「他人の荷物になんで俺の税金が」SNSに怒りの声。マイナポイントの次は「置き配」にポイント付与?
FRIDAYデジタル より 231025
「そこじゃない!」元トラックドライバーが、怒りをあらわにする訳
宅配便の受け取りに、あらかじめ荷物の配達場所を指定する「置き配」を選択すると、ポイント付与――。
トラックドライバーの残業規制などにより物流業界が直面する問題への対策を協議する今月6日の関係閣僚会議で、政府が取りまとめた「物流革新緊急パッケージ」。
その中に「宅配の再配達率を半減する緊急的な取り組み」として盛り込まれているのが、置き配やコンビニ受け取り利用者へのポイント還元だ。
このニュースを各メディアが報じた直後から、SNSには呆れや疑問の声が上がっていた。
〈他人の荷物になんで俺が金を払うんだよ〉
〈そのポイント事業にいくら税金を使うのよ〉
〈月に数回あるかないかの配達を置き配にしてポイント貯めたがる人なんて、いる?〉
〈盗難とか未配達で事務仕事が爆増すると思う〉
「ポイントばらまき増税クソメガネ」にあだ名が変わるのも時間の問題か?
「自分が指定した配達時間帯を守るのは当然のことです。その当たり前のことができず再配達を生じさせた場合に、ペナルティを科すならわかりますよ。それがどうして、再配達を出さなかったという当前の行為に対して、ポイント与える方向に行くのか。理解に苦しみます」
運送業に詳しいライターの橋本愛喜さんも、そう憤る。橋本さんはかつて実家の工場を経営し、自らトラックドライバーとしてハンドルを握った経験を持つ。
国土交通省によると、’22年度の宅配便取り扱い個数は50億588万個。再配達率は今年4月の調査で11.4%だった。これを’24年度に,6%まで半減させるというのが政府の目標だ。
「国交省が再配達の調査対象にしているのはヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の配送大手3社です。
このニュースを各メディアが報じた直後から、SNSには呆れや疑問の声が上がっていた。
〈他人の荷物になんで俺が金を払うんだよ〉
〈そのポイント事業にいくら税金を使うのよ〉
〈月に数回あるかないかの配達を置き配にしてポイント貯めたがる人なんて、いる?〉
〈盗難とか未配達で事務仕事が爆増すると思う〉
「ポイントばらまき増税クソメガネ」にあだ名が変わるのも時間の問題か?
「自分が指定した配達時間帯を守るのは当然のことです。その当たり前のことができず再配達を生じさせた場合に、ペナルティを科すならわかりますよ。それがどうして、再配達を出さなかったという当前の行為に対して、ポイント与える方向に行くのか。理解に苦しみます」
運送業に詳しいライターの橋本愛喜さんも、そう憤る。橋本さんはかつて実家の工場を経営し、自らトラックドライバーとしてハンドルを握った経験を持つ。
国土交通省によると、’22年度の宅配便取り扱い個数は50億588万個。再配達率は今年4月の調査で11.4%だった。これを’24年度に,6%まで半減させるというのが政府の目標だ。
「国交省が再配達の調査対象にしているのはヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の配送大手3社です。
日本のEC市場で高いシェアを占めるAmazonの配送は、主に丸和運輸とAmazonフレックスと呼ばれる個人事業主が担っていますが、国交省がまとめた再配達率にAmazonの配送は含まれていない。
Amazonは置き配がデフォルトではあるものの、再配達率を下げることを目標にする以上、こうした自社配送便の状況を含めず対策を立てても、根本的な問題解決になるとは思えません」
政府が推奨する置き配利用だが、配送業社大手はいずれも対応している。
ヤマト運輸は特定のオンラインショップで購入した荷物に限り、置き配の利用が可能。
Amazonは置き配がデフォルトではあるものの、再配達率を下げることを目標にする以上、こうした自社配送便の状況を含めず対策を立てても、根本的な問題解決になるとは思えません」
政府が推奨する置き配利用だが、配送業社大手はいずれも対応している。
ヤマト運輸は特定のオンラインショップで購入した荷物に限り、置き配の利用が可能。
佐川急便は出荷元が佐川と「指定場所配送サービス」の契約を結んでいれば、注文時に玄関先や宅配ボックスなど配達場所を指定できる。
日本郵便は条件を満たす場所への置き配はしているが、希望する場合は配達郵便局に「指定場所配達に関する依頼書」の提出が必要。
「たとえば、オートロックのマンションに設置された宅配ボックスは数が限られているので、満杯になることもあると思います。その場合、配達員は荷物を持ち帰らないといけません。結局、再配達が発生するんですよ。
最近、配達員がバーコードをかざすと1度だけマンション内に入れるオートロック解錠システムが話題になりました。ただし、廊下に荷物を置くと歩行の妨げになるとかセキュリティ面の心配など、問題が山積しています」
⚫︎「送料無料」はあり得ない
物流革新緊急パッケージでは、「ゆとりを持った配送日時を指定した場合」もポイント付与の対象にしている。
「そうすると、配送業者は“ゆっくり配達”という仕分けを新たに設ける必要が出てくるんです。現場が余計に疲弊します」
政府が打ち出した対策で、果たして再配達率の半減は実現するのか。
「ポイントを付与すると決めたところで、再配達はなくなりませんよ。悪びれもせず再配達のリクエストをする人が少なくないのは、お金がかからないという意識が働いているためでしょう。
「たとえば、オートロックのマンションに設置された宅配ボックスは数が限られているので、満杯になることもあると思います。その場合、配達員は荷物を持ち帰らないといけません。結局、再配達が発生するんですよ。
最近、配達員がバーコードをかざすと1度だけマンション内に入れるオートロック解錠システムが話題になりました。ただし、廊下に荷物を置くと歩行の妨げになるとかセキュリティ面の心配など、問題が山積しています」
⚫︎「送料無料」はあり得ない
物流革新緊急パッケージでは、「ゆとりを持った配送日時を指定した場合」もポイント付与の対象にしている。
「そうすると、配送業者は“ゆっくり配達”という仕分けを新たに設ける必要が出てくるんです。現場が余計に疲弊します」
政府が打ち出した対策で、果たして再配達率の半減は実現するのか。
「ポイントを付与すると決めたところで、再配達はなくなりませんよ。悪びれもせず再配達のリクエストをする人が少なくないのは、お金がかからないという意識が働いているためでしょう。
だから私はずっと、“送料無料”と表示するなと言ってきたんです。送料が無料なら再配達もタダと、消費者に思わせてしまう。トラックドライバーが荷物を運んでいる以上、送料も再配達も無料なんてあり得ませんから。
以前、アメリカに住んでいたことがあるんですが、アメリカでは荷物の配達時に不在だと、郵便局に取りに行くハメになります。しかも、郵便局では、長蛇の列に並んで1時間以上待たされるんですよ。
それを考えると、何度にもわたる再配達がまかり通る日本は異常すぎます。トラックドライバーに対するリスペクトがまったくない。
その背景には、日本の顧客至上主義があると思います。サービスは無料という消費者の意識を変えない限り、再配達率の半減は無理です。再配達は手数料をとるなど、有料化に持っていくのが私は筋だと考えます」
再配達の問題は一般的に、生じさせた側に非がある。ポイント付与より、有料化のほうが道理にかなっているのは確かだ。
「ただ、ハードルは有料化のほうが高いんです。そのためのシステムをつくるのが難しいことは間違いありません。だけど政府が本気で再配達率の半減を目指すなら、有料化に対応する仕組みをつくるべきじゃないかと思います」
「配送業者大手は、決められた労働時間内で運べない荷物は下請に出す。だから、大手正社員の宅配ドライバーは残業規制の対象になりにくい」という
2024年問題は「宅配」の問題ではない。「長距離トラックドライバー」の働き方改革
そもそも「物流革新緊急パッケージ」は、「2024年問題」に対応するために岸田文雄首相が「スピード感を持って」取り組んでいくとして、閣議決定された対策だ。
2024年問題とは、来年4月に働き方改革関連法がトラック運送業界に適用されることによって発生する諸問題を指す。トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間で960時間となり、ドライバーの収入減少による離職と労働力不足の加速、それに伴うトラックの輸送力停滞などが懸念されている。
「非常に誤解されているんですが、2024年問題はそもそも“宅配”の問題ではありません。日本で運ばれている荷物のうち、宅配は7%以下。2024年問題が関係してくるのは、運送の大部分を占める企業間輸送に従事している長距離トラックドライバーなんです。
長距離を走る大型トラックの運転席の後ろには寝台があって,ドライバーはそこに寝泊まりしながら全国各地を回ります。だいたい1週間,下手をすると2週間ぐらい家に帰れません。
以前、アメリカに住んでいたことがあるんですが、アメリカでは荷物の配達時に不在だと、郵便局に取りに行くハメになります。しかも、郵便局では、長蛇の列に並んで1時間以上待たされるんですよ。
それを考えると、何度にもわたる再配達がまかり通る日本は異常すぎます。トラックドライバーに対するリスペクトがまったくない。
その背景には、日本の顧客至上主義があると思います。サービスは無料という消費者の意識を変えない限り、再配達率の半減は無理です。再配達は手数料をとるなど、有料化に持っていくのが私は筋だと考えます」
再配達の問題は一般的に、生じさせた側に非がある。ポイント付与より、有料化のほうが道理にかなっているのは確かだ。
「ただ、ハードルは有料化のほうが高いんです。そのためのシステムをつくるのが難しいことは間違いありません。だけど政府が本気で再配達率の半減を目指すなら、有料化に対応する仕組みをつくるべきじゃないかと思います」
「配送業者大手は、決められた労働時間内で運べない荷物は下請に出す。だから、大手正社員の宅配ドライバーは残業規制の対象になりにくい」という
2024年問題は「宅配」の問題ではない。「長距離トラックドライバー」の働き方改革
そもそも「物流革新緊急パッケージ」は、「2024年問題」に対応するために岸田文雄首相が「スピード感を持って」取り組んでいくとして、閣議決定された対策だ。
2024年問題とは、来年4月に働き方改革関連法がトラック運送業界に適用されることによって発生する諸問題を指す。トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間で960時間となり、ドライバーの収入減少による離職と労働力不足の加速、それに伴うトラックの輸送力停滞などが懸念されている。
「非常に誤解されているんですが、2024年問題はそもそも“宅配”の問題ではありません。日本で運ばれている荷物のうち、宅配は7%以下。2024年問題が関係してくるのは、運送の大部分を占める企業間輸送に従事している長距離トラックドライバーなんです。
長距離を走る大型トラックの運転席の後ろには寝台があって,ドライバーはそこに寝泊まりしながら全国各地を回ります。だいたい1週間,下手をすると2週間ぐらい家に帰れません。
つまり、長距離ドライバーは長時間労働になりやすく、だから働き方改革で年間の時間外労働を960時間に制限しましょうとなったわけです」
働き方改革関連法による時間外労働の上限規制(年720時間)は、大企業では’19年4月から、中小企業では’20年4月から始まっている。
働き方改革関連法による時間外労働の上限規制(年720時間)は、大企業では’19年4月から、中小企業では’20年4月から始まっている。
だが自動車運転業務については、働き方改革関連法が定める時間外労働の上限が実情とかけ離れていることから、5年先の’24年まで猶予が与えられた。
ところが、政府が2024年問題に対応するため、初の関係閣僚会議を開いたのは今年の3月31日だ。
「それから2ヵ月後の6月2日に岸田首相は2回目の閣僚会議を開き、『物流革新に向けた政策パッケージ』を出してきました。そして今月ようやく、『物流革新緊急パッケージ』を公表した。
ところが、政府が2024年問題に対応するため、初の関係閣僚会議を開いたのは今年の3月31日だ。
「それから2ヵ月後の6月2日に岸田首相は2回目の閣僚会議を開き、『物流革新に向けた政策パッケージ』を出してきました。そして今月ようやく、『物流革新緊急パッケージ』を公表した。
5年の猶予がありながら、働き方改革関連法の施行まで残り半年という段階で、まだ“パッケージ”ですよ。スピード感の意味をわかっているんでしょうか。
しかもそのパッケージは、物流の効率化など荷物が運ばれなくなることへの対策がメインになっています。働き方改革でまず守るべきは、荷物ではなくドライバーのはずです。
企業間輸送で働くトラックドライバーの多くは、労働時間が減ることを歓迎していません。現場で求められている2024年問題対策は、長時間労働の是正よりも、労働環境の改善と給料の保障なんです」
企業間輸送とは「生産工場から物流センター」「物流センターからスーパーやコンビニ」「部品製造工場から建築現場」などの輸送を指す。
しかもそのパッケージは、物流の効率化など荷物が運ばれなくなることへの対策がメインになっています。働き方改革でまず守るべきは、荷物ではなくドライバーのはずです。
企業間輸送で働くトラックドライバーの多くは、労働時間が減ることを歓迎していません。現場で求められている2024年問題対策は、長時間労働の是正よりも、労働環境の改善と給料の保障なんです」
企業間輸送とは「生産工場から物流センター」「物流センターからスーパーやコンビニ」「部品製造工場から建築現場」などの輸送を指す。
橋本さんは「一般消費者から見えにくく、ブラックボックス化しやすい」と指摘
トラックドライバー求人サイト「ブルル」が実施したアンケートでは、「2024年問題への対策で給料が下がる場合どうするか」との問いに、28.8%が「トラックを降りる」、24.7%が「他社に転職」と答えている。
「結局、物流革新緊急パッケージも、現場を知らない政治家や官僚、有識者が考えた対策だから、現場の実態に即していないんです。
大型トラックの制限速度は80キロですが、労働時間が短くなると荷物を運べなくなるから、制限速度を上げさせようという案がパッケージの中に入っています。
トラックドライバー求人サイト「ブルル」が実施したアンケートでは、「2024年問題への対策で給料が下がる場合どうするか」との問いに、28.8%が「トラックを降りる」、24.7%が「他社に転職」と答えている。
「結局、物流革新緊急パッケージも、現場を知らない政治家や官僚、有識者が考えた対策だから、現場の実態に即していないんです。
大型トラックの制限速度は80キロですが、労働時間が短くなると荷物を運べなくなるから、制限速度を上げさせようという案がパッケージの中に入っています。
たとえば制限速度を80キロから100キロにしたとすると、その20キロ差がどれだけドライバーにとって負担になるか。
政治家は考えていません。何もわかっていない人間が、お金の流れだけを見て決めている。結果、現場は余計に苦しめられるんです。
置き配にポイント付与なんてピントのずれた案が出てくるのも、政治家が現場や庶民の生活を知らないからでしょう。
置き配にポイント付与なんてピントのずれた案が出てくるのも、政治家が現場や庶民の生活を知らないからでしょう。
私、Yahoo!ニュースのオーサーコメントで、『ポイント付与は再配達問題の解決策にはならない』と書いたんですが、ドライバー以上に利用者からの反応が多くありました。
今の政府は国民の声を聞かないことで定評があるので、このまま強行突破する気なんでしょう」
マイナンバーカード普及策のマイナポイント事業で、最大2万円分のポイントを付与するために支出する国費は、1兆円規模となる見込みだという。にもかかわらず今度は、置き配にポイント付与。岸田首相のあだ名が「ポイントばらまき増税クソメガネ」に変わるのも時間の問題か?
今の政府は国民の声を聞かないことで定評があるので、このまま強行突破する気なんでしょう」
マイナンバーカード普及策のマイナポイント事業で、最大2万円分のポイントを付与するために支出する国費は、1兆円規模となる見込みだという。にもかかわらず今度は、置き配にポイント付与。岸田首相のあだ名が「ポイントばらまき増税クソメガネ」に変わるのも時間の問題か?
▶︎橋本愛喜(はしもと・あいき)フリーライター、Yahoo!ニュース個人オーサー。大阪府生まれ。父親が経営する工場を受け継ぎ、大型自動車一種免許を取得後、トラックで日本各地を走る。現在はブルーカラーの労働、ジェンダー、文化差異などに関する社会問題の執筆、メディア研究を行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』 (新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 』 (KADOKAWA)。
取材・文:斉藤さゆり
取材・文:斉藤さゆり