中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

沈宏非のグルメエッセイ: 【対訳】蛇を食する者の言い分(1)

2010年12月18日 | 中国グルメ(美食)
 本格的な冬を迎えましたが、この時期、広東では蛇が盛んに食べられるようになります。火鍋の回でも書かれていましたが、広東の冬は、意外にもじんわりと冷える寒さがあり、体を温める蛇は人気があります。しかし、蛇を食べることには、奇異な眼で見られる面があるようで、そのあたりが今回のお話のテーマです。

                        食蛇者説(上)

■ 粤人的食蛇史,見之于中国的几部早期典籍:“越人得蚺ran2它以為上肴,中国得之無用。”

・蚺ran2 “蚺蛇”ran2she2 =“蟒蛇”mang3she2 うわばみ(大蛇の俗称)

 広東人の蛇食の歴史は、中国のいくつかの初期の典籍に見られる。「越人(粤人に同じ。広東人のこと)は大蛇を得るとそれを料理して食べるが、中国では食べない。」

■ 《山海経》和《淮南子》,“盖古之巫書”,里面提到的事,尽皆有点不可思議,但起碼要比《剣橋名人録》之類可信而且可怕得多。什麼是“既可信又可怕”?比方説,蘇東坡的妾侍,在広東惠州時将蛇羹誤做海鮮吃下,事后得知所吃為蛇,竟然于数月后死于非命。

・山海経 秦代の古籍で、神話伝説に富んだ、最古の地理書と言われている。
・淮南子 前漢の淮南王・劉安が編纂した書で、老荘思想に基づき、治乱興亡、逸事、瑣談を記載したもの。

 《山海経》や《淮南子》は、「古代の呪術を集めた書」で、この中に書かれていることは、皆不可思議なことだが、少なくとも《剣橋名人録》の類に比べれば、信頼がおけるし、ずっと恐ろしい。どういうことが「信頼がおけて恐ろしい」のか。例えば、蘇東坡の側室は、広東恵州にいた時、蛇のスープを間違って海鮮と思って食べたが、後で食べたのが蛇だと知り、数ヶ月後に非業の死を遂げたそうである。

■ 足見“杯弓蛇影”的恐怖,有的時候竟比親口吃下去的真実還要致命。

・杯弓蛇影 bei1gong1she2ying3 [成語]杯中の蛇影。疑心暗鬼して周章狼狽する譬え。(酒杯に映った壁上の弓を蛇の影と思い、恐ろしさのあまり病みついた人物の故事による)

 ここから、「杯中の蛇影」の恐怖は、時に自ら食した真実よりもっと命にかかわる危険となることがあるということが分かる。

■ 即使在今天,対于居住在“中国”的大部分“中国人”来説,広東人的這種愛好,仍然是一種可怕的風俗。不過,山東人偶尓也有吃蛇的。《聊斎》早面有一則《蛇癖》説道:“予郷王蒲令之僕呂奉寧,性嗜蛇。毎得小蛇,則全吞之,如啖葱状。大者,以刀寸寸断之,始掬以食。嚼之铮zheng4,血水沾頤。且善嗅,嘗隔墻聞蛇香,急奔墻外,果得蛇盈尺。時無佩刀,先噬其頭,尾尚蜿蜒于口際。”

・啖 dan4 食う。
掬 ju1 すくう。両手で受け止める
・铮 zheng4 (物の表面が)ぴかぴか光っているさま
・頤 yi2 下顎。あご
・嗅 xiu4 においをかぐ
・盈 ying2 満ちる。余る。
・噬 shi4 噛む
・蜿蜒 wan1yan2 蛇などがくねくねと這うさま。

 今日でも、“中国”で暮らす大部分の“中国人”にとって、広東人のこうした好みは、依然として恐ろしい風習である。しかし、山東人もときたま蛇を食べることがある。《聊斎志異》の最初の方の一節、《蛇癖》でこう言っている。「私の郷里の王蒲令の家僕、呂奉寧は、その性、蛇を好む。小蛇を得る度、全部を丸呑みにし、まるで葱を喰らっているかのようである。大きいものは、包丁でぶつ切りにし、両手ですくって食べる。食べると口の周りが油でてかてか光り、血があごを濡らす。且つ嗅覚が鋭く、家の壁を隔てて蛇の臭いを嗅ぎつけると、急いで家の外に飛び出したかと思うと、果たして一尺余りの長さの蛇を捕まえてきた。刀を身につけていない時は、頭から食べる。尻尾はなお口許をくねくねとのたうっている。」

■ 尽管山東人之“啖葱状”足以收入粤語版的《山海経》或《淮南子》,不過,蒲松齢或許相信,広東人吃起蛇来,与呂奉寧大同小異。但在前者看来,這種吃法雖然生猛,却未免過于浪費,没文化,甚至暴殄天物。

・暴殄天物 bao4tian3tian1wu4 [成語]自然のものをやたらに無駄にする。物をちりあくたのように粗末にする

 山東人の「葱を喰らう様子」が広東語版の《山海経》や《淮南子》に収めるに足るにせよ、蒲松齢は或いは、広東人が蛇を食べる様子は、呂奉寧と大同小異だと信じていたのかもしれない。しかし前者から見れば、こうした食べ方は、材料は新鮮でぴちぴちしているが、あまりに浪費的で、野蛮で、物を粗末にしている感は免れない。

■ 広東人不吃小蛇,不吃蛇頭,更不生吃。天生一只能聞出“蛇香”之鼻的広東人,非但善于不厭其煩地炮制蛇羹,還能炒蛇片、醸蛇脯,近年来又推陳出新,涮shuan4蛇和“椒塩蛇禄”風行広州,而且,吃起来文明得就連砕片也不剩。広州的連鎖食肆“惠食佳”,即以“椒塩蛇禄”為招徠,并且在本地的高級雑誌上大做整版広告。那広告,底,襯着一盤金燦燦的“椒塩蛇禄”,下書一行小宇:“始創于1987”,那份矜貴,絶対不輸給同一本雑誌上的進口皮具広告。

・推陳出新 古きを退けて新しきものを出す。古いものの良さを新しいものに活かす
・風行 流行る
・招徠 zhao1lai2 誘致する。招き寄せる
・襯 chen4 際立たせる。引きたてる
・金燦燦 jin1can4can4 金色に輝く
・矜 jin1 慎み深い。控えめである

 広東人は小さな蛇は食べないし、蛇の頭も食べない。生では尚更食べない。生まれつき、「蛇の香り」を嗅ぎ分けられる鼻を持った広東人は、煩雑を厭わずに蛇スープを焙じるのに長けており、また蛇の身を炒めたり、蛇の干し肉を醸したり、最近はまた伝統を活かして新しいものを生み出し、蛇肉のしゃぶしゃぶ、蛇肉のから揚げは広州で流行し、しかも食べると上品で、屑も残さない。広州のレストラン・チェーン、惠食佳は蛇肉のから揚げを看板メニューとし、当地の高級雑誌に全面広告を掲載している。その広告は、黒をバックに、ひと皿の金色に輝く蛇肉のから揚げを際立たせ、その下に一行、小さな文字で「1987年創業」と書かれている。この控え目で高貴な広告は、同じ雑誌に掲載されている輸入皮革製品の広告に絶対に負けない。

■ 然而,這并不表示吃蛇従此不再引起友邦驚詫。前几年,太陽神的股票在海外上市,因標榜含有蛇、鶏之精華,上市当晩,美国一家電視台的両個財経主持人,根本没有把希腊概念的Apollo当一回事,却一口一個“Snake Stock”(蛇股)地侃了個没完没了。

・驚詫 jing1cha4 驚きいぶかる。けげんに思う。
・標榜 biao1bang3 標榜する
・侃 kan3 =“侃大山”北京語で、とりとめのない世間話、むだ話をする
・没完没了 mei2wan2mei2liao3 果てしがない。きりがない。

 しかし、このことは蛇を食べることが今後二度と友好国を驚かせないという意味ではない。数年前、太陽神の株式が海外で上場された際、蛇、鶏のエキスを含むと宣伝したため、上場の日の晩、アメリカのTV局の二人の経済ニュースのキャスターは、ギリシャ概念で言うアポロ的な秩序が全く無いのと同じだと、口を開けば“Snake Stock”だと、とりとめのないむだ話を言い続けた。

■ 很早就有中国人対此看不過去,林語堂曾経正告老外:“任何人都不能使我相信蛇肉的鮮美不亜于鶏肉這一説法。我在中国生活了四十年,一条蛇也没有吃過,也没有見過我的任何親友吃過……吃蛇肉対中国人和西方人同様是件稀罕事儿。”

・看不過去 容認できない。気に入らない
・正告 厳粛に告げる。

 とっくに中国人はこうした見方を気に入らなく思い、林語堂は嘗て、厳かに外国人にこう言ったことがある。「如何なる人も、私に蛇肉の美味しさは鶏肉に劣らないという説を信じさせることはできない。私は中国で暮らすこと四十年、一匹の蛇も食べたことがないし、私の如何なる親友が食べるのも見たことがない……蛇肉を食べるのは、中国人にとっても西洋人と同様に珍しいことなのだ。」

■ 不是林語堂忘了広東人也是中国人,就是他在一時的正義衝動之下挺身而出地干了一樁zhuang1蠢事。《淮南子》里面提到“越人”固然不可能包括衣冠南渡之后的閩南居民,而且,古早的漳州人吃不吃蛇一時也無従考証,不過他們経常被蛇吃到却是事実。漳州南門之外,過去曾専設“蛇王廟”一座,其功能就是替人解除蛇咬之痛――有効範囲只限于被城里的蛇所咬,郷野之蛇無効。

・挺身而出 ting3shen1er2chu1 [成語](困難や危険に)勇敢に立ち向かう
・樁 zhuang1 [量詞]事柄を数える。件。
・蠢事 chun2shi4 愚かなこと。ばかなまね。
・衣冠南渡 西晋末年、匈奴王の劉曜が長安を陥落させ、西晋は滅亡した。晋の元帝・司馬睿は建康(南京)に都を移し東晋を建国したが、この時、中原の漢族の臣民は、北方の遊牧騎馬民族の支配を嫌い、多く南に逃れたことを“永嘉之乱,衣冠南渡”と言う。“衣冠”とは衣服や冠の意味だが、ここでは、漢民族の文化を指す。この時期、福建省にも多くの漢族が移住し、“衣冠南渡,八姓入閩”と言う。

 林語堂は広東人も中国人であることを忘れたのではなく、彼は一時の正義感から衝動的に立ち上がり、ばかなまねをしてしまったのだ。《淮南子》の中で言う“越人”とは、固より“衣冠南渡”後の閩南(福建南部)の住民を含めることはできない。しかも、古代の漳州(福建省の最南部で、広東省の潮州に接する)人が蛇を食べていたかどうかも考証する手立てが無いが、彼らがよく蛇に咬まれたのは事実である。漳州南門外に嘗てそのために“蛇王廟”が設けられ、その効能は蛇に咬まれた痛みを取り除くことで――効能があるのは、城内で蛇に咬まれた際に限られ、田舎の蛇は効果が無かったが。

■ 食蛇之被視為異行,皆出自惧蛇。像広東人那様干脆把蛇吃到肚子里去,非但可使自家的恐惧全消,還能使対方之恐惧倍増。

・出自 (~から)出る

 蛇を食べることは特異な行動に見られるのは、蛇を恐れることから出ている。広東人のように、何の躊躇もなく蛇をお腹に入れてしまうと、自らの恐怖が消失してしまうだけでなく、却って相手の恐怖心は倍増する。

■ 在伝統的中国飲食文化中,凡好吃的束西一開始都是好薬,蛇也不能例外。先民們見面時,応該不会以“吃飯了嗎?”為問候,而是“有好薬嗎?”

 伝統的な中国の飲食文化では、凡そ美味しいものはその始まりから良い薬であった。蛇も例外ではあり得ない。先人達は出会った時に“吃飯了嗎?”(飯を食ったか?)を挨拶言葉としたのではなく、“有好薬嗎?”(良い薬は有るか?)と言ったに違いない。

■ 不過,蛇的薬効従一開始就有点詭異,就像蛇一様。《山海経》之《海内南経》章称:“巴蛇食象,三歳而出其骨,君子服之,無心腹之疾。”対于這個語焉不詳的“心腹之疾”,学術上有各種不同的説法。当然也有人相信所謂“君子”的“心腹之疾”其実就是餓。不過,既然是療飢的食物,何必称“服之”?

・詭異 gui3yi4 怪しい。奇異である。
・語焉不詳 yu3yan1bu4xiang2 言葉が簡単すぎて意を尽くさない

 しかし、蛇の薬効は最初から多少怪しいところがあり、これは蛇も同様である。《山海経》の《海内南経》の章に、「巴(四川省東部、今の重慶付近)の蛇が象を食べると、三年してその骨が出てくる。君子がこれを服用すると、“心腹之疾”が無くなる」と称している。このよく訳の分からない“心腹之疾”は、学術上はいろいろ異なる説がある。もちろん、いわゆる“君子”の“心腹之疾”とは、実は飢えであろうと信じる人がいる。しかし、飢えを凌ぐ食物であるのに、どうして「服用」するのか?

■ “薬性”在広東的蛇饌里十分顕著。据南海県史志資料記載:曾経是広東最経典、最権威的蛇餐館“蛇王満”(注:已倒閉),其創始人呉満自幼即以捕蛇為業,并且籍向両地的薬商供応蛇胆及生蛇而発達。他在広州開設的“蛇王満”,除了以出售蛇胆為号召之外,還“開発研制”了“三蛇胆陳皮”、“三蛇胆油”等等薬物,至于蛇肉后来也上了“蛇王満”食譜,主要是因為呉満在他的研究過程中“発現蛇肉対風湿病有良好療効”。本質上,百年老字号“蛇王満”餐館与佛山的另一家百年老店“賓芝林”其実并無差別。

・饌 zhuan4 ごちそう。酒肴。
・号召 hao4zhao4 呼びかけ
・風湿 feng1shi1 リューマチ

 “薬性”は広東の蛇料理ではたいへん顕著である。南海県史誌の資料の記載によれば:嘗て広東で最も代表的で、最も権威のある蛇料理店は“蛇王満”(注:既に倒産)で、その創業者、呉満は幼い時から蛇を捕まえることを生業とし、佛山、広州両地の薬商に蛇の胆、生きた蛇を納入することで発達してきた。彼は広州で“蛇王満”を開設すると、蛇の胆を販売することを宣伝した他、“三蛇胆陳皮”、“三蛇胆油”等の薬物を研究開発し、蛇肉を後に“蛇王満”のメニューに載せたのは、主に呉満が研究過程で、「蛇肉はリューマチに対し良好な治療効果があると発見」したことによる。本質的には、百年の伝統のある“蛇王満” 餐館と、佛山の別の創業百年の老舗“賓芝林”とは、実は違いは無い。

■ 中医相信,蛇胆和蛇肉具有行気活血,駆風袪qu1湿,化痰止咳及明目強肝的神奇作用,蛇油能防止血管硬化,蛇舌可鎮痛……総而言之,蛇的一身都是宝,活脱脱就是一根会咬人的人参。

・袪 qu1 取り除く
・活脱脱 huo2tuo1tuo1 生き写し。瓜二つ。

 漢方医は、蛇の胆と蛇の肉には気を通し血を活性化し、“風湿”(リューマチ)を除き、痰を解かし咳を止め、胆を強める不思議な作用があり、蛇油は血管の硬化を防止し、蛇の舌には鎮痛作用があると信じている……要するに、蛇は全身が宝であり、言わば人を咬むかもしれない人参のようなものである。

■ 但是這様還不够gou4,広東人還無可救薬地堅信蛇肉之滋補壮陽遠勝于美味,就連那奇腥的蛇鞭也不肯放過,据称,此物的補腎壮陽之功効比鹿鞭還要高出十个百分点。不過,以蛇鞭的短小精悍,壮陽者可能都会対“以形補形”的信仰做出暫時的背棄,改信了蛇的性格。想想也是,要是“以形”真能“補形”,還不如干脆学《聊斎》里的山東人呂奉寧,以啖葱之勢,把一条蛇完整地吞下去罷了。

・無可救薬 手の施しようがない
・滋補 zi1bu3 栄養を補給する
・壮陽 zhuang4yang2 精力をつける。精力を盛んにする。
・鞭 bian1 ペニス
・背棄 bei4qi4 背く。破棄する。

 しかしこれでもまだ十分ではない。広東人は更に蛇肉の栄養補給、精力増強は美味にはるかに勝ると、手の施しようのない程固く信じていて、あの奇妙な生臭い蛇のペニスも手放したがらない。それというのも、その腎を補い精力を強める効能は鹿のペニスより10%高いと言われているからである。しかし、蛇のペニスの短小で精悍なことは、強壮者が「形を以て形を補う」信仰を暫し捨て去り、改めて蛇の性格を信じることになるかもしれない。考えてみれば、「形を以て」本当に「形を補う」ことができるなら、さっさと《聊斎志異》の山東人・呂奉寧の真似をし、葱を喰らう勢いで、一匹の蛇を丸のまま呑み込んでしまった方がよいからである。

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 今回はこれまでです。続きは次回をお楽しみに。


【出典】 沈宏非《写食主義》四川文藝出版社 2000年9月

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