一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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最近の拾い読みから(122) ―『真田密伝』

2007-02-16 10:10:43 | Book Review
鈴木輝一郎の「怪著」(半分は褒めことば)であります。

タイトルのとおり、真田一族の興亡を真田昌幸、信之・幸村を中心に描いたものですが、けっして「歴史小説」ではありません。何しろ、とてつもない真田十勇士が登場し、それも本人が明示しているように、キャラクター設定が立川文庫による、というものだから、お分かりのことと思います。

しかのみならず、「密伝」というのは(おそらく著者の造語でしょう)、単なる忍術の秘伝ではなく、真言密教を基にした「オカルト」的な術なのですから、この小説での幸村でなくとも「眩暈(めまい)と頭痛」がしてくる。

何しろ、清海入道の弟、伊三入道などは、
「護摩壇で大麻を焚いて羅利乱利発破(らりらりぱっぱ)となっている」
のですから(この本で、活躍する場面はあったかしら)。
その他、徳川秀忠の夢の中に侵入して、関ヶ原での戦いに不参させるべく、上田城攻撃を図らせてみたり、信之・幸村兄弟が、八面六臂に変身して戦いを繰り広げるとか、奇想天外。
「怪著」たる由縁であります。

けれども、鈴木輝一郎の「怪著」、このようなオカルト風味の戦闘の合間に、意外と正確な歴史知識が挟まれています。
「本来ならばまず弓矢・鉄砲などを打ちかけて相手をひるませ、しかるのちに槍衾(やりぶすま)を敷いて突き進み、最後に騎馬武者が出て徒士(かち)を蹴散らすというのがいくさの手順」
とか、
「刀術は護身術に属するもので、いくさ場の用としてはあまり期待されてはいない。」
など、の記述がそうです。
本の内容からは、いい加減そうに見えて、案外と勉強しているのね。

また、本気なのか、それとも冗談なのかは分りませんが、アフォリズムのような科白を登場人物(ほとんどが、真田昌幸と幸村)が吐くのも、特徴の一つ。
「栄光と不可能は同じ場所にある。目前に不可能があれば、そこに栄光がある」
「事実は一つでも真実は人の数だけあり、現実は人に関係なく存在する」
「本職か素人かは結果が決める。地位とは、結論ではなく状態だ」
など、など。

その他、ちょっと下品な笑いを含めて、この「怪著」ぶり、誰ぞに似ている、と思いましたが、清水義範に近いのじゃないかしら。
ということで、著者略歴を見ましたら、鈴木輝一郎は「1960年岐阜生まれ」とのこと(一方、清水は「1947年名古屋生まれ」)。
どうやら、東海圏生まれの作家の戯作性というのは、近いものがあるようですな。

鈴木輝一郎
『真田密伝』
角川春樹事務所
定価:1,995 円 (税込)
ISBN978-4894569331