本ではあります。
民族音楽の本質とはあまり関係のない点では、
「すでに騎馬民族説はかなりの賛同を得ている」
とか、
(民族音楽の発展のためには)「民族文化に支えられた優れた芸術・芸能を、他の価値基準からして抑えたり、矯めたりすることなく紹介しうる地方的な民族資本の形成」が「望ましい」
など、「おいおい、ちょっと待ってくれよ」となってしまいます。

また、雑誌に掲載された原稿を集めたということから、統一性に著しく欠けているという点も、読んでいて気になるところ。

とは言え、一般読書人向けの民族音楽書としては、理論的裏づけ(「西洋音楽の源流としてのイスラム音楽」など)や興味深い発想(「こぶしロード試論」など)を含めて、それなりに読めるものとなっているのではないでしょうか。

江波戸昭(えばと・あきら)
『世界の音 民族の音』
青土社
定価:2,136円 (税別)
ISBN4-7917-5172-8

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