一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

最近の拾い読みから(139) ―『たまには時事ネタ』

2007-04-08 10:32:23 | Book Review
小生、斎藤美奈子さんの作物のファンであります。
なにせ『戦下のレシピ―太平洋戦争下の食を知る 』(岩波アクティブ新書)や『冠婚葬祭のひみつ』(岩波新書)のような、文藝評論・書評以外のものまで目を通してしまっているくらいですから。

というのも、以前に書いたように(〈『物は言いよう』を読む。〉)この人の書くものには「藝」があるからです。

『物は言いよう』(平凡社)では「韜晦」という「藝風」を見せてくれましたし、「アマチュア目線」という「藝風」もあります。
いずれにしても、一筋縄ではいかない変化球が持ち味のようで、それが小生好きなところ。

けれども、本書では、なぜか変化球を捨て、真っ向から直球で勝負という路線が多いのね。
これ、なぜなんでしょう。

考えられる一つの理由は、ネタが「時事」、しかも当初のねらいのような、
「新聞でいえば社会面の片隅にひっそりと咲くバカ話。ニュース番組でいえば天気予報の前後に流れる箸休めのトピック。そんなネタを拾い、あくまでアマチュア目線で料理するつもりでいた」
のが、「大ネタ」が主になってしまったことにあるようです。

それだけ、社会が大きく変な方向に流れている時期(「婦人公論」2001~2006年連載分)だったのでしょう。
つまりは、斎藤姐も、危機感を強く感じて、おちゃらけたり、ひねったりしているわけにいかなくなった、というわけ。
その典型が「自民党憲法草案のキモはここ」や「教育基本法の焦点は『愛国心』だけ」のような、新旧の比較記事でしょう。

もう一つは、メディアの特性ということ。
月刊誌とはいえ、定期刊行物にはかなり厳しい〆切があります。それに次々に応えていくためには、原稿を吟味している時間がやはり足りないのね。
そのような面からすれば、単行本書き下ろしのようなわけにはいかない。したがって、ストレートな表現が多くなる、ということになります(書評なら刊行から1、2か月遅くなっても腐らないけれど、時事ネタは腐りやすいからな)。

うーむ、同じネタを、斎藤姐のひねりの利いた「藝風」全開の文章で読みたかった、残念。

斎藤美奈子
『たまには時事ネタ』
中央公論新社
定価:1,365円 (税込)
ISBN978-4120037979