一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

編集者へ一言

2007-04-13 06:00:56 | Essay
この本自体は、小林信彦がさまざまな媒体に書いた雑文を集めた、いわゆる「エッセイ集」です。
ですから、本の内容については、特に言うことはありません。
今回触れたいのは、むしろ、この本全体の作り方なのです。

気になるのは2点。

まず1点は、裏カバーに書かれた「惹句」です。
短いので全文引用します。
「あなたは最近、心の底から笑ったことがありますか?本当に楽しいと思ったことは?それがないのは、あなたが何か大切なものを失ったからです―。援助交際や凶悪な犯罪の増加など、どこかおかしいこのごろの日本人。そのワケを、鋭敏な時代観察者の著者が見事に解きあかします。バブル後の東京、人さまざま、本のうわさなど、多彩なテーマで日本の今と未来がわかるエッセイ集。」

違うだろうが!
そんな「本当に楽しいと思ったこと…がないのは、あなたが何か大切なものを失ったからです」なんて、新興カルトじみたことが、どこに書いてあるというんだ!
著者が言いたいのは、「笑いの幼児化、空洞化→消滅」ということ、「ドラマの流れとは別なところでゲラゲラ笑っている」のは「笑っていないのと同じではないか」ということなのです。
そんなことは、著者の作物(さくぶつ)を少しでも読んだことのある人なら、とっくにお分かりのことだと思うのですが。

「この調子で書いていると、一冊の本ぐらいの長さになりそうなので、」第2点に移ります。

巻末解説を、なぜ中野翠に書かせるのか?
小生のイメージですと、中野は、幼少時に身近に児童文学全集があったような家庭に育った、山の手のお嬢様が、今になって〈異国文化〉である落語や歌舞伎のお勉強をし始めた、書き手ではないでしょうか。
つまり、ハビトゥス的には〈下町〉とは、完全に小林とは正反対の存在なわけです。
ちなみに本書に収められた「日本人は笑わない I 」には、このような文章があります。
「〈落語的素養〉というのは、学校やテレビで教えるものではありません。親や家族の会話をきいて、または自力で、子供が少しずつ身につけていくものです。」
どうも、本書の解説者として、違和感を感じてなりません。
第1点と合わせて考えると、この文庫版の担当編集者は、「分っていない」のではないでしょうか(装丁は悪くないのにね)。

「分っていない」編集者に作物を扱われるほど不幸なことは、書き手にはまずありません。
小林氏への同情の念を禁じ得ません。

小林信彦
『日本人は笑わない』
新潮文庫
定価:500円 (税込)
ISBN978-4101158334